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第21話 ミッション完了

明けましておめでとうございます。

と言ってもすでに二月ですねー。早いですねー。

一月には投稿しようと思っていたのですがねー。

すみませんでした。

「あ。カンさんからメールだ」


 授業の合間、冬華が机の引き出しからスマートフォン取り出す。

 画面には、ソラハシャのNPCである世紀末アフロからのメールが表示されていた。先日のファリス周辺宙域での戦闘から、現実(リアル)では二日ほどたっていた。

    

「どうしたの?」


 次の課外の教科書を引き出しから取り出した、真尋が後ろの席から肩越しに覗き込んでくる。


「うん。カンさんが私と真優に話があるから、今度の日曜日の15時ぐらいに時間取れないかって」

「へぇー。携帯まで連絡が来るんだ」

「まぁ。長期的にログインできない人もいるからね。メールでNPCに指示が出せるようになってるんだよ」


 ソラハシャは専用のアプリをダウンロードしておけば、フレンドからのメールや運営からの連絡事項を自動的にプレーヤーの携帯やパソコンへ転送してくれる機能が付いている。


 さらに、NPCに対して簡易的な指示を行うことができ、長期外宇宙航行時には目標を命令しておけば自動で向かってくれるのだ。しかも、もし途中で【海賊】等に襲われてもプレーヤーが居ない限り、装備や船が破壊されることはあってもドロップすることはない。


「それで、真優は大丈夫そう?日曜日」

「うん。たぶん大丈夫だと思うけど―――――そういえば、レーガンさんの船に居候みたいになってるけど大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないかな。本人の了承もあるんだし。じゃ。一先ず今日学校終わってから、14時にログインしようかな」

「それなら、私もその時間帯にログインするよ」


 まだ、ドナルド・レーガンに報酬貰う話もしていない。真優の言葉を聞いた冬華は頷いて、先生が来る前に世紀末アフロに了承の旨を返信するとスマートフォンを机の下へしまった。


 ◇ 


 アルトリアが目を開くと、見知らぬ天井で仄かに光る蛍光灯の光、そして体を横たえているシーツのひんやりとした感触を感じた。

 ベッドから体を起こすと、ウィンドウを開いて現在時刻を確認した。


「午前4時か」


 ベッドから立ち上がってメイビスが寝ているベッドに目をやる。

 すると、薄いカーテンを開けてメイビスが顔をひょっこりと出した。


「久しぶりだね。アルちゃん」

「そうね。こっちでは四日ぶりかな?」

「そういえば、現実(リアル)では二日でもゲーム(こっち)は四日も経ってるんだ」


 メイビスは乱れた赤い髪の毛を手櫛で整えると、よっ!!という掛け声とともに降りてきた。


「じゃ、艦橋に行こうか」


 部屋の電子ロックを解除して、シンと静かな中アルトリアとメイビスは艦橋を目指すため廊下を歩く。

 早朝であるためか『グナイゼナウ』の艦内は薄暗く、最低限の灯りがほのかに足元を照らしだすだけだった。

 とりあえずアルトリアは、船の中枢ともいえる艦橋を目指すことにして、薄暗い中を艦内マップを参照しながらメイビスを伴いエレベーターに乗り込んだ。


「あぁ。お目覚めですか?」


 艦の最上階に位置する艦橋にエレベーターが到着して、扉が開くと艦橋内には女性士官と数人の当直の兵士が座席に腰かけていた。

 エレベーターから降りてきたアルトリアとメイビスを目にとめた女性士官が立ち上がった。


「えっと、あなたは?」

「申し遅れました。私はこの『グナイゼナウ』艦長マリア・クルーズと申します」


 20代中ごろだろうか、栗色のロングヘアーで生真面目そうな美人が、その顔に反して柔らかな笑顔と優しい声音で、二人と向かい合った。

 また、名前あり(ネームド)かと見慣れないNPCに戸惑いながら、アルトリアはマリア艦長が差し出した手を握った。


「現在提督(アドミラル)はちょっと手が離せない状況でして。お二人の本艦における行動の自由は保障されております」

「では、船を下りても大丈夫ですね」

「はい。あぁ。そういえば提督から言付けがあります」


 そう言うとマリア艦長は、NPCの一人に目配せをした。すると先日アルトリアがドナルド・レーガンに突き付けたタブレットをNPCがマリア艦長へ手渡した。


「提督がアルトリアさんとメイビスさんへ依頼した護衛任務の報酬ですが、まず必要経費に関しては、振り込む講座を教えていただければすぐにでもお支払いが可能です」

「えっと、確かかなりの額だったと思うんですけど、一括ですか?」

 

