第36話 防空戦闘
アルトリアは焦っていた。
足の遅い『二式亜空間戦闘機』が遅れ、だんだんと距離が離れていくのにも気がつかないほどに。
敵がゾレグラ最強を謳う第588航空連隊『暗闇の魔女』であると分かった以上、一刻の猶予もない。恐らく護衛部隊の練度では歯が立たない。
せめて敵部隊への対策をメイビスに伝えたかったが、通信を行っているそのタイミングで襲撃を受けた。
しかも今回襲撃してきた『Yak-1』の編隊にも、レーダードームを搭載した電子戦機仕様の機体が混ざっていた。高価なジャミング機能を持った機体のせいで、結局メイビスとの通信はすぐに途切れてしまった。
突っ込んできた『Yak-1』に対して、連続戦闘にもかかわらず『キ12試作戦闘機』の機首を向け40㎜の徹甲弾を連射する。だが敵機は腹が立つほど華麗に回避運動を取り、アルトリアに追撃を仕掛けようと背後に潜り込んでくる。
自然と口から舌打ちが漏れる。
これは手間がかかりそうだ。そう判断したアルトリアは撃墜するのは早々に諦め、逃げに徹することにした。それでも撒くまでにかなりの時間を消費した。
それだけではない。足の遅い『二式亜空間戦闘機』を庇いながら戦闘機動を行ったため、機体に積まれた燃料を予想以上に消費していた。
敵部隊が諦めて機首を返したときには、増槽内の燃料はすべて使い切っていた。
機体の燃料槽も残りわずかだった。これでは船団に合流できたとしても防空戦闘ができるかどうか。かなりギリギリだった。
それでもアルトリアは機体が鳴り響かせる警告音を無視して、アフターバーナーを点火した。
スロットル全開で突き進む『キ12試作戦闘機』のキャノピー越しにいくつかの光が見えた。やっとの思いでたどり着いた船団はまるで打ち上げ花火の会場のごとく輝いていた。思わずアルトリアは吐き捨てるように叫んだ。
「やられた!」
一瞬、確認しただけでも五隻は燃えている。
こんなことなら、索敵に出るんじゃなかった。敵の主力はほとんどが青の星に集結しているという情報を信じすぎた。もっと慎重に行動を決めるべきだった。
ガリッと奥歯を強く噛む。だが、襲撃を受けたことをとやかく言っても仕方がない。今は少しでも船団の被害を抑えなくてはならない。後悔も反省もその後だ。
鋭い視線を向けるアルトリアの前に、船団の中を通りぬけてきた敵機が現れた。
ダークグレーに塗装された『Ii-2』が三機。
『襲撃機』と呼ばれる爆撃も攻撃も可能なマルチロール機の一種だ。武装はVYa-23、23㎜機銃および7.62㎜機関銃がそれぞれ二門。本来、翼下のレールに対空ロケットを装備しているはずだが、すでに船に撃ち込んだ後なのか見当たらなかった。
「ッ!」
アルトリアは、今までのお返しとばかりに敵機の真正面からチョコレートカノンの40㎜炸裂弾をお見舞いした。
初弾は先頭を直進していた『Ii-2』の正面からコックピットに命中し、爆発と共に直径40㎜の穴がぽっかりと開いた。完全に砲弾が貫通しており、燃え盛る輸送船の炎が見える。これが現実であったら操縦していたパイロットはモザイク画のように目も当てられない事になっていただろう。
そんなことを考えながら、機首を他の二機に向ける。先頭の機体を落とされたことに動揺したのか、慌てて翼を翻す後続機に容赦なく砲弾を発射した。
最後尾を飛んでいた『Ii-2』が機体中央部に命中した弾丸によって真っ二つに引き裂かれた。最後の一機は40㎜がエンジンを掠ったことによって、盛大に炎と黒煙を噴出していた。
とどめを刺そうとアルトリアが照準を合わせる前に、操縦は困難と判断したのかパイロットが座席ごと脱出した。
アルトリアはそれ以上の追撃を行わずに、出力を少し落としながら通信機に向かって叫んだ。
「こちら、ホワイトリーダー!『海鷹』状況報告を!」
<こ、こちら『海鷹』!>
「メイビス、現状を教えて!」
