第7話「さくらという子」
第7話「さくらという子」
少女は当然のことながら事態を把握できないのだろう。5人の顔を見て、自分の手を見て、自分の体をあちこち触り始める。
「……怪我が……手当してある?」
「俺のこと覚えてないか? 道路で倒れていたのを病院に連れて行ったんだよ」
そう言う達也の顔を少女はじっと見つめ、何かを思い出したのか土下座して頭を床にたたきつける。
「ご……ご、ごめんなさい! 手を煩わせてしまって……本当にごめんなさい!」
「い……いいって、別に。それよりも腹は減ってないか?」
「……え?」
少女はようやく美味しそうな匂いに気付いたのか、ゆっくりと顔を食卓の方へ向ける。湯気の上がる野菜たっぷりの鍋、目玉焼き、白いご飯。それを見た少女のお腹から大きな音がする。
「え……ですが、えっと……あの、そもそもここは……いいえ、それよりも」
「いいから座って食べなさい! 栄養付けないと成長できないわよ!」
「は……はい!」
沙月に怒鳴られ、少女は飛び上がってテーブルの一角に着く。その手は震えていて、上手く箸を掴めないでいた。
「別に毒とかは入っていない。何なら俺たちから食べて見せるから……」
「い……いえいえ! 私はそんなこと思っていません! ただ……その……申し訳なくて……」
「鶏頭! いいから早く箸を持ちなさい!」
「はい! えと……いただきます」
それ見て沙月は微笑み、それに続いた。
「いただきます」
「いただきまーす!」
一同もそれに続き、少し遅い昼食となる。最初のうちはおずおずと箸を伸ばしていた少女は、沙月によって器を野菜でてんこ盛りにされ、戸惑いながらも全部平らげていく。卵焼きにも美味しそうに口を付け、ご飯を米一粒残すことなく食べると、満足そうにお腹を擦った。
「食べ過ぎたか?」
「は……はい、お恥ずかしながら……」
「片付けは私がやりますよ。談笑でもしていて下さい」
「俺も手伝おう。沙月に言わせれば、俺たちは犯罪者予備軍だからな」
「はは……私は完璧に犯罪者ですよ」
そして部屋には達也、沙月、彩花と少女が残される。少女は助けてくれたことと食事についてお礼を言ってから自己紹介を始めた。
「私はさくらと言います。この前まで……その、中学生でした」
さくらは身長が140~150センチ程度で、小学生かと思っていた達也は思わず声を出して驚く。慣れっこなのか、さくらは苦笑いしながら先を続ける。
「それで……えと、お金のことですけど……これくらいしか無くて……。あ、必ず払います! だから少しだけ待って下さい!」
さくらは小学校低学年の子が持っているようながま口の財布を取り出し中身を床にばらまく。可愛らしいパンダの口から出て来た金額は合計で数百円。さくらはまた地面に頭を擦り付ける。
「病院代とか、食事代とか、お手数をかけたことへのお礼とか……かなりの金額になることはわかっています! でもいつか必ず……」
「いらないよ」
「……はい?」
その達也の言葉に、さくらは恐る恐るといった様子で顔を上げた。