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第25話 三大国会議 前編

また、新キャラ登場です。

 バラセラバル外宇宙交易ステーション『サジタリウスⅡ』

 日本サーバーの新兵(ルーキー)が初めて訪れる宇宙ステーションであり、ゲーム内でも最大の規模を誇る交易港でもある。

 そんなバラセラバル星系で最も重要な拠点である『サジタリウスⅡ』の港には、各星系から多くの貿易船が訪れるが、今日は奇妙な船が入港した。


 ゆっくりとした速度で港内に侵入してきた船は、船首から船尾まで完全にフラットな飛行甲板が特徴的な小型の航空母艦だった。

 遠目から艦名を調べた多くのプレーヤーはその見慣れない艦名に首を傾げた。

 

 護衛空母『海鷹かいよう』。

 商船改造空母であり、軽空母とは異なる目的で製造された船という、説明文が表示されたからだ。


 しかし、たとえそれがバラセラバル初実装の護衛空母だったとしても、世界中の船が訪れる『サジタリウスⅡ』では、珍しいことではない。

 実際、停船した『海鷹』の隣には、護衛空母よりもレア度と重要度の高い給糧艦『間宮(まみや)』が停泊していた。


 しかし、それでも周囲の視線は『海鷹』に注がれたままだった。なぜなら、本来の発着艦をする航空機が所狭しと並ぶはずの甲板には、小型とはいえ全長五十メートルを超える防衛艦が鎮座していたのだ。


 何事かと周辺で作業していたNPCやプレーヤーたちが見守る中、『海鷹』が接舷すると同時に、中から三人の十代ぐらいの少女が飛び出してきた。


 最初に飛び出してきたのは、明るいオレンジ色のふわふわとした髪の少女で、チェックのミニスカートとデフォルメされた猫のマークが入ったジャケット身に着けていた。

 三人の中では一番年上に見える少女は、タラップを勢いよく駆け降りていく。


 次に降りてきたのは、長い銀色の髪を粗雑に下のほうで縛った、気の強そうな瞳とスレンダーな体が特徴的な少女だった。彼女は、前を行く猫耳の少女に向かって何かを叫ぶと、後ろ手に赤い髪を三つ編みにした少女を引っ張っていく。


 最後に引っ張られて現れた少女は、三人の中で最も小柄で、愛らしい童顔の少女だった。だが、顔には不釣り合いなダイナマイトボディをしておる、特に豊満な胸部は走るたびに上下に揺れ動く。

 案の定、周辺にいた男たちの目線は、彼女の胸部にくぎ付けとなった。


 しかし、三人は周囲に気を配る余裕もないのか、立ち止まることもなく、バラセラバルの第一都市へ向かうシャトルの発着場がある管理区画へと走っていった。


「はい。今確認しました」


 その姿を、物陰から見ていた男が耳につけたインカムに向かって静かに報告した。


 ◇


「あちゃー。こりゃ間に合わないかもニャー」

 

 バラセラバル本星に発射するギリギリのところで、シャトルに乗り込んだ二人に向かってミーシャがえへへと笑って言った。

 サバ缶と約束した三時までに目的地にたどり着くことは難しいと判断したのだろう。


「―――とりあえず、二人とも席に座らないかニャ?」

「そうですね。……おーい。メイビス息してる?」

「ちょ、ちょっと、待ってアルちゃん……」


 二人が、涼しい顔をして話をしている間、メイビスは、乱れに乱れた息を整えることで精一杯だった。

ここまで肉体的に追い詰められたのはこのゲームの中では初めての経験だったが、予想以上に自分の(アバター)が動かなくて驚いていた。


「そういえばメイビスちゃんって、まだ始めたばっかりだったね。ごめん忘れてたニャ」


 両手を顔の前で合わせて謝るミーシャに、メイビスは何とか微笑みを浮かべた。

 そして、座席にへたり込むように乱暴に腰を下ろすとボックス席の向かいに腰かけたミーシャが、ウィンドウから取り出したパックのミネラルウォーター差し出してくる。

 

 メイビスは、お礼を言うとそのまま一気に飲み干した。枯れ果てた体に冷たい水が染み渡る。

 

