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第23話 これは改修ですか?いえ、魔改造です。

 一通りの買い物を終えたアルトリアが『ブルー・チューリップ』に戻ると、NPC従業員のリリーと筋肉マッチョなジョディの二人と和気藹々と会話するメイビスの姿があった。


「あ、お帰りアルちゃん!!」

「ただいま。どう?装備は整った?」

「ばっちりだよ!!リリーさんとジョディさんに選んでもらったの」


 そう告げると、メイビスはいつの間に慣れたのだろうか、迷うことなくウィンドウを操作する。今まで着ていた第三銀河帝国の制服がポリゴンになり、次の瞬間には新しい装備へと着替えていた。


 まず目に留まったのは、赤いポニーテールだった。メイビスは、こげ茶色で構成された砂漠迷彩柄のタクティカルキャップを被っており、野球帽に似たキャプの後ろから腰までの長いポニーテールをはやしていた。

 全身のコーディネートも同じ砂漠迷彩を基準にされており、同じ柄のコンバットシャツとホットパンツを着ている。ホットパンツの切れ目から覗く足には、防刃繊維の黒ストッキングを履いており、メイビスが若干見た目重視で選んだことが伺える。

 ただ、これだけでは防御力に不安があったのか、シャツの上にはタクティカルベストを羽織っており、各関節をカバーするサポーターと銃が握りやすいように調整されたフィンガーレスのグローブもきっちりと装備していた。


「えーっと。ちょっとジョディ?」

「あら何かしら?」


 ベストによって窮屈そうな豊満な胸元に、苦しそうだなという感想をつぶやきながら、アルトリアはジョディに耳打ちをした。


「なんで、こんなガチ装備なっちゃったの?別にメイビスは、最前線で戦うわけじゃないのに」

「あら?」


 アルトリアの質問に、怪訝な顔をしてジョディはその太い首を可愛くかしげた。


「メイビスちゃんって、新兵(ルーキー)よね?それだったら星系戦にエントリーする前に新兵訓練(ブートキャンプ)に参加するでしょ?」

「―――あ。そういえば。そうだったっけ」

「ねぇ、新兵訓練ってなに?」


 二人の会話を理解できていないメイビスが頭の上に疑問符を浮かべてた。ジョディは、彼女にわかるようにウィンドウを見せながら説明する。


「メイビスちゃんみたいな、新人さん向けの講習講座のことよ。普通の戦闘と違って、星系戦では団体行動が必要になるから、必要最低限の事を先輩のプレーヤーが教えるの。まぁ言ってみれば非公式のチュートリアルね」

「えっと。来月度星系戦に向けた新兵訓練について?」 


 ウィンドウには、星系戦の開催発表と同時に立ち上げられたいくつものサイトが表示されていた。このサイトすべてが三大国(トリニティ)やその他の大手クランが、それぞれの得意分野を分割して運営している。そのため、担当クランのプレーヤーたちは訓練の準備に追われていることだろう。


「そう。私もすっかり忘れてたんだけど、メイビスはとりあえずこれを受講しないとダメかな。そうしないとほかのプレーヤーに迷惑がかかるだろうから」

「どういう事?」

「ソラハシャのゲーム自体は、どんなプレーヤーでも遊べるようにコンセプトデザインされているから、大概のイベントにはだれでも無条件で参加できるんだけど、一つだけ例外があるの。それが星系戦。―――星系戦は、敵対プレーヤーを殺すことを前提にしたイベントだからね」

「そうよ。星系戦が一度始まると宇宙(そら)を戦闘機や戦艦が飛びかうし、地上では戦車が駆けずり回ってる。銃を撃ちまくりながら、笑顔で手榴弾をほうりこんでくる奴らもいるわ。そんなの、なんの備えもなしに見たらびっくりしちゃうわよねぇ」

「それに、報酬も銃とか戦闘機ばかりで、商人や技術職の人が貰ってもいらない物ばかりだから、参加もしないする必要もない。ちゃんとそういう職業(ジョブ)の人のためのイベントもあるからね」


 戦闘職プレーヤーのためのイベントである星系戦に対して、生産職プレーヤーには、全サーバー共通の世界大会が準備されている。ここでは、全世界のプレーヤー達が、自身が生産した商品(アイテム)や技術力の高さを披露して競い合うのだ。

