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第5話 初戦闘

 『あるぜんちな丸』を離れて、ガレージに向かったアルトリアは目の前に広がる光景に思わず呆然となった。

 メイビスと二人でハチの巣のような六角形の気密ガレージに入ってみると、大量の機体が置いてあったのだ。


 暗緑色と灰色のツートンカラーで、後部にあるプラズマエンジンが特徴的な機体は『零式艦上戦闘機21型』。所謂『零戦』だ。その中でも古いタイプで現在主流となりつつある『52型』や爆撃装備が可能な『63型』に比べれば性能は劣るがそれでもまだまだ現役で活躍している機体だ。


 その後ろに並んでいるのは白いボディに赤い翼が特徴的な『97式艦上攻撃機』。『96式艦上攻撃』の後継機であり、これも『天山』がロールアウトされてからは影が薄くなりつつあるものの、依然愛用するプレーヤーのいる現役機だ。


 アルトリアは止まっていた思考を再起動させるとウィンドウで運営からのメールを確認する。


 メールに書かれている内容は、報酬が『あるぜんちな丸』とこの戦闘機群であることが記されていた。その数合計24機。内訳は『零式艦上戦闘機』が十八機。『97式艦攻』が六機だった。


 アルトリアの頬を冷や汗が辿る。


 ひょっとしたら中規模クラン並みの装備である。これは異常な戦力だ。一介の中堅プレーヤーの一人が持っている戦力ではない。


<すごい数だね。アルちゃんが全部使うの?>


 メイビスの言葉にアルトリアはうなる。


「う、うーん。これだけの数になると売るかな。もしメイビスがいるならあげるけど?」

<いいの?>

「まぁ、チュートリアルが終わるまではポッド以外の機体には乗れないからね」


 しかし、なぜこれが報酬として届いたのか。客船『あるぜんちな丸』との関係が全く分からない。

 アルトリアは、ひとしきり考えた後あきらめた。


 なんにしても、メイビスのチュートリアルが優先だ。

 チュートリアルが終了するまで外宇宙へは出ることができないし、彼女の希望である件の後藤君に追いつくこともままならない。


「とりあえず、始めよう。試運転もしたいし」


 アルトリアは、メイビスを『97式艦攻』の後部座席に後ろ向きに押し込む。『96式艦攻』も複座だったが基本一人プレーを好むアルトリアは、そのスペースにさまざまなレーダー機器を搭載したため二人乗りはできない。なので新品の『97式艦攻』を使うことにしたのだ。

 アルトリアは、前方のコックピットに収まりエンジンをスタートさせた。

 青白いプラズマが後部のノズルから放射される。それを確認したアルトリアは一気にエンジン出力を上げた。


<うげッ!!>


 『96式艦攻』の燃焼エンジンに比べて、『97式艦攻』のプラズマエンジンは振動が少なく、カタパルトも使っていないので加速も穏やかであった。しかし初飛行のメイビスには辛そうで、離陸する瞬間後部座席からカエルが潰れたような声が聞こえてきた。

 ハッチから飛び出すと、アルトリアはバラセラバルの外宇宙交易ステーション『サジタリウスⅡ』へ針路を向けた。



 ガレージを離れて、十分ほど飛ぶと全長500㎞ほどの円筒形をした『サジタリウスⅡ』が見えてくる。その周囲には、浮きドックが多数あり大型の輸送船をはじめ駆逐艦や巡洋艦が係留されていた。


<うわぁ。さっきのステーションとはだいぶ違うね>


 最初に比べたら幾分か慣れたのだろう。メイビスがキャノピーにヘルメットを押し当てて外を見ていた。


「そうだね。『サジタリウスⅠ』へ向かう区域は進入規制が課せられてるから、『サジタリウスⅡ』に大型船が集中してるんだよ」

<なんで?>

「前は規制がなかったんだけどね。バラセラバルの資源は新兵(ルーキー)のために値段が安く設定されてるの。だけどそれを買い占めちゃうようなケチな商人(プレーヤー)組合(ギルド)が出てきちゃって。それ以来、大規模な商売をさせないように全長が50mを超えるプレーヤーの艦船は入れないように、規制がされたってわけ」


