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16話 変わる戦場

 敵の異能兵がいきなり消えたことで、私は警戒してすぐに味方の塹壕の位置まで下がった。

「どうしたんだー、シア」

「敵が消えた!」

 私が下がると、銃撃戦に参加しているみんなの後ろでゆっくりしていたカーナーが聞いてきたから、私は一瞬だけ振り返って言った。

「えっ…消えた?」

 私の返答にカーナーが驚いた声を出していて、みんなも「えっ?」といった困惑した声が漏れていた。

「シア。とりあえず、降りてこい」

 私が塹壕の上で敵陣の方を見ていたら、隊長のその声が聞こえて、私は塹壕の中に戻った。

「敵の異能兵がどこに消えたか分かるか?」

「分かんない。どこにも居ない」

 降りてきた私に隊長はすぐに状況を聞いてきて、私は敵のオーラが見えなかったことから、咄嗟にそう答えた。

 私のその言葉に隊長は司令部に報告して、指示を仰ぐと言って、この場を後にした。私はとりあえず鬼の姿を解いて、隊長が戻って来るのを待つことにした。


 待ち始めてから数分経って、隊長が私たちの元へと戻って来た。

「敵の異能兵が再び現れるまで待機だそうだ。シア、警戒は任せる」

 戻って来た隊長の指示で私は敵陣にオーラが見えないか、様子を見ることした。だけど、その日は敵の異能兵は現れる事がなかった。

 次の日も私たちは異能兵の警戒を指示されたが現れず、再び現れたのは消えてから1ヶ月後ぐらいだった。

 味方の軍は1ヶ月間、突如として消えた異能兵に警戒しすぎて、攻勢に出ずに膠着状態を続けてしまっていた。敵は何故か、この戦場から去っていたみたいだった。

 私がいつものように異能兵の警戒の為に敵陣を見た時に赤いオーラが漂っていた。この戦場で戦った異能兵と同じような気配。私はすぐに隊長に伝えた。

「シア、いつでも出れる準備をしておけ」

 私の報告に隊長は司令部から指示を受けて、私はいつもと変わらず準備をした。


 私は準備が終わると隊のみんなを連れて、オーラの真正面まで移動をした。

「シア、いきなり止まってどうした?」

「ここの正面にいる。いつ出れば良い?」

 私は敵の異能兵の正面の位置で止まり、隊長に指示を仰ぐと、隊長は司令部から伝令兵が来るまで待つようにと言って、私はその場でオーラを注視して待った。

 それからしばらくして、1人の男性が走って私たちの元へ来た。隊長はすぐにその男性の対応をして、司令部からの伝令を受けていた。

「シア、敵の位置は分かるな。…討伐出来るまで戦い続けろと指示だ。いけるか?」

 伝令を聞き終えた隊長は私の目を見てそう言ったから、私は「うん」と頷いて鬼の姿になった。

 私が鬼の姿になった同時くらいの時に敵の異能兵が塹壕の上へと上がって来た。私も塹壕の上へ上がり、敵の異能兵と相対した。

 私が敵が突然消えたことに警戒するように敵も私自身を警戒していて、敵の目には私しか映っていないようだった。


 私と敵の異能兵は少しの間だけ睨み合いの状態になっていた。互いに警戒するあまり、攻めるのを躊躇していた。

 敵は動いて来る気配がなかったから、私はいつものように距離を一気に詰めて、懐に潜り込んで攻撃を試みた。でも、一度やった攻撃だったこともあった敵に簡単に防がれた。

 それから私は追撃しようと拳を振おうとしたら、敵の拳が私目掛けて飛んできていた。前に比べて速くなっていたけど、全然余裕で避けれる速度のはずだった。

 私は敵の拳をギリギリで避けることになった。私の目測が間違った感じはしなかったし、途中で加速したわけでは無い。

 そこから何発か、互いに拳を振るった。時間が経つに連れて、私の攻撃は避けられるようになって、敵の攻撃は速度が上がって来た。

 私はそんな中で敵の異能の力が何かを考えてみることにした。何かが分かれば、勝ち方が分かるかもしれないと思ったから…。

 だけど、そう簡単にはいきそうに無い。敵からの攻撃を受けきるのに私は精一杯だった。

 私はいつの間にか、防戦一方になってしまっていた。


 私は敵の攻撃を受け流しながら、自分が感じる小さな違和感がないか考えることにした。

 まずは自分の直感に反する敵の攻撃速度。敵の速度が上がっていっている訳でもないのにそう感じる理由。

 そんな事を考えている時に気がついた。私は敵にばかり意識を向け過ぎていたんだ。敵の速度が上がっているんじゃなくて、私の速度が落ちているのかもしれない。

 そうなる理屈は分からない。でも、自分の感覚と体の動きが変わってしまったなら納得できる。

 私が遅くなっている理由はなんだ?寒さか?雪で体が冷えているのか?いや、軍服は意外と厚みがあるし、それに外着を羽織ってる。それだけじゃない、鬼の異能の影響で体温は上がっている。

