携帯電話
ただの読書好きです。今回初めて小説を投稿します。読みにくい場所が多々あると思いますが、最後まで読んでくれたら嬉しいです。
雲一つない青空が広がる。歩道に映る影さえも焼けそうな暑さだ。高校三年生は何をやるにも受験という文字がついてきてしまう。夏休み初日から私は「受験対策夏期講習」を受けるために学校へ向かっていた。母から借りた携帯で時刻を確認しながら歩いていたら、急に画面が真っ暗になってしまった。
「またフリーズか…」
母から携帯電話を借りるようになったのはついこの間からのことで、私は自分の携帯電話を壊してしまったのだ。詳しく言えば、乱暴に扱っていたわけでもないし、風呂場に持ち込んだりもしていなかった。今は修理に出しているが、友達からメールが来ていないかとても心配だ。
チャイムの音と同時に席に着き、隣の席の真里菜が声をかけてきた。
「ちょっとお、メール見なかったでしょ」
そう、私はこれを心配していたんだよ。
「ごめん、ちょっと壊しちゃって今修理中なの」
「まあ、千波が見なくても私は困らないんだけど、今日は教科書を持って来いって。昨日千波が先に帰っちゃったでしょ。あの後先生が言いに来たのよ。持ってないでしょ? 見せてあげる」
真里菜に言われたとおり、私は自分の席を真里菜の席にくっつけた。先生の声と外の蝉の鳴き声が教室中に響く。横目で気付かれないように美里奈の横顔を見る。真夏で肌の焼けたクラスメイト達の中で、ひときわ目立つ色白で、この学年では一番の美人だ。シャンプーの香りと汗の匂いの混ざった黒髪が、窓から入ってくる爽やかな風できらきらとなびく。
来るときよりも気温がさらに上昇して、一つ先の信号機でさえも蜃気楼で歪んで見える。おそろいのタンクトップを着た二人の小学生が私と真里菜の間を走って通りぬけて行った。真里菜が私の携帯電話を見ながら、笑い交じりの声で言った。
「急に壊れちゃうなんて変じゃない? 」
真里菜が私を馬鹿にするなんて珍しい。
「私だって壊したくて壊した訳じゃないよ。何か変な能力持ってたりするかな。ああおかしい」
「そういう能力あるかもよ」
急に涼しくなる街路樹の陰で、真里菜の顔が一瞬真剣になったような気がした。
「アイス買ってこうよ」
調子を戻した真里菜が自分の鞄から財布を取り出した。すぐそこに歪んでいるコンビニエンスストアが見えた。店の中は外との気温差でお腹が痛くなりそうなほどの涼しさだ。真里菜がクーラーボックスの中の一番安い棒アイスをとった。女子高生というものはいつでもお金が無くて困る。私も真里菜と同じ棒アイスをとりレジに並んだ。レジの店員が私のアイスを手にとりレジにかざす。その瞬間キーンという耳鳴りが私を襲った。
「おかしいな…」
耳鳴りはすぐに止んだが、レジを済ませ雑誌コーナーで待っていた真里菜がそれに気づいて駆け寄ってきた。
「ねえちょっと大丈夫? 」
「うん、もう治ったよ」
今日はなんだか少しおかしいなと思いながら、十字路で真里菜と別れた。家に帰ると母が真っ白なそうめんを茹でていた。
「千波、ちょっと携帯電話返してちょうだい」
私は自分の鞄の中から携帯電話を出し、母に渡した。午後も真里菜と会う約束をしている。テレビをつけると、いつもお昼にやっている番組が夏休み仕様になっていた。
「ねえちょっと千波」
母に呼ばれて振り返ると、母の持っている携帯電話は画面が真っ暗だった。
携帯は壊れていた。