 ふう、と一息をつくと隣で同じようにミネラルウォーターを受け取って飲んでいたアルトリアに質問を投げかけた。


「……なんで、二人は平気なの?」

「ん?……あぁ。これね、実はゲーム内の補正がかかってるの」


 そういって、アルトリアは空になったパックをクシャッと潰すと説明を始めた。


「ソラハシャのアバターは、他のゲームでいう所のレベルには依存しないの。これは、メイビスも知っているよね?」

「うん。ほかのゲームだと経験値でスキルとかステータスが変化するんでしょ?」


 最もVRMMOどころか、ゲーム自体がほとんど初めてであるメイビスにとっては、ほかのゲームがどうのこうのと言われてても今一イメージしにくい。


「そう。でも、このプレーヤーのアバターって結構個性豊かでしょう?」


 アルトリアの言葉に、メイビスは、ボックス席で会話をする三人を興味深そうに見ている周囲の男性プレーヤーたちを見比べてみる。

 確かに、シャトルのシートに腰かけている人達は、人種をはじめ多種多様だった。

 

 例えば、メイビスの視線に気が付いて、慌てて新聞で顔を隠すスーツ姿のサラリーマンやなぜだか、いい笑顔でサムズアップしている目鼻立ちの整ったハリウッドスターのような男性。

 はたまた、両手に持ち上げたハンバーガーに大口を開けてかぶり付き、幸せそうに噛みしめている大柄な力士のような男性もいる。


「ソラハシャだと、経験値の代りにプレーヤーがアバターとして蓄積した熟練と時間によって能力と体格が変化するの。この熟練っていうのは、数値では推し量ることのできない、その人の本当の意味での経験、まぁ個人が持つ技術力ってところかな」

「つまり、簡単に言うとニャ。―――重い武器を担いで動き回るプレーヤーや生産をするプレーヤーは、体力、筋力両方ともに強くなって、アバターも筋骨隆々になる。逆に部隊を指揮するプレーヤーや商売をするプレーヤーは、体力、筋力が弱く細身のアバターが多くなるのニャ」


 アルトリアの説明に前からミーシャが補足の説明を入れる。


「そうは言っても、これもゲームだから、戦闘時間が十時間も経過すれば、筋力はある程度つくよ。そのための新兵訓練(ブートキャンプ)だし。それに戦闘以外でもフィールド内での運動量も加算されるから、すぐに動けるようになると思う――――あ、あとさっき言ったアバターの見た目に関しては、オプションでオンオフができるから」

「そうニャ!!すぐに、オフにするニャ!!メイビスちゃんもゴリマッチョとかはなりたくないでしょ?」

「え……あ、はい」


 別に筋肉が嫌いなわけではないので、いいかなと思っていたのだが、二人の気迫に促されるまま、メイビスはアバターの筋力反映機能をオフにした。


<ただいまより、当機は大気圏へと突入します。機内が揺れますのでご注意ください>


 話がひと段落したころでシャトルが、アナウンスとともにゆっくりと降下を始めた。二度目の地上に、メイビスがドキドキしながら外をのぞき込む。

 しかし、すぐに急に小刻みな振動とともに窓が外から蓋がされてしまった。

 その様子を、見ていたミーシャが微笑みながらこう言った。


「あー、ちょうど今大気圏の中ニャ、すぐに通過するとは思うけど、しばらく景色はお預けニャ。それよりも、メイビスちゃん。ちょっと聞きたいことがあるのニャ」

「なんですか?」

「メイビスちゃん、さっきミーシャの船とあった時、コンテナに何か細工をしていたと思うのだけど。あれってどうしてやろうと思ったのニャ?」

「だってミーシャさんのお船って、たくさんのアンテナが付いていたじゃないですか。だから電子妨害がきくかなーと思って、昔従妹のお兄ちゃんが見ていたアニメでそう言うのがあったので」


 キョトンとした表情を浮かべるメイビスに、ミーシャが腕を組んで感心したようにうなずいた。


「なるほどニャ。確かにミーシャの船は、電子妨害用のアンテナを多く取り付けているニャ。見事にメイビスちゃんの罠にはまったわけニャ。で、もう一つ聞きたいのがコンテナ。……あのコンテナは起爆装置とかの電波が一切探知されなかったニャ。どうやって爆破させたのニャ?」

「近づいてきたものに反応するようになってたんじゃないですか?」


 アルトリアの答えもミーシャは首を横に振って否定した。


「それは、ありえないのニャ。ミーシャの船は電子妨害以外にもレーダーは充実しているのニャ。だから、どんなに小さな装置にだって敏感に反応するようになっているのニャ。間違いなく、あの時は不審な電波や赤外線もなかったし、起爆装置の類もなかったはずニャ」