 報酬は、最終日に行われる投票によって決まり、報酬は機材やドッグ、あるいは工場などが貰えるらしい。

 最も、らしいとハッキリしたことを知らないのは、アルトリアは参加したことがないからだった。アイテムを制作するには、高い技術力と熟練度、そして何よりもプレーヤー個人のセンスが必要だ。そんなもの戦闘機で飛び回る事しか能の無い彼女は持ち合わせていなかった。


「そんなわけで、星系戦で戦う心得を新兵訓練で学ぶわけ。もちろん強制するわけじゃないけど」

「―――え、っていうか、その殺し合いに私も参加するの?」

 

 説明を聞き終えたメイビスが顔を青ざめさせながら言うのに対し、アルトリアは当然のように笑顔でうなずいた。


「当たり前じゃん。メイビスが面倒見なかったら誰が『羽風はかぜ』の艦長するのよ」


 さすがの温厚なメイビスも、告げられた言葉に絶叫をした。


「え、えぇぇぇ!!無理だよ!!私、あんな大きな船動かさないよ!!」

「大丈夫だって。一人で動かすわけじゃないし。NPCもいるし」

「そんなぁ、ひどいよぉ。アルちゃん……」


 『羽風』の世紀末NPCたちに囲まれて、艦長席に座る自分を想像したのだろう。メイビスが肩を落として俯く。


「まぁ。新兵訓練で船の扱い方も教えてくれるよ。大丈夫だって。メイビスってば、頭いいんだし」


 アルトリアの能天気な発言に、メイビスは深いため息をついた。

 結局諦めたメイビスは、折角だからと戦闘服一式とは別に私服のデニムのシャツと黒のプリーツスカート、パンプス購入し、それを着用することにしたらしい。

 アルトリアも、私服のメイビスに合わせてポップな青いチューリップのTシャツと紺のジーパン、そしてスニーカーを購入した。


「じゃ、またね。ジョディ」

「お邪魔しました」

「アルトリアちゃんもメイビスちゃんも、また来てね」


 ジョディに見送られた二人は、当初の予定であった『羽風』が修理されているであろう【修理屋】のドッグに向かうため『ブルー・チューリップ』を後にした。


 

 タクシーを捕まえて三十分ほどで、【修理屋】のドッグへとたどり着いた。

 アルトリアはメイビスを連れて中に入ると、そこでコンソールに向かって作業を行っていたつなぎ姿の作業員(プレーヤー)に声をかけた。

 作業員の目前にある無重力空間の修理ドッグでは『羽風』の修復が行われていた。大量に取り付けられていた武装と破損した装甲は完全に撤去され、骨格と内部の動力炉やエンジンがむき出しになっていた。


「調子はどう?」

「あぁ。ちわっす。アルトリアさん。まぁ、ボチボチって所っすね」


 アルトリア達に気が付いた作業員は笑顔でそう答えながら、コンソールを操作して『羽風』の図面をホログラムに表示させた。

 損傷のあるところが事細かに記載されており、特にひどい部分には、大きな赤文字で注意書きが施されていた。


「武装と外部装甲、レーダー系は悲惨なもんっすよ。まぁでも竜骨(キール)は無傷ですし、動力炉も調整すれば動きますんで、見積もりよりも安く仕上がりそうっす」

「どれくらいで修復可能?」

「あぁ。そういえば星系戦があるって言ってたっすね。全部新品に換装していいのであれば、一日あれば可能っすよ。―――えぇっと。ところでアルトリアさん。ちょいっとご相談あるんすけど」


 ホログラムに表示された『羽風』に書かれた注意書きのいくつかを作業員が指さす。


「こいつを近代化改修するつもりはないっすか?」

「近代化改修?『羽風』を?」

「たしかに『羽風』は老朽艦なんすけど、低レベルの駆逐艦としてはそこそこの優良艦っす。近代化改修を行えばもっと戦えるようになると思うんすよねぇ」


 作業員の提案に、アルトリアは考え込む。

 峯風(みねかぜ)型駆逐艦は、バラセラバル(日本サーバー)で一番最初に手に入る駆逐艦の一種類だ。それゆえに性能は低い。だが後続の駆逐艦に比べて艦内構造が余裕をもって設計されていた。そのため、近代化改修を行えば第一戦級の駆逐艦と同等の性能を引き出すことが可能だとも聞いていた。