 そんな中で私は敵の振るわれる拳だけでなく、敵全体へと視線を移した。雪が敵に近づくと一瞬にして溶けていっている。

 それになんで気づかなかったんだろ。敵から湯気が上がっている。私よりも体温が高くなっている?そういう異能か?

 でも、そんな事はどうでも良いかもしれない。敵はもう、息が上がり始めていた。


 敵の息が上がり始めたのを確認した私は突然消える事を警戒しながら、そのまま防戦一方の状態でいた。

 敵は息が上がっていっていたが意外と長く攻撃は続いた。でも、時間が経つに連れて速度は遅くなっていた。

 それに伴ってか、私の体の動きがいつもの感覚に戻り始めていた。異能の力に限界が来たのかもしれない。

 そして、ついにその時が来た。敵が後ろに倒れた。限界を迎えたみたいだ。

「これでも…届かないのか…。…そんなに警戒しなくてもいいよ。僕はもう動けない。限界なんだ」

 私は止めを刺そうと敵に近づいたら、敵は落ち着いた声色で私に話しかけて来た。

「強かったよ。どうやって勝つか、分からなかったから…」

「そうか…」

 私は敵の言葉にいつの間にか言葉を返していた。戦場のど真ん中なのに完全に警戒が解けてしまった。


 警戒が解けた私は友達に話しかけるように敵に話しかけていた。

「ねぇ、気になっている事があるんだけど…」

「なんだい?」

「前に戦った時、どうやって逃げたの?」

「…僕の異能は熱。世界の熱を奪って、時を止めたんだよ。まぁ、一瞬だけしか無理だから、逃げる事しかできなかったんだよね」

 この会話をした時、私は戦場にいるとは思えないほど、棒立ちで敵の顔を覗き込んでいた。

「…君の勝ちだよ。さぁ、止めを刺してくれ」

 私が何も言わずに立っていたら、敵は私にそう言って来た。だけど、私は敵に…彼に止めを刺そうとは思えなかった。

「うーん…ありがとう。僕を見てくれて」

 何故か、彼はお礼とその言葉を私に言った。その状況に私が混乱していたら、彼はいつの間にか灰となっていた。

 もう、オーラは無く。死体すらない。私の目の前に残ったのは、体の形をした灰の塊と心臓の位置にある異能石だけだった。

 私はその場で放心状態になってしまった。


 異能兵同士の戦闘が終わると戦場は静寂に包まれる。この戦場でも例外はなかった。

 銃声はすぐに止んで、敵も味方も困惑した表情に変わる。互いに顔を見合わせて、声にも困惑が出ていた。

 私はそんな中でも、灰を眺めていることしかできなかった。

「シア、戻ってこい」

 困惑の声だけが静かに聞こえる戦場で隊長の声が響いて、私の意識は戦場に戻り、すぐに味方の塹壕へ…隊の元へと戻った。

「大丈夫か、シア。怪我は…してないな」

 塹壕に戻って鬼の姿を解いたら、隊長がすぐに慌てながら、私の状態を確認し始めた。私は「大丈夫」と言って、隊長を落ち着かせた。

 それから10分ほど経ってから銃撃戦が再開されて、私たちは一旦待機することになった。その後、昼が過ぎてしばらくしてから、私たちの待機が終わった。

 司令部から伝令兵が来て、攻勢が有利になっていた左側に突破のために、私が突撃することになった。

 そして、その日に敵の兵士が撤退。ルレンの前線が上がった。


 前線が進んで1週間と少しが過ぎた。その間、私たちは一点突破する時の突撃のために休息としての待機が続いていた。

 そんな中、私たちの隊に本部からの伝令が来た。また、テンレイの西軍事基地に戻れという命令だ。

 命令だから私たちは西軍事基地に移動することになったけど、どうせ小屋での待機が続くんだろう。

 でも、ゆっくりできると思った私たちはすぐに輸送用の軍用車に乗り込んだ。カーナーに関しては「休みだー」と歓喜の声を上げていた。

 それから、2週間近くの移動で私たちは西軍事基地の小屋に戻って来た。もちろん、司令部からは待機命令が出た。

 このまま、次の異能兵が現れるまで私たちは小屋で待機が続くと思っていた。

 小屋での待機が始まって、約2週間が過ぎた時だった。近くの西の前線にゼリン軍から塹壕を越える車…戦車が出て来たそうだ。