 バラセラバルでは、液体燃料から核燃料、プラズマ燃料が非常に安い価格で販売されており、別星系で転売すれば輸送費を除いたとしてもかなりの利益になる。そこに目を付けた商人(プレーヤー)が大型船で乗り付けて買い占めたため、一時期市場の燃料が枯渇して身動きが取れないという事態が発生した。


 そのため、NPCの商人以外の大型船はその船が持つタンクの容量以上の燃料を買うことができなくなった。

  

「さて、もうすぐ港に着くからね」


 話をしている間に、アルトリアたちは円筒形の先端にある港からの誘導ビーコンに従って中に入っていた。港内部は無重力下にあり、物資を運ぶための大型クレーンやロボットが時折前を遮る。その先には桟橋があり、ステーションと同軸に板のように伸びている管制区画から、まるで歯ブラシのように何本も突き出していた。その一本にアルトリアは機体を寄せた。


 前方に止めてある作業ポッドに気を付けながら、スラスターで微調整をして空中に静止する。すると桟橋のアームが動きだし機体を上部を掴んで固定した。


「よし。じゃメイビスはミッションを受注しに行って、戦闘系のミッションだよ」

<うん!!>


 キャノピーを開き降りたすぐにアルトリアはメイビスにそう言った。


「受付の女の人に聞けばすぐわかるから!!」 

<わかったー!!>


 危なっかしく通路の壁にあるレバーに捕まり受付へと向かっていくメイビスを見送ると、アルトリアはウィンドウを開いて通販のボタンを押す。


<はい。こちらバラセラバル交易センターです>

「すみません。弾薬と燃料の補給をお願いしたいんですが、7.7㎜のレーザー用バッテリーと実弾を2ケースほど。あとプラズマ元素を満タンで」

<かしこまりました。すぐにお届けに上がります>


 アルトリアは通信を切ると、ヘルメットを脱ぎ髪を左右に振った。銀色の髪が周囲に広がる。


「見事にポッドばっかりだね」


 手すりにもたれ掛り、自販機で買った携帯食料のパックを流し込みながら、ふと顔を上げて頭上の係留区画を観察してみる。

 係留されている船のうち一割が小型の輸送機。残りが作業ポッドで、赤や紫、黒や金など色とりどりにカラーリングされ、万華鏡のようにうごめいていた。


<こらぁぁ!!てめぇ!!何ぶつけてくれとんじゃぁぁl!>

<す、すみませぇぇん!!>

<誰かぁぁぁぁ!!そのコンテナを止めてくれぇぇぇぇ!!>


 もっとも優雅とはほど遠いものだったが。


 まだ操縦がおぼつかない新人(ルーキー)のポッドが、別のプレーヤーのポッドに当たり怒鳴られていたり、物資の詰まったコンテナを掴もうとして逆に殴ってしまい、ビリヤードのようにコンテナ同士がぶつかって変な方向へ飛んで行ったりと、港の中は混沌(こんとん)としていた。


「アルトリア様、品物をお届けに上がりました」


 しばらくポッドの動きを目で追っていると作業服を着たNPCがやってきた。差し出されたパッドにサインをすると、NPCがカートに乗った弾薬を手際よく装填(そうてん)していく。最後にタンクに燃料を補充している時に、少し疲れた顔をしたメイビスが戻ってきた。


「おかえり」

「た、ただいまぁ。つかれたよ~」

 

 くたびれた顔のメイビスがぷうっと頬を膨らませる。


「重力があるならいってよ~!!ステーションの中で動けなくなったんだから~!!」

 

 そういえば受付は重力ブロックにあることを失念していた。あの無茶苦茶重い宇宙服では小さなメイビスは動けなくなるだろう。案の定、行くときに着ていた宇宙服ではなく、私服のジャケットとスラックスになっていた。


