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第28話 アルトリア•ブートキャンプ

遅くなりました。

今年最後のお話になります。


メイビスが【愛国者】のプラットフォームで新兵訓練を受けているそのころ―――。


 バラセラバル外宇宙交易ステーション『サジタリウスⅡ』から外縁部に約三十八万キロ、現実(リアル)の地球と月と同等度の距離に、小さな細長い物体が二本並んで進んでいた。

 太陽光によって、真っ黒なシルエットをさらしているのは、護衛空母『海鷹(かいよう)』とその護衛である防空駆逐艦『羽風(はかぜ)』だった。


「戦闘機隊、全機発艦開始」


 『海鷹』の艦橋ではパイロットスーツを着込み、長い銀髪を一個のお団子にまとめたアルトリアが、不在の艦長席の隣で指示を出していた。もちろん艦長であるメイビスの代理だった。


「了解!!第一小隊カタパルトへ」

  

 艦橋にピンと緊張感が漂う中、アルトリアの指示を受けた管制官がコンソールを操作する。今日のバラセラバル近海は、ブラックホールになりそうな恒星もないし、隕石が接近している情報もない。最も普段から危険の少ない凪いだ宙域ではあったが、艦載機の発着艦作業は慎重を要する。

 特に、初出撃ともなればなおさらで、艦全体に緊張の糸が張り巡らされていた。


「『羽風』、下げ舵十度。進路上より退避完了しました」


 『海鷹』の前方を航行していた『羽風』が上部甲板のブースターを点火して、下方へと進路を変更する。

それを合図にして、二基ある電磁カタパルトへ待機していた濃い緑色の機体―――ほとんど黒色に近い緑を基本色として、胴体の側面に白いラインが三本入っている『零式艦上戦闘機21型』が二機引き出されていく。

 燃費の悪い燃焼エンジンの炎がノズルからチラチラと揺れるなか、シャトルに前脚が接続される。

 ノズルの後方に甲板の一部、ブラスト・ディフレクターが跳ね上がり展開された。そして、艦橋の真下に作られた管制室から合図が送られる。超電磁砲と同じ原理で加速するカタパルトから、文字通り弾丸のように急激な加速しながら、甲板滑走路を駆け抜けて発艦していく。


 宇宙空間へ放り出された『零式艦上戦闘機21型』は、エンジンノズルからゴーと盛大に炎を噴き上げて僚機と編隊を組んでいく。


「続いて、攻撃隊発艦開始」


 甲板上から、最後の戦闘機が白煙を伴いながら飛び立っていく。すると今度は、前後のエレベーターから、胴体の下部に巨大なミサイルを搭載した紺色の機体が現れた。

 こちらも、『零式艦上戦闘機21型』と同様に燃焼エンジンを搭載した機体『97式艦上攻撃機』だった。『海鷹』の周囲を警戒する戦闘機隊に守られながら、攻撃機も追い立てられるようにして飛び立っていく。

 

「うーん。五分二十二秒」


 全機が発艦するのを確認すると、アルトリアは右手に持ったストップウォッチのボタンを押した。それが訓練終了の合図だった。

 タイムを見て、思わず微妙な顔をする。副長が後ろを振り向き、アルトリアの顔色をうかがっていた。


「正直、もう少し短縮できるといいです。できれば、四分、いや三分を目指してください」

「了解しました」


 航空母艦にとって、艦載機をいかに早く展開させされるかは、そのまま生存率へと直結する。

 歴戦の大手クランの空母では、百機近い艦載機の発艦を四分以内に終わらせることができるといわれている。ならばおよそ半数以下の艦載機しか持たない『海鷹』としては、三分ほどで展開できるのが理想的だろう。


 とはいえ、初の発艦訓練なので、それを考えれば上場なのかもしれない。


「では、航空隊はそのまま、ポイントAまで行ってください。対艦攻撃の訓練へ移ります。航空隊は、『海鷹』と『羽風』を敵艦とし攻撃を行ってください」

「あのアルトリア隊長。さすがに護衛空母と駆逐艦一隻に対して、二十四機ではこちらに勝ち目はないと思われるのですが」


 恐る恐るといった感じで進言してくる副長に、アルトリアは平然とした態度で答えた。


「なら、もし航空隊がいなかった場合どうしますか?おとなしく撃沈されますか?」

「いえ、そういうわけでは。しかし、『海鷹』の本来の運用は護衛。艦載機が全くいない状態での戦闘は考慮されていません」


 それを聞いたアルトリアはヤレヤレと首を振った。そして、キッと銀色の瞳で副長へ視線を投げる。


「副長。あなたは勘違いしています。どのような役割を担うのであれ、空母は空母です。その目的は、艦載機の運用。そして、空母同士の戦闘では先手必勝が基本です。ならば、敵を撃滅する機会を逃すことなく全戦力を投入する場合だって考えられます」


