第6話「眠り姫が目を覚ます」
第6話「眠り姫が目を覚ます」
6人は狭い六畳の部屋に無理やり入り暖を取っていた。テーブルや布団の類は全て押し入れに放り込み、やっとのことでスペースを確保している。
「あのー、どうして活躍したはずの私が押し入れなんでしょうか?」
「だって私に催眠術をかけたじゃん! その罰だよ、罰!」
「寒かったら俺が代わるぞ?」
「達也はそこに座ってなさい。この子が目を覚ましたら、不安がってパニックになるかもしれないんだから」
達也は眠っている少女の手を握り、一番暖に近い場所に腰を下ろしていた。冷え切った場所で膝を抱えている一誠からすれば天国のような場所なのだが、沙月に睨まれ二人とも萎縮する。
「ふ……ま、たまにはこういうのも悪くない」
貴明は頬杖を突きながらテレビを観ている。年末の特番しか入っていないのだが、何が面白いのかずっとそうして場所をキープしていた。
沙月はというと、窓の外を見て不審者がいないか目を凝らしている。窓際にテレビが置いてあるため、自然と貴明の隣に座る形になっていた。
「……冷え性になるぞ」
「……筋肉の塊が隣にいるんだもの。寒くなんてないわ」
「おい、達也。金は俺が出すから、暖を強めてくれ。寒くて敵わん」
気温も上がり始める昼過ぎ、誰かの腹の虫が鳴いて昼食の準備が始まる。料理ができるのは達也だけなのだが、事情が特殊ということで家庭科でも包丁を握らせて貰えない彩花が台所に立つ。
「いいですか、あなたは料理人です。プロではありませんが、家族のことを考えた温かいご飯を作れる人です。いいですね?」
今度は志願して彩花は一誠に催眠術をかけて貰っていた。やる気が出たのか、腕まくりをして調理器具を取り出し並べていく。
「だ……大丈夫かな?」
「ま……腹が膨れれば何でもいいさ。夜は達也のご飯だろうしな」
「あら、私は案外美味しくできると思うけど?」
「ふ……お前が言うならそうなんだろな」
「さて、どうかしらね」
卵が焼ける香りが漂い、達也の腹の虫が更にヒートアップする。それを見て沙月は苦笑いしながらビスケットを一袋差出した。
「……そういえば達也、昨日の夜から何も食べてないものね。ほら、ご褒美よ」
「いや、彩花の料理が待っているからな。これくらい我慢するさ」
「……犬」
「何だよ? どういう意味だよ犬って?」
「それくらい仲が良いってことよ」
「……飼い犬とも野犬とも言わないんだな。腹が鳴っても吠えない、衝動的にならないなら、よっぽど誇り高い犬種だ」
6人分ともなればそれなりに時間がかかるもので、1時間ほどで彩花の料理は終わった。なぜかやつれている一誠は誰よりも先に腰を下ろす。
「はぁ……かなり手強い相手でした」
包丁を持つとプロでもないのに軽快な音を立てて高速で切ろうとするので、ゆっくり使うことを美徳とする術をかける。常に火力は強火なので中火と弱火以外に存在しないという術をかける。調味料を次々と放り込もうとするので節約を意識させる術をかける……等、一誠の頑張りがあってこそのものだった。
そして全員が席に着いた時、美味しそうな匂いにつられたのか少女は目を覚ましたのである。