娘が結婚できないので雛人形供養したら結婚できた話
3月3日。
35歳の誕生日。
「ごめんねキヨミ。私があなたが子どもの頃頃、雛人形を仕舞うの遅かったから」
毎年飾られている雛人形。
私は母の言葉を聞き流しながら雛人形を眺めていた。
私は三十五歳。恋人もいない。
いや、正確には「もう何年もまともな出会いがない」と言ったほうが正しい。
母は最初のうちは「いい人が見つかるよ」と励ましてくれたが、最近は諦めている。
そしてついにこんなことを言った。
「この雛人形、祟ってるんじゃないかしら」
「え?」
「毎年飾っても何も起きない。もしかして、この雛人形がキヨミを縛ってるんじゃないかって」
「それはないよ。本物の雛人形ならそんなことしない。
神社でよくこうしないと祟りがあるって言うのと一緒。その程度の理由で祟るなら神様じゃなくてただの疫病神だよ」
「そうねぇ・・・でもまぁいい機会だしこの子達、供養してあげようかね」
「うん」
三月三日の前日。
母は近所の古い神社に電話をかけた。宮司さんに事情を話すと、「それなら簡易な供養をしましょう」と快諾してくれたらしい。
母は目を閉じて、こう呟いた。
「三十五年間ありがとう。でも、もういいんです。
この子を自由にしてあげてください」
私は何も言わなかった。
「これでよかったのよね」
「うん」
それから2ヶ月。
会社の同期だった男から、突然LINEが来た。
『久しぶり。覚えてる? 昔、飲み会でキヨミさんが「雛人形って実は怖いよね」って言ってたの、ずっと覚えてたんだ』
覚えてる。
あれは二十七歳の頃。酔っ払って言ったやつだ。
『今度、良かったら飯でもどう?
俺、去年離婚してさ。街中で雛人形見たら急に思い出して連絡したくなった』
私はスマホを握りしめたまま、母の顔を思い出した。
今まで自分を縛り付けていた何かが無くなったような感覚だった。
私は母に伝えた。
「明日、会う約束した人がいる」
窓の外。桜は散っていたけれど若葉がまぶしく揺れていた。




