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第11話 逃走

ごめんなさい。

話がまた伸びました orz

次回か次次回には彼の話を終わらせたいと思います。

 第三都市。近代化の波に乗り遅れたかのような古めかしい、あえて言うならば現代(リアル)風の建築物が並ぶ街道は舗装されているが凹凸が激しい。

 そんな中を一台のセダンが、風化によるサビ色が目立つ立体駐車場へ入っていく。


<お久しぶりですね。アルトリアさん。それで、ご用件はなんでしょうか?>


 立体駐車場の三階、ちょうど壁に囲まれ外からは伺うことができない場所へ車を止めると件の【逃がし屋】へ連絡を取った。

 秘匿通信(チャット)で音声処理された機械的な声が、丁寧にアルトリアに問いかけてきた。音声のみ(サウンドオンリー)のため性別も名前も分からないが、【逃がし屋】はプレーヤーだった。


「至急逃がしてほしい人物がいるのだけれど」

<具体的な目的地とその方の情報を伺っても?>

「目的地は、ファリスの外宇宙ステーション『アリエスⅡ』の457号ドック。送ってほしいのは指名手配犯ドナルド・レーガンよ」

「ちょ!!アルちゃん!?」


 二人の通信を、傍らで静かに聞いていたメイビスが小声で制止をかけた。

 しかし、アルトリアは、制止を無視して逆に喋るなとメイビスの口に指を当てる。

 こういう(やから)は、自分の身の安全が第一だ。下手に情報を隠して後で露見するよりも、包み隠さずとは言わないまでもある程度は開示しておく方がお互いに都合がいいとアルトリアは考えていた。


<ふむ。現在指名手配として一千万クレジットの手配金が付いていますね。つまりそれ以上の報酬をいただけると考えてもよろしいですか?>

「えぇ。諸費用は別で、千五百万クレジット。これでどう?」

<わかりました。ではレーガンさんを『アリエスⅡ』へお送りする手段を提供します。報酬は前払いで七百万クレジット、レーガンさんが無事に辿り着いた場合に八百万クレジットと経費を口座に振り込んでいただきます>


 すぐにメールが届いた。アルトリアは秘匿通信(チャット)とは別のウィンドウを開き、メールに記載されていた口座番号をタップして七百万クレジットを振り込んだ。


<……振り込みを確認しました。では、そうですね。車に乗っていらっしゃるようですし、しばらくドライブでもしていてください。今から30分後。もちろんゲーム内時間ですが、こちらのポイントまで来ていただければ、宇宙(ソラ)へ上がる手段を準備いたします>

「わかった」


 ウィンドウを閉じて、セダンのエンジンをかけるとドナルド・レーガンがアルトリアに聞いた。


「アルトリアさん。【逃がし屋】の方と親しげでしたが、お知り合いですか?」

「うーん……。以前、私がへまをやらかした時に世話になったの」 


 正直あまり思い出したくない話だったので、苦虫を噛み潰したような顔でアルトリアは答えた。

 それを察したのか、メイビスが話題を変えた。


「でも、私たち車に乗っているって言ってなかったようね?なんでわかったのかな?」

「まぁ、何かしらの情報網を持っているんでしょ」

 

 【逃がし屋】は【情報屋】と非常に親密で、いかなる星系でも瞬時に情報を収集できるだけの情報網を持っている。依頼者がどこの誰で、現在位置はどこかなど確実に把握しているはずだ。最もそれぐらいの能力が無ければ【逃がし屋】として成功することは難しいのだが。


 ◇


 指定されたポイントは、宇宙ソラへ届ける貨物の集積場だった。駐車場からは凡そ十分で着く。

 しかし、【逃がし屋】に第三都市を回っていろと指示されていたので、アルトリアは比較的安全である第三都市の中央通を遠回りして進むことにした。

 片側三車線の道路には、プレーヤーの乗用車や装甲車、大きな対艦ミサイルを牽引するNPCのトレーラーなどが行き交いが激しい。アルトリアは、目立たないように混雑する車列の中にセダンを紛れ込ませた。


「あ!!アルちゃんあれ何!?」

「なに?あぁ、あれはロボット」


 メイビスが指さす先には歩道をコロコロと進むバスケットボールのような物があった。鈍い銀色でコーティングされたボールは、まるで意志があるように器用に人ごみを避けて、人間が走るぐらいの速度で転がっていた。

 このボールは、警備ロボットで治安を維持するためPK(プレーヤーキル)の多い第三都市には多く設置されている。

 ボールの中心には、ボディを一周するようにスリットがあり、単眼レンズのカメラが装備されいる。このため、ボディが高速で回転していてもカメラが常に前方を見続け、人にぶつかることがないのだ。


「あんまり目立つことはしないでね。彼の事がばれると面倒だから」


 先ほどシャトルに乗っている時にメイビスをいろいろ脅したが、別に第三都市にいるすべてのプレーヤーが敵なわけではない。ただ、比較的PK(プレーヤーキル)を好むプレーヤーが多く、殺害(キル)することが禁止されていない区域なのだ。


 だからデスペナルティが惜しくなければ、立ち入るのは問題はないし、犯罪紛いの依頼が多い闇ミッションや時折混じっている面白い内容の依頼(ユニーク・ミッション)等、リスクの高い依頼を受けるのも良い。

 コアなプレーヤーになるとそれだけのために、何回も死に戻りする者もいるくらいだ。それらの事を理解していれば問題ない。


 ないのだが、新兵(ルーキー)はそれを知らない。そのため、【詐欺師】や【マフィア】に捕まってキルされると理不尽だとトラブルになる。


 そのためロボットがプレーヤー同士のトラブルを解決する管理者の役割を任っている。また、ゲームとはいえあまりにも酷いプレーをした場合は、即ゲームマスターに連絡が行き、アカウントを抹消されることもある。