泣きが入った声のメイビスに対して、アルトリアは間を置かずに先を促した。
<さっき、攻撃を受けて!もうなにがなんだかわからなくて>
要領を得ない彼女の言葉から、状況を大まかに把握する。
同時に、敵機に翻弄される『零式艦上戦闘機21型』の援護に入る。弄ぶように後方を付け回していた。『Ii-2』を一撃で火だるまに変えた。『21型』にはそのまま追随するように命令する。
「好き勝手にしてくれてッ!!」
急激な加速に伴って起きるGに顔を歪ませながら、連続してトリガーを引く。40㎜の砲弾が発射される衝撃でぶれる機体を無理やり押し込めて、目につく敵機を片っ端から撃墜していく。
それでも火柱を上げる輸送船は増えるばかりだった。多勢に無勢でどうすることもできない。まったく焼け石に水だ。
『海鷹』へ急降下爆撃をかまそうとしている『Ii-2』が視界に入る。アルトリアは20㎜を連続で発射した。ヴゥゥゥという低音が響く。運よく敵機がぶら下げていた誘導性の爆弾に当たったのか盛大に爆散する。
しかし、撃墜を喜ぶこともできない。一息つく間もなく、コックピット内に警告音が鳴り響く。確認すると後ろにいたはずの『21型』がエンジンから煙を吹いて輸送船に衝突していくところだった。入れ替わりにアルトリアの後ろには、『Yak-1』がピッタリと張り付いていた。
やたらゴツゴツと改造された大きな主翼を持つ『Yak-1』の胴体には、翼を広げたカモメのパーソナルマークが刻まれていた。
「魔女!!」
ゾレグラでカモメのパーソナルマークを持つプレーヤーは一人しかいない。ゾレグラ宇宙軍最強にして、ゾレグラサーバー唯一の女性マスター。
『暗闇の魔女』の隊長チャイカだ。
同じ女性で戦闘機乗りと言う事もあり、アルトリアも少しながら交流があった。普段の彼女は気の優しいお姉さんだったが、戦闘になると厄介極まりない人物に様変わりする。
彼女であればそろそろ仕掛けてくる。
アルトリアは直感に従って操縦桿を左に倒した。同時にエンジンノズルを閉鎖、エネルギーを前方に向けて一気に放出させた。
急制動に投げ出されそうになる体に補助ベルトが食い込む。パイロットスーツ越しに胸を強く圧迫されアルトリアは痛みに顔をしかめた。
後ろを飛んでいた魔女の『Yak-1』は『キ12試作戦闘機』の急制動に虚を突かれたのか、攻撃を中断して輸送船の上方を抜けていった。
レーダーに映る光点が急激に離れていく。すぐにエンジンノズルを解放、再点火させると叩き込むようにスロットルを最大まで噴かす。同時に下部スラスターを操作し機首を敵機が飛び去った方向へ向けた。
アルトリアの銀色の瞳が、キャノピー越しに『Yak-1』のエンジンから漏れるプラズマの輝きを捉えた。
反射的に力む指先でトリガーを引いた。遠慮も容赦もない連続射撃がチョコレートカノンから放たれた。40㎜を撃つごとに機体に過大な負荷がかかり、損傷を示す警告ランプが次々に点灯する。しかし敵機は容易に回避し、弾丸は空しく宇宙の彼方へと飛んでいった。
くそったれ!!思わず口汚い言葉が飛び出しそうになる。
すると前方を飛行していた『Yak-1』の主翼が唐突に赤色の光を纏った。そして右へ90度回転しながら急制動を掛けた。
今度はアルトリアが、回避運動を強いられる番だった。機体が振動にさらなる悲鳴を上げるのも無視して、上部スラスターを全開にして無理やり機体を真下にスライドさせる。
コックピットの頭上を赤色の翼が掠めていく。それを見た瞬間に思わず背に冷たいものが流れた。
赤色の翼は、高出力のレーザーカッターだった。
もし回避せずに直進していたら、敵機の主翼に展開されたレーザーカッターにコックピットごと切断されていただろう。やたら大きな主翼に改造されているなと気にはなっていたが、こんなものが装備されているとは。
回避できたのは本当に奇跡だった。
