エピローグ 進んだ先に
『始まりの鬼』の隊の一員のヘレンシアは息を引き取った。見届けたのは俺だけだった。
「ジョルナ。シアの状態は…?」
「…もう、息をしてない」
「…おい、そんなのありかよ…」
俺の返答にアーラは力が抜けて、その場に座り込んでしまった。そんな中でも現実が俺たちに押し寄せてくる。
「…敵の足音だ…ジョルナ、どうする?」
「シアを敵に渡すわけにはいかない。逃げるしかないだろ」
「あぁ…そうだな。国にでも帰るか?シアを殺した国に…」
「それは嫌だな…。反対側に行こう」
そうして、俺たちはシアを服で包んで、抱えながら祖国とは反対側の東へと走り始めた。ただ、シアを敵に渡したくない一心で走り続けた。
それから、長い間走って後ろを振り返ると、敵は見えなくなっていた。撒くことには成功した。
「ジョルナ、どこまで行く?」
「…戦争がない場所まで」
俺たちはそう会話をして、その日は何も無い外で一晩を過ごした。
次の日、俺たちは変わらず歩き続けた。東へ…戦争がない場所へ。
そんな中で遠くに町が見えて来た。
「アーラ、あそこの町で一回休もう」
「あぁ、そうだな。飯ももう無いしな」
そうして、俺たちは町に向かって歩いて、無事に町に到着することが出来た。
「とりあえず、飯にしよう」
「…ジョルナ、あっちに配給をやってるぞ。余っていたら貰えないか聞きに行こう」
「そうだな。そうしよう」
俺たちは町の中心の方に出来ていた配給の列に並んだ。
「…軍人さんがなんでこんな所にいるんだ?」
「…えっと」
「…まぁ、とりあえず食いな」
列の先頭に来ると配給をしているおじさんに不思議そうな目で見られたが、俺たちは配給を貰えた。
「軍人さん、その荷物は何だい?」
食事を済ませた頃に配給のおじさんが話しかけて来たが、俺たちは何も答えられなかった。
「あんたら、亡命者だろ。それは一緒に逃げて来た家族の亡骸か?…まぁ、答えてくれなくていいよ。ここから東に2,3日歩いたところに火葬できる場所がある。死体が腐る前に火葬してやりな」
そう言われた俺たちはおじさんにお礼を言って、再び東へと歩き始めた。
それから3日が過ぎようとしていた時におじさんが言っていた町に到着した。日が暮れ始めていたが、俺たちは火葬場を探した。
「あそこじゃねぇか」
暗くなったことで一際明るい場所をアーラが指を指した。
「よし、行ってみるか」
その時の俺たちはシアを火葬することしか考えていなかった。おじさんに言われた腐る前に火葬という言葉がずっと頭に残っていた。
「…ん?すまんが今日は今ので終わりだよ」
明るかった場所は火葬場であってはいたが、到着すると今からの火葬を拒否された。俺たちはその言葉に落胆した。
「…燃やすのは子供か?」
「…はい」
「燃料が余りそうだし、ついでにやってやる」
火葬をしていた男性は今日最後の火葬が終わった時にそう言って、俺たちはシアを火葬することができた。
シアを火葬している間、俺たちはその場で待った。たとえ子供でも時間はかかると言われたが、ここ以外にいる場所が思い浮かばなかった。
待つことになって、俺は体が軽くなった気がした。今までシアを抱えていたのを下ろしたからもあるけど、火葬は一つの締めくくりに感じた。
「火葬は終わったぞ。骨は自分たちでまとめてくれ」
それから1時間ぐらい経って、シアの火葬が終わった。俺たちは火葬してくれた男性に一礼をして、シアの骨を見た。
「これは…」
「…とりあえず、まとめよう」
「あぁ…そうだな」
シアの骨を見て、俺たちは声が出なかったが、抱える時に包んでいた服の上に骨をまとめることにした。
シアの骨は歪な形をしていて、砕けたのを無理矢理くっつけたようだった。
俺たちはシアの骨を丁寧に移動させた。これ以上、ボロボロになってほしくなかった。そんな思いだった。
それから数分後、シアの骨を移動させ終わり、そのまま服で包んだ。
「…どうする?」
「とりあえず、今日はもう休もう」
俺たちは骨を抱えて、町の宿屋に泊まることができた。戦時中なこともあって、手伝いをするだけでタダで泊めてもらえた。
「オウモ地方の奴らが参戦して来たらしいぞ」
「俺も聞いた話だが、ズロウ地方の奴らも参戦するらしい」
「センテル地方の戦争なのに…これじゃあ、長引くだけだろ」