 あくまでゲーム内で許される範囲までの犯罪しかできないようになっている。


「はーい。わかりましたよ」


 メイビスの気の抜けた返事をすると十字路の前方の信号が赤に変わる。


「ん?あれは何?あれも警備ロボット?」


 また何か見つけたのだろうか、ふと上空を見つめていた、メイビスが指先をフロントガラスに向けた。

 

「今度は何?」


 アルトリアもつられて上空を見上げるとⅹ型のボディに四つのプロペラ、ボディの下に360度回転する複数のカメラを搭載した無人機(ドローン)がゆっくりと飛行していた。


 無人機は、3mぐらいの高さを飛びながらカメラを一台一台の車に向けて撮影していた。


 複数いたドローンの内一機がアルトリアたちの乗ったセダンをとらえると、ウゥー!!と激しいサイレンを鳴らし始めた。

 横を見てみると、運転席と助手席の間からドナルド・レーガンが少し顔を出していた。


「バッカ!!」

「ご、御免なさい!!」


 アルトリアは、慌ててクラッチを入れてアクセルを踏み込んだ。エンジンが高鳴り、勢いよく回転した後輪が路面との摩擦で白煙を巻き上げる。

 信号を無視して走りこんできたセダンに、青信号で前進していた乗用車が急ブレーキをかけ後続車と衝突したり、横に避けようとしたトレーラーが横転する等まさに大惨事の様子を呈していた。


「なんかすごい事になってるけど!?」


 メイビスが通り抜けた十字路を見ながら叫んだが、アルトリアに返事を返す余裕はなかった。乱雑にブレーキを掛けながら、次々にギアチェンジして加速していく。すでに時速120㎞を超えている。

 バックミラーで確認すると、先ほどの無人機が五月蠅いサイレンを鳴らしながら追尾してきている。

 あれは意外に移動速度が早いし、飛行するので障害物も関係ない。すぐ追いつかれる。


「メイビス!!レーガンさん!!これでドローンを撃ち落として!!」


 右手でハンドルを操りながら、左手でウィンドウを開き、アイテム欄から武器を実体化させ、ドナルド・レーガンには突撃銃(ライフル)、メイビスには拳銃(ハンドガン)を投げ渡す。

 すぐに、ドナルド・レーガンがマガジンを確認、ライフルのボルトを引いて初弾を装填して、サンルーフから上半身を乗り出し後ろのドローンへ銃口を向ける。


「くれぐれも、人には当てないでね!!ドローンはいくらでも壊していいけど、殺害(キル)すると手配度があがるから!!」

「わかりました」


 バンッ!!バンッ!!と二発の銃声が聞こえると五月蠅く鳴り響いていたサイレンが止み、地面に金属が衝突する音が聞こえた。

 車をよけるために蛇行運転している車上で的確に二機のドローンをそれぞれ一発の銃弾で撃墜したのだ。その様子をバックミラーで確認したアルトリアは、ヒュゥーと口笛を吹いた。


「さすが、【軍人】だね」

「お褒めいただき光栄の至り」


 少し速度を落とした車内に戻ってきたドナルド・レーガンが、言いなれた風にそう言ってアルトリアに向かってウィンクした。


「まったくできる人なのか、出来ない人なのか。どっちなのよッ!!と」

「そこの黒いセダン!!止まりなさい!!」


 ホッとしたのも束の間、撒いたと思ったのに今度は青と赤のライトを照らしたパトカーが四台追いかけてくる。どうやら【警官】プレーヤーもいるようで、真横に並んだパトカーから制止を呼びかける声が聞こえる。

 無論、ここで止まれば晴れた御用となり死亡した場合と同様ペナルティが発生するし、ミッションも失敗となる。


「メイビス!!パトカーのタイヤを撃って!!」

「で、でも」

「づべこべ言わず、さっさとする!!」

「は、はいッ!!」


 ドナルド・レーガンは再び、サンルーフから身を乗り出し後ろを追いかけてくるパトカーに発砲した。

 銃弾は的確にパトカーのエンジンに当たり、煙を噴き上げる。視界が利かなくなったパトカーは操作を誤り、中央分離帯に衝突し破片をまき散らしながら停車する。

 火は出ていないし、【警官】が衝突したパトカーのドアを蹴破って出てきたので、死亡してはいないのだろう。  


 同じようにメイビスは銃口を横にいるパトカーに向けてトリガーを引いた。


 ライフルに比べて、パンッ!!と甲高い音を鳴らして小口径の弾丸がタイヤに直撃し、数発外したが見る見るうちにタイヤから空気が抜けてズルズルになる。あの状態では走行は困難だろう。

 ゆっくりと遠ざかっていく。

 

「しつこいな!!」


 警察のプライドなのか、執念なのか執拗に追いかけてきていた残りの二台もドナルド・レーガンが的確な狙撃によって沈黙させられた。


 しかし、見晴らしのいい直線道路の数キロ先には、何台かのパトカー見えていた。アルトリアはサイドブレーキを引き、後輪を滑らせて90度ターンさせるとわき道に逸れて、迷路のように入り組んだ細い裏路地へ車を向かわせた。

 

 

お読みいただきありがとうございます。

感想を頂けますと作者が喜びます。

6/10 外宇宙交易ステーションの名称を『アリエスⅡ』へ変更しました。

3/29 修正 『あるぜんちん丸』→『あるぜんちな丸』

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