第十二話 艶事
※おそらくこの話が規約に抵触したものと思われるため、前段を大幅に改定しました。
2019/03/08
異様な光景だった。
満身創痍のちっぽけな蚊が、無傷の甲虫を抑え込んでいる。
力関係で言えばあり得なくとも、現実として上位にいるのは弱者の方だった。
――ギギィ、ギィィィ!
――ギァ、ギァァァァッ!
先に蚊に殺された甲虫の雄は、この雌と番だった。
所詮はモンスター――ゲーム内の生き物であるとはいえ、そこには確かな繋がりが存在していた。
例えプログラムによって規定された行動だとしても、二体の間には絆が存在していた。
それを断ち切られた感傷は大きい。
しばらくの間、放心して呆けてしまう位には。
──ギャギャギャッ! ギヒヒヒャッ!
踏みにじり、いたぶり、嘲り、勝ち誇る。
この雌は自分が奪い取ったものだと。
雌の無反応を己への従属だと思い込み、レベルアップに伴う強化と合わせて蚊の慢心はとどまるところを知らない。
もちろん、そんな時間は長く続かない。
ここにいる二匹の力関係は、依然として甲虫が蚊に劣るものではない。
肉体的に雄が雌に勝るとしても、種族としての性能の違いは依然として大きく存在する。
故に、この結末は必然だった。
蚊は雌に背を向け、雄の甲虫の死体があった地点に降り立って、それを辱めるべく形相を歪めると──。
――グシャ。
銀光が走る。
虐げられていた雌の小さな剣が、蚊の体を貫いていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(………………ん……?)
意識を復帰する雄――いや、俺。
気が付けば、俺の体が雌の甲虫に斬られているという不思議。
状況のあまりの不明さに、思わず首を傾げたくなる。
(……ってか、俺死んでね?)
雌の一撃が決め手となったのか、俺の体力は底を突いていた。
まあ、雄の甲虫にも何発か攻撃を受けていたし、元々ギリギリだったんだろう。
この雌はあの雄の嫁さんっぽいし、敵討ちと言ったところか。
しかし、何故こんなに近くに雌の甲虫が居るのだろうか。
立ち位置的に、もっと離れていたように思うのだが。
それも、雌は異様なほどの迫力を備えてこちらへ頭部の小剣を向けていた。
(あー、やっぱり雄を倒したから怒って…怒りっていうか、なんだ、憎しみ……? うえ、怖っ)
思いがけない感情を向けられ困惑するも、体の限界が近いのか思考はまとまらない。
そのまま復活へと身を委ね、雌から逃げるようにその場から消失する。
だからこそ、この後のアナウンスは聞こえなかった。
――転生を行います!
――転生先がこれまでの経験により自動的に選択されます!
――【ポテンシャル・キャタピラー】に転生します!
――三十秒後に転生を開始します!