一転
「う……あ……」
「トウヤ、どうした?」
「み……美影さんの……後ろに……」
「トウヤ、落ち着いて。「何が視える」の?」
何かに怯えるトウヤにマリが力強く低い声で宥める様に尋ねた。
「美影さんの後ろに……死神が居る……」
しかし答えたのはツバサだった。
「トウヤくん、無理に視えたものを答えなくてもいいよ。私にも同じものが視えてるんだから」
「ーーありがとう……ツバサさん……」
「それで? 死神ってのは今何をしているんだ?」
「……シンイチロー?」
キキョウがシンイチローの顔色を伺った。シンイチローは普段こういう事に興味を持たないのに、今日は違った。だからキキョウが不安そうにしているのだ。
「ーー美影さんの首に大きな鎌の刃を宛がってる。そのまま首を切るつもりなのかもね」
「何でそんなに聞きたがってるんだ? シンイチロー。お前普段そんな事一切気にしないだろ」
「……美影の……『願い』が痛い程分かったから……だ」
「美影の願い?」
「……美影は梓と一緒に居る事を切望してる。……俺には他人事には思えない」
「お前もそういう事思うんだな」
「……まあな」
「……美影さん……『心』が壊れそう……」
「キキョウにはそれが分かるのね?」
「……うん」
「美影に残された時間は少ないぜ。どうする?」
「ランは時間か……」
「ボクたちは何かしらの能力があるみたいだね。選ばれた子供っていうのも頷ける。残念ながらボクには何も分からないけど」
「は? 今はそんな事どうでもいいだろ。それより……」
「そうだな。じゃあ……」
「御主人待つの! さっきの事を思い出して欲しいの! 御主人の『言葉』が他人に与える影響は物凄く大きいの……!」
「俺は何も言うなってか」
「違うよ。タクトは『意志を持った言葉』を発しちゃだめ」
「分かった」
「……で、どうする? 俺らは同じ世界を共有する事ができない。てことは、お互いのサポートなんてできない訳だ」
「じゃあどうするんだよ。俺には今何が何だか分からねぇぞ」
「じゃあランの為に一回整理しようか」
「そうね。ラン、あなたには美影さんの何が分かる?」
トウヤの提案にマリが仕切り始めた。
「残った『時間』」
「トウヤは?」
「美影さんが置かれている状況」
「それはツバサさんも同じよね」
「うん」
「メアさんは?」
「ウチには『嘘』が分かるの」
「タクトさんは?」
「俺の『言葉』に意志が宿ってるって事だな」
「そうね。さっき実際にあったものね。シンイチローは?」
「……美影の『願い』が分かる」
「キキョウは?」
「……美影……さんの……『心』の声が……」
「そう……アタシには美影さんの『声』が聞こえる」
「声なんて俺達も聞こえるだろ」
「違う。声にならない声よ。美影さんの本心」
「なるほどね」
「ナツメさん、ハルカ、レオには何も分からない?」
「私は美影さんの『夢』が分かるよ。梓さんとの生活を夢見てた」
「俺は特に何も」
「ボクも」
何も分からない奴が二人……。
時間……心……願い……夢……状況……嘘……言葉……。
「あ、私は他にも『眠らせる右目』を持ってるよ」
「それは具体的にどんな力だ?」
「対象の活動を停止させるの。私は眠らせるって言ってるけど」
眠らせる……力……?
……!
「……行ける」
「どうしたの? 御主人?」
「美影を助けられる……」
「本当かよ!! タクト」
小学生に呼び捨てされたが今はそんな事気にしてられない。
「おい、小学生組」
「何ですか?」
「お前ら体力に自信あるよな? キキョウを除いて」
「まあ……あるな」
「一周目であんだけ走ったからな」
「よし……。お前ら、俺の指示が信じられるか?」
全員が言い淀んだ。
当たり前と言えば当たり前だ。
出会ったばかりの中学生の指示に従える奴なんてそうそう居ない。
ましてや、年下の奴に言われた通りに動くのはプライドが許さないだろう。
最初から何も期待しなかった。
人間なんてそんなもんだと半ば諦めていた。
「ーーウチは御主人に従うよ」
「……メア……」
「アタシも従うわ。だって司令塔にするにはぴったりの能力を持っているもの」
「ボクも。何も出来ないかも知れないけど」
「マリがやるなら僕たちも」
トウヤがみんなを見る。
みんなはそれに頷く。
「私も。何かよく分からないけど、命が掛かってるもんね」
「……みんな……ありがとう」
「作戦は? あるんでしょ?」
「当然!」
俺は力強く言い放った。