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恋は喜ばしい出来事である 4

そして次の日の放課後。神楽坂は約束通り、柊と間宮の居る茶道部へと足を運ぶのだった。

神楽坂は緊張した様子で座布団に座り、柊はゆったりとお茶を口にし、間宮は対極的な二人の様子を見て何処か困った表情を浮かべるのだった。そして柊が口にするお茶の入った湯呑を畳に置くと話が始まった。


「さて、神楽坂さん。突然だけれども、告白の準備は出来てるかしら?」


「ふぇっ!?」


柊の言葉に神楽坂は驚いた様子で奇声を発していた。そんな奇声を発する神楽坂を他所に、柊は一方的に話を進めて行く。


「ここに土佐(とさ)祐飛(ゆうひ)君のメールアドレスが在るわ。このアドレスに私は使い捨てのメールアドレスを使って、彼を告白の場所に呼び出すのだけれど、何処かリクエストは在るかしら? 神楽坂さん」


「ちょ、ちょっと待って!! 柊さん!! 私、告白とか出来ないよ!!」


「安心して、出来るか出来ないかではなく。やるのよ」


慌ててパニック状態の神楽坂に柊はそんな暴論で返答するのだった。

そして柊は使い捨てのメールアドレスを使って土佐祐飛宛のメールを声に出しながら制作していく。


「いますぐ、一階の茶道部奥に在る教材保管室まで来てください……送信」


そう言って柊は何の躊躇もせずメールを送るのだった。このメールが送信先の土佐祐飛に届いただろうが、彼がこれを見て指定場所に来るかはまだ定かではない。だが、少なからず柊が送信したメールを見る事にはなるだろう。そして柊は慌てふためく神楽坂にこう告げる。


「告白の場は整えた……あとは神楽坂さんが告白すれば終わりよ……」


「む……無理!! 無理!! 告白なんて無理だよ!!」


「なら私が代わりに告白しましょうか?」


「ふぇ!? なんで!?」


間宮も何でそうなるんだ……と思いながらも柊の言葉の続きを聞く。


「アナタが告白しないのなら、私が告白するだけよ。土佐君、ずっと前からアナタの事が好きでした。付き合ってください。もしもそれで成功しても神楽坂さん……私を恨まないでね……それじゃあ……」


そう言って柊は立ち上がり部室の出入り口まで歩き出そうとした。


「待って!!」


だが、それを神楽坂は大声で呼び止める。そして、諦めた様に柊にこう告げる。


「行く……私が行くから……」


「そう、なら神楽坂さんに譲るわ……」


神楽坂はぎこちなく立ち上がる。そして小さく身震いしながら一歩づつ前へと歩き出す。

それを見た柊は神楽坂の背中を見て励ます様にこう告げる。


「いってらっしゃい……神楽坂さん」


「うぅ……いってきます……」


そう言って神楽坂は部室の外へと出て行くのだった。そして残された柊と間宮は小声で会話を始める。


「柊先輩は他人を煽るのが上手ですね……」


「だが、あそこまで言って決意する程のことなのだろうか? 告白とは……」


「それは……一番好きになって貰いたい相手に否定されるか、肯定されるか、それが判る瞬間なんですよ? 緊張しない方がおかしいと思いますけどね……」


「つまり、私はアブノーマルなのか?」


「まあ、柊先輩の場合は百合の時点でアウトですけど」


「そうか……百合はアウトなのか……ならば薔薇はセーフのなのだろうか?」


「アウトです」


二人がお茶を飲みながらゆっくりと冗談を言い合っていると、部室の外から声が聞こえて来る。


『と、土佐君……』


『神楽坂……お前か、俺をこんな所に呼び出して何の用だ?』


その二人の会話をしっかりと聞けるように間宮と柊は茶道部の廊下側の壁に耳を当てて、二人の会話を盗み聞きし始める。


『その……私ね……土佐君の事が……』


『ん? 俺の事が……』


『ずっと前から……』


『ほうほう……ずっと前から?』


『す……』


『す?』


『好きです……付き合ってください……』


『……』


茶道部の壁に耳を付ける柊と間宮は神楽坂が勇気を振り絞って言葉にした告白を聞く、そして告白した神楽坂と同じ様に土佐の返事をじっと待つ。だが、土佐は黙り込んだまま何も言わなくなってしまった。


「失敗……したのだろうか?」


「そうではなく……相手は相手なりに何かしら言葉を考えているんじゃないですかね?」


そう間宮が柊に答えると、廊下の向こう側で土佐が口を開き始める。


『俺なんかでいいなら……喜んで……』


その言葉を聞いた神楽坂の瞳には涙が流れ始めた。それは悲しいから流す涙ではなく、嬉しいから流す涙だった。嬉し泣き、ひそやかに涙を流して、彼女は小さく嗚咽する。不安から解放され、幸せな気持ちで一杯だった。それを少し離れた所で見て居た土佐はすぐに神楽坂に近寄って、彼女の事を抱きしめるのだ。優しく、愛を込めて。それを壁一枚挟んで様子を聞いていた間宮は独り言の様にこんな事を呟くのだった。


「いいものですね……恋って……」


「そうか……ならば君のその願いを叶えてあげよう……」


「は?」


「間宮君、私から君に素晴らしい恋のプレゼントを用意してあげよう……明日という日を楽しみにしてたまえ……」


そう言って柊は優しい笑みを間宮に向けるのだった。













少し肌寒い早朝の学校、校門から校舎に続く道は多くの生徒達で溢れている。

間宮もその集団の中で同じように校舎へと向かっている最中の出来事だった。視界に入った一組のカップル、彼と彼女は腕を組んで慣れない様子でぎこちなく進んで行く。周りから男子生徒達の野次が飛んで来たり、女生徒達から「おめでとう」の言葉が飛んでくる。その二人は照れくさそうにしながらも、幸せそうだった。恋は良いモノだ。そう思いながらも間宮は心の中でそんな二人対しておめでとうと呟いてから、前へと進む。

昇降口の下駄箱で靴を履き替え、廊下を進み階段を昇って自分の教室へといつもの様に足を運ぶ。

その途中で不意に柊のあの言葉を思い出した。「私から君に素晴らしい恋のプレゼントを用意してあげよう……明日という日を楽しみにしてたまえ……」その時の間宮は余り深くは考えはしなかった。だが今になって思い返すとあの先輩の事だ、嫌な予感しかしない。今日は少しばかり警戒しておいた方がいいだろうなどと思考を巡らせていた。

そして、教室に入ると自分の席に何やら沢山の人が群がっている光景が見て取れる。

間宮は不思議そうな顔をして他の生徒が群がる自分の席に近づいて行く。すると、周りに群がっていた生徒達は間宮を避ける様に道を開け、群がっていた生徒達が目にしていたモノが間宮の視界に入る。

そして、柊が口にした言葉の真意を間宮は知るのだった。


「……」


間宮はすぐさま机に置かれていたモノを手に取り、教室の窓際に向かって歩き出す。他の生徒達が間宮が何を始めるのか見守る中、間宮は窓を開けて勢い良く手に掴んだモノを宙へと投げ捨てる。

宙を舞うプラスチック製の箱にはハニカム笑顔の美少女が五人程描かれているのだった。

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