俺たちが泊まった宿屋ではそんな噂話をする酔っ払いたちの声が一晩中響いていた。
次の日、俺たちは余り眠れなかったが、この町から離れることにした。まだ、遠い場所に向かいたかった。
「おっ、兄ちゃんたちおはよう。一緒に飯食おうぜ」
部屋から出た俺たちに酔っ払いたちが話しかけて来て、俺たちはとりあえず食事をしていくことにした。
「そういえば兄ちゃんたち、どこに向かってるんだ」
「東に…」
「おぉ、そうなのか。ならちょうどいいじゃ無いか。今日の昼ぐらいに避難民を東の方に連れてってくれる輸送車が来るんだよ」
それから、酔っ払いと会話をしながら食事を終えた俺たちは、酔っ払いの言っていた輸送車を待つことにした。
輸送車が来るまでに俺たちは軍服から着替えることにした。服は宿屋の人が酔っ払いの相手をしたお礼としてくれた。
そして、昼頃になると数台の輸送車がこの町に到着した。
「乗る奴はいるか」
輸送車がつくと、運転手は窓を開けて大声で呼びかけた。俺たちは「乗ります」と言って、後ろの荷台に乗り込んだ。
荷台には子供やその母親と思われる人が乗っていた。横目に見えた他の輸送車も同じだった。
俺たちは荷台の中で静かに過ごした。子供の不安の声と母親の宥める声を聞きながら…。
それから、2週間ほど移動が続いて、まだ参戦していなかったオウモ地方のローゴレ国の避難民用の施設の前で降ろされた。
俺たちは一旦、その施設で過ごすことにした。男手が必要と言われていたから、配給を貰うお礼として手伝いをした。
でも、1週間と少し経った頃だった。ローゴレ国が参戦することになったそうだ。
俺たちはまた、避難民用の軍用車に乗せられて、東へと移動することになった。
俺たちは輸送車に乗せられて、長い移動を強いられた。戦争から離れようとした結果、逃げ続けないといけなくなってしまった。
「…すまん、アーラ」
「何が?」
「俺が…戦争がない場所まで行こうって言ったから、ずっと移動ばっかりで…」
「…俺が勝手について行ってるだけだ。お前のせいじゃ無い。俺の意思だ。それに俺も…戦争がない場所に行きたい」
移動する輸送車の中でしんみりとした雰囲気の中で2人で会話をした。何故か、久しぶりにしたように感じた。
「…眠いし、寝ようか」
「あぁ…」
俺は涙を流しそうになって、逃げるようにそう言って寝たふりをした。
それから、2ヶ月ほど経って、ルーレンド地方のマシャウ国に着いた。大陸の東端だ。
「ジョルナ、これからどうする?戦争が来るまでここで過ごすか?」
「うーん…いや、まだ移動しよう。ルーレンドの島国のホメン国に行こう」
「…島国なら戦争が来るのはもっと遅くなってくれるのかな」
そうして、俺たちはホメンに向かうためにマシャウの港を目指すことになった。
俺たちは情報を集めて、港に向かう輸送車があることを突き止めた。でも、その輸送車に乗るには金が必要みたいで、俺たちは持っているもので売れる物を売って金を作った。
「よし、アーラ行くぞ」
「あぁ、行くか」
バラして持っていた小銃のバネや銃弾、それ以外だとナイフを売ったことで無事に輸送車に乗ることができた。
マシャウの港には約2週間後に到着した。
「これでホメンに行けるな」
「これから船に乗るんだよな」
「あぁ、そうだよ」
「金はあるのか?」
「…輸送車に乗るのでほとんど使った」
港について気づいた。金を全然持っていなかったことを…。俺たちは船乗りたちに残りの少ない金でホメン国に連れて行ってもらえないか交渉した。でも、その日は誰1人として受けてくれる人はいなかった。
次の日も俺たちは船乗りに交渉を続けた。断られ続ける中で1人の船乗りが条件付きで受けてくれた。
船乗りから提示された条件はホメン国に行く手伝い。簡単なようで難しい条件だった。
ホメン国に行くのは俺たち含めて、亡命する人たちを連れていくそうだ。その亡命を手伝えと言われた。
「流石に危険すぎる。考え直そうぜ」
「いや、これが最後のチャンスかもしれない。俺は行くぞ」
「…お前が行くなら…俺もついて行く。それに俺らも亡命する側だしな」
「確かにそうだな…。でも、これで戦争のない場所に行ける…」
俺たちはその日の日が暮れてから、船乗りと合流した。そこには船乗りだけでなく、みすぼらしい家族がいた。
