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第1話 ただいつもの戦場

初投稿です。よろしくお願いいたたします。

R2 8/28 誤字脱字等を訂正。文章も少し変更していますが内容は同じです。

 真っ暗な闇の中に一つ、ほのかに光る花が一輪咲いた。

 ほんの瞬きをするほどの時間、花は暗闇の世界を明るく照らし出すと儚く(はかなく)消えていく。

 暗闇の世界、広大な宇宙から見れば、それは小さな花だったが一輪が咲き開くために何百人か、或は何千人かの戦闘員(プレーヤー)の命が飲み込まれていった。


 広大な宇宙空間に咲く花は、破壊と死の印。


 再び暗闇の世界に大きな花が咲く。


 先ほどよりも大きなそれは、戦艦が自身のプラズマ動力炉を暴走させ内側から破裂したのだろうか?

 あるいは腹に大量の弾薬を詰め込んだ補給船が、敵の攻撃を(かわ)すことができず無慈悲にハチの巣のように穴だらけにされて宇宙の藻屑もくずとなったのだろうか?


 ちっぽけな戦場という名の花壇は、今日も果てしない犠牲者を糧に満開の花を咲かせていた。


 ◇


 彼女は宇宙(そら)を飛んでいた。


 それも視界に入りきらないほど、母星が迫る大気圏すれすれの場所を飛んでいた。

 少しでも気を抜いたら重力にとらわれ、哀れな人間など抗う術もなく大気摩擦によって一瞬で燃え尽きてしまうだろう。


 しかし、彼女にそんな些細な事に構っている余裕はなかった。

 彼女の乗っている宇宙飛行機の横を、青く輝く光が何本もかすめていった。


 目線で追えないほど高速な光は、一瞬で見えないところまで行きその先で小さな花を咲かせた。

 そして呼応するように、正面から倍以上の数の光が戻ってくる。


 光の正体は高出力のレーザーや電磁加速弾(レールガン)だった。 


 敵駆逐艦(くちくかん)から発射された電磁加速弾やレーザーが、彼女の乗る機体を掠めていき後方で炸裂した。 

 飛来した電磁加速弾は比較的小口径の砲で、戦艦に命中しても跳ね返される程度の威力しか持ってはいないが、彼女の乗るような小型の宇宙飛行機を撃墜するには十分だった。


 ◇


<おい、ブルー3!アルトリアッ!あぶねぇーぞ、離れろ!!>

 

 通信機が反応し、隣を飛んでいる味方機パイロットの声が聞こえる。


「大丈夫ですよ!」


 元気よく返事をした彼女は、忠告を無視して勢いよく操縦桿を引いた。

 呼応するように小型の燃焼エンジンが推進力を後ろへと吐き出して、機体を前へ前へと進めていく。


 彼女の名前はアルトリア。

 現在のコールサインはブルー3。


 そして彼女が駆る機体は『96式艦上攻撃機』。通称『96式艦攻』だ。

 純白のボディに尾翼の青いラインマーク。

 尾翼の下のノズルから燃費の悪い燃焼エンジンが赤い炎を吐き出している。旧式の機体ではあるが、このエンジンのおかげで優秀な回避能力を獲得していた。

 

 そんな『96式艦上攻撃機』最大の武器は腹に吊り下げている対艦兵装、通称『魚雷』だ。

 と言っても、見た目はどこから見てもミサイルであり、宇宙空間で海でもないのに魚雷というのもおかしな話だとアルトリアは思っていた。

 しかし艦上攻撃機とは、そういうものだと周りから言われては納得するしかない。


 アルトリアの役目は、この巡洋艦以下の艦艇であれば一撃で葬り去る凶悪なプレゼントを敵艦まで運ぶことだった。


 計器(レーダー)を確認すると、もう間もなく敵艦が射程圏内に入る事を示していた。

 ヘルメットのバイザー越しで、周囲からは彼女の顔を伺うことはできなかったが満面の笑みへと変わっていった。

 

 艦上攻撃機の華はいかにして巨大な(ふね)を仕留めるかであり、魚雷を撃つため敵艦へ近づくこの時間こそ最も緊張する時間でもあった。

 

 あと、数千キロ。

 そこまで行けば、もう逃がすことはない。


 その時を今か今かと待ち望んでいるところに、アルトリアが所属する”第二十七航空隊”の隊長機から通信が入る。


<こちらレッドリーダー!!敵戦闘機の防御が分厚く、突入困難!!各機任意に離脱せよ!!>


 それは、攻撃中止の命令だった。


「はぁ!?ここで撤退ですか!?」


 それを聞いた彼女は思わず、言い返していた


<ブルー3!言いたいことはわかるが、敵さんの砲火は尋常じゃないって!!やっこさん新型機を持って来てやがる!!>

「しかし!!」

<それにこっちの戦闘機は十八機だぜ!?これじゃブルー隊の安全が確保できねぇ> 


 ”第二十七航空隊”は『96式艦上攻撃機』四編隊十六機を有するブルー隊とそれを護衛する『零式艦上戦闘機』九編隊三十六機のレッド隊で編成されている。

 指揮を執るレッドリーダーは熟練戦闘機乗りで信頼のおける人物ではあったが、今の指示に彼女は従うことはできなかった。

 

