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第14話 新たなる敵

何とか更新できたのでおいておきます。


 のべ百隻もの船が集まる船団の中心で、駆逐艦『羽風(はかぜ)』が完全に停船した。


 先ほどまで全力で稼働していたエンジンへの電力も完全にカットされ、艦内を照らす照明と生命維持装置のみにエネルギーが振り分けられた。


 その『羽風』の左舷に一隻の巡視船がゆっくりと接近していた。艦首の補助ブースターが小刻みにガスを噴射、それに合わせて徐々に速度が減速し停止する。すると『巡視船102』からタラップが伸ばされ、軽い衝撃と共にドッキングする。


 両船を繋ぐハッチが開くと騒々しく完全武装した幾人もの【警官】達が、艦内を捜索するために乗り込んでくる。彼らは両手を頭の後ろで組んでいる乗組員たちを縫うようにして乱暴に艦内を捜索していく。

その一方でアルトリアは余裕綽々な顔を浮かべながら、大人しく【警官】達に拘束されていた。


「署長!!ドナルド・レーガンの姿がありません!!」

「ありえん!!どういうことだアルトリア!!」


 しばらくすると『羽風』の艦橋に、切羽詰った様子の【警官】が走りこんできて署長へ報告する。それを聞いた署長は、手錠をされて艦橋の隅っこの方でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたアルトリアに迫った。


「さぁ、どういうことでしょうね?しょちょーさん?」


 私は知りませんとでも言いたげな、まるでおちょくる様なその返答に署長の顔が見る見る真っ赤に変わっていく。すると元から高血圧と診断されている署長の現実(リアル)の体に装着されたヘッドギアが、急激な血圧上昇を感知して、シャットダウンの警告ウィンドウを署長の目の前に表示させる。


「ご、ごめんって。しょちょーさん。そこまで怒る事じゃないでしょう」


 さすがにやり過ぎたと感じたのか、アルトリアは慌てて謝った。

 アルトリアだけではなく、他の【警官】プレーヤーやNPCの取り成しもあって幾分か落ち着いた署長だったが、いまだに鋭い眼光をアルトリアへ向けていた。


「……ドナルド・レーガンはどこだ?」

「おしえない」

「貴様ぁ!!」


 再び怒りのヴォルテージと血圧が上がり始めた署長に向かって、アルトリアは真剣な顔でこう言った。


「てかさ、しょちょーさん。本当にドナルド・レーガンがテロの犯人だと思っている?」

「何をいまさら!!実際、奴には手配書が出ているではないか!!」

「もし、それが冤罪だったら?」

「冤罪!?笑わせないでくれ、アルトリア」

「うん。私もあなたの立場だったらそういうと思う。……でも、腑に落ちなくない?」


 今回の騒動の発端は、【アルテミス】のメンバーが爆破テロに巻き込まれたことに始まる。爆発物が使われたことは間違いないので、テロ行為であることが確定している。

 そして、【アルテミス】のクランリーダーはその犯人と思われる集団へ攻撃を仕掛けた。


「理由なんぞ、なんでも考えられるだろうが!!」

「本当に?おかしいと思わない?【アルテミス】が今戦争吹っかけてるのって『三大国トリテニィ』の【愛国者パトリオット】だよ?」


 そう、ファラリス近海の海賊騒ぎの引き金にもなった【アルテミス】の防衛艦隊の大規模な移動命令。【アルテミス】の辺境艦隊まで招集して集めた、その矛先は同じく『三大国トリニティ』の【愛国者パトリオット】に向けられていた。


 なぜ、そのようなことになったのかは今更どうでもいい。


 それよりも日本サーバー(バラセラバル)に存在する最大クラン、その内二つが戦争状態に移行したとなれば、【軍人】プレーヤーだけではなく、【商人】や【技術者】プレーヤーたちにも多大なる影響が出る。そちらの方が重要だ。


 前者は、実際に戦死(デス)によるペナルティ、あるいは艦や装備品への損害がでる。また後者は損害を補てんしようとするプレーヤー達相手に商売をして、己の生成したアイテムや仕入れた消耗品を売ることだろう。


