第8話「さくらの事情」
第8話「さくらの事情」
沙月も彩花も達也の発言に対して文句を言うことなく頷く。それを見てさくらはしどろもどろになりながらその理由を尋ねた。
「俺たちが勝手にやったことだ。それ以上もそれ以下もない。第一、借金取りに追われているんだろ? どうやって返すつもりなんだよ」
「え……どうしてそれを……」
「病院の外には黒服がたくさんいたが、俺たちはこうしてご飯を食べることができた。どうしてだと思う?」
「え……えと……走って来たとか?」
「違う違う。追い払って来たんだよ」
「追い払ってって……そんな、まさか……」
「本当のことですよ。私の力にかかれば、あの程度朝飯前です」
「お前は皿を拭いていろ。余計な口を出すんじゃない」
台所から顔を出した一誠は、貴明に掴まれ引っ込む。そのやり取りが余りにも不毛だったためか、沙月は苛立ちながら質問を投げかけた。
「……で、さくらが背負う借金の額とその原因。それから家族や親戚の行方、そして家の住所と電話番号を教えなさい」
「沙月、それはいくら何でも急すぎるよ? さくらにだって言い難いことがあるだろうし、無理に介入しなくても……」
「えと……借金の額は……5億円です」
その言葉に、その場にいた誰もが凍りついた。数百万程度なら現実味もあるが、桁が余りにも予想の斜め上過ぎたのだ。
「ごめんなさい! だからお礼はこのくらいしか……」
「……5億円、ですか。原因をお聞かせ願えないでしょうか?」
いつの間にか片付けを終えていたのか、男2人組も座って話に参加していた。
「何だ、お前ほどの男でも億単位になると違うのか?」
「当たり前です。そんな非現実的な金額を請求してどうなるといのです? 払えると本気で思っているのですか?」
「ま、それもそうだ。俺ですら数千万がやっとだった。余程の大企業でも無ければ……」
「この廃車寸前のオンボロ野郎どもが。ブレーキが焼き切れているなら、スクラップにしてもいいかしらね?」
沙月の罵声で貴明と一誠の2人は静まり、一同の視線がさくらに集中する。さくらはまた口足らずな話し方で続きを説明した。
「原因は……親の借金です。私もどうしてそうなったのかはわかりませんが……」
「その……ご両親はどうしたんだ?」
達也の質問にさくらは目を伏せて首を振る。
「だから……私に支払い義務が発生しているのかと」
「不躾ですが、重要なことなので聞かせて下さい。遺産相続はされたのですか?」
「え……? あ、はい。そうしないと住む家が無くなってしまうとのことでしたので……」
「何か借金を証明する書類はお持ちですか?」
「あ、はい。えっと……これです」
さくらはこちらも可愛らしいウサギのリュックから1枚の紙を取り出し、一誠に手渡す。
「……これは……正式なものですね。こうなってしまっては、仮に向こうが詐欺まがいのことをしていたとしても、支払い義務があります」
「一誠が言うなら間違いないな。それで、家の方は?」
「……差し押さえられました。このリュックと財布、それから少しのお金だけは持たせてくれたんですけど……」
「……静かに。さくらはテーブルの下に隠れて」
突然、窓の外を見た沙月はそう言って、さくらをテーブルの下に押し込めた。