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Bug's HERO  作者: パオパオ
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第二十六話 狂気の継承

 事前の探索で把握していた脱出路――と言っても女王の間の奥にあると聞いていたので半信半疑だったのだが――から無事に巣を抜けて、森の中へと戻ってきた。

 燦々と輝く中天の太陽。

 吹き抜ける風は穏やかに、静かに揺れる木の葉が舞い落ちる。

 大きく息を吸い込み――叫ぶ。


「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっっっっ!!!!!!」


 大気が唸る。

 ビリビリと、落雷の如き咆哮。

 遥か遠く、どこまでも遠くの地まで届けと、喉を張り裂けんばかりに震わせる。


 時間にして、十数秒程度だろう。

 吸気を総て排出しきり、残るのは仰向けに倒れる俺一人。

 今の短時間で、多くの敵に俺の存在を知らしめただろう。

 眠りを妨げたり、戦闘に水を差したりして、新たに敵対したものも居るかもしれない。

 しかし、叫ばずにはいられない。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 寝転がっているせいか、先程よりも迫力の劣る絶叫。

 口を大きく開き、満面の笑みで、ただただ大声を上げる。

 鬱憤を晴らすように、混沌を仕分けるように、心の淀みを押し出すように。

 ぐちゃぐちゃ、べちょべちょ、ぬちゅぬちゅ、と。

 粘つく泥濘を払い、清涼な風を呼び込む。


「――はっはっはっはっはぁっ! あっはっはっはっはぁっ! クハハ、クハ、クハハハハハッ!」


 笑う。

 無意識に、かつ意識的に。

 目頭がじわりと熱を帯び、滴が頬を伝って流れ落ちる。

 ポタリ、と零れる涙には気付かない。

 歓喜、悲嘆、興奮、後悔――水滴が宿す感情は少なくない。

 浮かんでは沈む情動に、沸き上がる笑いが止まらない。


「クハハハハハッ、ぐひっ、はっ、あっはははっ、ごほっ、ギャハハハハハッ! ひぃっ、ひゃはははぁっ!!」


 噎せる程に、激しく哄笑する。

 止まらない。

 止めてはいけないと、心のどこかで自分が囁く。

 感情の吐露は必要だと、汚濁は残してはいけないと、語りかける声に無防備に従う。

 愚直なまでに、壊れた機械のように、一途に笑う姿は狂人に違いない。

 けれど、仕方ないだろう。

 強制された狂信から解放されたこの心地は、幾多の言葉を尽くしても語り得ない。

 それ位、代え難い恍惚だった。



 笑い続けて暫く。

 どこか喪失感にも似た虚無感が、胸の奥で存在を主張する。

 そのまま身を任せたい衝動に駆られる。

 また、今更ながらに、言葉が喋れる事に気が付いた。

 気が付いた時には、周りを昆虫たちに囲まれていた。


(あぁ――それも、いい。素敵な気分だ。一回位死んだって、気になるものか)


 いっそ清々しいまでの戦力差だった。

 俺の笑い声が癇に障ったのか、それとも別の理由があるのか――俺の関与するところではないが、三十を越える虫達が徒党を組んで殺しに来ていた。

 小型・中型の虫達――芋虫を始め、甲虫、飛蝗に藪蚊に毒蚊に――少ないが、蟻や蜂の姿までが勢揃いしている。

 かつての仲間がどんな理由でここに居るのか――考えるまでもない。

 俺と同じように、女王の死によって支配から解き放たれた彼らに、最早同族意識などないのだろう。


(でも、ねぇ……クハ、クハハ、クハハハハ)


 くつくつと独りでに笑う俺に、たじろいだような反応を見せる昆虫達。

 その多くは異常者を厭うものだが、いくらかは決定的に違っている。

 警戒心。

 囲まれても怯んだ様子を見せない俺に、ある程度の地力のある虫達は注意を強める。


(いいなぁ、でも、駄目だ。死にたい訳じゃないんだよ。俺は、いい気持ちになりたいんだ)


 そんな虫達を尻目に、俺は高らかに宣言する。


「――最っ高の気分なんだ。熱くてたまらないんだよ。この情熱、この火照り、頼むから鎮めてくれよ、お前ら? クハハハハハッ!」


 舌舐めずりをした俺に、昆虫達が息を飲んだ気がした。

 そして直ぐに、傲慢な羽蟻への怒りへと変わる。

 けれど、虫達の憤怒を見ても、俺の心は荒れ狂ったまま変わらない。


 ここまでずっと手放さなかった黒い棒が、何とも頼もしく感じる。

 女王の肉を食らってからというもの、体の調子が素晴らしいの一言に尽きる。

 想像と微塵の誤差もなく動かせる体には、指で棒を撫でる行為ですら快感を覚える。

 これもある意味では"洗練された仕草"という奴になるんだろうか――考えながら、先んじて特攻してきた虫目がけて棒を突く。

 突撃の勢いを利用され、そのまま息絶えた蟻の死体に目もくれず、嘲りの視線を散撒いた。

 様子を窺っていた虫達が、突撃の輪に加わる。

 その光景を目にして、内心で嘲笑しながら、俺は次の獲物を見定めていった。



 一方的な殺戮が、騒々しく始まりを告げ、そして静かに終わった。

 傷は多く、体力も残り僅かながらも、生き残った。

 その報酬は、直後に授けられる。


 ――テッテレー! Falioはレベル100に上がった!

 ――転生を行うことが出来るレベルに到達しました!

 ――転生先がこれまでの経験により自動的に選択されます!

 ――【アクティブ・アリジゴク】に転生します!

 ――三十秒後に転生を開始します!

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