「具体的には?」

「そうっすね。まず主砲を前後一基ずつ『吹雪』型に搭載されている12.7cm連装レーザー砲にするっす。それから対空兵装の強化として、機銃も25mm連装機銃四基と6.5㎜単装レーザー機銃十基に換装したいっすね」

「ちょ、ちょっと!!連装レーザー砲や25mm連装機銃って、そんなの搭載できるの?今の動力炉じゃエネルギーがまかなえないでしょ?」


 ホログラムに作業員話す内容が次々反映されていく。そのフォルムは、以前の『羽風』の原型がわからないほど異様な物になりつつあった。

 大人しく聞いていたアルトリアだったが、予想以上の大規模改修だったため、熱を入れて話す作業員の説明を手で一度断ち切った。

 しかしアルトリアの様子には気づいていないのか、作業員は先ほどよりもさらにヒートアップして、まるでマシンガンのように話し出した。


「さすがっす!!おっしゃる通り、『羽風』に搭載されているロ号艦本式プラズマ動力炉四基じゃ、とてもじゃないっすけど、これだけの装備を補えまないっす。なんで、最近実用化されたホ号艦本式プラズマ動力炉三基とリ号艦本式イオン動力炉一基へと変更するっす。そんでもって、メインエンジンを改装型小型プラズマエンジン四基、サブエンジンにイオンエンジン二基を搭載するっす。これによりプラズマ動力炉一基分の余剰エネルギーが生まれるため、それをすべて武装へと回すことが可能っす。まぁ、その分、駆逐艦としての足は29ノットまで落ちちまいますけど」

「ねぇ、アルちゃん。さっきから作業員さんが言ってるホ号とかリ号って何?」


 あまりの作業員のマシンガントークっぷりに隣で聞いていたメイビスが、彼の話の腰を折らないようにこそこそとアルトリアに耳打ちしてくる。つい先日ゲームを始めたばかりのメイビスの頭の中はきっと疑問符であふれていただろう。

 実際、今まで大型艦を持っていいなかったアルトリアも、きちんと理解していると言えば微妙だった。


「ソラハシャの大型艦には、必要最低限の物が三つあるの。一つは乗員。小型艇なら一人でも何とかなるけど大きな船は難しいからね。二つ目が、さっきから話にできている動力炉。これは、艦内のエネルギーをすべて生み出す大元。それから、三つ目が動力炉で生成されたエネルギーを推進力へと変化させるエンジン。これが無いと宇宙に浮かぶ発電機でしかないからね。それで、リ号とかは動力炉の型番みたいなものかな」


 ソラハシャでは、動力炉とエンジンはいくつかの種類へと別れる。それぞれが突出した利点を備えており、また欠点も持ち合わせいる。


 たとえば、現在『羽風』に搭載されているロ号艦本式プラズマ動力炉は、名前の通りプラズマを原動力としてエネルギーを生成する動力炉だ。動力炉には、プラズマの他にイオン動力炉と原子炉がある。


 これらの動力炉は、プラズマ動力炉はプラズマエンジン、イオン動力炉はイオンエンジンなど生み出したエネルギーをそれに準ずるエンジンに供給することで、推進力を生み出す。


 例外として、燃焼エンジンのみ独立した燃料タンクがあり、艦内の電力は原子炉で補うことになる。

 プラズマ動力炉とプラズマエンジンの特徴は、宇宙空間では最も加速力が高く、また最高速度も速い。ただし、加速の際に必要なプラズマ量が多く燃費としてはかなり悪い。


 逆にイオン動力炉とイオンエンジンは、燃費はトップクラスに良いが、推進力としては非力だった。さらに加速まで時間がかかるため、商船などの民間船や大型のタンカーなどに使われる。


 燃焼エンジンは、燃費は最悪。宇宙空間での最高速度もプラズマには遠く及ばず、加速力はイオンエンジンよりいくらかマシといった程度だ。

 しかし、燃焼エンジンには他に無い特徴があった。

 それは大気圏内で唯一飛行が可能なエンジンであること。大気圏内では設定上、他の二つの動力炉とエンジンは本来の出力を発揮することがでない。それ故にほとんどのパイロットが地上攻撃の際には、燃費度外視で燃焼エンジンを載せた地上専用機に乗り換えるし、艦艇のほうも地上に降下できるよう燃焼エンジンのみを搭載した輸送船や揚陸艇を使用する。