「だったら、接近を感知する可能性はないですね」


 この二人がそこまで答えにたどり着けないとは、メイビスは意外に思った。なぜなら、メイビスが行った事は、古くから使い尽くされてきた方法だからだ。


「えーっと。二人ともなんか難しく考えているみたいだけど、あれには時計を使ったの」

「時計?つまり時限式?」

「うん。倉庫に眠ってたアナログの時計にちょっと加工してもらって」

「でも、どうやって時間を合わせたのニャ。」

「あぁ、速度は宇宙地図をグリッド線で確認して、ETCじゃなかったEMPの範囲を重ね合わせから、ミーシャさんの船の速度を計算して、時計をセットしてもらいました」


 あの時コンテナにEMP仕掛けるというのは、本当にただの思い付きだった。コンテナを怪しんで速度を落とすか、あるいは回避するかなという程度のことだった。だから爆発したのも、一個目ではなく三つ目の時だった。

 メイビス本人も上手くいって驚いているくらいだ。


「いやー、意外だったニャ。あの短い時間でそこまで考え付くなんて」

「そうですね。この子、頭いいですから」

「いやいや、そう言う問題じゃないのニャ」

<もう間もなく、バラセラバル第一都市に到着いたします。お降りの際はお手回り品にご注意ください>

「おっと。着いたニャ。じゃぁ、また大変だと思うけどまた走るからニャ」


 シャトルが到着したことを告げるアナウンスで、ミーシャが立ち上がる。結局、景色は見損ねたと少し残念に思いながら、メイビスはアルトリアに再び手を取られて走り出した。


 ◇


 シャトルを降りた後、メイビスがミーシャに連れてこられたのは、バラセラバルの第一都市。その中心にそびえたつ全身ガラス張りの巨大なビルだった。

 周囲にある摩天楼も一体何階建てなのか見当もつかないが、ミーシャが入っていくビルは周囲のビルより頭一つ抜き出ていた。

 

「二人ともこっちニャ!!」


 ミーシャがあんなにしたのは、ビルの一階の扉を入った正面にあるポータルだった。

 直径五メートルほどの青白い光が灯っている円形の台座に乗り込むと、一瞬光によって視界が霞み。次にはっきりとした時には、目的地と思わる扉の前に立っていた。

 特殊な金属製の扉の横には、静脈認証用のスキャナーが設置してある。メイビスが見ている前で、ミーシャはそこに右手をかざした。


 すると、扉の中央にアンロックというウィンドウが表示されて、中心から左右にスライドした。

 中に入ってみるとそこは、少し薄暗い広い会議室だった。

 部屋には十人程度が座れる楕円形のテーブルが備え付けらえており、中央には、二つの惑星の地図がホログラムで空中に映し出していた。

 

「いやー。ごめんニャー。ちょっといろいろあって遅れたニャ」

「遅いですよ。三毛猫さん」

 

 悪びれた様子もなく平謝りするミーシャに、部屋にいた二人の先客から声がかけられた。

 一人は、茶髪の中学生ぐらいの見た目をした少年、【アルテミス】のサバ缶だった。先日のドナルド・レーガンの騒動時に話をした事があったため、彼とは一応面識がある。


 メイビスが軽く頭を下げると、サバ缶はにこやかな笑顔で手を振って挨拶を返してきた。


「ミーシャは三毛猫って名前じゃないニャ!!というか、遅れたのにはサバ缶にも責任の一端はあるのニャ!!」

「御託はいいから、早く座れ。時間が押している」


 発音のはっきりとした低音の声のほうを見てみると、この場には似つかわしくない服装―――緑色モスグリーンをベースに様々な色を混ぜ合わせた森林地用迷彩服―――の男がつまらなそうに座っていた。


 男は、四十代ぐらいだろうか。彼の左目につけられた特徴的な眼帯が異様な雰囲気を醸し出していた。どうやら眼帯は小型レンズを搭載しているようで、視線がメイビスに向くとフォーカスを合わせるかのように、ウィーンと小さな音を立てた。


 後ろには、標準体型ではあるが程よく筋肉をつけた兵士が一人、直立不動で待機していた。


「あの人は?」

三大国(トリニティ)の一角、【愛国者パトリオット】のマスターだよ。名前は―――」

まむし。【傭兵】の蝮だ。後ろのやつは、俺の部下だ」


 メイビスは見慣れない男のことを隣にいるアルトリアに小声で聞いてみた。

 すぐに、アルトリアが同じように小声で答えてくれたが、その途中で件の本人が会話に割り込んできた。

 彼は、右手でウィンドウを開きストレージから葉巻(シガー)を取り出して咥えた。すると後ろに控えていた兵士がスッとライターを差し出す。

 蝮は差し出されたライターから火を葉巻をつけ、美味そうに紫煙を吐き出した。


「とりあえず、二人とも座るニャ」

 