「ごめん!!忘れてた」

「もう!!アルちゃんひどい!!」

「ごめんって。で?ミッションはなんだった」

「……うん。輸送船の護衛だって。依頼主の貨物船を内宇宙ステーションまで護衛してほしいって」

「貨物船の種類は?」

「150m級貨物船『ザンジバル』だって」


 内容を聞いたアルトリアは頷くとヘルメットを被りなおす。


「OK。大体内容もわかった。すぐに行こう」

「わ、わかった」


 二人はすぐにコックピットに乗り込んだ。

 

 

 鉛筆のようにまっすぐな船体に、ボール状の燃料タンクを幾重にも張り付けた貨物船が浮きドックから出港する。

 アルトリアたちが護衛する船だ。


<こちら、貨物船『ザンジバル』。何事もないと思うがよろしく頼む>

「こちらこそお願いします」


 メイビスが船長と会話している間に、アルトリアはスロットルを緩めて船の直上に着く。船長はああ言ったものの、このミッションでは武装したポッドによる襲撃がある。

 それに対応するために、アルトリアはメイビスに指示を出す。


「メイビス。後ろの機銃わかる?」

<機銃?こ、これかな?> 


 『97式艦攻』は7.7㎜機銃が前方に二門と後部座席に一門装備されている。そのうち後部の機銃は実弾が装填されている。戦闘機を相手にするには非力だが、装甲板を増加装備した程度のポッドであれば、十分通用する。


「トリガー、引き金があるでしょ。それを引くと弾が発射される。止めたいときは指を離す。後は照準器に従って敵機に向ける。たぶん後ろから来ると思うからよろしくね」

<え、え、そんないきなり無理だよ!!>

「大丈夫だって。貨物船に当てなければいいから」

 

 その時、レーダーが警告音を発する。艦載機よりも小型で低速な熱源が二つ、こちらに向かってきている。


「ザンジバル。こちら護衛機。海賊らしき機影を確認した」

<了解。ませるぞ>

「というわけだから、メイビス頑張って!!」

<ちょっとまってぇぇぇぇ>


 メイビスの叫び声を無視して、アルトリアは機首を引き上げて熱源へ向かう。


「大丈夫だって。相手は無人機(ドローン)だから」

<ドローン?>

「そう。プレーヤーもNPCも乗ってないから大丈夫――――と見えた。メイビス!!横をすり抜けるから、全力でばらまいて!!」

<き、急すぎるよ~!!>


 キラッと光る物を視認すると、エンジンを最大にして勢い良く突っ込んでいく。

 太陽の光を反射した無人の作業用ポッドは、コックピットとエンジン部に鉄板が強引に溶接されていた。さらに二本あるアームの一本が7.7㎜機銃一門に換装されていた。しかし、本来装備されていない武装に機動力は最悪で、旋回することもままならない。

 

<いやぁぁぁぁ!!>


 二機の間をすり抜けた瞬間に、メイビスが悲鳴とともに思いっきりトリガーを引き絞った。バララッ!!と軽快な音を響かせて7.7㎜機銃が銃弾をばらまき、その数発がポッドの右エンジンノズルに直撃しエンジンを装甲ごと吹き飛ばした。

 アルトリアは、メイビスが撃ち終わるのを待ち、速度を落としゆっくり旋回する。

 弾薬が切れたのかカチッカチッとトリガーを引く音になると、一気に速度を上げて残りの一機を前方の機銃で撃墜した。


「どうだった?」


 再び『ザンジバル』の上空に戻ってくるとアルトリアはメイビスに聞いた。


<な、なんかびっくりした>

「そう。初戦果おめでとう」

<ありがとう。アルちゃん>


 ◇


 その後、特に問題もなく『ザンジバル』は内宇宙ステーションへたどり着いた。


<ありがとう。報酬を受け取ってくれ>


 港に収まった船長からクレジットが送られてくる。およそ10万クレジット。これだけあれば安物の輸送船を買ってほかの星系向かうこともできるだろ。

すぐにでもアルトリアが根城にしている星系へ行こうかとも考えたが、すでに夕方になっており夕食の準備をするためにも今日はやめることにした。


 二人はバラセラバルのガレージに機体をしまうとそのままログアウトした。


お読みいただきありがとうございます。

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3/29修正

『あるぜんちん丸』→『あるぜんちな丸』

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