 

「今の計画(プラン)は対空防御中心の防空駆逐艦への改装案っす。ほかにも連装魚雷を三連装にする雷装案や、装甲を追加装備して重装甲駆逐艦にする案もあるにはあるっす」


 けどっす、と作業員はホログラムに別の案を表示しながらも、最初から提示している案を指さす。


「最近じゃ、急速に小型機が発達してるっす。今後の宇宙戦闘の事を考えるとやはり速度を犠牲にしてでも対空防御の強化は最優先じゃないかなと思うっす」


 確かに、アルトリア自身も艦上攻撃機に乗り始めてからは、駆逐艦なんて爆撃機や攻撃機のいい的という程度の認識だ。実際、戦艦や重巡洋艦に比べると駆逐艦の損耗率は跳ね上がる。

 なぜならば、いくら速かろうが、戦闘機はそれ以上に速度もでるし、小回りも効く。取柄の快速を発揮できない駆逐艦と言うのはただの標的にしかならない。

 作業員の話に説得されたアルトリアは、計画を了承する旨を伝えようとして、彼の次の言葉で今までの考えが吹き飛ぶ事になった。


「それに、『あるぜんちな丸』も空母へ改装してるそうじゃないっすか」

「はぁッ?ちょっとまって?そんな話、微塵も効いてないんだけど!」

「あ、あれ?親方から聞いてなかったすか?」


 いきなりアルトリアに胸倉をつかまれた作業員が、冷や汗を流す。


「ねぇ。【修理屋】の奴はどこにいるの?」

「お、親方なら第三番埠頭っす!!す、すぐに案内するっす!!」


 アルトリアの剣幕に、哀れな作業員は慌てて作業用のトラックをドッグ前に引っ張り出し、二人を案内することになった。それを何事かと後ろで見守っていたメイビスは、口をはさんではまずいと火の粉を避けるように黙っていた。


 ◇


「ねぇ。これはどういうこと?なんで『あるぜんちな丸』が空母になってんの!?しかも全甲板のやつに!!」


 作業員に連れられて埠頭を訪れたアルトリアは、驚愕の表情だった。目の間に広がる光景が信じられなかった。彼女の視線の先には、優美な曲線で作られていたはずの『あるぜんちな丸』のボディが何もさえぎる物の無い―――それこそ運動会でもできそうなほど―――フラットな全甲板になっていた。


 さらに、船体中央部にあった艦橋はフラットな甲板の前方左側に集約され、艦載機を収納するエレベーターや発進させるカタパルトが追加装備されていた。

 既存の正規空母よりも若干小さいが見まごうことのない空母が存在していた。


 【修理屋】が本当に申し訳なさそうに、アルトリアとメイビスに向かって頭を下げた。

 ちなみに、二人を連れてきた作業員はハラハラした様子で壁の隅っこに立っていた。


「本当にすまん。てっきり了解済みだと思ってな」

「ちょっと落ち着こうよ。アルちゃん」


 今にも拳銃を取り出しそうなアルトリアをメイビスが諭し、急いで【修理屋】に説明をするように促した。


「てっきり了承しているものだと思ってたんだが。こいつは、元から艦種が変更される奴だったんだ。お前もいくつか知ってるだろ?」

「……つまり、これは『出雲丸(いずもまる)』みたいに改装すると軽空母に化ける艦だったわけ?」


 アルトリアの鋭い眼光を全身に受けながら【修理屋】はまいったというように頭をかく。


「そうだ。ちなみに軽空母ではなく護衛空母だそうだ。艦名は『海鷹(かいよう)』」

「護衛空母?聞いたことがないカテゴリね」

うち(バラセラバル)では初だな。ちなみにグレザー星系(アメリカサーバー)では最近結構な数が出ている。―――お前さんが知っているとすれば、『ボーグ』級航空母艦か」

「はぁ!?『ボーグ』?あのネギを背負ったカモの?」

 

