第4話「催眠術の力」
第4話「催眠術の力」
一誠の接近に気が付いた黒服の2人は身構え、威嚇するように怒鳴り散らす。
「何見てんだよ、てめぇは!」
「あのー……実は私、こういう物を渡して来いと言われましてね」
差し出された手に握られていたのは、綺麗に折り畳まれた1枚の紙切れだった。2人組のうち1人が訝しげにしながらそれを受け取り、開いて中を見る。
「何だこれ……」
「ほら、大切なことが書かれているでしょう? あなた方の上司が倒れた、と」
「ほ……本当だ……おい、すぐに帰るぞ!」
一瞬で青ざめた男は慌てて走り出そうとするが、一誠はその人の腕を掴んで止める。
「待って下さい。罠かもしれませんよ? そちらの方とも相談して決めて下さい。ささ、あなたもどうぞ」
もう1人も同様に紙切れを見せられて、顔面蒼白になって膝が震え始める。2人は相談することなく顔を見合わせて頷き、転がるようにして走り出す。
「お待ちください。あなたはどこでそれを知りましたか?」
「は? あんたが俺たちに教えてくれたんだろ!?」
「では、私の特徴を教えて下さい」
「長身で細身の……」
「いえいえ、私は今年八十歳になるおじいちゃんですよ。ほら、杖を使っているでしょう? そしてその顔はそれ以上思い出したくないほど醜い」
「あ……あぁ……そうだな」
「結構です。ほら、早くしないと手遅れになりますよ」
「すまない、恩に着る! 行くぞ!」
「……良い旅を。またのご利用をお待ちしております」
仲間に次々と声をかけていく男たちを見て、一誠はそう言って恭しく一礼した。
「相変わらず、一誠は信用できないね。あの手口で何人の人を泣かせたんだろう?」
「そのうちの1人は間違いなくお前だな」
「そうだった! くそー……一誠め、絶対に許さないんだから!」
「ま、そう怒るな。兄さんに会いに行くんだろ?」
「それもそうだね。さ、今度こそ入るよ!」
2人は一誠を置いて先に病院に入ると、時間外の面会だからか看護師から拒否される。そこに一誠が颯爽と登場し、看護師の手を取って甲にキスをした。
「プリンセス。まだ12時の鐘は鳴っていませんよ。私がこうしてあなたの傍にいられることがその証明です」
「あなた、頭がおかしい……」
「だからこそ、私たちは面会時間を過ぎていない。違いますか?」
「……はい、直ぐに調べて来ますね」
「……やっぱり一誠って信じられない」
「私に言わせれば、それは置いて行くあなた達の方ですよ」
3人は揃って階段を上り、問題の病室へ歩いて行く。ナースステーションには幸いにも1人しかいなく、隙を見計らって一気に突破した。
「催眠術だって、無限にできるわけではないのですよ?」
「だからこうして走ったじゃん。一誠もたまには休みなさいよ」
「無駄口を叩くな。見つかったらどうするんだ」
そして病室に辿り着くと、彩花が中へ飛び込んで行った。
「兄さん!」