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第15話 来襲!!ゾレグラ艦隊!!

遅くなりました。

今回も短めです。

 

 バラセラバル星系より、数千光年離れた場所にゾレグラ星系は存在した。この星系は珍しいことに恒星を中心に赤の星と青の星の二つの惑星が同じ軌道を周回する。ゲーム内では並列星(へいれつぼし)と呼ばれるものであった。


 二つの星の内、赤の星は、地表面は人間が生身で生活するのには向かない不毛な土地だが大量の地下資源が採れた。逆に青の星は水と豊かな自然があふれていた。またゾレグラの外軌道には巨大な惑星が複数周回しており、隕石衝突などの災害に見舞われることも少なかった。


 他のサーバーの星系に比べ非常に恵まれてた環境下にあるゾレグラ星系はつい最近導入されたサーバーであり、新規のプレーヤーが大部分を占めていたが飛躍的な発展を見せ、奇跡の双星と言われるほどにまでなった。


 しかし、ある一点においてゾレグラは非常に大きな欠点を抱えていた。


 ゾレグラサーバーが保有する艦船、およびそのほかの装備や兵器群は強力であり、その戦力は間違いなく全サーバー中トップ5に入る実力を有していた。

 しかし、星系戦においてゾレグラサーバーが防衛側の成功率は一割を下回る。

 なぜなら。採掘場や補給港、工場など技術的重要拠点は赤の星に集中しており、政府機関やNPCの住む市街地、市場など商業的重要拠点の青の星に集中している。

 星系戦における防衛側でより高報酬を獲得するためには、如何に自分の所有地を破壊されないかにかかっている。

 そうなれば、二つの星に戦力を分散配置する必要があり、いくら強力な軍隊があっても戦力の低下はまのがれない。

 さらに、並列星の外周を漂う巨大惑星によって隕石などが星系外縁部で停滞するため、ゾレグラ近海は、まったくと言っていいほど針路を阻む障害物が存在しなかった。


 このように商業的に発展するにはこれほど適した土地は無いが、軍事的には最悪の場所でだったのだ。



「だから、奴らは星系戦に突入する前に敵の戦力を削ぎ落とすことにしたんでしょう」


 星系戦は、別のフィールドで行われるとはいえ、ベースとなる星系は防衛側の物。つまり、ゾレグラ星系のコピーを舞台に今回の戦闘は行われる。

 自軍の防衛が困難な地形であり、さらには全サーバー中最も強力な艦隊と装備を持つ古参プレーヤーたちがその相手である。


 こんなマニアックなゲームをしているプレーヤーたちが、いつまでも負けている現状を彼らのプライドがよしとするはずがなかった


 そのある意味で追い詰められた状況下のゾレグラプレーヤーたちは、決死の打開策を打ち出すしかなかった。


 何も真正面から戦う必要はない。

 星系戦が始まる前から敵を疲弊させておけばいい。


「そのための、テロ騒ぎよ」


 前方からプラズマの航跡(ウェーキ)を幾本も棚引かせながら、ゆっくりと着実に前進してくるゾレグラ艦隊を険しい表情で見つめている署長へ、アルトリアが説明する。


「ゾレグラの作戦は二つ。まず、バラセラバル(うち)の最大勢力である【アルテミス】と【愛国者パトリオット】に何らかの手段、―――たぶん偽の情報でしょうけど、戦争状態を引き起こす。双方がぶつかれば確実に戦力は低下するからね」


 三大国の戦争は終結したという情報はあるが、間違いなく双方にかなりの被害が出ているはずだ。

 実際重要拠点であるバラセラバル近海やファリスから戦力を引き抜いていることから考えても。大規模戦闘は間違いなかった。艦は数百隻単位、戦闘機などは数千機単位で損害がでている事だろう。


「次に二つ目。本拠地へ引き揚げてきた艦隊の修繕を行わせないためにも、修理のためのドッグや技術者が集まる工場を重点的に叩くことにしたんでしょう」


 その最重要候補に挙がったのがバラセラバルの中でも最高の修理、造船環境が整っているファリス星系だった。

 さらにファラスの交易ステーション『アリエス』と『アリエスⅡ』にはチュートリアルを終えた新兵(ルーキー)勧誘目的の中小クランや大型の輸送船を保有する商人プレーヤーなども多数集結していた。

 もしファラリスの『アリエス』と『アリエスⅡ』が攻撃され破壊されるようなことになれば、純粋な戦力だけではなく経済的な面でもバラセラバルに属するプレーヤーたちは大打撃を受け、しばらくの間、財政破たんを迎えた国並みのように混乱するのは間違いなかった。


「つまり、我々【警察」を無力化するためにドナルドレーガンを利用したのか?」

「無力化できるとは思っていなかっただろうけど、ファリスの警備の要である、【アルテミス】艦隊と【警察】の巡視船団のすきを突くつもりだったんでしょう」


 この時期にファリスで密輸なんてしなければ、ただのNPCでしかなかった。しかし天の悪戯と言うよりも、運営側の気まぐれで、名前ネームドになった。そう思うと、ドナルドレーガンという男は非常に運の無いNPCだった。


