僕は消しゴム
まだ新品の消しゴム君は悩んでいます。
「はぁ……僕、角から使われちゃうのかなぁ」
普段から愚痴ばっかりの消しゴム君の持ち主、裕三君。
あだ名はもちろん愚っ知裕三。
教室に入ると今日もお友達からからかわれています。
「おい、ぐっちぃー。今日はモトと一緒じゃないのか?
ベヒャヒャヒャヒャ」
でもそこは裕三くん、こんなことを言われたくらいで
へこたれたりなんかはしません。
「君、そんなこと言ってるけど、君の家には核シェルターは
あるのかい?」
「核シェルターなんかねぇよ、バーカ」
それを聞いて裕三君ご自慢のエッジの効いた眼鏡が光ります。
「君は僕がバカと言う奴がバカだと言うと思っているだろう。
だけどそんなことは見抜いているんだ……。
そう、バカと言われて、バカと言う奴がバカだって
言い返すそのやりとりすら僕の前では無意味なのさ」
それを聞いたからかいっ子達、
「へ、平成のヤングノストラダムスだ〜!!」
驚いて目を丸くしそう言うと
その場を万歳して逃げて行きました。
「はぁ、全くこれだもんなぁ」
裕三君は少しずり落ち気味の半ズボンをつま先立ちで
クイッと上げ、自分の席に座りました。
「今日の授業は国語、算数、自習、道徳、社会か」
さすが裕三君、授業の確認もバッチリです。
机に出された筆箱の中でそれを聞いていた消しゴム君が
したり顔で言いました。
「略して国産自動車だね!!」
消しゴム君の言葉は誰にも届きませんでした。
「はぁ、裕三君……角は残しておいてね。
僕、角がないと丸みを帯びちゃって
白くシャープなボディが保てないんだ」
裕三君は消しゴム君がそんなことを言っているとは
つゆ知らず、筆箱から消しゴム君を取り出しました。
「やっぱり新しい消しゴムはいいな。この尖ったツンと
した感じ、シロガネーゼみたいだ」
少し照れくさそうな消しゴム君ですが、どうやら
まんざらでもないようです。
「もう、裕三君ったら、そんな言葉で僕はなびかないよっ」
じっと消しゴム君を見つめる裕三君。
「な、なによ……なびいたりしないんだから……」
あれあれ?いつの間にか消しゴム君から消しゴムちゃんに
変わっちゃったのかな?
消しゴム君の表面が微妙に赤みを帯びてくるようです。
「てれてなんかいないんだからっ!!」
そんな消しゴム君の一人芝居は当然誰の目にも
留まりません。
「そうだ!!」
おや?裕三君が何かをひらめいたようです。
「今は4つしかないこの尖がり、半分にすれば8つで
にばいにばーいだぞ!!」
「なにぃぃぃ!?」
消しゴム君の表情が一気に青ざめます。
どうやら角を使われるかどうかの心配をすることすら
クリエイティブな裕三君の前では無意味だったようです。
「や、やめて〜!!ヘゥプ!!ヘゥプ!!」
まるでメイドインUSAかのような素晴らしい発音で
助けを請う消しゴム君。
残念ながらそのヘゥプを求める声は誰にも届きません。
カバーを脱がされる消しゴム君。
見上げれば定規が!!
「ヘ、ヘゥ……プ……」
「お兄ちゃん!!」
その声で意識を取り戻した消しゴム君、声の方向を見ると
もう半分の元消しゴム君が元気に笑っています。
そうです、消しゴム君の半分は新たな消しゴム君として
この世に生を授かったのです。
それを見た消しゴム君は思わず叫んでしまいました。
「兄弟できたー!!」