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第45話 撃墜

R7.9.15 誤字脱字を修正しました。

第45話 撃墜


「ホワイトリーダーより【菊兵団】司令部応答願う」


<こちら、兵団司令部。テンドンだ。状況報告を頼む>


 まばらに機銃弾が飛んでくる戦場を見渡しながら、アルトリアは敵の脅威度が下がったことを兵団へ連絡する。


「第二都市南側と空港の目標排除はおおよそ完了してます。ただ対空機銃と歩兵携帯兵器は掃除できていないので、強襲する際には十分に注意してください」


<了解した。こちらも降下ポイントに前線基地を設置した。残り七分で仮設飛行場も整う。戻ってくる頃には補給可能になっているはずだ>


 砂塵が舞い踊る砂嵐の音と唸りを上げる戦車のエンジン音がバックサウンドのように流れてくる。戦車部隊が出撃準備している音だろう。


 飛行場を占領する前に、補給が可能なのはとてもありがたい。『神州丸』の甲板は『オ号』でごった返しているだろうから、降りるためにどこかいい場所がないか探し回らなくてよさそうだ。


<強襲揚陸艦から荷下ろしが終わり次第、こちらも攻勢を開始する。ホワイト隊には引き続き援護を頼み―――ん?どうした!?>


<兵団長殿! 宇宙(ソラ)を、宇宙を見てください!>


 頼もしい言葉を繋げていたテンドンの声に不穏な空気が漂いだす。同時に兵団の兵士が驚愕の声を挙げる。

 アルトリアも兵士の叫び声につられて、視線を上へ向け、それを直視した。


「なに?あれ」


 薄く赤みが掛かった大気のはるか上空、本来星など見ることもできない惑星の空に伸びる一筋の眩い閃光。

 まるでナイフで切るように大気を二つに分けていく。


 アルトリアは上空の閃光に目を細める。


 一体、何が起きたのか。


 砂嵐が溢れる赤の星の大気すらも貫通する強烈なエネルギー。

 数秒間にわたって煌めいた閃光がキャノピー越しにうっすらと消えていった。

 

 各所から閃光の確認を求める通信が溢れだす。だが、アルトリアもはるか遠く、惑星地表からわずかに垣間見える光景の答えを持っていなかった。


 胸の奥に漠然と何か嫌な予感が溢れだす。


 宇宙(ソラ)にいるメイビスなら状況がわかるかもしれない。だが『海鷹(かいよう)』を旗艦とする艦隊は今赤の星の裏側にいるはずだ地上(ここ)からの通信は届かない。


 上方にアルトリアの意識が向いた瞬間、警告音がコックピット内に響き渡る。


「しまったッ!?」


 『零式艦上戦闘機33型』のレーダーが機体後方に所属不明機を捉えた。


 同時に、背中から突き飛ばされるような衝撃がアルトリアを襲った。エンジンをはじめ、機体後部の至る所が損傷を示す赤色に染まっていく。


 まるで手綱が外れた暴れ馬のように『零式艦上戦闘機33型』の操縦桿が揺れ動く。

 機体後部の状況を確認しようにも、下方向と横方向のGがアルトリアの体を拘束する。

 

 このタイミングで空港側から離陸した援軍が現れたのだ。


 七面鳥のように落ちていく。そんなアルトリアをあざ笑うように、敵機が翼の横を掠め飛んでいく。

 アルトリアは、ミサイルをぶち込んでくれたであろう敵機へ殺気の満ちた視線を向ける。

 飛来したのは地上仕様の『Yak-1M』。

 おそらく、飛行場で確認した格納庫前に並んでいた奴らだろう。

 

 しかも悪いことに敵機の部隊章が見えた。見えてしまった。

 車輪のないホバーバイクに跨る古めかしいとんがり帽子をかぶった魔女のシルエットと下に刻まれる588の数字。


「くそったれ!」


 間違いない。ソ4船団に開戦当初からストーカーのように付きまとう存在。第588航空連隊『暗闇の魔女(ナイトウィッチ)』だ。

 

 だが、アルトリアにそれを嘆いている暇はなかった。


 グローブをはめた指先に目一杯の力を込めるが、『33型』が機体バランスを取り戻すことはなく。

 モニターに表示されていた高度計の数字がグルグルと勢いよくゼロへ近づいていく。今、機体がどの方向を向いているのかわからない。

 ガタガタと機体の振動が酷く耳障りな音楽を奏で、アルトリアの苦労をあざ笑うかのように、無慈悲に鉄錆色の大地へ向かっていく。


 先ほどミサイルを避ける時も似たマニューバを行ったが、今回異なるのはこの降下が全く意図していない墜落という点だ。


「上がれぇぇぇぇぇ!」


 こうも機体が不安定だと、どこに飛んでいくか分からないためベイルアウトもできない。どこぞの映画のように吹き飛んだキャノピーにぶち当たって死亡(デス)する可能性もある。

 アルトリアは全力で叫び声を上げ、操縦桿を引き起こす。

 

 すると、先ほどまで主を置き去りにしてはしゃぎ回っていた機体が、一瞬理性を取り戻した。高度が下がっていたため、薄い大気の中で発生した風を主翼が拾うことが出来たのだ。


 そのタイミングをアルトリアは見逃さなかった。

 瞬時にラダーを蹴り、風向きに対して帆を広げる様に機体全体で受け止める。


 だが、既に手遅れということはアルトリアも理解していた。どう足掻いても地面とのキスは避けられない。

 僅かにバランスを取り戻せたが、コントロールされた墜落に変わりはないのだから。

 