「よし、来たな。準備は終わってるから乗ってくれ」
「俺たちは何をすればいいんだ?」
「あぁ、お前たちは見回りの海軍に見つかって攻撃を受けたら、そこの銃で撃ち返せばいい。それまでは見張りをしておけ」
船乗りにそう言われた俺たちは置いてあった銃を手に取って、暗い海を見回した。
船の動力がうるさくて、振動が結構ある中で進み続けていた。俺は暗い中、この音で見つからないか気が気でなかった。
そんな中でも日が登り、遠くに陸地が見えた。
「…マシャウの海域は越えてるな。おいお前ら、銃は仕舞ってくれ」
「…えっ、仕舞うの?」
「あぁ、ホメンの方とは話はついてるから、銃を持ってる方が敵とみなされて危険だ」
俺たちは船乗りのその言葉に従って、銃を元々あった場所に戻した。
「あっ…でも、見張りは続けといてくれ。時々、マシャウの海軍がホメンの海域に勝手に入る時があるから」
銃を戻した俺たちは船乗りの言葉でまた、定位置に戻ることになったが、船の旅はそのまま何事もなく終わった。
「よし、到着。さぁ、降りてくれ」
小さな港に船が着けられるとそう言われて、俺たちはホメンの地に降りた。
船を降りた俺たちはその場から動けずにいた。ホメンに来たけど、行く場所がない。
「何だお前ら、何も計画立てずに亡命したのか?…さっきの家族は親戚がいるから亡命を選んだらしいが、お前らはいないのか?」
船乗りの言葉は図星だった。頼れる場所が無いのに俺たちは逃げるために進み続けた。
「はい、行く場所が無いです」
「そうか、ならここの港で働くといい。話はつけといてやるから」
「えっ…いいんですか?」
「あぁ、というかここはお前らみたいな奴らがほとんどだ。人が集まらない肉体労働をすることになるけど…まぁ、それ故にホメン国の政府が目を瞑っている」
そうして、俺たちは船乗りのおかげでこの港で住み込みで働かせてもらえることになった。仕事は荷運びだが、戦場で装備を持って走っていた時よりも楽に感じた。
それにそこにいた人たちは優しくて、共同墓地だけど、シアをやっと墓に入れてやることができた。
それから俺たちは2ヶ月ほど、ここで生活をしていた。完全に今の生活が日常になっていた。
そんな時に1人の男が俺たちの元に来た。その男はホメン国の官僚と名乗った。
俺とアーラはその男に対して、警戒をしながらも下手に出た。刺激して諜報員として捕まるのは避けたかった。
その男は俺たちが警戒をしていることには気づいていたが、気にしていないかのように話し出した。
俺たちは男が話した内容は耳を疑った。敵対しているマシャウ国が同盟陣営で参戦するから、連合陣営で参戦する予定でいると言われた。
それに俺たちにはホメン国の諜報員として雇われるように、断ったら捕まえるという脅し付きで言ってきた。
俺たちは二つ返事で了承して、表向きはホメン国の記者として世界各地で情報を集めることになった。
諜報員になってからは忙しかった。各地を輸送車で移動して、情報を仕入れたら船に乗ってホメン国に帰ってまとめる。それが約3ヶ月続いた。
そして、年越しの時期に再び官僚の男が俺たちの元に訪れた。
男は年明けに参戦すると言い、俺たちには情報収集だけでなく、敵の重要人物の暗殺まですることになると言われた。
俺たちに断る余地はない。そうして、俺とアーラは表の顔は記者。裏の顔は諜報員であり、殺し屋となった。
「へぇ、師匠が殺し屋になったのは脅されたからなんだね」
「ハハッ、そうだね。あの時はその選択肢しかなかったんだよ」
「…でも、32年前に始まって今も続く戦争なのに、今の状況と全く違うね」
「確かにね。今の静かな戦場と違って、激動の時代だったよ」
「…何で嬉しそうなの?」
「いや…昔話をして、思い出に浸ってしまってね。『鬼神』と呼ばれた彼女と過ごした、すごく濃い1年だったんだ」
「…そうなんだ。辛くはないの?」
「もう、辛くはないよ。今はここにいてくれてるって信じてるから」
「うん、きっといるよ。師匠がそう言うんだから」
「ただいま」
「あっ、おかえりアーラ」
「ジョルナ、次の指示持ってきたぞ」
「そうか。次はどこに行くんだ」
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