明かされゆく真実
初めての試み、シンイチロー目線。
美影と名乗った女は妙なマジックで俺達を子供に戻すと話を始めた。
これはーー6年前の姿か。
「まず何の話から聞きたい? あるでしょう? 沢山。不思議に思ってること。例えばそうだな……記憶についてとか」
例えを出した時、隣に居た中学生がビクリと震えた。
「あとは……つながった世界の話とか」
今度は後ろに居た高校生。
「それからその能力とか」
次はトウヤだった。
「なんでも聞いていいよ。私はすべてを知ってる。全知全能の神様からすべてを教えてもらったんだ」
「ーー俺の記憶がおかしいことについては……何か知っているのか?」
「ああ、うん。じゃあ手始めにきみの話からいこうか。みんなにはそのことを早く理解してもらうためにきみの記憶を配るよ」
一瞬にして中学生のお兄さんの記憶が頭を駆け巡った。
こんな事があったのか……。
てかトウヤ……お前一回この人に会ってるじゃないか……。
中学生の名前は、タクトと言った。
「きみが聞きたいのは空白の記憶と上書きされた記憶のことでしょう? それはね、世界が塗り替えられたから起こったことなんだよ。きみはあの世界の中でメアちゃんに出会ってしまった。それはあってはいけないことだったんだ。まあ、その話をするにはメアちゃんの話をする必要もあるんだけど、聞きたいかい?」
「俺の記憶の話に関係あるならな」
「わかったよ。メアちゃんはね、元々違う世界の住人だったんだ。その世界でメアちゃんはきみに作られて、きみのことが大好きだったんだ。でもその世界でのきみは何者かに殺されてしまった。メアちゃんはそのせいで暴走して願いを叶える魔女の所に行き着いた。そして今居るきみの元に現れたんだ。その時のメアちゃんの願いが……」
「やめてっ!!」
メアと思わしきツインテールの人物が声を張り上げた。
「ウチの生い立ちを勝手に御主人に話さないでっ!」
彼女は涙目だった。
「ここから先は……ウチから話す……」
「ごめんごめん。私にはもう人の気持ちが解らないからね。何をすれば人が怒るのかもよくわからないんだ」
メアはきつく彼女を……美影を睨み付けるとタクトに向き直った。
「ウチは、御主人が大好きだったの。だからウチは違う世界でも良いから御主人の役に立ちたかった。だから魔女と無理な契約をして今の御主人の前に現れたの。ウチが魔女とした契約の内容は、「御主人を救う事」。この世界の御主人はあの時トラックに撥ねられて死んじゃうはずだった。でもウチがそこで助けたの。その願いは叶ったよ。その証拠にウチは消えてしまった。それがウチが魔女に渡した対価。「願いが成就したときにその存在を消去する」これが魔女との契約の時にウチが渡したものだったの。でもそれだけじゃなくてもう一個「ウチの魂を消去する」って言うのも。これでウチはどの世界にも存在できなくなったはずだった。人の運命を変えるっていうのはその位重い願い事だったの」
「だから、あの時お前は居なくなったのか」
「……うん」
「でも不測の事態が起こった。メアちゃんはさらに魔女にこう言われた。「その世界に存在する貴女にタクトを会わせてはいけない」ってね。でもタクト君、きみは会ってしまった。あの時間に存在したメアちゃんに。その所為であの時間でのきみは死んだんだよ。メアちゃんに干渉することで運命は戻ってしまった。でもそこに居るメアちゃんはもうすでに消えていたから何も出来なかったし、その後のことは知らない。……そうでしょ?」
「……そうだよ。だから今、御主人が死んじゃったって聞いてびっくりしてる」
「俺だってビックリだっての。あの時は眩暈と頭痛で倒れて気付いたら部屋に居たんだから俺はてっきり夢だって思ったさ。でもお前と過ごした一ヶ月がしっかり進んでたもんだから何もかも解らなくなって俺、しばらく精神科に通い詰めたんだぞ?」
「知らない知らない。ウチは何も知らないよ、その後の事なんて」
「でもどうして死んだはずの俺が目を覚ましたんだ?」
「それはツバサちゃんに説明してもらおうかな? 私が口を開くとみんな気分を悪くするみたいだからね。さあツバサちゃん、閉じた世界の話をして?」
「……それは世界が同じ時間を廻っていたからだよ。一年という時間をなぞった世界は再び同じ時間を繰り返す様に出来ているの。君……タクト君って言ったよね。タクト君がメアちゃんと出会った時間を一周目の世界とすると、君が再び目覚めた時間は、この三周目の世界なんだ」
「待ってくれよ。その話が本当だとすると二周目の世界の話はどこへ行った? 俺は二周目の世界には居なかったのか?」
「タクト君。君は二周目の世界ではずっと眠っていたんだよ。その位にメアちゃんの干渉は強かったの。君の魂に傷を付けてしまう程に、ね」
先程からおかしい事がある。
あの女、美影は全知全能の神から全てを聞いたと言ったのに、どうして俺達に話をさせようとするんだ?
全て話して仕舞えば良いじゃないか。
小学生の俺は解らないながらに考えた。
どうにも時間稼ぎしている様に思えて仕方が無かった。
俺は途中から話を聞くのを止めて美影の方を見ていた。
あの女は何かを企んでいるに違い無いと疑いながら。