 わずかに傾いた胴体下部と右の主翼が地面に接触する。

 鉄錆色の大地から生えていた岩石により右主翼の先端がへし折れ、機体が大きくバウンドした。エンジンノズルやら尾翼やらをこすりつけながら、再度地面に接触する。


 激しい衝撃に機器類が悲鳴をあげ、火花と部品を飛び散らせる。


「痛ッ!」


 やっと機体の運動エネルギーがゼロになった。

 衝撃に呻きながら顔を上げる。目の前のひび割れ、真っ暗なモニターがアルトリアの表情を歪めて写していた。


 主機どころか補助電源も生きていない。土埃に覆われた機体を確認するまでもなく、再離陸は無理だろう。

 燃料が漏れているが、火災は起きていない。だが破片で穴でも開いていたのか、パイロットスーツの酸素残量が目減りしていく。


 散々なコックピットの中で、アルトリアは何とか立ち上がろうとする。しかし、一向に座席から細身の体が持ち上がらない。というよりも体が動かない。


 意地で掴んでいた操縦桿から指をそぐように外すと、レーバーを引いてキャノピーを飛ばし、機体の淵に両手をついて上半身を引き上げる。


 ずるっと、オタマジャクシが這うようにうつ伏せで外へ出た。

 アルトリアの両眼に写ったのは紅いポリゴンを残して切断された大腿部(ふともも)だった。

 

「あぁぁぁぁぁ、油断した……」


 大腿部には大きな血管が存在しているらしい。こんな状態では救急キットでも治療は無理だろう。一応、ゲーム演出に考慮してリアルな、肉塊や骨が突出したような見た目にはなっていない。

 

 だが自身の体にあるべき下肢(もの)が無い。ゲームと理解していても、心拍数が跳ね上がりそうなショッキングな映像だ。酸素残量が減っていく原因も間違いなくこれだろう。

 

 気の抜けた声をあげ、両腕を広げながら仰向けに倒れこむ。髪の毛を掻きむしりたい所だがヘルメットに邪魔されてしまうから、無理だ。


「ホワイトリーダーより、兵団司令部。聞こえますか?」


 わずかに残った気力を振り絞り、パイロットスーツに付属する通信機のスイッチを入れる。


<こちら、テンドンだ。どうした!? 機体がレーダーから消えたぞ!>


「すみません。落とされました」


<現在位置はわかるか。すぐに救助部隊を編成する! >


 通信を聞いていたのかテンドンが言葉を発すると同時に、通信機の向こう側では救出作戦を行うよう兵士へ命令を下す声が聞こえた。同時に『オ号』の吹かすジェットエンジンの音も混じり始めた。


「いえ、恐らく間に合いません」


<諦めるな! 今すぐ向かえば―――>


 暑苦しさの滲むテンドンの声に、思わず苦笑が浮かぶ。

 だが、アルトリアには時間が残されていない。すぐに彼の言葉を遮って話を続けた。


「それよりも悪い知らせです。空港から敵機が上がってきていました。第588飛行隊です」


<魔女か! まったく、ホワイトリーダーはよほど好かれているんだな!>


 あまりのしつこさに呆れを含んだ言葉をテンドンが漏らす。

暗闇の魔女(ナイトウィッチ)』の主戦場は宇宙空間だ。わざわざ不慣れな地上まで降りてくるとは、よほど彼女たちに好かれているのだろう。アルトリアとしては全力で遠慮したところだが。


 まぁ、こちらが雀の涙ほどの航空戦力しか保有していない事を把握しているのだから、当然の判断だろう……。


「私じゃないですよ。多分……。ともかく蒼の星から増援がリスポーンしているとすると第二都市の攻略、兵団だけでは無理です。もっと航空戦力がないと」


<……だが、どこから連れてくる。機体も無いぞ……。おい。ホワイトリーダー。大概この手の問いかけはいい知らせと悪い知らせの二択だよな?>


「そうですね。博打になりますが敵飛行場に駐機中の機体がありました。それを奪取できればワンチャンあるかな、と」


 あの何かわからない閃光。ゾレグラは間違いなくあれにリソースをつぎ込んでいる。そうなれば向こう(ゾレグラ)も懐は寂しいはずだ。敵がリスポーンするよりも早く空港を抑えることが出来れば。もしかすると、うまくいくかもしれない。


<それはいい知らせ、ではないな。ホワイトリーダー、貴様は機体を無傷な状態なままで空港を占領しろというわけか?戦力的に劣る我々にまともな上空援護も無く?>


「正確には、滑走路と機体があるハンガーですね。滑走路は埋めてもらえれば、多少の穴は大丈夫ですよ」


<無茶を言ってくれるな>


「航空優勢が取れれば、勝機があります」


 航空優勢を取る為に、航空機が居ない状態で戦う。なんとも、無謀なことを言っている自覚はあった。

 だが、アルトリアにはそれぐらいしか思いつかなかった。


 徐々に視界がぼやけ始める。墓場へ行く時間が迫っているようだ。


「パイロットは私がどうにかします」


<……全く、さすが【collars】のメンバーだ。了解した。貴様が復帰する前に空港は掌握しておく>


 頼もしい言葉を聞き、アルトリアは好戦的な笑顔を浮かべ、砂塵舞う空へ向け真っすぐに腕を伸ばした。

 そろそろ限界のようだ。テンドンの声がはるか遠くに聞こえる。視界も靄が掛かるようにはっきりしない。


「はい。よろしくお願いします」


 空をつかみ損ねた右腕から力が抜ける。ぱたりと胸の上に落ちると、アルトリアの頭上にDeadのアイコンが点滅した。

大変、大変お待たせしました。

時間が取れたので投稿しました。楽しんでいただけたのなら幸いです。

誤字報告ありがとうございます。

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