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第20話 終戦

 

「ガハハハ!!忙しいやつだな!!とりあえず今回のは修理代に上乗せしとくぞ」


 十数分後、豪快な笑みを浮かべた作業服の大男が『羽風』の艦橋を訪れていた。


「ありがとう。【修理屋】」

「しかし、こんなもんつけてどうすんだ?」

 

 【修理屋】が眉を怪訝そうに寄せながら、脇に挟んでいたタブレットを差し出す。受け取ったアルトリアは金額を確認せずスラスラとサインして、契約完了を押した。


「……秘密」

「まったく。何か知らんが、がんばれよ」


 返されたタブレットを確認した【修理屋】は、肩をすくめてアルトリアに背を向けた。そのまま大声を響かせながら手を振って退出していった。


 艦橋のエレベーターが閉じると、アルトリアは目を艦橋の外へと向けた。


 彼女の緯線の先、艦橋の外では大型のクレーンを装備した多脚ドローンや作業員NPCがいくつもの穴が開いた箱を次々に『羽風』の船体に取り付けていた。

 ざっと見ただけで、NPCは百人近い。これだけの人員を集めるためにそれなりの金額が掛かったはずだが、アルトリアは気に留めていなかった。


<全額、レーガン氏へ押し付けるつもりですね?>

「いいじゃない。諸経費は全部払ってくれるって言ってくれたんだから。遠慮なんかする必要はないでしょ」

<しかし、12㎝30連装噴進砲に試作音響振動特殊弾頭とは、またまたマニアックな物を……>

 

 『アリエスⅡ』のドッグモニターでもハックしたのだろう。産廃と言われて間もない兵器を大量に装着された『羽風』の姿に【逃がし屋】があきれた声を出す。

 それを無視してアルトリアは、別の通信回線を開く。

 ウィンドウに移ったのは、いつの間にか艦内から姿を消していたメイビスだった。

 その隣には、金髪モヒカンに大きな耳のピアス、刺々しい装飾のされた宇宙服を纏ったNPCが立っていた。


「どう?うまく借りられた?」 

<うん。大丈夫。モヒカンさんのお蔭で輸送機をチャーターできたよ>

<ヒャッハー!!>


 如何にも世紀末な見かけに反して、NPCたちの犯罪歴はアルトリアに所有権が移った時に抹消されていた。アルトリアの部下であるとばれなければただの【海賊】に過ぎない。

 そのため行動に制限があるアルトリアとメイビスの代わりにさまざまな手配をしていた。


「レーガンさんも、準備はいいですか?」

<えぇ。ただし私の艦隊は当てにしないでくださいね>

「分かってる。連絡は任せたからね」

<うん。頑張るよ。アルちゃんも無事でね>

 

 メイビスとドナルド・レーガンの二人は、単独亜空間航行が可能な輸送機を使い、ゲートを使わずファリス宙域を離脱する予定になっていた。

 一応ドナルド・レーガンの艦隊が近場にいるのだが、国際問題になりかねないため彼の艦隊は積極的には使えない。そうなると、八十光年先をファラリスへ向かって撤退中の【アルテミス】艦隊に援軍を要請するしかなかった。


 無論、救援要請を出したとしても【アルテミス】艦隊が来てくれるとも限らない。来てくれたとしても襲来に間に合うとも限らない。


「船長。あと数分で発艦準備が整いやす」

「わかった。できるだけ急がせて」


 アフロ頭のNPCの報告を聞いたアルトリアは頷いた。

 間に合わないのであれば、時間を稼ぐほかに手はないだろう。別に『アリエスⅡ』が攻撃を受けるのは構わない。『アリエスⅡ』がやられたくらいで敗北するほどバラセラバル所属のプレーヤーたちは弱くない。

 だから、他人がいくら被害を被ろうが彼女には関係ない。

 しかし『アリエスⅡ』には【修理屋】のドッグに入渠している『あるぜんちな丸』がある。

 せっかく新しく手に入れた船だ。ここで博打に出るには十分な理由だった。


 五分後、準備の整った『羽風』が『アリエスⅡ』を発艦する。 

 そしてゾレグラ艦隊が現れたのは、『羽風』が出港した二十分後の事だった。



「お待ちしておりました!!アルトリア准尉!!提督(アドミラル)よりご案内を申し付かっております!!」


 時間はゾレグラ艦隊が殲滅された時に再び戻る。

 アルトリアは満身創痍の『羽風』から内火艇(ランチ)で『グナイゼナウ』へ乗り込んでいた。彼女を待っていたのは、先ほどモニターに映ったドナルド・レーガンと同じ軍服を身にまとった厳つい男性兵士だった。

 直立不動で敬礼をする兵士に、アルトリアも返礼する。


「ありがとう。ドナル、ゴホン!!提督(アドミラル)は艦橋ですか?」

「はい!!どうぞ、こちらに」


 兵士が先頭に立って進んでいく。その後ろにアルトリアと補佐のために付いてきていた『羽風』の世紀末アフロが続く。さすがに戦艦という事もあり『羽風』とは、比べ物にならないぐらい多くのNPCが乗艦していた。


「あ!!アルちゃーん!!」

「メイビス。無事だったみたいだね」


 艦橋へ続く通路の途中で出会ったのは、【アルテミス】艦隊へ向かったメイビスだった。彼女は、女性用のズボンではなくスカートに変更された第三銀河帝国の軍服を身に着けていた。

 軍服の肩にかかる長い赤い髪を乱して走ってきてたメイビスは、そのままアルトリアに飛びついた。


「うぎゃ!!」


 案の定、何にも構えていなかったアルトリアは、加速したメイビスの体重と衝撃を受け止めることができなかった。重力制御がきちんと働いている廊下の地面に、潰れたヒキガエルのような声を出して押し倒される。


