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第10話 ドナルド・レーガン

 

 ドナルド・レーガンの話を聞いたアルトリアは、無言でタブレットを取り出し警察の番号を入力した。


「ちょ、ちょっとまってください!!誤解なんです!!」


 ドナルド・レーガンは慌ててアルトリアの操作を中断させると、詳しい経緯を話し出した。


「私、実はある国の【軍人】なのですが、それを知ってから知らずか、先日から続けて起きている政府施設を狙った爆破テロの主犯として冤罪がかけられているのです。――――最も心当たりが無いわけではないのですが」

「心当たりがあるってことは、貴方も悪いことをしているわけでしょ?」

「そ、それは、そうなのですが」


 ドナルド•レーガンは、アルトリアの絶対零度のような冷めた目に萎縮した。


「ちなみに、何したの?」

「第三都市である物の密輸を」

「密輸?何の?」

「こ、高級ワインです。脱税するために軍の消耗品に紛れ込ませる予定になっていました」


 それを聞いたアルトリアは思わずあきれた。たかだか数百クレジットをちょろまかす筈が、いつの間にかテロリストとして指名手配。何ともあほらしい理由だった。

 しかし、笑ってばかりもいられない。どこかの軍人が爆破テロを行ったと知れたら、戦争の引き金になりかねない。


「戦争を回避するためにも、何とか本国へ向かわなければならないのです」

「なるほど。それで?『アリエスⅡ』へ行ったとして、そのあとどうするの?」

「何とかして、惑星ヤーゲルまで行きます」

「ヤーゲル?確かあそこにはレアメタル発掘のための鉱山が放棄してあったわね」

「えぇ。一度ファラリスを離脱した部下が迎えに来てくれる予定になっています」


 ヤーゲルは月くらいの大きさの惑星というよりも衛星と言った方がいいくらいに小さな星だ。その地下にはレーザー砲の銃身や配線などに使われるレアメタルが大量に埋蔵されていたのだが、すでに他のプレーヤーやNPCによって掘りつくされ、大規模な鉱山が残っているだけだ。


 ヤーゲルの地表はあちらこちらに大きな亀裂が入っているので隠れ蓑としてはもってこいだろう。


 そこまで話し終えると、アルトリアとメイビスの目の前にウィンドウが勝手に表示される。


―――ミッション。

 依頼:ドナルド・レーガン氏を警察や政府関係者に見つからぬようヤーゲルまで送り届ける。

 期間:二日以内


 受領しますか? Yes or No


「ほら来た。闇ミッションだよ。――――ちなみに、レーガンさん。報酬は何?」

「見たところ銀髪の御嬢さんは【軍人】さんですね。貴女には私の国の装備を格安で販売します。そちらの赤い髪の御嬢さんには、我が国との貿易権でどうでしょうか?」

「ふーん。装備ってたとえば『戦艦』とかでもいいの?」

「そ、それはさすがにぼり過ぎではないでしょうか。戦艦(バトルシップ)は無理ですが、防衛艦(フリゲート)ならなんとか」

「申し訳ないけど……」


 ドナルド・レーガンから説明を受けるとアルトリアは、Noを押そうとした。

 政府機関に目を付けられるリスクに対して、得られる報酬が少なすぎる。


「それでいいです!!私たちがお受けします!!」


 しかし、アルトリアが返事をするよりも早く、メイビスが了承してしまった。

 

「本当ですか!!ありがとう!!」


 感極まったドナルド・レーガンが、メイビスの両手を強く握って上下に激しく振った。

 その隣でアルトリアは深いため息とともに頭を抱えていた。

 メイビスは損得で動くような人間ではない。困っている人間を見捨てられないことも知っている。

 だからある程度こうなる事を予想していたアルトリアは、渋々ミッションを認証してもう一度深いため息をついた。



「それで具体的にどうするかだけど。この際、レーガンさんの話が嘘かホントかは置いておいて、メイビスは何も考えてないでしょ?」

「ごめんなさい。つい」


 アルトリアからの非難の視線に、耐えかねたメイビスが頭を下げて両手を合わせて謝る。  

 ドナルド・レーガンを送り届けるヤーゲルは、ファリス星系第10番惑星で、今いる第9惑星ファリスからは足の早い船なら一時間足らずで到着する。

 だが、そこに至るまで問題山積している。まず、シャトルを打ち上げるマスドライバーに行くためには政府関係者や警察、そしておそらく指名手配を見て捜索に参加するであろうプレーヤー、これらの目をかいくぐる必要がある。

 さらに、無事に辿り着けたとしても指名手配をされている人物がシャトルに乗れるはずがない。

 シャトルに乗るには、警戒されているであろうゲートを通らなければならず、身体検査は避けられない。


「さて、どうするかな」


 独り言をつぶやきながらアルトリアはウィンドウを開き、副長へ連絡する。


<はい。どうしましたか船長?>

「あ、副長。一応駆逐艦の引き継ぎは完了したよ」

<ありがとうございます>

「でさ、お願いがあるんだけど」

<駆逐艦の搭乗員のデーターでしたらすでにまとめてありますが?>

「ホント?じゃそれすぐ送って。それとはまた別件なんだけどさ、ちょっと調べてほしい事があるんだけど。ここ数日、指名手配されている手配者リストと第一都市の爆破テロの情報を集めてくれない?」