これだから、宇宙戦闘機乗りは!!普通、戦闘機の翼にレーザーカッターをつけようなんて、どんな思考回路をしていれば思いつくのか。全くもって非常識だ。
アルトリアは内心で盛大に悪態をつきながら、再び真後ろについた『Yak-1』の射撃を回避するためジグザグに飛行させる。
と急に『キ12試作戦闘機』がガクッと変な挙動をした。この感覚には覚えがある。機器を確認するまでもなく燃焼エンジンが咳き込んでいるせいだ。
アルトリアは、素早く燃料の残量メーターを確認する。残り凡そ9%。メーターが正常であれば少量だが、戦闘出力で後一、二分は飛べるはずだ。
しかし、燃焼エンジンから元気に吐き出されているはずの炎がチロチロと不安定な状況になっている。
回避のためバレルロールを行いながら、アルトリアは原因を見つけるためコックピット内の計器を隅々まで探る。
「酸素がない!?」
アルトリアの顔が歪む。視線の先で酸化剤の残量を示すウィンドウの上で警告灯が踊り狂っていた。
燃焼エンジンが宇宙空間で出力を発揮するには、主となる燃料とそれを発火させるための酸化剤が必要となる。気づかないうちに酸化剤のタンクに被弾していたのか。あるいは、チョコレートカノンの衝撃に機体が耐え切れなかったのか。
どちらにせよ、このまま酸化剤が切れると飛行できなくなる。機体各所のスラスターはまだ推進剤が残っているが、着陸時の微調整ならまだしも、戦闘中ではまともに回避もできないだろう。
これは覚悟を決めるしかないか。
アルトリアが脱出の算段を始めたとき、展開していた『Ii-2』の一部隊が船団から離れるように進路をとった。
周囲を確認すると弾薬をすべて撃ち切ったのか、次々に『Ii-2』が翼を翻して離脱していく。それに合わせて、執拗に後ろを付け回していた魔女の『Yak-1』が攻撃を中断する。そのまま、『Ii-2』についていく。
撃墜される心配がないと判断したアルトリアは、脱出用のレバーを引こうとしていた右手を止めた。
魔女の目的は、あくまで船団を攻撃することだったようだ。
ここで離脱すると言う事は、一定の戦果を挙げたのか。あるいは出撃していた『海鷹』の攻撃部隊の射程圏内に入ったのだろう。つまりアルトリアの撃墜よりも、部隊の安全確保を優先した。
そうでなければ、ここで見逃すはずはない。
助かった。
そう安堵しながらも、アルトリアは悠々と離脱していく敵部隊を憎々しげな視線で見つめていた。
だが、いくら睨み付けてもどうすることもできない。結局、諦めたアルトリアは体を弛緩させ、座席にもたれかかった。今度会ったら覚えていろよと内心でぼやきながら、救助を待つために機体のエンジンを停止させた。
◇
<全く。まさか『闇夜の魔女』が赤の星の防衛に出てくるとは……>
襲撃後、内火艇で『海鷹』に帰還したアルトリアは、まっすぐに艦橋を目指した。エレベーターを降りると、しょんぼりと肩を落としたメイビスを励ます男性プレーヤー達の姿があった。
<せやから、大丈夫やって!メイビスちゃん!これぐらいの損害、ワイらにとっては日常茶飯事や!>
中央モニターに映るライデンが無駄に明るい声音で告げる。
別のウィンドウでは、ロバートソンが墨汁を垂らしたような黒い腕を組み、同意するように何回もうなずいている。アーガイルは、どう声をかけるべきか迷っていたようだが、最終的には目を背けた。
そして、テンドンはただ無言でメイビスを見ていた。丸メガネの向こうにある瞳からは感情を読み取ることができなかった。
アルトリアはため息をつくと、メイビスが座る席の隣に立った。
「アルちゃん?―――うわっ!」
メイビスが涙をためた瞳でこちらを見上げてくる。今にも決壊しそうになっている彼女の顔をみると自然と頬が緩む。アルトリアはおもむろに彼女側頭部を両手で捕まえ、自分の方へ向ける。