「ちょっと!!危ないでしょ!?」

「えへへ。ごめーん」


 世紀末アフロに助け起こされながら、アルトリアは銀色の瞳で軽く睨み付ける。

 その視線にペロッとかわいらしく下を出したメイビスをみて、アルトリアはため息を付くしかなかった。

 そこから二人は、『アリエスⅡ』を出てからの状況を報告し合った。


「つまり、ドナルド・レーガンの艦隊はほとんどが輸送船だったわけ?」


 ドナルド・レーガンが今回率いていたのは、地方艦隊、それも物資確保のための輸送艦隊だった。

 護衛に戦艦『グナイゼナウ』がいるものの、他には数隻の軽巡洋艦と駆逐艦しかおらず、ゾレグラ艦隊に抗するにはいささか戦力が不足していた。

 ドナルド•レーガンが、歯切れの悪い言葉を口にするはずだ。

 

 そのため、すぐに長距離亜光速通信が発信された。


 光速以上の速度で通信するこの装置は、現在どのプレーヤーも持ってはいない超最先端技術(アイテム)だった。

 この長距離亜光速通信によりはるか数十光年先を航行していた【アルテミス】艦隊は、『アリエスⅡ』の危機を知ることができたのだ。

 

「そんな装置をこの船が積んでるわけね」


 恐らく次の星系戦の報酬になるものを先行して装備させたのだろう。運営の実験台と言ったところだろうか。そうこうしている間に、アルトリア達は『グナイゼナウ』の艦橋へとたどり着いた。  

 

「提督!!アルトリア准尉をお連れしました!!」

「ご苦労」


 艦橋の中央に設けられた艦長席からドナルド・レーガンがスッと立ち上がり、二人の目の前にまで来る。

  

「ようこそ。我が艦へ。歓迎しま――――」


 歓迎の言葉を掛けようとしたドナルド・レーガンは、いきなりアルトリアが何処から取り出したタブレットを突き付けられて立ち止まる。


「そんな、薄っぺらい能書きはいいから。これ、今回の騒動で使った諸費用。きちんと払ってもらうからね」


 今にも顔面にタブレットを叩きつけそうな勢いで告げるアルトリア。

 ドナルド・レーガンは、自身の体に突き刺さるアルトリアの鋭い眼光に、催促され両手でタブレットを受け取る。タブレット受け取ったドナルド・レーガンは目を見開き、思わずと言った風にタブレット画面を二度見する。 

 

「あの、これ桁がおかしくないですか?」

「全然!!」


 そこに表示されていたのは――――


 ・【逃がし屋】情報提供料:2000万クレジット

 ・【逃がし屋】報酬料:1500万クレジット

 ・車のレンタル料:5080クレジット

 ・車修理代:2万8000クレジット(保険適用)

 ・12センチ30連装噴進砲:3000万クレジット×20基

 ・試作音響振動特殊弾頭:9000万クレジット

 ・レーザー攪乱幕搭載魚雷:4600万クレジット×34本

 ・『羽風』修理代:5億500万クレジット


 合計:28億3903万3080クレジット


「さ、さすがにこれは……」

「ついでに言っておくけど、これと報酬は別だから」


 アルトリアがの一言がとどめになったか、愕然としていたドナルド・レーガンがガックリと肩を落とす。

 哀愁漂うドナルド・レーガンの姿にメイビスだけではなく、『グナイゼナウ』のNPC(クルー)やアルトリアについてきた世紀末アフロまで憐みの視線を向けていた。


 ◇


「とりあえず、報酬については後日お話ししましょう」

「そうね。一先ずはそれでいいでしょう。一応言っておくけど―――――逃げたらただじゃ済まさないから」

「わ、わかってますよ」


 アルトリアの見た目にそぐわない鋭い視線に、ドナルド・レーガンの頬に冷や汗が流れる。


「じゃ、じゃお二人をファラリスまでお送りしましょう」

「そうね、『羽風』があんな状態だしね。ってそういえば今何時よ」

「えーと、夜の六時?」


 アルトリアの問いにメイビスが、自分のウィンドウを開いて答える。

 そろそろ、晩御飯の準備を始める時間帯だ。明日も課外はあるし、メイビスも親父さんが帰ってくる前にログアウトした方がいいだろう。


「レーガンさん。どこか部屋を借りてもいい?」

「あぁ、お休み(ログアウト)されますか?」

「えぇ。次はいつ起きるか(ログイン)わからないけど。メイビスもそれでいいでしょ?」

「うん。お父さんももうそろそろ帰ってくると思うし」 

「では、ご案内しましょう」 


 アルトリアとメイビスの言葉にドナルド・レーガンは頷くと、自ら先頭へ立って二人を士官室へと案内した。


「少し狭いですが、ここでいいですか?」


 案内された士官室は、二段ベッドと小さなデスクが設置されていた。メイビスとアルトリアの二人がログアウトするには十分だった。

 ソラハシャでのログアウトは、自身の保有するドッグや艦船のベッド、あるいは友軍(フレンド)艦船や宿泊所のベッドでのみ可能だ。それ以外の場所では、殺害(キル)される可能性があるし、宇宙空間でアバターを放置すればあっという間に酸素が切れ死亡することになるだろう。

 今回の場合は、船の最高責任者であるドナルド・レーガンから許可を貰ったので、宿泊所扱いになる。


「では、お二人が離艦されるまで我々はファリスのステーションに留まりますので」


 そう言って退出していった後、メイビスに上のベッドを進めアルトリア自身も下の段のベッドに横になり、左手でウィンドウを開きログアウトボタンを押した。




  


サブタイトル変更しました。2/8

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