第8話 撃沈
今回は少し文章少なめです。
「さぁ、レッツパーリィ!!」
凶悪な笑顔を浮かべたアルトリアが、機械に接続されたタッチパネルを操作した。スイッチが入ると三脚に固定された機械から、目には見えない光線が照射される。
アルトリアが持っていた機械は、赤外線ビームを照射する装置だ。照射されたビームが岩礁帯の間を突き抜け、駆逐艦の20.3㎝連装レーザー砲をポイントする。
案の定、赤外線が砲塔の装甲面に当たると、すぐに船体には不釣り合いな大きな砲がのっぺりと旋回を始める。
目標は赤外線ビームの照射機だ。
それを見たアルトリアは、タイミングを見計らい別の岩へ飛び移った。それと同時に九十度を向いた砲口から目もくらむような青白い光が発射される。
20.3㎝連装レーザー砲が火を噴いたのだ。
動力炉で変換したエネルギーをさらに圧縮したレーザーは、射線上にあった全ての物質を莫大な熱量で溶かしつくした。
後には残ったのは、ぽっかりと穴が開いた何もない空間だけだった。
「うぁ、さすがー。でもやっぱり駆逐艦の動力炉では、最大まで装填できていないみたいだね」
放たれたレーザーは、人間などコンマ一秒も存在できないほどの驚異的な威力だった。実際岩だろうが、鉱物だろうが、デブリだろうがキレイさっぱりなくなっていた。が、それでもまだ本来の威力ではない。
無理やり規格外の武装を乗せたため、動力炉でエネルギーをまかない切れていないのだ。
現にレーザー砲を発射する数秒間、駆逐艦は減速していた。恐らく推進力へ回すべきエネルギーまで砲塔へ回しているのだろう。
通常の重巡洋艦で20.3㎝連装レーザー砲の再装填が五秒から七秒。
だが、あの様子では最低でも一分はかかるだろう。
この一分がアルトリアにとって貴重な時間だった。
「こちらアルトリア!!装填は!?」
<できております!!>
女性の整備員からの報告を聞いたアルトリアは満足そうに頷き、破壊された赤外線照射器をもう一個取り出し敵駆逐艦に向けたまま命令した。
「よし!照準合わせ!ーーーてぇ!!」
◇
【双頭の番犬】所属、海賊船『羽風』の船内は歓喜に沸いていた。
この宙域で最後の獲物が、星系戦で高ランク者のみに与えられた、と噂のレア度の高い客船だったのだ。
客船を無事に鹵獲できれば、クラン幹部への昇進も夢ではない。海賊船の船長は、喜び勇んで客船を奇襲した。
しかし、客船の船足が予想以上に早かったことで、船長の計画に誤算が生まれてしまった。
プレーヤー所有の船を鹵獲する方法は二つある。一つは完全に撃沈して確率3%のドロップを祈る方法。二つ目は直接艦橋に乗り込み占領する方法。
無論、確率を論ずる必要もない、船長は自慢の歩兵たちを強襲させるつもりだった。
だが無理やりな改造を施した『羽風』の船足では、客船に追いつくことができず、一撃を加えただけでデブリ帯の中に避難されてしまったのだ。
思わず、船長は壁を殴りつけた。
先ほどファリスの外宇宙ステーション『アリエスⅡ』に潜伏している部下から、警備艇が出撃したという情報が入っていた。
非力なNPCの警備艇では、『羽風』損傷を負わせることなど不可能ではあるが、一度警備隊に補足されるとしばらくの間、全ステーションへ指名手配されてしまう。
そうなれば燃料や弾薬の補給もできず、捕まるか、自滅するかでペナルティを受けるのは目に見えている。
さっさと離脱をするか、あるいは客船を鹵獲してしまえば警備艇は引き返すはずだ。そう考えた船長は鹵獲する道を選んだ。
はやる気持ちを抑えながら船長は『羽風』を出せる最大船速で、客船のいるであろうデブリ帯へ向かわせた。
しかし、その時唐突に艦の側面にデブリ帯からビーム照射を受けた。
まさか、もう警備艇がやってきたのか!?