 それによってテンレイ軍が大敗走をしたという話だ。それで私たちはその前線に入るように言われた。

 前線に向かうことが決まった私たちはすぐに出発して、2日後の夜明け前に前線に到着した。


 前線に投入された私たちはすぐに、ゼリン軍の新兵器である戦車を遠くからではあるが見ることになった。一目見た感想としては、でかい鉄の塊だった。

 それから隊長が前線の司令部から聞いた話では、銃弾はほとんど弾かれたらしい。でも、数発は攻撃が集中したところなのか、貫通はしたそうだ。

「シア、君への指示は戦車を倒して、動かせなくすることだ。壊せるなら壊してくれても構わないそうだ」

「はーい。まぁ、ただの鉄の塊なら持ち上げて倒せると思うから、心配しなくて良いからね」

 私は隊長に司令部から言われた指示を聞いて、軽くそんな返事を返した。そんな私に隊長は少し不安そうな表情になっていたけど、カーナーが私の言葉に「なら、大丈夫だな」と言って、私たちはいつでも出られる準備をした。

 そして、準備が終わり、夜明けと共に出撃の指示が出た。


 私が夜明けと共に出撃する時と同時にゼリン軍の戦車も動き始めた。私はすぐに鬼の姿となり、戦車に攻撃を開始した。

 私は戦車まですぐに距離を詰めたが、戦車は想像よりも遅かった。今まで乗って来た軍用車の半分の速度も出ていないように感じた。

 それに私が一瞬で距離を詰めたことにゼリン軍の塹壕は混乱していて、意外と簡単に勝てるんじゃないかと思った。

「よし、さっさと終わらせて休も」

 私は1台目の戦車をひっくり返しながら、無駄口を叩けるほど、余裕に感じていた。それから、私は戦車を試しに殴って穴を開けたが、変わらず動き続けたから全部ひっくり返して回ることにした。

 そして、5台目をひっくり返した時だった。私に向けて1発の銃弾が飛んで来た。私はたかが銃弾と思って、無視して次に行こうとした。でも、私は飛んで来ていた銃弾から視線を移動させることができなかった。

 私に飛んで来ていた銃弾は今までのとは違っていた。先端が丸っこい銃弾では無く、尖っている銃弾だった。


 私は先端が尖っている銃弾に目を奪われていた。何故かは分からないけど、石の異能兵の攻撃を想起させた。

 私はその記憶に意識が奪われて、棒立ちのままその一発の銃弾を右足に受けた。

 被弾した瞬間、私の右足に激痛が走った。今まではあり得なかったことが起こっていた。銃弾で私は傷を負ったのだ。

 私は痛みで一瞬だけ、その場に座り込もうとした。でも、周りで響く銃声で私は戦場であることを思い出して、痛みに耐えながら走って味方の塹壕へと戻った。

「シア、どうした!?」

 私が塹壕に戻るとすぐに隊のみんなが来て、隊長は心配そうに話しかけて来た。

「おい、足。血が出てるぞ」

 私が痛みからか、声を出せないでいると、カーナーが焦った声でそう言って、みんなは「えっ」と声に漏れるほどの動揺を見せていた。


 隊の動揺は近くの兵士にも広がって、数人が左右に走ったりしていた。私は鬼の姿を一旦解いて、その場で隊のみんなに傷口を押さえてもらっていた。

 それから数分経って、数人の兵士が私のもとに集まってきた。その兵士たちに隊長が対応して、私は前線の少し後ろにある救護所に運ばれることになった。

「失礼します。初めまして『鬼神』殿。私はこの前線の司令官、少将のローグ・ベンと申します」

 私が救護所での応急処置が終わった頃にベン少将が来て、私に挨拶をした。私は咄嗟に軽く頭を下げたが、どうして来たのか分からなくて困惑した。

「『鬼神』殿が負傷をしたと聞いて来ましたが、命に関わる傷で無くて安心しました。『鬼神』殿次第ではありますが、大丈夫なのであれば、今後の作戦を話させていただきたいのですが…大丈夫でしょうか?」

 少将のその言葉に私は隊長の方を向いて、隊長は頷いたから私は少将に「はい」と頷いた。

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