 とあるトッププレーヤーの言葉にこんなものがある。 

 戦場では、常に最悪の状況を想定して行動するべきである。


 実際に、一度艦載機をすべて攻撃に回さなければならないという状況に、アルトリアは遭遇したことがあった。その時は、空母に損害が出るのは覚悟の上だった。それに、波状攻撃を受けた場合、損傷や撃墜で稼働機がないことだったあり得る。アルトリアが今回準備した直援機なしでの戦闘訓練は最悪の状況を考えてのことだった。


 とはいえ、さすがに護衛が一機もいないというのも訓練にならないかもしれない。

 不満を感じている副長のことも考えて、アルトリアは航空隊を一つ戻すことにする。


「わかりました。初めての訓練なので第一小隊の四機だけ戻しましょう」

「了解です」

 

 ◇


 第一小隊の四機が『海鷹』のポイントまで帰還すると、アルトリアは航空隊へ攻撃を命じた。

 直援機の『零式艦上戦闘機』が、散開して周囲の警戒に当たる。

 広い宇宙空間では、三次元での戦闘が行われる。しかも、武装がレーザーであった場合、大気による減衰がないため地上で運用する兵器に比べて長大な射的距離を持っている。

 そのため、いかに早く敵を発見するかがとても重要である。


「『羽風』の任務は、『海鷹』に群がる航空機を一機でも多く撃墜することです。わかっていますよね」

<ヒャッハー!!わかってますぜ!!>


 通信のモニター越しに移る世紀末モヒカンの言葉に、一抹の不安を抱きながらもアルトリアは、追加の指示を出さないことにした。こちらも、『海鷹』同様、防空駆逐艦としては初めての訓練だ。実力を確認する意味ではいい機会だろう。ちなみに彼らジョブは、海賊のままであるため、刺々しい世紀末仕様の制服は何ら変わっていない。

 アルトリアは、そのまま指揮を副長へ委任した。


「機関、第一戦速!!対空砲、高角砲全門、周辺警戒を減とせよ!!」


 副長の意外と板についている指令のもとに、艦すべてが同時に動き出す。

 側面上部に取り付けられた12.7㎝連装高角砲と25㎜三連装機銃がまだ見ぬ敵影を求めて、銃身を動かす。


「レーダーに反応!!敵機直上!!距離およそ五万!!」


 まだ、肉眼では見えない距離、ズームされた画面にキラリと光が映る。おそらく『零式艦上戦闘機』の主翼が、太陽光を反射したのだろう。まだ、新品状態の機体には、対レーザーコーティングもなければ、通常の宇宙迷彩も施されていない。

 そのせいで、ステルス性も低く、容易にレーダーで位置が特定されてしまった。

 早めに機体の調整を行うべきだなと思いながら、とりあえずアルトリアは頭の中に置いておくことにする。


「各砲門開け!!」


 敵機の方向と距離を確認した副長が指示を下していく。


 まずは、防空駆逐艦である『羽風』の機関銃が火を噴いた。強化されたプラズマ動力炉から排出される莫大なエネルギーによる青白いレーザーと別軸でつけられた実弾の二重射撃だ。最も模擬弾であるため害はない。当たれば自動判定システムによって最低限の機能を除いてシャットダウンさせられるだけだ。


「下げ舵三十度!!『羽風』の下へ!!」


 副長が『海鷹』を『羽風』の下へと移動する指示を出す。

 空母の弱点は、間違いなく甲板だ。特に全甲板の『海鷹』は、甲板上に武装を置くことができない。そのため必ず死角ができてしまう。

 一応の対策として、船体側面に連装の防空ミサイルを搭載しているが、実弾よりも速度が遅いミサイルなどレーザー搭載機に比べるなどバカらしい。

 しかも、射程距離も短いため、迎撃する前に接近を許してしまう。本当に一応の気休め程度にしかならない。


 そのため直上から来襲する敵機に対して、防空能力に長けた『羽風』の直下へと潜りこませたのだ。


 一方、攻撃隊は下手な密集体系をとるのではなく、適度に分散している。途中で『97式艦上攻撃機』が搭載されたミサイルを発射した。

 船体のギリギリの所でミサイルは迎撃されたものの安心はできなかった。ミサイルの中には、大量のスモーク詰め込まれていた、しかも、レーダーを乱反射させる物質も含まれており射撃を困難にさせようとしていた。