慌てて周囲を警戒するが、レーダーでは艦影を捉えることはできなかった。
赤外線ビームは、敵船の位置と距離を正確に測量することができる装置だ。
警備艇ではないにしろ、何者かに距離を測定されたことには変わりない。
今までの行いから船長には敵が多い。情報を持って帰られると面倒なことになる。
迷いはなかった。船長はすぐにビーム照射点へフレンドの重巡からパクった20.3cm連装レーザー砲を発射することにした。
駆逐艦の小型プラズマ動力炉では、最大出力の65%を維持するのでやっとだったが、まともな武装も護衛も付けていないを相手に長距離から狙撃するには十分だった。
発射されたレーザーは、岩石を次々に溶解させながら突き抜けて行った。これでもしも岩石帯に何かいたとしても消滅したはずだ。
再装填まで残り五十五秒とNPCの船員が叫ぶ。
さあ、さっさと客船を拿捕しに行くぞと命令を下した船長に船員が頷いた。その瞬間、自慢のパクってきた20.3㎝連装レーザー砲が轟音と共にひしゃげ、ただの鉄塊へと姿を変えた。
◇
<ナイスキル!!初弾から当てるなんてすごいじゃない!!>
通信機から船長の嬉しそうな声が伝わり、それを聞いた女性整備員がヘルメットを外して深いため息をついて背もたれにもたれかかった。
彼女が座っている席の隣には、たったいま巨大な弾丸を発射した鋼鉄の筒が大量のガスを噴射して、空薬きょうを排出している様子がモニターされていた。
重巡の砲より巨大なその鉄の筒は、デブリとなって宇宙を浮遊していた戦艦の35.6cm連装砲だった。
船体はほとんど残っておらず、連装である砲塔も右側の一門しか動かなかった。
しかし、その性能は驚異的で敵船から放たれた20.3cmのレーザーが直撃しても見事に弾き返し、ほぼ被害はゼロ。そして反撃に放たれた砲弾は砲塔を粉砕した。あれなら今後撃たれる心配はないだろう。
無論、攻撃を受けた整備員の二人はとても生きた心地はしなかったが。
<次弾装填までの時間は?>
「およそ十秒です。船長」
<わかった。次弾発射後そこは破棄していいよ。内火艇に乗ってこっちまで来なさい>
「わかりました」
「うまくいったか?」
女性整備員が通信を終えると、彼女の座っている座席の後ろから男性整備員がひょっこりと顔を出してそう言った。手は大量のコード類を掴んでいた。
彼は先ほどまで、持ってきたバッテリーで動力炉を再起動したり、動き出した炉から船長の指示の通りにエネルギーパイプを敷設したりと馬車馬のように働かせられていた。
「何とかなったみたい。次弾発射したらここから退避していいって」
「了解。やっとこの残骸から出られるんだな」
男性整備員が緊張してはいるが、少し安心した表情で頷いた。その隣で自動装填システムのエレベーターによって巨大な砲弾が下層の弾薬庫から運ばれてくる映像が映っていた。
右側のエレベータが故障していたため、左側を使用していたが問題なくスムーズに作業は終了した。
また、砲身が中ほどへし折れてはいたが、旋回運動や仰角調整に支障はなく撃つ事支障はなかった。
しかし、発射した砲弾を命中させるための照準装置が完全に破壊されており、目視で撃とうにも岩礁帯が邪魔で撃つことができなかったのだ。
そこで、アルトリアは赤外線装置を使い距離を計測、その情報を砲塔へ送信し狙撃させたのだ。
結果は見事に初段で命中。敵主砲は完全に破壊された。
「次弾装填完了。何時でも撃てるぞ」
「了解。照準合わせ」
さらに、邪魔になっていた岩礁帯も敵のレーザーで綺麗に掃除されており、弾丸が何にも妨げられることなく命中した。
初段で命中させたことに少し自信を付けたのか女性整備員は、先ほどよりもリラックスした状態で座席に腰かけ、引金を握った。
「目標、距離速度変わらず。主砲照準よし。発射!!」
自らの位置を知らせる黒煙をまき散らし、消火活動を行っている駆逐艦の足は完全に止まっていた。
そこへ向けて轟音と共に衝撃波をまき散らして弾丸が発射される。
莫大な運動エネルギーを秘めた鉄のこぶしは、今までPKされたプレーヤーたちの怨念でもこもっているかのように、まっすぐと敵艦の艦橋を直撃した。
中に乗っていたプレーヤーは、何が起こったのかを理解する前に捻りつぶされ、キラキラと光る細かなエフェクトへと変わった。
3/29 修正
『あるぜんちん丸』→『あるぜんちな丸』