 ◇


 アルトリアの説明に【警官】プレーヤーたちが深い沈黙とともに思考していた頃、ゾレグラ艦隊のプレーヤー達も少なからず意表を突かれていた。


「どういうことだ」


 真っ白なひげを豊かに蓄え、禿頭がキラリと輝く戦艦『ペトロパブロフスク』艦長が護衛艦隊の先導を務める軽巡洋艦のプレーヤーを問い詰めていた。

 ゲームキャラクターとしては、最高ランクが付くかもしれないぐらい威厳に満ちた艦長の言葉に、ヒョロリとした軽巡洋艦のプレーヤーがビクッと肩を震わせた。

 問われたところで彼はそれを答えるすべてを持っていなかった。


「なぜ、バラーの警備艇がここにいるのだ」


 彼が率いる四十八隻の艦隊(フリート)の目の前には、総数百隻を超えるバラー(バラセラバル)の『巡視船』が集結していた。

 『巡視船』の船団は、高度な包囲陣を敷いてはいるもののゾレグラの艦隊へは艦尾を向けており、明らかにこちらを捕捉したのは偶然だった。

 とは言え、本来の計画ではこんなところで捕捉されるはずはなかった。

 わざわざゲートを使わず各艦に搭載された亜空間機関のみで数十回ものワープを繰り返し、さらに現在使用されていない航路まで選んだはずだった。

  

 しかし、艦長たちは知らなかった。

 計画ではファリスはテロ騒ぎで混乱しているはずが、メイビスのお人よしな性格とアルトリアの気まぐれ、また署長のアルトリアに対する因縁などが重なり、自身で仕立て上げたテロ騒ぎで逆に墓穴を掘ってしまう形になっていた・


<ど、どのようにしますか?>

「前方の船団へ五分以内に退くように指示せよ。聞き入れられない場合は攻撃する準備があると言うことも忘れずにな」


 艦長は何とも渋い顔をしながら命令を下した。

 これはあまりいい方法ではない。

 敵は武装しているとはいえ、所詮は民間船。純粋な【軍人】NPCが操る戦艦『ペトロパブロフスク』の前では、巨像に対するアリに等しい。貴下の艦隊を含めれば勝機の可能性が無いのは明白だ。


 しかし、相手は一般人。これを相手に無双したところで自慢にもならないし、バラセラバルサーバーのプレーヤーたちからは反感を買うことにもつながりかねなかった。 


 ◇


「ゾレグラ艦隊より入電。前方に展開するバラセラバル所属の船団に告げる。今すぐ針路上より退避されたし。こちらには戦闘の用意がある。以上です」

「何をふざけたことを!!」


 署長はじめ【警官】プレーヤーたちが怒りを露わにするが、実際打つ手が全く無く大人しく針路上から船団を退けるしかできることは残っていない。

 

「しょちょーさん。悪いけどすぐに『羽風』から出てって」


 その様子を説明を終えて黙ってみていたアルトリアが、世間話のような軽い調子で告げた。その右手には黒光りする拳銃が握られており、ガシャン!!と言う音を立てて彼女の手を拘束していたはずの手錠が地面に落下した。


「お、お前どうやって手錠を!!」


 驚愕と銃を向けられたことで動きを止めた署長に、アルトリアは拳銃を構えたままゆっくりと近づき、顔に銃口を突き付けるようにして立ち止まった。

 署長が顔を動かさず周囲を見渡すと、他の【警官】達もいつの間にか手錠を外していた【海賊】達によって無力化されていた。


「今の私は【海賊】。手錠を外すなんてお手の物よ」

「……。フ、そういえばそうだったな。しかし、我々を追い出した後お前はどうする?」


 署長の問いにニヤッと不敵な笑みを浮かべてアルトリアは、宣言した。


「ゾレグラの連中と戦うわよ。私のドッグも『アリエスⅡ』にあるんだから。壊されたら堪らないし、ね?」

「駆逐艦一隻でどうにかできる相手ではないだろう?」

「いいのよ勝算があるんだから。ほら、さっさと行って!!」


 『羽風』と『巡視船』を繋ぐタラップを海賊たちに追い立てられるようにして【警官】達が渡っていく。完全武装していた彼らだが、海賊として艦内戦闘に特化して育成されていた『羽風』のNPCの前には、素人も同然であり、瞬く間に装備をはぎ取られた状態だった。

 

「本当に、やるんだな。アルトリア」

「えぇ。できれば『巡視船』はさっさと離脱させたほうが身のためよ」


 そう言って、アルトリアは署長の背中を軽く押す。無重力であるタラップの通路を緩やかな速度で進みながら、署長は後ろを振り返り閉まりゆくハッチを見つめた。

 最後に見えたのは、ハッチに取る付けられた窓から覗く銀色に輝くアルトリアの長い髪だけだった。



仕事が忙しくなってきているため、次回は更新が不定期になると思います

お待ちいただけるとありがたいです。

サブタイトル変更しました。2/8

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