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切り取られた世界  作者: 本郷透
7/13

廻る世界の意味

ツバサ視点 → シンイチロー視点

わたしは話を続けた。


「君は魂に付いてしまった傷を癒す為に二周目の世界、つまりは一年間眠り続けたんだ。魂は廻る。わたしが閉じた世界からは何も外に出る事は出来無いから。だから傷付いた魂は廻る時間の中で少しずつ癒すしか無かったの」

「……ねえ、その話に1つ疑問があるんだけど」

「……あなたは?」


わたし達の話に口を挟んだ……いや、挟めた小学生が居た。

眼鏡をかけてカチューシャをした女の子だ。


「アタシは羽田野マリ。見ての通り六年前の小学三年生」

「それで、マリさんは何が気に掛かったの?」

「時間が廻るって言ったわよね。廻る時間はどんな法則性を持っているの?」

「この世界は一周目を境に一年間の時を経て再び同じ時間を繰り返すの。四月から始まって三月で終わる。終わったらまたその年の四月に時間が戻る。そうして再びその世界に生きる生き物は同じ時間で同じ事を繰り返すの」

「だったらおかしいんじゃない? タクトさんは二周目の世界では眠っていたんでしょう? それは大きな矛盾になる」

「眠っていたのは魂だから、その時間にタクトくんの存在は無かったの。無かったと言っても見える形でなかったってだけのことなんだけど」

「……それは同じ時間を繰り返したことにはならないな」


寡黙そうな小学生が口を開いた。


「そう。それは同じ時間をなぞったことにはならない。だから二周目の世界は異例の事態となった。そして世界の周期はまだ安定していない。その証拠にあなた達の身体は成長してしまった」

「ところで貴女はどうしてその事を知っているの?」

「わたしは……時間の流れの無い空間……つまりは時間が止まった空間から見ていたから……だから知っているの」

「そうなると、どうして貴女がその空間に居られたのかが解らないな」

「それは私が答えてあげるよ。ツバサちゃんがそんな空間に居たのはね、世界を綴じた犯人がツバサちゃんだからだよ」

「!!」


言われた。後ろめたいと思っていた事を言われてしまった。みんなに知れ渡る……。

怖い、怖い……。


「隠したかった? ごめんね。でもみんなには全てを知る権利があると思うから私は全てを包み隠さず話すことにするよ」


* * *


美影はクスリと笑うと胸ポケットからアンティークの懐中時計を取り出して時刻を確認した。


ーー彼女は時間に追われているのか?


だったら大人しく全て自分で話せば良いものを、どうして俺たちの間で話をさせる?


「ハルカ、美影の注意をしばらく引いててくれ」

「えっ? ……わ、わかった……。ねえ、美影さん」

「なに? ハルカちゃん」

「あたしの記憶、辻褄が合ってないの。それについて教えてくれない?」

「いいよ。でもそれはさっきのツバサちゃんの話がほとんどだよ」


俺はハルカが注意を引いている間にトウヤに話し掛けた。


「トウヤ、あの女……美影の周りを見てくれ。勿論その力でな」

「……解った…………」


トウヤが集中する。

俺はじっくり待っている。


「……何……あれ……」

「何か見えたのか?」

「美影さんの周りだけ……空間も、時間も、影も……何もかもが歪んで……世界の(ことわり)から外れてるみたいに何か……」


トウヤも上手く言い表せないみたいだった。

それでも、何かあるって事だけは解った。


「トウヤ。あいつは『人間』か?」

「人間……だと思う……」

「解らないか?」

「うん……ちょっと境界線が曖昧で……でも妖怪とか、そういった類いではないと思う……」

「そうか……」

「やっぱりシンイチローも気になったんだね」

「ああ。……ハルカ、もう良いぞ。ありがとな」

「え? うん」

「おい! 美影!」

「いきなり呼び捨て? うん……悪くないね。何かな。シンイチロー君」

「俺達全員の一周目の記憶を返せ!」

「強引だね。いいよ。これは本来きみたちのものだから。……それに私にはもう必要ないしね」


美影は人差し指をゆっくりとこちらに向けると銃を打つように勢いよく動かした。

するとたちまち頭の中を映像が駆け抜ける。

一周目では確かに俺達はトウヤの中に居た。


ハルカが言ってた事がようやく解った。


しかし気は抜けない。美影が俺たちと同じ様な人間ではない以上、その正体、目的、それらが解るまでは気を抜けない。


怯えているのかも知れない。

フッ、俺らしくもない。ーーと、自嘲の笑みが零れる。

初めて体験する事に今まで恐怖した事はない。全て分かりきっている事の中で分かりきっている事を学んで生きてきたのだから、それは当たり前かも知れない。安全安心が保証された学問の世界。思えばとてつもなく狭い世界だ。

フッ……。

もう一度笑う。

今度は認めよう。俺は今、この事態が怖いと。そして人間が一番恐れるものに対峙していると。


人間が最も恐れるもの、それは『無知』だ。解らなければ何も出来ない。それがやっぱり一番怖かった。

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