<指名手配者リストと爆破テロの情報ですか?>

「そう。かなり面倒なことにメイビスが首を突っ込んじゃってね。できればすぐにお願い」

<わかりました。五分ほどお待ちください>

「お願い。――――これで良しと」


 通信を切ると、今度はメイビスにクレジットをカードにチャージして手渡しながら指示を出す。


「メイビスは、これで車をレンタルしてきて。車種は問わないけど窓が見えない黒ガラスのをお願い」

「わかった」


 先ほどまで激しく降っていた雨も止んで、だんだんと人通りも多くなってきている。此処には、監視カメラらしきものはないが、立ち話をしているよりも車の中にいたほうがまだ見つかりずらいだろう。

 メイビスがすぐ先のレンタル店へ向かうと、アルトリアはドナルド・レーガンを路地の奥へ誘導する。 


「さて、後は副長からの報告待ちか」


 その時ピロン!という音と共にウィンドウが開く。

 送られてきたのは駆逐艦の搭乗員百五十名のアビリティが記載されているリストだった。

 ソラハシャのNPCには、わかりやすいようにアビリティという能力値が設定されている。

 アビリティとは、NPCの適性を示すための指標で、S~Fまでの七段階にクラス分けされている。

 また、総合ランクがSに近いほうが優秀なのだ。


 一応アルトリアも『あるぜんちな丸』の乗務員の能力は確認しているが、軍艦ではないので艦橋の乗務員の能力ぐらいしか確認しなかったし、必要もなかった。しかし戦闘艦の搭乗員とっては、アビリティこそが生死を分ける程に重要な物なのだ。


「大体は、適切に割り振られているね」


 記載内容を確認しながら、アルトリアはところどころ配置を変えていく。特に20.3㎝砲を積んでいた船体中央部に集中的に技能能力の高いNPCやダメージコントロールのアビリティを持ったNPCが配備されていたため、それを艦全体に分散させる。


「しっかし、ほんとうに見事までに海賊能力パイレーツ・アビリティだね」


 NPCのアビリティは雇い主のプレーヤーの職業に大きく影響される。特に戦闘関係の部署はそれが顕著だ。

 たとえば、第一砲塔に配属されているNPCだと


 NPC №108 職業:【海賊】

 総合:ランクC

 能力(アビリティ):【砲撃】B【距離測定】A【略奪】C【装備破壊】E


 となっている。【砲撃】と【距離測定】のアビリティはその名の通り、そのNPCが操作する砲塔の精度を上げることができる。共にランクが高いため、適切な指示を与えればその真価を発揮することだろう。

 しかし【略奪】と【装備破壊】は、正直邪魔でしかない。

 この二つは、海賊特有のもので敵船に乗り込み船内を制圧する特殊部隊で活躍できるアビリティだ。しかし、見る限り砲撃関係のアビリティよりも能力は低い。その為、必然的に砲塔に配置となり敵船に乗り込むことはないからアビリティを発揮する機会もない。


「なんでこんな教育をしたんだろ?」


 NPCのアビリティは、プレーヤーの職業とその教育で大きく姿を変える。恐らく、このNPCは雇われた直後は、突撃部隊として略奪任務を行っていたのだろうが、そのうち砲撃への適性がわかり配置換えされたのだろう。

 しかも、アビリティは消すことができず、最大四つまでしか覚えることができない。つまり、プレーヤーの教育方針が決まっていなかったために、本来の潜在能力を生かせない、可哀そうなNPCなのだ。


「これで良し」


 ちょうど配置換えを終えた時に、車をレンタルしてきたメイビスが路地へやってきた。


「借りてきたよ、アルちゃん」

「ありがとう。じゃ、レーガンさん乗って」


 黒塗りのセダンの後部座席にドナルド・レーガンを乗せると、アルトリアが運転席に、メイビスが助手席に座った。シートベルトをしたアルトリアは、セダンをゆっくり発進させると、大通りへとハンドルを切った。


「どこに向かうのですか?」

「第三都市。あそこなら、ここよりも見つかる可能性が減るからね」


 ドナルド・レーガンの質問にアルトリアがそう答えた。


 ◇

  

<船長。テロ事件の概要がわかりました>


 首都高速道路へ乗り込み、第三都市をめざし十分ほど走った頃に副長から連絡が入った。


<先日、政府官庁前で自動車に仕掛けられた爆弾が起爆し、三七名が損害を被りました。その内プレーヤーは十三名で、【アルテミス】の構成員とのことです。私的な見解ですが、恐らく現在の戦争状況を作り出した原因でしょう>

「たしかに、あそこは身内がやられると過剰に反応するからね……」


 【アルテミス】のクランマスターは、穏やかな人柄で『三大国トリニティ』のほかのマスターに比べてはるかに常識人だ。だが身内が理不尽にやられると、一切の躊躇もなく徹底的に相手を捻りつぶすまで止まらない。

 

<すでに、戦争状態は終結しているそうで、招集された艦隊はすでに解散して通常状態へ移ったそうです>


 そうなると警備が厳しくなるな、とアルトリアは難しい顔をした。


「わかった。ありがとう」

<いえ。では>

「……しょうがない。時間もないし、【逃がし屋】を頼るか」

「【逃がし屋】って誰?アルちゃん?」

「その名の通り、逃走するための手段や情報を準備してくれる人。クレジットさえ渡せば、逃がしてくれると思う」


 いったい幾ら掛かるかはわからないが、何とか外宇宙交易ステーション『アリエスⅡ』までいければいい。そこからは、『羽風』でもなんでも使って、ヤーゲルまで行けばいい。

 そう考えたアルトリアは、アクセルと吹かすと速度を上げて第三都市へ急いだ。

   

 読んでいただきありがとうございます。

 サブタイトル変更しました。2/8

 3/29 修正

 『あるぜんちん丸』→『あるぜんちな丸』

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