 時計のちょうど三時と九時の一番離れた位置に座っている先客を避けるように、メイビスたちは十二時のところの椅子に腰かけた。ちょうどミーシャを中心にメイビスが右に、アルトリアが左にいる配置になった。


「あれ?桔梗(ききょう)ちゃんは?」

「うちのマスターは現実(リアル)が忙しいようでして。今回は僕が話し合いに来ました」

「そうかニャー。まぁ、今回は桔梗ちゃんがいなくても大丈夫ニャー。――――じゃ。いきなりで、メイビスちゃんとアルトリアちゃんには申し訳ないけど、調停会議を始めようかニャ」


 隣のミーシャがそう声をかけた瞬間、場の空気が一気に研ぎ澄まされる。


 先ほどまで、ノホホンと会話をしていた時とは、まったく異なる鋭い目つきのミーシャと、葉巻から紫煙を立ち昇らせている蝮という男。そして、いまだに柔和な笑みを浮かべているサバ缶。

 張り詰めた空気のせいか、あるいは緊張感からか蝮の後ろに兵士がビシッと姿勢を正した。


「まず、今回の【アルテミス】と【愛国者】の戦争についてだけどニャ。双方とも何か言いたいことはあるのかニャ?」


 ミーシャの問いかけに最初に口を開いたのは、サバ缶だった。彼は、メニューを開くとそこから書類一式(アイテム)を表示して、そのままウィンドウを蝮に投げるようにスライドした。


「今回、こちらの不手際で【愛国者(パトリオット)】の方々にご迷惑をかけたこと、本当に申し訳なく思っております。……マスターより、先の戦闘での損害は出来うる限りこちらで賠償させていただきたいとの言伝を預かっております。ですので、ここはどうか矛を収めていただけないでしょうか」


 それを一瞥すると蝮は書類を実体化するとミーシャの机に放り投げた。

 メイビスが、ミーシャの持つ―――見やすいように少し横にずらしてくれた書類を見てみると丁寧な手書きの文字で綴られた謝罪文と損害に対する賠償金の金額が提示されていた。


「うん。確かに桔梗ちゃんの字だニャ。【愛国者】は、これを受理するということでいいのかニャ?」

「いや、俺たちは受け取らない」


 蝮が口に咥えていた葉巻を、ポケットから取り出した携帯灰皿で火を消すとそう言った。


「しかし、それでは」

「今回の戦闘は、ゾレグラの情報工作だったのだろう?別段そのことで俺たちがとやかく言うつもりはない」

「ニャ?蝮は怒ってなのかニャ?確か両陣営とも二千隻近い損害が出たって聞いていたけど」


 左に座っているミーシャが、書類を蝮に返しながら理解できないという表情で首を傾げる。

 一応、メイビスも何が起きたのかアルトリアから聞いている。そのため【アルテミス】から一方的な宣戦布告、攻撃を受けた【愛国者】からしてみれば、寝耳に水な状態だったことも理解している。だからこそ、彼は憤らないことが確かにおかしいと思っていた。


 しかし、ただの人助けだと思っていたのが、いつの間にやら大事になってしまったなぁと思わずメイビスは遠い目をした。

 メイビスが現実を逃避している間にも、話はどんどん進む。


「おいおい。ミーシャ。おまえ何か大きな勘違いをしていないか?俺たちは【傭兵】だ。戦う事でしか己の生き方(プレースタイル)を見いだせない戦闘狂(バトルジャンキー)だ。金も地位も名誉も関係のない戦場こそ俺たちが求める物」


 そこで蝮は、隻眼の瞳に危険な光を灯して、サバ缶に向ける。メイビスは自分に向けられたものではないと分かってはいたが、背筋に薄ら寒いものが流れ落ちた。


「私怨か、策略か、陰謀か。そんなのは関係ない。あるのは相手と己。敵と味方。そんなわかりやすい戦場で、しかも相手は【愛国者うち】と同等の武力(ちから)をもつ【アルテミス】。これを前にして血がたぎらないわけがないだろう。――――逆に感謝してもいいぐらいだ」


 唖然と言った表情のサバ缶を前に、蝮は躊躇いもなく後ろの兵士から受け取ったライターで火をつけた。きれいなオレンジ色で燃え盛った書類(アイテム)は、効力を失い細かなエフェクトとなって消えた。