一息吸って吐き出す。そして、渾身の力で彼女の額へ頭突きをかました。
ゴツッ!とまるで鈍器で殴られたかのような音が艦橋内に響く。
お互いに涙目になりながら、―――メイビスに至っては涙腺を崩壊させて、赤いダメージエフェクトに彩られた額を抑える。アルトリアも予想以上の痛みに思わずしゃがみこんでいた。
<な、なにやっとんねん……>
突然の出来事に、理解不能といった様子の男性陣を代表してライデンが疑問を口にした。しかし、少女達には聞こえていないのか無視された。
メイビスが噛みつくようにアルトリアへ抗議の声を上げた。
「痛っぁぁぁぁ!―――もう!アルちゃん何するのッ!?」
無駄に高性能な感情エミュレーターによって鼻声になったメイビスに、アルトリアは目元の涙をぬぐいながら口元に弧を描いた。
「なんて顔をしてるのよ!そんなんじゃ、これから戦えないじゃん」
「だって、だって!私のせいで何隻も!」
力なくうなだれるメイビスの言葉を、アルトリアはあきれたように否定した。
「確かに、損害を受けたのはメイビスの判断が一因かもしれない。―――だけど、それを言うと護衛部隊を指揮する私が船団を離れなければ防げたかもしれない。さらに言えば、兵団の人たちの方がミーシャさんと仲たがいを起こさずに護衛部隊を雇っていれば、こんな被害を受けることもなかった。そうとは思わない?」
彼女の言葉を聞いたライデンがつくづく面白そうにつぶやく。
<なんや、いつのまにかこっちが悪モンになってもうたぞ。テッちゃん>
<ホワイトリーダーが言う事は事実だ。ライデン。―――それよりもメイビス艦長>
兵団の両マスターは、特に損害について気にしている様子はなかった。
テンドンに声を掛けられメイビスが顔を上げる。
<今回の襲撃に関して気にするなとは言えん。だが、こちらの損害は許容範囲内で収まっている。反省する事も必要だが、これからをどうするかを話し合うほうが有意義ではないか?>
内容は厳しいものだったが、テンドンは以外にも優し気な声音で告げた。それを聞いたメイビスはしばらく所在なさげに視線を彷徨わせたが、
「そう、ですね。―――わかりました。ここからは切り替えていきます」
彼の言葉に励まされたのか、メイビスが両頬を強く叩いて気合を入れた。一回、決着をつけたらもうくよくよしない。昔からこの切り替えの早さは彼女の長所の一つだ。
「それじゃ、損害の確認と対策をしよう。それぞれ、報告をお願いします。」
これでもう大丈夫だと判断したアルトリアが、モニターに映るプレーヤー達に声をかけた。
<ほんじゃ、まずはワイから。船団は撃沈四。大破十三。中破一。小破たくさん。あと『神州丸』が揚陸艇用降下ハッチがやられて大発の発艦に支障が出とる。今は関係ないけどな>
<護衛部隊は、第六戦隊が手ひどくやられタ。嚮導駆逐艦『Percival』と駆逐艦『Reno』『Trever』が中破シタ。ほかは目立つ損害はナイ>
「艦載機は33型十一機、21型が二機未帰還です」
ライデンとロバートソンからの報告、そして副長から各護衛空母の損害を確認する。
こう見ると確かに損害は大きい。特に虎の子の艦載機が十機以上も落とされたのは、かなり厳しい。今後の作戦を立てる上でも留意しなくてはならないだろう。
「修復状況は?」
<『Percival』はあと三時間で戦線に復帰できる予定ダ。ほか二隻もなんとか間に合わせル>
<こっちは中破以上の輸送船は破棄することにしたわ。現在装備品と生存者の回収を行っとる。一時間もあれば終了するはずや>
「最低でも三時間はここに足止めですね……」
出来れば、襲撃のリスクを減らすために早く目的地にたどり着きたい。だが、第六戦隊を見捨てるわけにもいかない。とはいえ、先ほど引き返した部隊が大人しく待っているとは思えない。確実に再襲撃があるはずだ。
それに対する対策をどうするか。頭が痛くなりそうだ。