 火力の少ない『海鷹』に対してはいい作戦ではあったが詰めが甘かった。

 『羽風』レーダーが機能している時点で、目をくらましところでなんの問題もない。データリンクによって情報が常時更新される。

 案の定、『海鷹』の12.7㎝連装高角砲のイオンレーザーが、スモークを突き破り『零式艦上戦闘機』の一機を貫いた。右の主翼に、損傷の判定を受けた『零式艦上戦闘機』は、スピンをするように戦場から離脱していく。


「よしいける!!」


 一機撃墜判定で自信をつけたのだろう、副長が右のこぶしを強く握りこむ。

 さらに『羽風』の無線から、わけのわからない叫び声があふれ出すと搭載されている12㎝30連装噴進砲が大量のロケット弾を発射した。


 以前ゾレグラ艦隊と戦闘した時は、間に合わせで搭載しただけだった。そのため墳進砲は船体へ固定したあと上を偽装装甲で覆っただけだった。しかし、今回は防空駆逐艦への改装と同時に、船体を除いたほぼ全方位へとむけられるように銃座とともに搭載していた。

 そのため、搭載基数を減らして側面五基の合計十基になっていた。


 とはいえ、威力は抜群で白い尾を引いたロケットは、迫りくる戦闘機隊を瞬く間に蹂躙していく。ちなみに今回は特殊弾頭ではなく、通常の炸薬弾頭という設定だ。

 

「おぉー。すごい」


 下から見上げるとまるで入道雲のようにロケットが広がっていくのが見て取れた。

 発射速度と弾数とコストだけ見れば、優秀な兵器だ。

しかし、今回はうまく迎撃に使えたが、熱感知というのは基本的に敵味方を問わない。実際、戦闘機隊が壊滅した後ロケットは進行方向で最も大きな熱源―――つまり太陽へ向かって加速していた。このあたりの精度が悪いのは、メリットを完全に打ち消しえるデメリットだった。

 太陽へ向かっていったロケットに関しては、途中で一定距離を進むと自動で爆発するようにセットされている。そのまま進んでほかの船に当たることが無いように配慮する飛鳥があった。

 

「航空隊全機、撃墜を確認しました」

「わかりました。お疲れ様です。航空隊の撃墜モードを解除。すぐに帰投してください」


 少し興奮気味の副長から報告を受ける。その様子をみて、ほのかに笑いながらアルトリアは航空隊に帰ってくるように指示を出す。なにはともあれ、事故もなく無事終わってよかったと思いながら、今度は航空機への訓練をどうするか考える。


 一番の敗因は、機体の改修が終わっていないためだった。しかし、それと同じぐらいに練度の低さが目立つ。なぜ、防空駆逐艦がいることを知りながら、律儀に突っ込んでくるのか。

 星系戦までに行うことが山積みだ。しかし、NPCの育成もこのゲームの楽しみの一つである。アルトリアは周囲に気が付かれないように微笑んだ。


「レ、レーダーに感あり!!何かがこの宙域にタッチダウンしようとしています」


 そのとき、レーダーを見ていた管制官が、計器から目を離すことなく叫んだ。予想外のことに、管制官の彼女の顔には焦りの表情が見て取れた。


「識別を急げ!!」

「は、はい!!」

「いや、副長さんそれは無理ですよ。データーベースの更新してませんから」


 条件反射のように副長が命じるが、アルトリアは識別ができないとそれを否定した。なぜなら、『海鷹』は軍属となってまだ日が浅いため、システムの構築ができていないのだ。特に識別データは、以前の『あるぜんちな丸』の時から更新していない。


「ひとまず、バラセラバルの宇宙運輸事務局に問い合わせてください。まさか、バラセラバルのおひざ元で戦闘をしようなんてバカはいないと思いますから」

「了解です」


 とはいえ、こちらはちゃんとフライトプランを提出してこの宙域で訓練をおこなっている。どちらかといえば、非があるのはいきなりここにタッチダウンしてきた方だ。

 アルトリアは、艦長席の背もたれを軽く手で引っ張ると、フワフワと漂うにレーダーを管制官の後ろに行く。

 彼女の後ろからレーダーのぞき込むと、ほとんど真横といっても良いくらいの場所に反応がある。熱源の大きさからおそらく戦闘機クラスだ。


「望遠でますか?」

「はい」


 大きな画面に表示されたのは、案の定一機の戦闘機だった。正確に言うと亜空間跳躍機で、機首の前方に機体の倍はあろうかという巨大な楕円形の亜空間跳躍機関(フロート)―――通称下駄―――が目につく。何やら胴体に迷彩(ペイント)されているようだが、遠いため画像がまだ粗く詳しい確認はできない。