 28億クレジットという巨額を一括で動かすというマリア艦長の言葉に、思わずといった風にアルトリアが聞く。


「えぇ。必要経費として、提督の給与から差し引きました」


 マリア艦長がにっこりと笑うが、ダークグレーの瞳は全く笑っていなかった。薄らとマリア艦長から感じる怒りのオーラにアルトリアとメイビスは、思わず後ろへ一歩退いた。

 そんな姿に気が付いたマリア艦長は、少し恥ずかしげにコホンと咳払いを一つして話を続けた。


「失礼しました。経費の方はそのような形で。――――それから問題の報酬の方ですが」

「まさか、口約束だから報酬は無し。とか言わないですよね?」

「ご安心ください。きちんと提督が提示したものはお渡しします。まず、メイビスさんへの報酬である、我が第三銀河帝国との交易権についてですが、こちらは、特に問題はありません。すぐに、入港許可証と免税権、その他が保障されていることを示す書類を発行します。ただ、こちらの手続き上、第三銀河帝国の領域内へ侵入する前に、入港する船の艦種を登録していただかなくてはなりません」


 データーに記載がない船は撃沈するようにと、周辺の防衛軍には命令が出ていますからねと、何気に物騒なことを呟きながらマリア艦長は、銀色のカードを二枚アルトリアに差し出した。

 

「こちらが、メイビスさんとアルトリアさんの身分証になります」


 いつの間に撮ったのか、アルトリアとメイビスの顔写真が掲載されているカードを手に取った。顔写真の横には、二十桁の数字が並んでいた。


「生体認証システムも兼ねていますので、無くさないように注意してください」

「ちょっと、気になっていたんですが、確かそちらの国とゾレグラは戦争状態ではなかったですか?」

「えぇ。ですが、バラセバラルの政府とは交戦状態にはありませんので、特に問題にはならないかと」


 メイビスの質問に、マリア艦長は特に気にした様子もなくそう言った。

 その言葉にアルトリアは怪訝そうに眉を顰めた。


「でも、そちらの提督はファリスで指名手配されていたはずですが?」

「そちらの問題に関しては、こちらで手を打っておきますのでご安心ください」

「手ってなにを?」

「うちのバカ提督が密輸をしていたのはご存じだと思いますが、そのほかの余罪とくに、市中での爆破テロ容疑に関しては、何者かによって文書改ざんされていたことが判明しております。ですので、今回に限って言えば損害の補てんと賠償金で見逃していただけるように、警察側とバラセラバル政府とは話をつけました」


 そういう事ならば仕方がない。ここで二人が何を言っても、双方が合意しているのであれば変わることはないだろう。なんにせよと、事態の終息へ向かっているのはいいことだ。

 アルトリアはそう納得してうなずいた。

 てか、この人自分の上司をバカって言っちゃったよと、アルトリアは驚いていたりしたのだが、それを知ってか知らずかマリア艦長は話を続けた。


「さて、メイビスさんの話をしましたので、次はアルトリアさんの報酬です。艦船をお渡しすることになっていましたが、こちらにお任せいただいてもよろしいのですか?」

「お願いします」

「わかりました。一応のすでに回航する手配はしておりますが、如何せん我が祖国とバラセラバルは距離が離れています。亜空間航行機関を常時使い続けたとしてもおそらく一か月では無理ですね」

「いいですよ。こっちは急ぎってわけでもないですし」

「よろしいですか?たしか、今度大規模演習があると聞きましたが?」


 一応、ゾレグラとバラセラバル、ひいてはその他の星系群(サーバー)はすべて、地球連邦という同盟の元にあるという設定があるのだ。

 とはいえ、ほとんど機能したことがないため、ほとんどのプレーヤーは忘れた設定となっている。そのため星系戦は、同盟参加星系どうしによる大規模な模擬戦とNPCの間では捉えられている。


「別に、新しい船をすぐに戦線に投入しようなんて考えていませんから」

「わかりました。では受け渡しが可能になり次第、こちらから連絡させていただきます」


 一通りの話が終わるとアルトリアは、タブレットを返却してもらい29億クレジットの入金を確認した。


「あれ?1億クレジット多いけど?」

「それは、成功報酬です。メイビスさんにも後で同額を送金しておきます。提督には秘密ですよ?」


 そういうとマリア艦長は、可愛らしく右目でウィンクした。

 どうやら、この成功報酬もドナルド・レーガンの給料から引かれているようだ。さすがのアルトリアも、今後の生活が苦しくなるだろう彼に心の中で合掌した。

 隣ではメイビスも苦笑いを浮かべていた。


「では、これで諸々の手続きは終了ですね。」

「そうですね」

「……アルトリアさん。メイビスさん。本当にありがとうございました」


 操作を終えるとマリア艦長は、姿勢を正しアルトリアとメイビスへ頭を下げた。

 