<あ、そうや。メイビスちゃんとホワイトリーダーに提案したいんやけど……>
そこに何か思いついたのか、モニター上のテンドンが意味深げに笑みを浮かべて言った。
メイビスとアルトリアは、顔を見合わせるととりあえず話の先を促した。
◇
案の定。ホワイトリーダーが懸念した通り、足を止めた船団は三時間の間、小規模な部隊による波状攻撃にさらされた。
<ちょ、ライデンさん本当にやるんですか!?>
「当然や! 男に二言はない!」
ホワイトリーダーの焦った声に、ライデンは思いっきりの笑顔を浮かべて叫んだ。
彼は自身が乗り込む『九十七式中戦車 チハ改』の車長席に設置された車外モニター上で飛び回る敵戦闘機を視認していた。
その『チハ改』は他の戦車と大きく異なっていた。本来地面を噛みしめ、推力を起こすはずの履帯がなくなり、代わりに蜘蛛を連想させる脚が八本生えていた。
以前からライデンには、車両を履帯や車輪ではなく磁気を利用して張り付く多脚車両として宇宙戦に持ち込む構想を練っていた。
地上では、遅い、脆い、積載量が少ないと欠点だらけの多脚。
だが、宇宙空間では接地脚底面に磁気を帯びた状態にすることで、弱点が利点へと大きく変わる。多脚を装備することによって、輸送船の装甲を自由自在に動き回ることができるようになったのだ。
積載量の問題も、無重力下では問題ない。
さらに、対空防御に使われる実弾武装は地上車両に搭載されている物とさほど変わらない。ならば、船体に固定された機銃よりも移動できる車両の方が優秀であるはずだ。
航空機ほどの機動性はないが、船体を動く砲台を捉えるのは困難だろう。
事実、動き回る『チハ改』には敵機の弾がかすりもしない。数回機銃掃射を受けているにも関わらずだ。
宇宙空間に本来存在しないはずの地上兵器が猛威を振るおうとしていた。
最も輸送船を動き回る姿が、まるでどこのご家庭でも出現する脅威を彷彿とさせ、年若い少女たちにもある意味で脅威と認識されてしまっていたが。
「このまま、やられっぱなしになったらワイらの沽券に関わるぞッ!【龍兵団】対空部隊全車、腕の見せ所や!気張れぇ!」
ライデンが喝を入れる。それを合図に、『SS艇」や輸送船の格納庫から磁気によって固定することができる多脚へと履き替えた『九十四式六輪自動貨車』と機銃を搭載していた『チハ』『チハ改』が出撃する。中にはどこのサーバーで作られたのかもわからない『ジャンピングタンク』も混じっていた。
「全車各個に射撃!」
『九十四式六輪自動貨車』の荷台に取り付けられていた対空用の20㎜連装ガトリング機銃が射撃を開始する。
放たれた実弾が船団の間をクモの巣のように広がり、すぐに獲物を捉える。悠々と飛んでいた『Ii-2』がコックピットに致命傷貰い、胴体から火を噴く。
戦車隊も輸送船を這いずり回りながらロケットを次々に迎撃していった。
なかでも一番、効果を発揮したのが『ジャンピングタンク』だった。
足をグッと縮めて、しゃがみ込むと爆発的な速度で宇宙空間に飛び上がった。そして、昆虫類が捕食するように、大きく開いた足で敵機を捕まえた。
そのあまりの姿に少女たちは気分が悪そうに眼を背けていたのだが、そんな事は露知らず、ライデンは戦車部隊の戦果に満足げに頷く。
「これで、地上車両の有用性が認められる!ワイらの力、思い知った―――」
大口を上げて爆笑しているライデンの眼前を魚雷が掠めた。
「―――か?」
唖然とするライデンの目の前で、魚雷は輸送船に突き刺さると脆弱な装甲を突き破り、バイタルパートまで達した。そして大量の炸薬が起爆して動力炉を破壊した。
当然輸送船に張り付いていた『チハ改』も巻き込まれるようにして爆散し、ライデンは死亡を示すアイコンだけを残して墓場送りとなった。
<何をやっているのだ。あいつは>
一部始終を見ていたテンドンがあきれたようにつぶやいた。