 ここで攻撃機による雷撃を成功させなくてはこの戦いに勝ち目はない。例え全滅しようとも一撃を入れなければ、ここに来るまでに犠牲になった仲間たちに顔向けができない。


「なんとかなりませんか、レッドリーダーッ!この機会を逃すと二度と近づけませんよ!」

<だがなぁ……>


 会話をしながらも、レッド隊はブルー隊へハイエナのように群がっていく敵戦闘機とドッグファイトを繰り広げている。

 見てる間に一機の『零式艦上戦闘機』が敵戦闘機のレーザー機銃にエンジンを撃たれ、離脱することも叶わず爆散した。


<ブルーリーダーよりレッドリーダー。雷撃部隊を切り離そう。ここまで運んでもらえればもう護衛は必要ない>


 言い合いをしていたアルトリアとレッドリーダーの間に、ブルー隊を率いるブルーリーダーの声が割って入る。


「お願いします!」


 彼の言葉にアルトリアだけではなく、現在攻撃可能なブルー隊の全員から懇願する声が上がった。


<……Ok。わかった。だがなぁ、護衛は続けさせてもらうぜ。俺たちにも戦闘機乗りとしてのプライドがあるんだ>


 すると、観念したような苦笑交じりの声でレッドリーダーは承認した。


<感謝するレッドリーダー。ブルー隊各機聞いたな。エスコートはレッド隊が引き続きしてくれる。編隊を整えろ>

「了解!!」


 二人の編隊長の指示に”第二十七航空隊”の全機が、機首を敵艦隊へ向け再び突撃を開始した。


 敵も編隊の接近に気が付いたのか、対空砲が怒涛のように放たれ、目の前を弾丸やレーザーが覆い隠さんばかりに迫る。

 雷雨の如き対空砲火を、アルトリアはサイドスラスターを吹かして、上下左右にと次々回避していく。


 旧式とはいえ瞬発力の高い『96式艦上攻撃機』だからこそできる離れ業であり、並みの戦闘機では勢いが付きすぎて回避することはできなかっただろう。

 しかし、紙一重で(かわ)しているにすぎない。戦艦の大口径ビーム砲など近くを通っただけで、その莫大なエネルギーに巻き込まれそうになる。


<うわぁぁぁぁぁぁ―――――――>


 対空砲の回避に集中していると、唐突に無線に叫び声が入っり、すぐに聞こえなくなった。

 同時に機体のキャノピー越しに青い粒子が瞬いたと思うと、隣を飛んでいたはずのブルー8の機体が爆発四散した。


 恐らく戦艦の高エネルギーレーザー砲を回避しようとして、飛来した対空ミサイルの直撃を受けたのだろう。先ほどアルトリアを気にかけてくれたブルー8は脱出も叶わないまま、爆発の渦に飲み込まれていった。


<下方より敵機多数!!>


 感傷に浸る暇もなく飛んでくる警告に、アルトリアは慌てて機体を右に90度回転(ロール)させた。すると主翼同士が擦れそうなぐらいの距離でミディアムブルーの機体、戦闘機『ワイルドキャット』がすり抜けて行った。


 恐らく敵艦隊の機動部隊から発艦したものだろう。


 ずんぐりむっくりの大柄なボディに係わらず、軽快なフットワークで上方に陣取った『ワイルドキャット』は垂直降下しながらレーザー機銃六基を斉射した。


 アルトリアは、再度スラスターで機体を縦に九十度ロールさせると、エンジンを最大まで引き絞り、今までの進行方向から真横に避けることで敵の予想射撃を回避した。

 しかし敵はあきらめることなくすぐに体制を立て直し追跡してくる。

 重い魚雷を積んで機動力の落ちた『96式艦上攻撃機』に、『ワイルドキャット』との航空戦闘(ドッグファイト)は到底不可能だ。

 結果、逃げ回るしか選択肢がない。


 護衛の『零式艦上戦闘機』はどこにいるのか。周辺を見渡すと『ワイルドキャット』と同時攻撃を仕掛けてきた戦闘機『バッファロー』と交戦しており、援護は期待できそうもなかった。


<ブルー3大丈夫か!?俺が何とかす―――――>

 

 追いかけられている彼女を僚機が掩護をしようとしたが、逆に後ろに捻りこまれレーザーを全身に浴びて撃墜されてしまう。 


 どんどん味方が数を減らしていく。さらに敵艦からの対空砲火も加わり、横を掠めていくたびに機体がガタガタと振動する。


 さすがに砲撃に巻き込まれることを恐れたのか『ワイルドキャット』が追撃を中止して離れていくと、アルトリアはすぐに機体を元のコースへと戻し、残存の味方編隊と合流した。

