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釣り針の先に付いたチョコレートケーキ 2

間宮は靴を脱ぎ、柊に誘われるがまま茶道部の畳へと足を踏み入れた。

柊は部室の隅に重ねられた座布団を上から一枚掴み取って間宮の足元に置いた後、柊は対面する様に座布団の上で正座をする。柊のその姿勢に習う様に間宮も畳の上に置かれた座布団の上で正座になる。


「なに、胡坐を掻いても構わないよ。間宮君」


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


間宮はそんなぎこちない言葉を返して座り方を変える。それを見計らって柊は話を始めるのだった。


「それでは間宮君……まず初めに言っておかなければならない事が在る」


「はぁ……」


間宮は柊が何を言い出すのかと、不思議そうな顔をして彼女の言葉を聞く。


「私は茶道というモノに全くといって良い程、興味が無い」


「ああ、そうなんですか……ん?」


間宮は柊の言葉をさも当たり前の様に聞き流したが、その言葉の疑問点に気が付き頭を悩ませた。


「待って下さい……いま、茶道に興味が無いって言いました? 全く興味無いって言いましたよね?」


「ああ。茶道なんて何が楽しいの? お茶菓子は美味しいけど、抹茶は苦過ぎるよね? 位の人間だ」


「……」


間宮はその場で絶句した。本当に何言ってるのか判らない人だし、なんて無茶苦茶な人なのだろう、そう思いながら間宮は自分の内に抱いた疑問点を柊に問いかける。


「じゃあ、何で茶道部に居るんですか……」


「それは君と同じ理由だよ」


「俺と同じ理由……楽な部活を選んだってことですか……」


「ふっ……君ならその答えにすぐ辿り着くと思っていたよ。本当に話が早くて助かる」


そう言って柊は大人びた笑みを浮かべてこう続ける。


「私がこの高校に入学する以前、私は部活動などに参加するつもりは皆無だった。高校に入学したら、帰宅部で十分だ。そういう気持ちだった。だが、近年可決された法案。君も知っているだろう、学生の部活動の義務化。そのせいで私は部活動に所属しなくてはならない事を余儀なくされた。まあ、法案が可決され間もない頃だったから、反対する生徒も多数出てきた。だが私はそれに賛同せず、波風立てない方法を選び、君と同じ思考回路でこの茶道部へと足を踏み入れた……そして現在に至るという訳だ」


「なるほど……先輩って意外に真面目そうに見えて不真面目だという事がよくわかりました」


「当たり前だろう。私は君に一言だって『私は真面目です』なんて言ってないからな」


「それにしたって……見た目的には勉強に運動、何でもできる生徒会長みたいな雰囲気ですよ?」


「そう、それが周りからの私の評価だ。だが実際の私は、怠惰で愚かな一人の人間に他ならない」


そう言って柊はこう続ける。


「それでどうだろうか? 君が部活動に積極的に取り組む気持ちでないことは理解している。それを踏まえた上で君を茶道部に歓迎しようと言っているんだ……」


「確かに……先輩が俺と同じ境遇で同じ答えに辿り着いたのは理解できました。それに部活動に真面目に取り組んで無い事も……断る理由もなさそうですし、部活動をサボれるなら喜んで……」


「それは駄目だ」


「……」


柊の返答に影縫は即座に頭を抱えてこう返す。


「部活動を真面目に取り組まないなら、活動自体がないんじゃ……」


「活動なら在るだろう? こうしてお茶を飲んで話をする事、それが茶道部の部活動だ」


「いや、なら俺は部活動に参加しなくてもいいんじゃ……」


「何を言ってるんだ、間宮君。話は一人ではできないだろ?」


「先輩……今まで茶道部は先輩一人だったんですよね? その間の部活動はどうしてたんですか?」


「無論、ちゃんと活動はしていた。放課後にここに訪れ、お茶を入れ、茶菓子を食べながら、ゲームをしたり、漫画を読んだり、小説を読んで過ごしていたに決まっているだろう? それが茶道部の基本的な活動だよ、間宮君」


それを聞いた間宮は柊のことを本格的に不真面目な人間だ実感するのだった。


「一人茶道部で遊んでるなら。余計、俺が居なくてもいいじゃないですか?」


「間宮君……それでは私が退屈だとは思わないか?」


「いや、俺が居ても話し相手にはならないですし……つまらないですって……」


「話し相手にならなくても、茶化す相手としては楽しそうだ」


「……」


「それで、茶道部に入部してくれるかね? 間宮君」


「お断りします」


その言葉を聞いた柊は予想外と言った表情を浮かべるのだった。


「いや、茶化されるのわかってて入部はしないでしょ。常識的に考えて」


「まあいい。君がどうであれ入部届は提出された。君は晴れて茶道部の一員だおめでとう」


「いやだから……」


「はぁ、全くワガママな新入部員君だ。入部祝いを兼ねて約束のチョコレートケーキを持ってきてあげよう」


「いやだから……」


柊は間宮の言葉を聞かぬ振りを通し、部室の奥に設置されている冷蔵庫を開いて中から小さな箱を取り出してきた。紙で出来た何処かのケーキ屋の箱、それを間宮の目の前にフォークと一緒に差し出した。


「さあ、遠慮せずに食べたまえ」


間宮は差し出されたフォークを手に取り、一個千円もするケーキが入っているであろう箱の中身を開き呆れた様子でこう呟くのだった。


「一個千円ってそういうことかよ……」


間宮が開けた紙箱の中から現れたのは――小さめのホールケーキだった。

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