閑話 戦闘記録 ファイル№1
イメージとしては、エースになってコンバットするゲームのゼロのインタビューです。
星系戦戦闘記録 ファイル№1
決戦のため自ら汚名を着た男。
元ゾレグラ宇宙軍第一防衛艦隊第四十五独立機動師団 艦隊司令ボルシチ。
ゾレグラ最大の戦闘集団、【赤の指導者】の右腕と呼ばれる彼は、その緻密な作戦によって数多の敵を屠ってきた。
第五次ゾレグラ星系戦の戦闘が終了した現在、彼は損傷した艦隊を修理するために、ファリスにある有名料理店で現地の言葉を勉強しながら働いている。
◇
「この地を初めて訪れたのは、宙域封鎖作戦の時だった」
白黒のウエイター姿の大柄な男が、私の目の前に腰かけた。つるりと禿げ上がった頭に電光が反射する。今回のインタビューをするにあたり、わざわざ忙しい時間を空けてくれた。
彼は、淡々と心の内を語る。
「艦隊の目的は、ファリスにある工廠を閉鎖させることだった。むろん非戦闘員も多い、コロニーへの攻撃は、ご法度だ。周囲からバッシングされることもわかっていた。それでも、私には、やるしか他に手立てはなかった」
具体的には何を?とういう私の質問に、彼はその当時のデーターをウィンドウに表示させて、見せてくれた。
「基本的には、スパイを使っての情報収集から欺瞞情報の流布が主だ。まぁ、最終的には、バラセラバル主力の戦力を削るために、『三大国』に燻る敵愾心を煽り、戦争状態まで起こすことになったが。……実際それだけでも、十分な戦果はあった。敵の主力同士を戦わせたんだ。損害は甚大なだったはずだ」
そういうと、彼は私に断って、自分の目の前の皿にスプーンを付けた。平皿に注がれているのは、真っ赤な色をしたスープだった。上には、白いクリームのようなものが乗っている、
「うん。上手い。やはり、ボルシチはこれでなければ」
彼は、満足げにうなずいた。きれいに口ひげをそり上げた口角がニッと上に上がる。
「こちらに来て思ったが、日本の人間は大きな勘違いをしている」
それが、何かわかるか?という彼の問いに、私はわからないと首を振った。
「彼ら、いやそれ以外の国の人間もそうかもしれないが、ボルシチをただのトマトスープと勘違いしている。以前、友人から日本のインスタントのボルシチを飲ませてもらったが、あれはただのトマトスープだ。いや、味はうまかったのだが。―――この独特な赤色はビーツという野菜から出る色で、これが入っていなければ、とてもボルシチとは言えない。分かりやすく言ってしまえば、ビーツのないボルシチは、味噌の入っていない味噌スープと同じものだ」
そう、力説した彼は、いくらか落ち着きをとりもどした。情熱的である意味暑苦しく話をした恥ずかしさを隠すように、グラスに入った水に口をつけた。
勢いよく飲みほすと、彼は再び話を始めた。
「……すまない。自分の好物のことになると口が止まらなくなってな。―――ひとまず、私は周囲の反対を押し切り、【赤の指導者】を脱退し、協力するという有志とともに艦隊を編成してファリスへと向かった。まぁ、あとは、宙域を実効支配するだけだったからな。本来であれば、一瞬で片が付くはずだった」
しかし、そうはならなかった。そう私は相槌を打った。
彼は、重々しくうなずくと話をつづけた。
「……。その通り。亜空間航行直後に、多数の艦船を見たときはさすがに焦ったものだ。まさか、こんな所に艦隊が!?とな」
彼の目の前に現れたのは、【アルテミス】の艦隊ではなく、ファリスで指名手配されていた人物を追いかけてきた【警察】の巡視艇だった。
「私は、すぐに、前方の船団に進路を明け渡すように勧告した。非武装に近い巡視船ならすぐに退くだろうと思ったのだ。―――しかし、私には大きな誤算があった。それは、意外と早く戦争状態が終わってしまったこと。そして巡視船に追いかけられていたのが、あのお嬢さんの船だったこと」
そう言うと、彼は左手に持っていたスプーンをテーブルの上に置いて、口をナプキンで拭う。そして、胸の空気をすべて吐き出しそうなほど深いため息をついた。
「勧告には、従わなかった。彼女と警官たちが、私の艦隊へと向かってきた。……。勇敢だったよ。巡視船の武装ではこちらに傷一つ追わせられない。彼女の駆逐艦だって損傷していた。しかも、後から聞いた話では、彼女は戦闘機乗りだと言うじゃないか。そうであるのに、一歩も足を止めない」
彼は、テーブルへとやってきた同僚へ皿を返し、ぎこちない言葉でアリガトウゴザイマスとお礼を言った。
そして、私のほうを見て一言ずつゆっくりと言葉を紡いでいった。
「私は、彼女と警官たちの勇気に負けた。……いや、実にすがすがしいものだったよ。最後は【アルテミス】の艦隊にあっという間に打ち負かされて終わった。これを何と言うんだったか、……あー、イン、インガ、そう。インガオウホウ」
そういう彼の顔には、ほろ苦い笑みが浮かんでいた。
「策を張り巡らし、圧倒的な戦力を持ち出し、絶対的な優位にあったのになんとも情けない話だ。―――さて、すまない。インタビューもここまでだ。もうそろそろ休憩が終わるのでね」
肩を軽く竦めた彼は、壁に掛けられたクラシカルな時計を見て、腰を上げた。
席を立ちあがった彼に向って、私は最後に一つだけといってある問いかけをした。
「なんだ?後悔?―――そんなものはしていないさ。なぜかって?それは、私のもとには馬鹿な仲間たちが残ってくれたからだ。……普通であれば、落ち目の人物は見捨てるものだろう?なのに、まだについてくる。あぁ。本当に嬉かった。おい、今のは消してくれよ?」
彼は、口角をクイッとあげるとそう告げた。そして、そのまま日常生活に戻っていった。その姿は、悲壮感が漂うものではなく、やる気に満ち溢れた立派な物だった。
◇
この後、彼は無事艦隊を再編、ゾレグラへ帰還することになる。
そして【赤の指導者】のマスターによって、再び部隊へと復帰した彼は、さらなる信頼とともにその敏腕をふるっている。