 しかし、たった一度の攻撃で味方機は三分の一まで減少していた。 

 

 その時、

<目標補足、ペンシルバニア級戦艦ッ!各機突入!>

 

 敵艦が射程圏内に入り、ブルーリーダーからの突撃命令が下る。

 

 右斜め前を飛んでいたブルーリーダーの機体がアフターバーナーに点火し、真直ぐ敵戦艦の右舷へ突撃していく。それに遅れまいとアルトリアもスロットルを叩きこむ。燃焼エンジンを全開にし、苛烈になった対空レーザーとミサイルの間を縫うように全速で突撃した。


 あと数秒。そう思い発射ボタンに手をかけた時、急な警告音がコックピット内に響きわたる。

 

 後ろを確認するといつの間にか『ワイルドキャット』が迫っていた。

 奴らは撤退したのではなく、敵艦へ注意を向けて周囲への警戒が散漫になるこの瞬間を待っていたのだ。


 操縦桿を切ろうにも、敵のパイロットが見えそうなほどの近距離に接近されていたため、今更回避するのは不可能だった。

 アルトリアは思わず目をつぶり死を覚悟した。


 しかし『ワイルドキャット』から放たれたレーザーが機体へ届くことはなかった。

 アルトリアがハチの巣にされる事も火だるまになる事もなかった。


<やらせるかぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――>


 上方から、黒煙を吐きながら急降下してきたレッドリーダーの『零式艦上戦闘機』が、『ワイルドキャット』のコックピットをレーザー機銃で貫いて撃墜したからだ。


<ミサイル射出!!全速離脱!!>


 『零式艦上戦闘機』が『ワイルドキャット』を抑えているその間に、敵艦へ肉薄した攻撃隊は魚雷を射出していく。

 慌ててアルトリアも魚雷を発射と同時に機首を上げバーニアを最大にして、敵艦の艦橋を擦るようにして離脱する。

 無事射出を確認した魚雷は三本。それらは真っ直ぐ敵戦艦の左舷に向かっていく。本来なら戦果を確認するところだが、このまま留まれば随伴艦からの対空射撃に(さら)される。

 

 一先ず、一定の成果は果たせただろう。

 敵艦が派手に爆発して撃沈される様を見れなかった事を、少し残念に思いながらもブルーリーダーに続いて離脱した。


 ◇


<各機。状況報告>


 戦闘宇宙域を離脱したのち、指定のポイントで集結した”第二十七航空隊”をブルーリーダーが落ち着いた声で点呼を取った。


<ブルー9。被弾によるエンジントラブルで飛行不能です>

<レッド18。機はほぼ無事ですが、自分が被弾により負傷。帰投は困難と思われます>

「ブルー3。何とか生き残ってます」


 アルトリアが報告した後に続く者はいなかった。


「……たったこれだけ?レッドリーダーは?」


 アルトリアはレッドリーダーの『零式艦上戦闘機』を探して、周囲へ視線を走らせるが四人以外の機体は見当たらない。

 ”第二十七航空隊”四十八機の内、辿り着いたのはたったの四機。しかも、そのうち二機は航行すらままならない状態で、無事な機体は『96式艦上攻撃機』二機だけという壊滅といってもいい被害だった。

 再度攻撃を仕掛けることはもうできないだろう。 


<これ以上の待機は意味がない。母艦に帰投する。レッド18とブルー9の機体は破棄。二人は私とブルー3の機体に分譲す―――>

<て、敵襲!!>


 無情にも時間は過ぎていき、タイムリミットとなった。

 唖然とするアルトリア達パイロットたちへ、ブルーリーダーが帰投命令を出した。

 その時、警報音と共に誰かがが叫んだ。

 飛来したレーザーが、身動きの取れないレッド18の機体に直撃し激しい爆発を巻き起こした。


「いったいどこから!?」

<直上だ!!>


 敵機の判別すらままならないまま、襲撃は続く。

 レッド18の『零式艦上戦闘機』が爆発により弾け飛び、破片がブルー9の機体に直撃した。

 エンジントラブルで燃料が漏れだしていたのか、機体が莫大な熱量を放出しながら燃え上がる。

 アルトリアは脱出を試みるパイロットに向かって腕を伸ばしたが、瞬く間にコックピットは炎に包まれブルー9は火だるまと化した。


 助からないと判断したアルトリアは、キャノピーを閉じて回避運動のため操縦桿を握る。

 しかし、判断が遅かった。

 敵のレーザーが『96式艦上攻撃機』のエンジンを貫通し燃料槽まで到達。レザーによって中の燃料が発火、爆発したのだ。


 視界のホワイトアウト。一瞬の灼熱。そして死。


 アルトリアは爆発の渦と共に、コックピットを狙って撃たれたレーザーの熱量によって痛みを感じる間もなく一瞬にして掻き消えた。

お読みくださりありがとうございます。

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