「機体の識別できました!!『二式亜空間戦闘機』です!!」

「二空戦か。……味方かな。―――警戒態勢解除しても大丈夫です。たぶん」 

 

 しばらくすると、望遠でもはっきりとした姿がわかるようになった。

『二式亜空間戦闘機』。名称的に亜空間での戦闘が可能かと思われがちだ。しかし、巨大な楕円形の亜空間跳躍機関(フロート)に収められているのは、亜空間航行のためのレーダー等機材を追加装備した複座の『零式艦上戦闘機』であるため、通常空間での運用しかできない。

 亜空間跳躍ができるという利点のため『零式艦上戦闘機』よりも、最高出力は落ちているが、それでも高い格闘能力を持っている。いい機体だった。


 その『二式亜空間戦闘機』だが、タッチダウンしてきた機体はかなり手が入っていた。まず普通下駄のせいで崩れるバランス調整たため、スラスターが追加されるのだがこの機体には見られなかった。おそらく、パイロットが変に操縦感覚が狂うことを嫌ったためだろう。同じ理由だろうか着陸用の補助翼も取っ払われていた。それだけで、かなり変わった人物だ。


 さらに、際立っているのが後部の追加のブースターだ。下駄で推進力は十分のはずなのだが、この『二式亜空間戦闘機』はブースターを四基、さらにボールペンのように細長い円柱状の落下型増槽(ドロップタンク)が二基を側面に設置していた。

 下駄(フロート)がCFT(密着型増槽コンフォーマル・フューエル・タンク)としての役割もするのに、さらに落下型増槽が必要となると考えるといったい何時間飛んできたのか。およそ艦船で移動する距離をたった一人で操縦してきたことになる。

 これはもう、かなり頭がおかしい。

 

 極め付けは、『零式艦上戦闘機』のボディだった。中心部に収められている機体の胴体には、バラセラバル所属を示す識別マークが描かれている。それは、まだ理解できる範囲ではあったが、まるで被弾でもしているかのように真っ赤に燃え盛る炎の迷彩が機首から胴体半ばまで描かれているのは理解できなった。

 これはもう、変質者レベルだ。こんな自己主張の激しい迷彩をしていたら、宇宙空間では丸見えだろう。しかも、対実弾性能も対レーザー性能も皆無なのだから、クレジットの無駄としか思えない。


 だが、その迷彩がある故、誰の機体かというのが分かった。


「なんだ……。レッドリーダーじゃん」


 思わずアルトリアは、ボソっとつぶやいた。


 ◇


「よぉ!!アルトリア!!久しぶりだな!!」


 『二式亜空間戦闘機』が甲板に細い着陸脚を開きながら着艦してから、しばらくして艦橋に紫色の髪の毛を角刈りにし細身パイロットスーツに身を包んだ男が訪れた。右手には、しっかりと炎が描かれたヘルメットを持っていた。


「久しぶりです。レッドリーダー。何か用ですか?」

「おいおい。つれねぇじゃねぇか。こちとら折角祝いにきてやったってのに」

「お祝い?」


 レッドリーダーの物言いに、アルトリアが首をかしげる。


「そうさ、念願の空母を手に入れたって聞いたからな」

「誰ですか。その情報を流したの」

「んなもん、バラセラバルにいる奴なら大体知ってるぜ。まぁ。情報源は【修理屋】だがな」


 別にアルトリアは、空母がほしかったわけではないのだが。と思いながらも好き勝手に言うレッドリーダーに聞く。


「それにしても、なんで『二式亜空間戦闘機』なんて乗ってるんですか?あれ、イエローリーダーの機体でしょ?しかも、勝手に迷彩変えて。怒られますよ」


 レッドリーダー率いるクラン【Collars】は五人のメンバーからなる。それぞれが、得意分野があり、偵察機や亜空間跳躍機は黄色の名を関するイエローリーダーの分野で、レッドリーダーは、機体を保有していなかったはずだ。つまりレッドリーダーが乗ってきた『二式亜空間戦闘機』は彼の機体を勝手に持ち出してきたということだ。