「……私もメイビスが引き受けなければ、受けてなかったですし」

「そうとはいえ、アルトリアさんとメイビスさんのおかげであの人は無事に帰ってこられたんです。我々第三銀河帝国の将兵一同は、貴女たちお二人に感謝しています」


 面と向かって言われ気恥ずかしくなったアルトリアは、頬を掻きながら笑みを返し、目の前にピロンという気の抜けた音で表示されたミッション完了のウィンドウを消した。

 こうして、ドナルド・レーガンに関わる一連のミッションは一応の終息したのだった。


 ChapterⅠ―――――完了と言う文字を見落としたまま……。



提督(アドミラル)。アルトリアさんとメイビスさんが本艦を離艦。『アリエスⅡ』へ向かわれました」

「ご苦労。艦長」


 マリア艦長は、アルトリアとメイビスとの対談を終えると、艦長室よりも豪勢な装飾の施された『グナイゼナウ』の執務室を訪れていた。

 テーブルには、携帯端末の報告書に目を通しながら頷くドナルド・レーガンの姿があった。

 その姿は、まるで研ぎ澄まされた刃物ようで、決して先日までアルトリアとメイビスに護衛されていた中年男性のホームレスの様な雰囲気はなかった。


「良かったのですか?」

「何がだね?艦長?」

「結局、ファリスでのテロ事件については何もわからずじまいでしたが」


 先ほどとはうって変わった難しい顔をしたマリア艦長に、ドナルド・レーガンは微笑んだ。


「大方、反帝政派の連中だろう」

「しかし、提督がファリスへ訪れていることは機密のはずですが……」

「恐らく、宇宙軍の高官がスパイで情報を横流ししているだろうさ」

「くそッ!!何も理解していない無能どもが!!」


 マリア艦長の顔が怒りに染まる。

 それを見たドナルド・レーガンはマリア艦長を軽くたしなめる。


「あまり、熱くなるものではないぞ。艦長」

「……はい。失礼しました」

「とはいえ、今回は私の失態には違いない。艦長にも迷惑をかけたな」


 立ち上がったドナルド・レーガンは、執務室に備え付けられた木製の棚から一本のワインを取り出した。それを見たマリア艦長があきれたようにため息を付く。


「提督。密輸品を自室へ置くのはどうかと思いますが?」

「安心してくれ。こいつはちゃんと現金(キャッシュ)で購入したものだ」


 ドナルド・レーガンはテーブルにワイングラスを二つ置くと、ワインオープナーのスクリューをコルクへと差し込みをゆっくりと引き抜いた。コルクを抜く軽快な音と共に豊潤な香りが室内に広がる。グラスに注がれたのは、仄かに赤いワインだった。


「これは。ロゼワインですか?」

「あぁ。仕事は終わったのだろう?一先ず、飲んでみてくれ」


 グラスの一つをマリア艦長に差し出すと、自身も口元へ持っていき香りを楽しむようにグラスを軽く傾けた。その視線の先ではマリア艦長は、渡されたロゼワインを口に含んでいた。

 マリア艦長も普段から軍務によって、パーティーや食事会に参加する機会も多い。そのためプロまでとは言わないが多少のテイスティングの心得はあった。

 その彼女の顔が驚愕に染まっていた。


「これは……。少し辛口ですが、のど越しはとても滑らかで透き通るようです。これほどおいしいワインを私は初めて飲みました」

「だろう。こいつは、とある酒造家の手によるものだ。いや、苦労したよ。彼にはなかなか会えなくてな」


 マリア艦長の感想に、自慢げにドナルド・レーガンがグラスを掲げた。


「彼は、この界隈では非常に有名な酒造家でね。ワインをはじめ、ウィスキーやブランデー、わが祖国にはないショーチュー等と彼の作る酒は素晴らしい出来だと」

「それが、今回の密輸品というわけですか」

「あぁ。これ一本でいくらすると思う?」


 ドナルド・レーガンが自身のグラスへワインを注ぐ。そのまま、テーブルへ置いてあった艦長のグラスにも注いだ。

 二杯目を受け取りながら、マリア艦長は考え込んだ。


「900クレジット程度でしょうか?」

「はずれだ。艦長。これで5000クレジットはくだらない」

「ちょっと待ってください。普通だったらロゼワインは600クレジットくらいですよ。そんなので売れるのですか?」

「これだけの味はなかなかお目にかかれないだろう。それに、このような田舎星系から離れた我が帝都へ運べばその十倍の値段はする」

「……言葉も出ませんね。たかがワイン一本が50万クレジットとは」

「密輸したくなる気持ちもわかるだろ?」

「それで、一体いくら儲けたのですか?」

「そうだなぁ。一本5000クレジットと計算して、およそ六千本。合計で3000万程度か」

「帝都で売れば、3億ですか」


 マリア艦長は、グラスに残っていワインを一気に流し込むと一息を付いく。


「提督がされたことは理解しました。ですが今後はこのようなことが無いようにお願いします。では」


 それだけを告げると、折り目正しく敬礼をしてドナルド・レーガンへ背を向け執務室を退出していった。

 

 その後、しばらくして寝静まった艦内に自身の口座を確認した最高指揮官(アドミラル)の悲鳴が轟いたという。



やっとレーガンの話に一区切りがつきました。

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