 『ボーグ』は、前回のグレザー星系戦で初投入された船だった。

 護衛空母とはいうものの、通常の艦隊運用に差し障るほどの低速であり、小型ゆえに艦載機は正規空母の半数にも満たない二十機足らず。しかも、艦載機の発艦にも時間がかかり、防御力は微々たるというかあって無いような物だった。


 そのため護衛空母の多くは、機動部隊ではなく船団護衛に従事することが多かったため、補給路の断絶を狙った雷撃隊や爆撃隊から攻撃に晒されることになった。


 このゲームでは、艦載機を乗せた空母が撃沈された場合、搭載されていた艦載機も撃墜(ポイント)と換算される。そのため、まともな対空兵装を持たず、艦載機運用能力も低い護衛空母は、プレーヤーたちから見れば、まさにカモがネギを背負ってやってくるのとなんら変わらなかった。

 前回、好成績を残したアルトリアも、一人で『ボーグ』級航空母艦の『ボーグ』と『ブロック・アイランド』の二隻を撃沈していた。


「あぁ。しかも、こいつは商船改造空母だ。性能は、まぁ察してくれ」

 

 そう言うと、【修理屋】は『海鷹かいよう』のステータスを表示させた。


 ランクⅣ 護衛空母『海鷹かいよう

 カテゴリ 航空母艦

 速力C:24ノット 攻撃C 装甲E 対空B 出力C 索敵B 航続距離C 搭載機数D:24機 搭乗:590名 


 それを見て、アルトリアがため息をついた。


「はぁ。軽空母でも、四十機は搭載できるわよ?」

「護衛空母は、どこもこんなモンらしいんだがなぁ……」

「……どうせ、元に戻すことはできないんでしょ?」

「――すまん」

「いいよ。で?改修費はいくら?」


 いささか驚いたものの、アルトリアの頭はすでに切り替わっていた。実際、使い道のない客船よりも、性能は低くとも航空母艦の方が利用価値はある。そう考えなければ、やっていけそうもなかった。


 ただ、また『あるぜんちな丸』に乗るというメイビスとの約束を破ることになってしまうのが心残りだった。だがアルトリアの気持ちを汲んでかメイビスは特に口を出してくることはなった。


「あー。改修費なんだが、支払い自体は十五億七千クレジットだ」

「うーん。まぁ払えない額ではないけどねぇ」


 思わずアルトリアは、自分の顎に手を置いて考えた。ドナルド・レーガンのミッションで二十八億クレジットを手に入れてはいたが、【逃がし屋】への支払いや『羽風』の修理費などで手元に残る金額は少なく、困窮はしていないが余裕もなかった。


「こちらの不手際だから半額は俺が持つ」

「つまりは、実費は三十億以上かかったてこと?」

「……あぁ。これが俺ができる最大の謝罪だ。無論、金額は一括じゃなくてローンでいい」


 ため息を一つつくとアルトリアは、【修理屋】の提案を受けることにした。


「わかった。で?いつごろ引き渡してもらえるの?」

「すぐにでも。乗員がいればな」

「……そっちは大丈夫だと思う。NPCはある程度の人数確保してるから、新兵訓練と一緒に教育もする」

「本当にすまん」

「もういいよ。じゃ、うちのNPCに引き取ってくれるように頼んでおくから。受け渡してくれる」


 それだけ言うと、アルトリアは『海鷹』を興味深そうに見上げているメイビスの隣に立ち横目で顔を伺う。


「ごめんね。メイビス。約束守れそうにもないよ」

「いいよ。『あるぜんちな丸』の時は、綺麗な船だと思ったけど、こっちの―――『海鷹』だっけ?この船も格好いいと思うよ」

「そう。……」


 メイビスの答えに、目を細めて彼女の横顔を確認したアルトリアは、いいことを思いついたとニヤッと笑った。


「ねぇ。メイビス」

「何?アルちゃん」

「『海鷹』の艦長、メイビスがやって?」

「へ?―――えぇぇぇぇ!!」


 メイビスの悲鳴は、埠頭で稼働する重機が立てる音にかき消された。

遅くなりすみません。

最近私生活の方が忙しくて、

しかもパソコンのWi-Fiだけが壊れるとかなんのイジメかと思いましたよ。

とりあえず、内容の進みは遅いですが、次回から星系戦の話を書いていきたいと思います。

投稿も時間がかかりますが、どうか暖かく見守っていただけると幸いです。

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