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第18話 邂逅

何とかパソコンが復旧しましたので短めですが上げておきます。



 ゾレグラ艦隊が【アルテミス】の手によって文字通り宇宙の藻屑となった宙域にゆっくりと一隻の戦艦が接近していた。


 第三銀河帝国所属シャルンホルスト級二番艦『グナイゼナウ』。ヨーロッパサーバー(ドラッセン)で多く見かけられる(ふね)の名がレーダー上の光点に表示され、モニターにも可視化されていた。


 映し出された『グナイゼナウ』の外観は通常型(ノーマルタイプ)で主砲には標準装備の28.3㎝三連装レーザー砲が装備されていた。現在主流となりつつある36㎝や40㎝などの大口径砲に比べるといささか威力不足を否めないが、それでもなかなかのスペックだ。

 そのため、今だに現役で使っているプレーヤーも多く人気の艦でもある。


 しかし、今現在クラン【アルテミス】所属第三艦隊および第五航空戦隊に接近してくる艦は、この場にいるどの艦とも異なる存在だった。


 『グナイゼナウ』には、艦名と共に表示されるべきプレーヤーの名前が無かった。


 通常、ソラハシャの艦船、航空機、作業ポッドなどプレーヤーの保有する物は、漏れなく持ち主の名前が表示される。

 種類の絶対数が少ない戦艦や航空母艦などは、いくら装備やカラーリングを変更したとしてもベースの艦が被りやすく、そうなるとアイコンとして表示される艦名は同じものになってしまう。そのため、識別をしやすくするためプレーヤー名が艦名の下に表示される。

 

 つまりプレーヤー名が表示されていない『グナイゼナウ』には、プレーヤーが乗っていない。NPCが制御している艦なのだ。


 通常、艦船を動かすには数十から数千まで多数の人の手が必要となる。数百mを超える物体を制御するのにプレーヤー個人で稼働させることはほぼ不可能に近い。そのためプレーヤーたちはNPCを自前で雇い教育して艦を運用する必要が出てくる。

 そこで雇われるNPCの殆どは名無し(ノーネーム)と呼ばれている。


 とはいえ、ソラハシャのモブは他のゲームと異なり、プレーヤーと会話するだけの能力は持ち合わせている。またある程度までならば自分自身で考えて行動できる。

 しかし、彼らはプレーヤーや運営会社である『鷲の爪社』の指示を最優先にするように行動理念が設定されている。


 ゆえに融通が利かない。


 だが、そんなNPCの中にも特別なプログラムで自由に活動することのできるNPCがいる。それが名前あり(ネームド)。彼らは、『鷲の爪社』が開発した世界最先端のAIを搭載しており、行動や言動はなんらプレーヤと違いはない。

 名前あり《ネームド》達は、自身で考え行動し、時たま思いもかけないイベントを起こすのだ。


 ◇


<ご苦労様です。アルトリアさん> 


 艦橋の一番大きなモニターに、どこか澄ましたようないけ好かない男が顔を見せた。その立ち振る舞いはまるで貴族のようで、身にまとっている軍服とはちぐはぐなイメージを受ける。

 

「うっさい。誰のせいでこんなことになっていると思うのよ?」


 アルトリアのまるで般若のような顔をみた男は、取り繕うように慌てて言った。


<す、すみません。いや、でもちゃんと間に合ったでしょう?>


 モニターの奥で慌てているこの軟弱な男こそ、アルトリアとメイビスが大騒動に巻き込まれるきっかけになったドナルド・レーガンその人だった。


 アルトリアが必死に戦って敵艦隊を抑えている間に、ドナルド・レーガンはまるで乞食のようだった身なりをきれいに整え、なかなかに立派な軍人へと姿を変えていた。身だしなみを整えるのは当然のことかもしれないが、何とも釈然としないものをアルトリアは感じていた。


<援軍は向かわせたじゃないですか>

「確かに、【アルテミス】の艦隊が援軍に駆けつけてくれたおかげで、私はこの通り無事。だけどねぇ。これまでにいったい何隻の巡視船と乗務員が消えたと思っているのよ。一応戦闘ログを確認したから、ネームドのキャラクターはいなかったし、死亡したプレーヤーも三人だけだった。それでも三千人近い損害よ」


 必要最低限の設備が非常用バッテリーで動いている薄暗い艦橋で、アルトリアはメニューから先ほどの戦闘ログを表示させ、それを下にスライドさせながら艦長席の肘掛けに頬杖をついていた。


 自軍

 撃沈:92隻

 大破(航行不能):3隻

 死者プレーヤー:アレッツ、ユカタ、deizaku309

 死者(NPC):3024名


「しかも何よ。第34地方方面艦隊ってあなたの艦隊の船じゃないじゃない。本来ならあなた自身の艦隊で援軍に来るのが筋ってもんじゃないの?」

『し、しかし、私にも立場というものが』

「立場もなにもないでしょう?なんで、テロの犯人の疑惑がかかってるのかわかってる?最初にあなたが密輸なんてせこい真似しなければ、こんなことにはならなかったのよ?」


 先ほどまでダンディな軍人だったドナルド・レーガンが、ただの中年男性となり果てモニターの前でうなだれていた。


「まぁ。いいわ。缶さん。申し訳ないですけど、逃げた『ペトロパブロフスク』を追うことは可能ですか?」

<うん。大丈夫だよ。すでにこっちの駆逐艦が補足してる。どうする?撃沈する?>


 ドナルド・レーガンとの会話を苦笑しながらも黙って聞いていたサバ缶が、すぐに追跡している駆逐艦からの情報をアルトリアへ転送されてくる。


「いえ。できれば拿捕してください。敵艦の艦長にはいろいろと確認したいことがあるので」

<なるほど。なら、美しき功労者に敬意を表して【アルテミス】第三艦隊の全力を持ってその任を果たしましょう>


 中学生と変わらないサバ缶のアバターがまるでおとぎ話に出てくるようなセリフを躊躇いなく言うのを見て、アルトリアはよくこんな恥ずかしげもなくできるなぁと感心していた。


「じゃぁ、お願いします。『羽風』は自力で何とかしますので」


 と言ったものの、実際、動力炉もエンジンも壊滅的被害を被っている『羽風』が動けるはずもなく、先ほど【修理屋】に曳航してもらうように連絡を行ったところだ。


<了解。ではまた後で>

 

 サバ缶が頷いて通信が切れると、彼の座乗する『日向』が後続の艦艇を引き連れて亜空間航行(ワープ)していく。青や緑色の粒子を残して輝く光の渦へと消えて行ったのを確認すると、アルトリアはほぼ真横まで接近していた『グナイゼナウ』のドナルド・レーガンに無造作に言った。


「さて、こちらは何とか片付いたことだし、そろそろちゃんと話をしましょうかね。提督(アドミラル)さん」


 それを聞いた中年男性は、それはそれは悲壮感漂う顔をしていた。



パソコンが無かったのでしばらく放置気味でしたが、またボチボチ更新してきます。どうか皆様お付き合いください。

サブタイトル変更しました。2/8

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