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第38話 赤の星へ

長らくお待たせしました。

短いですが楽しんでもらえると嬉しいです。


 赤の星第二都市上空 ゾレグラ防衛艦隊


 赤茶けた赤の星の薄い大気に乗っかるようにして、大量の船が静止軌道上に浮いていた。

 フリスビーのように平らな円盤型の船体。中央にそびえる艦橋を挟みこむように対称に配置された主砲の11in.プラズマ砲。

 ゾレグラのプレーヤーでも知っている者自体が少ないマイナーな船。

 

 その名を『ノヴゴロド』という。

 

 機動力、戦闘力が皆無という戦闘艦を名乗るにはあまりにも欠陥だらけの船が赤の星を覆いこむように一千隻展開していた。


<バラセラバルの連中、どれくらいがこっちに来ますかね?>

「わからん。こちらも敵も主戦場は蒼の星であることは百も承知だろう」


 艦隊というにはおこがましい張りぼての集団を率いる旗艦『ヴィツェ・アドミラール・ポポーフ』の指揮官と『ノヴゴロド』の艦長はため息交じりに会話をしていた。まともな戦力にも数えられない『ノヴゴロド』では、襲撃を受ければ一たまりもないであろう。一応周囲には沿岸砲もあるが、これも大して性能は変わらない上に数が少ない。


 最もゾレグラのプレーヤーに赤の星への攻勢を止めるつもりは最初からない。第二都市が落ちることを前提に今回の作戦は立案されている。


 指揮官をはじめここにいるプレーヤーは、そのことを正しく理解した志願者だけだ。とはいえ自分の艦艇をとある制限で使えなかったのには苦笑を禁じ得ないが。 

 彼ができる事といえば、敵か無知で一千隻という数を目の当たりにして攻撃を躊躇ってくれるかもという奇跡を祈るぐらいだ。


「レーダーに感あり!」

「規模はどれくらいだ?」


 どうやらバラセラバルの連中は蒼の星以外にもちゃんと戦力を割いてくれているようだ。まったくもって宇宙装備の整ったサーバーはうらやましい。どこから二正面作戦のための戦力を絞り出してくるのか。

 

 戦闘準備を各艦に発令すると同時に担当の管制官に尋ねる。


「大型艦一を含む十隻程度が正面より接近中!また地上観測所が惑星の反対から突入する別部隊を補足しています。数およそ百から二百!小型艦が多い為、正確な数は確認できていません」


 正面が攻撃部隊で裏側から回り込んできているのが占領を目的とする地上部隊だろう。


「この数にビビらないとなると、かなり博識な奴が敵にいるな」


 大型艦、おそらく戦艦クラスの砲撃が降り注ぐ中、指揮官は砲撃を命じる。

 『ノヴゴロド(こちら)』は姿勢制御装置が貧弱なため、一度発射するとバランスを崩す欠陥兵器だ。連射などは夢のまた夢。とはいえ反撃しなければここにいる意味がないし、やられるままというのも気に入らいない。


「精々弾薬を消費してもらわないとな」


 その言葉を発して間もなく指揮官座上の『ヴィツェ・アドミラール・ポポーフ』は、戦艦『アイダホ』の14in.砲のプラズマレーザーの直撃により宇宙の藻屑となった。


 ◇


 健気に11in.レーザー砲を旋回させている『ノヴゴロド』に対し、アルトリアは自身が駆る『零式艦上戦闘機33型』に装備された20㎜機関銃で容赦ない機銃掃射を与えた。

 後方から続く三機の小隊機もアルトリアにならい、景気よくデブリを量産していく。


 アルトリアは強襲部隊に先んじて攻撃を仕掛ける『アイダホ』に便乗する形で『ノヴゴロド』のカーテンへと突出していた。


 当初は突入時までの援護の予定だったが、敵守備隊の規模が不明なため保険として強襲部隊の直掩をテンドンに依頼されていた。

 正確いうと以前『兵団』の基地へ行った際に運用している航空戦力『オ号』や『カ号』では対空戦闘に不安があるとアルトリアの方から伝えていた。その意見をテンドンが汲み取った形になる。まぁ、久しぶりの地上戦闘がやりたかったというのもあるが……。


 今回はメイビスと相談の上、戦闘機全機を地上に卸してしまうと『海鷹(かいよう)』の護衛がいなくなってしまうため、アルトリアが直接指揮を執る一個小隊四機のみが随伴する形に落ち着いた。


 防衛戦力が心もとないが、赤の星の戦力が『ノヴゴロド』であったことを考慮すると、敵の攻撃はないだろうという判断もある。


 アルトリアは、残り時間にたびたび目をやりながら、次の『ノヴゴロド』へ攻撃を仕掛ける。

 現在乗っている機体は『神州丸(しんしゅうまる)』に搭載されていた『33型』だが、小隊全機が赤の地表に合わせ褐色や橙色が混じったデザート迷彩にお色直しされていた。


 ただしアルトリアの機体だけは主翼の翼端と尾翼を真白に塗装するように伝えていた。

 正直レーダーや高瀬能光学機器の前では迷彩など気休め程度の効果しかない。このカラーリングはホワイトリーダーとしての存在証明といった所だろう


<こちら『神州丸』突入まで残り3分>

「ホワイトリーダー了解。ホワイト隊全機、大気圏突入前準備。くれぐれもバスに乗り遅れないでね」


 さぁ、楽しい楽しい地上戦の始まりだ。アルトリアは、ヘルメットのバイザー越しに獰猛で期待が溢れる視線を不毛な大地へと向けた。


 ◇


 赤の星の大気圏すれすれに大量の光点が視界に移る。

 強襲部隊の船団だ。アルトリアは『ノヴゴロド』への攻撃もそこそこに『33型』を突入コースへ向けた。


「アフターバーナー点火!突入部隊と相対速度を合わせる!」


 光点の波の先端にはっきりと見えるまで近付いてきた『神州丸』の甲板へ機体を降下させる。すでに『神州丸』の船体は大気摩擦により赤く熱を帯び始めていた。気休め程度の機体コーティングしかしていない『33型』ではあっという間に燃え尽きてしまう。


「冷却剤放出!アンカーを自動誘導にセット」


 燃焼エンジン用の燃料に代わり落下増槽(ドロップタンク)へ詰め込んできた冷却剤を盛大に放出する。これでしばらくは機外温度を下げることができる。着艦できるのは冷却剤が切れるまでのわずかなタイミングだ。

 着艦は大気圏での機体制御が難しい為、『神州丸』の甲板へ直接アンカーを打ち込むことで対応する。アンカーのせいで船体に傷がつかないかと心配になったが、刺さった程度では問題ないとテンドンから言質をもらっていた。


 機首から打ち出された誘導アンカーが甲板突き刺さった。そのまま誘導ビーコン替わりに機体を引っ張る。着陸脚が接地すると今度は機体の四方から固定用のアンカーを打ち込む。バレルロールでもされない限り、振り落とされることはないだろう。

 ほかの三機も無事『神州丸』への着艦を済ませたのを確認する。

 これであとは大気圏を通り過ぎるまで待機するしかない。



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