 すると、この戦争を中心とした巨大な市場(マーケット)が出来上がる。

 ここ数か月、星系戦以外の大きな戦がバラセラバル近海では起きていない。

 討伐依頼などの多い【軍人】に比べて資金調達の難しい一般人のプレーヤーたちにとって、危険は伴うが千載一遇のチャンスになる。


「う、それは、そうだが。しかし冤罪だった場合我々に出されたミッションはどうなる!!」

「そう、そこだよ。しょちょーさん。レーガンが指名手配されたのはいつ?」

「……。つい先日、二日ほど前だ」


 怪訝そうな表情の署長を手錠で拘束された手を持ち上げてアルトリアが指をさす。


「変だとは思わない?幾らミッションとはいえ、指名手配されるのが早すぎる。それに相手はNPCよ?」

「言われてみれば、そうだが……」

 

 署長が自身の顎に手を当てて考え込む。

 普通、指名手配されるのは【犯罪者】プレーヤーと【海賊】プレーヤーが殆どだ。


 【犯罪者】とは運営からアカウント停止寸前の連中で、ゲームの範疇を超えた迷惑行為やゲームのプレイに影響を与えるようなウィルスやチートなどの違法行為を行った者たちの事だ。


 【犯罪者】として指名手配される問うことは運営からの最後通告であり、改善が見られなかった場合には、システム的な保護を外されて資産、資金のすべてを殺害(キル)したプレーヤーに略奪されることになっている。


 つまり、今まで迷惑をかけてきた分をボコボコにリンチされて清算しろという、運営のキツイ罰なのだ。


 それに対して、【海賊】プレーヤーにとって指名手配されるというのは重要な一つのステータスである。賞金が高ければ高いほど獲物から仕入れた武装や物資などを高く買い取ってもらえるし、捕虜に関してもいい条件を引き出すことができる。さらに名前が売れれば、略奪の依頼やクランへの勧誘なども増える。


 無論、【賞金稼ぎ】や【警察】からは追われる身にはなるが、【海賊】という職を選ぶの連中はそれを重々承知している。


 彼ら【海賊】達が追い求めるのは、金と名声、そして現代では味わうことのできないスリルなのだ。


 もっともアルトリアには、スリルだの浪漫だのは関係なく、『羽風』のNPCの能力を最大限引き出すために【海賊】へ変更しただけであり、この一見が片付けば元の【軍人】に戻すつもりでいるのだが。

 

 とまぁ、そんなわけで指名手配犯される連中は基本的にプレーヤーだ。

 しかし例外的に、NPCが指名手配される場合がある。それは大きなイベントにつながっている。そのため起点となる事件(イベント)が起こる前には、何かしらの運営から連絡があるはずなのだ。


「ちなみに【警察】にはどんなミッションが出ているの?」

「……。爆破テロの首謀者と思われるドナルド・レーガンを殺害または拘束せよ。というのが内容だ」

「それって、漠然としすぎてない?」


 虐殺(スローター)系のミッションや個人を狙った暗殺(ウェットワーク)のミッションを武装することが可能とは言え、一般人である【警察】プレーヤーが受理できるわけがない。


 アルトリアも逃亡を手助けするときに気が付かなかったのだが、これが何等かのイベントで有るならばもっと背後関係などの情報が初めから提示されてもいいはずだ。 


「あぁ!!だからなんだというんだ!!」

「落ち着いてよ。―――――ドナルド・レーガンの騒動は意図的にプレーヤーが起こしたミッションよ」

「は!!それこそありえないだろう!!」

「それがそうでもないんだぁ」


 馬鹿にしたように口を歪める署長にアルトリアが苦笑しながら、ウィンドウを開きとあるNPCのプロフィールを見せる。

 

「これは【逃がし屋】から仕入れたデータよ。名前は、ヴァルラム・グズミン。NPC(ネームド)

「こいつがどうした言うんだ?」

「いかにも、諜報員ぽくない?」


 厳つい白人男性、それも少しロシア人風のNPCの顔は善良市民のようでいて、どこか鋭利な刃物のような印象を受ける。

 アルトリアは、鬱陶(うっとう)しそうに手錠を付けられた手でウィンドウをスライドする。


「ん?まて、この能力アビリティは!?」

「気が付いた?そう。すべての原因はこいつよ」


 ヴァルラム・グズミンには、特別な能力があった。

 【文書偽造】A【情報操作】S【変装】S【プログラミング】S。総合ランクS。

 見まごうことない諜報員能力(スパイ・アビリティ)だった。


「恐らく、レーガンの指名手配も【警察】への指示もすべて此奴の能力でやったものでしょうね。ファリス【警察】の警備レベルかなり低いんじゃない?」


 図星を刺された署長は、悔しそうに黙り込む。アルトリアの言うとおり、ファリスの警察署に勤務するNPCのレベルはまだ低い。そして、能力アビリティも比例するように低レベルばかりだ。

