第一話 突発的事態
眩しい。
眼球に直接射し込み続ける光が目に痛い。
目蓋を覆おうとした手足たちはその役目を果たさない。
(……ん?)
僅かに疑問の種が芽生える。
けれど、その疑問は漠然としていて明確な形をなさない。
とりあえず立ち上がろうとして体を動かすも、どうにも思うようにいかない。
重くなったように感じる体では、ごろごろと転がることが精一杯。
儘ならない現状に苛立ちを覚える。
起きるのは諦めて、自問する。
何故立てないのか?
――手足の補助がないから。
何故手足の補助がないのか?
――手足たちが総じて短いから。
何故短いと分かるのか?
――人間の手足はもっと長かった、から……?
気付く。
先程からの違和感に。
手足たち?
――人間の手足はそれぞれ一本ずつしかない。
――故に、三対六本の手足がある訳がない。
眼球に直接射し込む光?
――眩しいと感じたならば、人体は勝手に目蓋を下ろす筈。
――であるならば、意識しても動かない俺の目蓋は、いや瞳はどうなっている?
気付く。
先程から感じていた異常に。
――首がほとんど回らない。
――手足たちに区別出来る差がない。
――口の中から歯がなくなっている。
――手足たちに関節らしきものが存在しない。
――鉄球でも背負っているかのように体が重い。
他にも、いくつもの変化を自覚する。
……そもそもの話、俺の部屋はカーテンが閉め切ってあった筈だ。
発光する媒体なんて、それこそ電灯とパソコンぐらいなもの。
誰かが俺の部屋に来て、電気を付けるなり勝手にカーテンを開けるなりしたのだろうか。
不思議に思っていると、徐々に光への耐性が付いてくる。
ぼんやりとした色彩しか分からなかった視界に鮮明な区切りが付く。
緑と茶、そして水色のみによって構成されていた世界が変貌を遂げる。
――見えたのは、樹木たちに切り取られた草地と青空。
それは未知の光景。
少なくとも、俺の住んでいた土地では考えられない自然の姿。
澄んだ空気が流れる。
葉擦れの音が静かげな旋律を奏でる。
鬱蒼とひしめく大森林に、俺という存在一つ。
(何だよ、これ……? どうなってんだっ……!?)
狼狽え、取り乱す、その直前。
――ザンッ!
俺の体は、堅い何かに両断された。
(……はっ?)
理解が出来ない。
脳が事態の変化に追いつけない。
"切られた"という事実のみが俺の思考を占拠する。
不思議と痛みはないものの、切られた場所から俺の体が崩れていくような感覚。
俺という一個の存在が消えていくような錯覚に襲われる。
……いや、これは本当に錯覚なのか?
時間の経過とともに軽くなる体は、これが現実ではないかという疑念を抱かせるには十分だ。
考えている間にも、俺という自己は徐々に消失へ近づいていく。
それを自覚すると、言いようもない恐怖が吹き出してくる。
(しっ、死にたく、なっ――)
けれども。
プツリ、と。
ゲームの電源を切るかのような気軽さで。
消滅を恐れた俺の意識は、再び闇に落ちていった――