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Bug's HERO  作者: パオパオ
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第四十四話 手に入れた力

 全能感にも似た、振り回されんばかりのパワー。

 胸の内部を源泉として、漲るエネルギーが放出先を求めて荒れ狂う。

 むずむずと不快感となって溜まるそれは、すぐにでも吐き出したい衝動に襲われる。


 確認の意味も込めて近くの無事な木を殴れば、クッキーでも割るかのように粉々に爆散する。

 一本の腕を伸ばしきった体勢で、ぽかんと口を開ける。

 流石の俺も、折れるのではなく、砕けるとは思っていなかった。

 ユニークボスの死体を食らった影響は、予想以上に大きいらしい。

 一挙に二体も食ったのだから、仕方ないかとも思う。


(冗談とかなしに、ちょっと敵とか居ないよな)


 森――最弱クラスから最強クラスまで、昆虫という括りのモンスターが雑多に活動している中で、最早俺と戦いになるモンスターは残っていまい。

 同族のトラップ・スパイダーが一応相手になる、かもしれない……位だろう。

 同族と言っても、レベルはMAXに程近く、転生を繰り返し、ユニークボスの肉を三体分食らった俺のステータスは、一端の罠蜘蛛とは比べものにならない程高いが。


(……そうだ)


 これまで考えた事もなかったが、森を出るのも一つの選択肢かもしれない。

 安全だけを考えるならこの森に引き籠もっていればいいのだろうが、それでは流石に暇過ぎる。

 今のステータスであれば、早々の事では死ぬ羽目にはならないだろう。

 ユニークボスと遭遇したら流石に危険だが、そうでもなければ問題はない。


(知らない土地は、若干怖くもあるが……)


 ここで惰性に過ごすよりは幾分も有意義だろう。

 若干のリスクは飲み込んで、外へ出てみるべきだ。


(何より、まだ一枚赤い欠片が足りないからな。持ってるプレイヤーがボスの居なくなったこの場所に来るとも限らないし、捜索もしないと)


 言いつつも、難しいだろうなと否定的に思う。

 何せ、手がかりなんて一つもないのだ。

 気長な作業になるだろうし、やはり気分転換にもこの幣束的な環境から出ていくべきだ。


「……何か、分からんけど外へ出たくなってるな。本心では森に居たくないって事か?」


 自分の感情が制御出来ていない。

 溢れんばかりの力を得た弊害なのだろうか。

 俺としては、そこまで好戦的な性格ではなかったつもりだが……。


「とりま、衝動の発散でもしましょうか。体の動かし方も修正しないといけないし」


 関節をポキポキ鳴らしながら、今更追いついてきた虫達の群れに視線を向ける。

 今の俺なら有象無象の虫が三桁集まった所で相手にならないだろう。

 自負心のあまりの強さに、驕っていると自覚する。

 自覚していても、実際のところ、俺の限界が見えない以上、驕りの一言で片づけていいものではないと思うが。


「さて――やろうか」


 先制攻撃に糸の槍でも使おうと思い立ち、硬質の糸を束ねながら昆虫の群れを睨みつける。

 力に溺れて笑っている俺の顔を見て、虫達がたじろぐ。


 勇敢にも一歩を踏み出した鍬形は、その胸部に丸い空洞を穿たれて倒れた。

 その後ろに続こうとした甲虫と羽蟻が、余波を受けて頭殻を消滅させる。

 動きを止めた昆虫達に、嘲りを込めて笑いかける。


「じゃ、死んでろ」


 虐殺が始まる。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 テッテレー! Falioはレベルが95に上がった!


「効率悪っ……」


 思わず頭を抱えてしまう程、高レベルになった罠蜘蛛のレベルが上がらない。

 いくら敵が烏合の衆とは言っても、数だけは多かった。

 総勢にして、およそ五百超だろうか。

 それだけ倒しても、上がったのはたったの三レベル。

 嘆かずにはいられない。


 撫でるように敵を屠り、呼吸をするように命を刈り取っていったが、それでもそれなりの時間が経ってしまっている。

 覇者と王者の戦いが決着したのは真昼頃だが、既に空には夜の帳が下りている。

 空には山吹色の月が栄え、高らかに存在を主張している。


 ざっと勘定して、四半日程殺し続けた計算になるのだろうか。

 そうなると、もう少し沢山の敵を倒していたかもしれない。

 百を越えた辺りから数えるのが面倒臭くなったので、正確な数は把握出来ていない。

 単調な作業の繰り返しは、どうしても飽きがやってくる。


 それに最後の方は襲撃も散発的で、三々五々と仕掛けてきたから撃滅のペースも落ちていた。

 絶対者が軒並み死に絶えて無法地帯となった今、下克上でもしようと思っていたのだろう。

 酷く騒がしくしていたせいで、遠くの敵を呼び寄せる結果になったのだと思われる。


 それにしても、覇者と王者の血肉がもたらす恩恵は凄まじいの一言に尽きる。

 どちらも肉弾戦に特化した性能のためか、基本的なステータスの向上度合いは目を瞠る程だ。

 それでいてなお、ユニークスキルも手に入れている。


 かつて女王から手に入れたユニークスキルは"言語"と"カリスマ"だ。

 因みに効果の方は、何故か中から知識が上って来るので把握出来ている。

 言語は人間の言葉を話し、理解出来るようにさせる。

 カリスマは味方が多ければ多い程味方へのステータス補助を大きくし、指揮能力も引き上げさせる。


 覇者から手に入れたであろうスキル――"暴食"と"覇道"。

 暴食はその名の通り"捕食"の強化で、噛み千切った部位を高速吸収し、またそこから腐食毒を生じさせる。

 覇道は威圧系のスキルの効果を引き上げ、対多戦闘の際に全体的にステータスを向上させる。


 対して、王道から得たスキルは、"鎮圧"と"王道"だ。

 鎮圧は味方に対するバッドステータス――主に混乱や恐慌等――を解除させる。

 王道は多くの存在に敵と思われている存在との戦闘の際、全体的にステータスを向上させる。


 どれも有用ではあるが、パッとしない。

 辛うじて、言語が喋れないというストレスを解消させるのに役立っていると言えなくもないが、その他は現状無用の長物でしかない。


 統率は仲間が居ない。

 暴食は噛みつきの一撃で敵を倒せている。

 覇道はただのオーバーキル要因でしかない。

 鎮圧は統率と理由が同じ。

 王道は……何とも言えない。


 倒すべき敵は見つけられず、仲間が居ない俺には、これらのスキルの価値はないも同然だった。

 いつかは役に立つと無理にでも認めていないと、存在を忘れてしまいそうだった。


 空には変わらず、金色の月が輝いている。

 その傍らで瞬く星の儚さに、仄かな親近感を覚えた。

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