「いや、足が一番長いのがあれだっただけでな。別に緑から『C-47スカイレイン』を借りてきてもよかったんだがよ。今忙しくてな」

「あれ?グリーンリーダーお忙しいんですか?」


 【Collars】の輸送機担当のメンバーは、のんびりしたタイプの人でせかせかと急ぐようなことを嫌う傾向にあった。ゲームは自分のペースでのんびりと、が彼の口癖だったはずだ。


「こないだのアップデートで地上機と輸送機に大きな変更があってな。新兵訓練の受講者が多くなってるわけさ」

「へぇ。変更点ってなんですか?」

「お、気になるか?」

「えぇ。……まぁ」


 そんな情報は初耳だ。ここ最近インターネットでの情報収集がおろそかになっていたからだろう。なんたって、メイビスと一緒にソラハシャをやり始めてから、イベントに当たる回数が格段に跳ね上がっているのだから。

 ニヤリと口角をあげて笑うレッドリーダーの顔をまっすぐに見ながら、アルトリアは先を促した。


「今まで階級が上がりにくかった輸送機の補正が入ったんだ。ついでに輸送機と輸送船の有償荷重(ペイロード)も上がった。それから地上機の機種がさらに増えて、汎用性の高い機体が増えた。特に『一式戦闘機 隼』の三型と『二式単座戦闘機 鍾馗』が出てきたのは大きいよな。あれ宇宙運用がメインの『紫電』に比べたら両用で使えるから、人気出るわな」


 なるほど、新しい機体の実装で新兵がそちらに流れたのか。

 納得したアルトリアに、今度はレッドリーダーが言った。


「しかし、空母って割にはなんか小さいな。この船」

「それは、まぁ。あくまで護衛空母ですから」

「なるほどね。おっと。そうだ。土産を忘れてたぜ」


 唐突に思い出したのかレッドリーダーは、こちらの話に聞き耳を立てていた副長に向かって、小さな黒色のメモリーをグローブを付けた指ではじくようにして放り投げた。

 いきなり飛んできた小さな物体を、副長が慌てて両手を使い挟み込むようにつかむ。

 彼は、目で副長に開くように示す。


「これは?」


 画面に映し出されたのは、座標と時間。及び一枚のレポートだった。


「ゾレグラ宇宙軍第三艦隊第六師団の分艦隊だ。編成は輸送艦五十七。駆逐艦十八。軽巡四。重巡一。ゾレグラの保有する資源衛星から工業惑星である赤の星への臨時急行便だ」

「これは、おいしいですね」


 レポートを見た瞬間思わず、アルトリアは、ニタリとほほが緩むのを抑えられなかった。同じように隣に立つレッドリーダーもなかなか凶悪な顔をしながら笑っていた。

 彼の言うお土産の意味をアルトリアは、正しく理解した。これほどおいしい獲物は久しぶりだろう。特に輸送艦はアップデートで旨みが増している。しかし、一つ問題があった。


「でも、これを襲うにはうちの船だけじゃ足りないですけど?」


 いくら非武装の輸送艦が主だといっても八十隻近い艦隊を『海鷹』の戦力で、攻撃するのはいささか無理があった。最低でも現在の艦載機の三倍はほしいところだ。

 アルトリアの言いたいことを心得ているとばかりにレッドリーダーは話を続ける。


「安心しろ。実際言うと俺も新兵訓練の真っ最中なんだ。で、うちのひよっこどもの卒業にちょうどいい獲物を探していたわけだ」

「それで、見つけたのがゾレグラの輸送艦隊」

「あぁ。しかし、残念ながらうちには戦闘機はあっても空母がいねぇ。亜空間戦闘機で無理やりってわけにもいかない」


 つまり、艦隊を攻撃するのに足がかりがほしいというわけだ。しかも、ボルシチと異なり、あちらは攻撃が大手を振ってできる惑星軌道から離れた場所を航行中だ。別にどこからも文句は言われない。あの騒動のお返しをするのも悪くないだろう。


「なるほど。それで『海鷹』に来たわけですね」

「理解が早くて助かるぜ。俺の言いたいことはわかるよな?」

「わかりました。『海鷹』と『羽風』を貸します」

「よっしゃ!!交渉成立だな」


 そういうと二人は固く握手を交わした。




今年一年ありがとうございました。

皆さまも良いお年をお迎え下さい。

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