「だから、こんなものは不要だ。賠償も必要ない。戦いで負った傷はすべて自己責任だ。こちらで何とかする。星系戦も近いんだ。こんなことに無駄な金を使う必要はないだろう。……あぁそうだ。代わりにお前さんとこのマスターに伝えてくれ」


 にやりと右の口角のみを上げ、凶悪な笑みを浮かべた蝮が告げる。


「―――次は完膚なきまでにすり潰してやるとな」


 すると先ほど浮かべていたサバ缶の柔和な顔とは異なる殺気のこもった笑顔になった。


「――――わかりました。マスターに伝えておきます」

「はぁ。何が何やら。まぁ、長い付き合いだから理解するのが無理だというのはわかってたけどニャー。―――とりあえず、両陣営は今回の戦闘で負った損害は自陣営で補う事。賠償云々の話もなし。そんでもって両マスターは、死んだプレーヤーにキチンと説明して、後腐れの無いようにすること。このぐらいでいいのかニャ?」


 ため息をついたミーシャが人差し指で左のこめかみをトントンと叩く。そしてメモ帳に簡単にまとめた文章を作成すると破損しないように電子ファイル化する。


「たぶん、みんな納得しない思うニャー。特に【愛国者パトリオット】のメンバーは」


 自分で作っておきながら一抹の不安を感じるのだろうかミーシャは、チラッと蝮の後ろに控える兵士(プレーヤー)に目を向けた。しかし、目出し帽(バラクラバ)をつけた彼の表情は見えなかった。


 彼女は、肩をすくめるとそのままウィンドウを三つ開き、先ほどの電子ファイルを入力していく。


「これは、二つのクランの専用掲示板ニャ。メイビスちゃんは見るのは初めてかニャ?」

「あ、はい」

「ここの掲示板は、クランに所属しているプレーヤーにしか使えないのニャ。でも、今回は、ミーシャが調停役だから、特別にアクセスコードをもらってるのニャ。……そして、ここに先ほど決めたことを書き込む訳ニャ」


 メイビスが見ている前でミーシャが手早く、アップロードを行う。

 すると、ミーシャの頭につけられた金属の猫耳がカシュカシュと何かを探るように動き始めた。

 え?これって動くんだと驚きながら、本物のように動く猫耳をみていると、横合いから蝮のあきれた声が聞こえてきた。


「そいつの猫耳は高性能なウェアブルコンピューターだ。大方、侵入した掲示板内の情報を漁っているんだろう。抜け目ない奴だ」


 蝮は、そう言いながらも余裕の表情だった。


「ウェアブルコンピューター?」

「スマフォやラップトップとはまた別の、服や腕時計みたいに常に身に着けていられるコンピューターの総称だ。そしてそいつの猫耳は、ネットへのサイバー攻撃を行う端末であり、周囲の索敵を行うレーダーの役割も担う、まさに万能コンピューターなわけだ」

「へぇー」

「ウニャ!!」


 蝮の説明に、感心していると急にミーシャが水を引っ被った猫のように毛を逆立てた。


「おいおい、どうした?まさかウイルスにでもやられたか?」


 心底おかしそうに蝮が声をかける。それには答えず、ミーシャは無言でぎゅっと目をつぶっていたが、先ほど以上の速さで猫耳が動きまくっていた。

 隣のアルトリアを見てみても、彼女の視線もミーシャの猫耳に注目していた。


「チッ!!あとちょっとだったのに……。とりあえず、これでこの話は終わりニャ。役に立てたかどうかは、不安だけどニャー」


 一瞬、左右にいるメイビスとアルトリアにしか聞こえない声で、ミーシャがつぶやく。

 あはは、と思わずメイビスはアルトリアと目を合わせて乾いた声で笑った。


「ありがとうございます。三毛猫」

「あぁ。感謝する」

「貸し一つニャ。あと、サバ缶、三毛猫じゃないニャ。―――それじゃ、次の議題に入るニャ」


 凝ったのか肩をぐるぐると回すミーシャの言葉に蝮がうなずくと、後ろの兵士へと何か指示を出す。

 兵士は、了解と返事をするとそのまま会議室を退室した。




最後までお読みいただきありがとうございます。


今回は会話がメインのお話でしたが、如何でしたでしょうか?


ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。本当に励みになります。拙い文章ですが頑張りますので今後ともよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最近見始めました、SF物だから誤字報告するか微妙だけど一般的にはウェアラブルコンピュータじゃないかな?
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