 特に、市街地での警備を優先するあまり、この手のいわゆる情報分野での警備はおろそかになっていた。


「だ、だが。こんなことをして誰が得をするというのだ」

「いるじゃない。めちゃくちゃ得をする人たちが」


 アルトリアの言葉を聞いた署長がさらに追及をしようとした時、『羽風』の艦橋にけたたましい警告音が響く。


「どうやら、お出ましみたいね」


 まるでアルトリアの呟きを引き金にしたように、『巡視船』の後方を覆い隠すように亜空間から次々に軍艦がタッチダウンしてくる。

 小さな青白い渦が宇宙空間に浮かんだかと思うと瞬く合間に、大艦隊が集結しつつあった。


「な、何事だ!!」

「多数のタッチダウン反応!!」


 慌てふためく艦橋の【警官】達を押しのけて、アルトリアは手錠されたままの手で起用にコンソールを叩いて冷静に告げた。


「しょちょーさん。この旗、見たことない?」


 ズームされたのは、タッチダウンしてきた先頭の艦。その正面に描かれている所属を示す国旗と新月をモチーフにしたクランの印。


「旗?赤に三つの白色彗星……ッ!!まさか!!」

「ゾレグラ国旗、だと……。なぜ、奴らがこんなところに……」


 署長や一緒に乗り込んでいた【警官】プレーヤーが唖然としてモニターを見つめる。


 青白いタッチダウンの残滓を残しながら艦が次々にタッチダウンした。およそ五十隻あまり。

 ちょうど船団の背後を付く形で攻撃態勢を展開され、不意を突かれ慌てた数隻の巡視船が百八十度回頭を行おうとして僚艦に衝突した。


「全船に連絡!!勝手な行動をするな!!」


 署長が慌てて指示を出すが、すでに遅かった。一隻が衝突するとまるでドミノ倒しのように次々に被害が連鎖していく。『羽風』を拿捕するために取った密集体系があだとなっていた。

 何とか、体系は維持できたものの数隻はそのままドッグ行になるほど大きな穴を穿(うが)たれていた。

 ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばっていた署長の元に、とどめを刺すような報告が届けられる。 


「だ、大規模な熱源を探知!!」

「どうやら、こいつが旗艦みたいだね」


 最後の最後に特大のタッチダウン反応に、『羽風』のレーダーが激しく警告音を鳴り響かせる。

 宇宙を割り切るようにして現れたのは、全長200m近い真紅の装甲を持つ巨大な戦艦だった。


「ガ、『ガングード』級戦艦!?」


 タッチダウンしてきた艦艇は戦艦(バトルシップ)を中核として軽巡洋艦(ライトクルーザー)駆逐艦(デストロイヤー)が周囲を固める、見まごうこともない攻撃部隊だった。

 そのすべての艦艇の船体には、血を垂らしたような赤色をベースとして、真っ白に輝く三つの彗星が描かれていた。

 

「あの主砲や艦橋の形……。近代改修前の『ガングード』級戦艦『ペトロパブロフクス』か。予想以上の大物が来ちゃったなぁ」


 唯一この場にいるプレーヤーで状況を理解しているアルトリアも、頬に冷や汗が流れる。

 まさか、戦艦まで出てくるとはさすがのアルトリアも考えてもいなかった。


「ど、どういう事なんだ……。これすべてお前が?」

「……違うよ。しょちょーさん。でも、こいつらの計画ならある程度予想が立ってる。さっき言ったでしょ?バラセラバルの最大戦力である『三大国トリニティ』に戦争を始めさせて、まったく関係ない人物を犯人に仕立て上げて政府機関を混乱させる。それによって無茶苦茶得をする人たちが」


 アルトリアは、そろそろ拘束を外してほしいと思いながらも、黙って自分のメニューからウィンドウを開き、その画面を艦橋にいる全員に見せつけた。

 

「せ、星系戦!?」

「そう。開戦日は今から一か月後の日曜日」

「ま、まさか」

「そのまさか。――――――今度の敵はロシアサーバー(ゾレグラ)の連中よ」



星系戦の開始日を一か月後に変更、およびサブタイトル変更いたしました。2/8

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