第39話 攻略作戦 始動
話が全然進まない……。今回もまた短めですが、楽しんでいただけると幸いです。
大気圏突入からわずか数分で、ゾレグラ星系主星の片割れである赤の星の無機質な地表が現れた。まるで火星を思い出させる鉄錆色の大地。その大半を構成するのは岩石と砂だ。その中には希少鉱物が大量に埋蔵されており、採掘された資源はソラハシャのすべての星系へ輸出されている。
一方で、砂塵が舞い上がる大気は、外からの来る者を強固に妨げる。特に一か月に一回発生する砂嵐は、地上の設備を根こそぎ吹き飛ばしてしまうほど強力な突風を引き起こす。そのため赤の星では至る所にシェルターが接地されている。
<こちら『神州丸』。総員に通達。第一種戦闘配置。繰り返す、第一種戦闘配置>
『神州丸』のオペレーターの声が警報音と共に通信機から漏れ聞こえてくる。
通信に耳を傾けながらヘルメットのバイザーを上げ、機体に常備されているエナジージェルのパックを取り出してキャップを開ける。
今頃それぞれの船の中では、待ちに待った地上戦に兵士たちが血潮をたぎらせていることだろう。
アルトリアも今回の星系戦で初めての地上に、彼らと同じように胸の高まりを感じている。しかし、ここからは激戦が控えている。機体を再起動するつかの間の時間であっても体を休ませねばならない。
「サイドスラスターパージ。エンジンへの推進剤の注入停止。ファン吸気口解放」
アルトリアは、システムを切り替える工程を頭に描きながら、パックを潰しジェルを一口含む。口腔内に広がる人工の甘味に顔をしかめながら、キーボードと制御盤のタッチパネルを切り替えていく。
当然ながら宇宙と地上では環境が違いすぎる。そのため専用のシステムと機体の準備を行わなければならない。特に薄いながらも大気が存在する惑星では、スラスターは錘にしかならないため真っ先に捨てることになる。
純白に塗装された主翼や胴体に接続されたスラスターが固定を解除され『神州丸』の甲板に落ちる。主を失ったパーツは、そのまま自重で転がりながら船の外へと放り出されていった。
「推進剤再注入確認。回転数上昇―――エンジン再点火」
続けてエンジンファンを覆い隠していたカバーが胴体部に収納され、回転するファンが外部に露出する。徐々に回転数を上げるファンに燃料が投入され、一度火が消えかけたエンジンノズルから景気よく炎が噴き出す。
「武装確認よし。―――こちらホワイトリーダー。各機機体状況を報告して」
最後に機銃の残弾数の確認と機体胴部に収容されたミサイルの安全装置を確認する。すべてのチェックを終えたアルトリアは、自機の後方に居並ぶ『零式艦上戦闘機33型』に意識を向ける。
<ホワイト3出撃準備完了>
<ホワイト4、OKです>
<ホワイト5、チェック完了。いつでも行けます>
ホワイト隊の中でも精鋭の彼らは、滞りなく出撃準備を完了させていた。
全ての『33型』が鳴り響かせる頼もしいエンジン音とパイロットたちの返答を聞いたアルトリアは、『神州丸』の艦橋へ通信を入れる。
「ホワイトリーダーより『神州丸』艦橋へ。出撃許可を請う」
<こちらテンドンだ。作戦を伝える>
通信に答えたのはクラン【菊兵団】のリーダーであるテンドンだった。インカムを使っているのか、衣擦れの音や周辺で戦闘準備を進めるプレーヤーの怒号が漏れ聞こえていた。
<現在、船団はゾレグラ第二都市の南方二百キロの地点だ。この地点から地上部隊を降下させ、ゾレグラの防衛圏ギリギリの百キロ地点に仮設司令部を設置する>
『33型』に前もってインストールしていたホロマップを表示させると、『神州丸』から受診したデータにより降下地点と攻撃目標の位置が自動的に更新される。
直径三十キロに及ぶ円形の都市部とへばりつくように建設されているマスドライバーおよび空港施設にマーカーが浮かび上がる。
アルトリアはマーカーを辿り、ホログラムを二本の指で拡大する。
第一目標のマーカーが点滅するのは、同心円状に広がる都市部の中心にそびえる三つの巨大なビル群だ。第二都市の中央官庁として市政を司るビルの頂点からは、都市部全体を覆う強化ガラスが広がっており、居住区画および併設している兵器製造工場を過酷な環境から守っている。
ちなみに、都市部を覆う強化ガラスには航空機を発着させるための穴が存在するが、戦時は分厚い装甲壁によって隠されていた。中に入るには内側から装甲壁を開けてもらわなくてはならない。
<ホワイト隊には対空火器の排除に務めてもらいたい。敵も万全の体制で待ち構えていると思うが……>
「了解です。じゃあホワイト隊は本隊より先行して地上及び航空機の迎撃に回ります」
<―――頼む>
通信を切るとアルトリアは、ヘルメットのバイザーを下して操縦桿を強く握る。
テンドンは対空火器と言ったが、航空戦力も『兵団』にとって無視できない脅威だろう。
「ホワイト隊各機はこのまま第二都市周辺まで進出、適宜対空兵器の排除を優先に攻撃、状況に応じて臨機応変に対応して。指揮はホワイト3へ譲渡するから」
<了解。隊長は如何されますか?>
「私は、敵航空戦力を叩く」
とりあえず、迎撃に上がってくる機体を片っ端から撃墜するぐらいの気概で行くつもりだ。折角ポイントを稼げるチャンス。逃すなんて勿体無い。
<『神州丸』よりホワイトリーダー。出撃を許可。前線の連中を頼みます>
「こちらホワイトリーダー。空は任せてください。―――ホワイト隊全機発艦」
管制官と短いやり取りを終えると、スロットルを最大にする。エンジンが甲高い音を鳴り響かせるのと同時にランディングギアのロックを解除する。
急激な加速によるGを全身で受け止めながら、アルトリアは操縦桿を引き上げる。『神州丸」の甲板から飛び出すと重力によって下方へと落下するが、すぐに安定を取り戻し後方に追随してきた三機と合流する。
アルトリアを中心に編隊を構築すると、ホワイト隊は第二都市へ向け飛行進路を取った。




