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14話 混乱の情報

 私は土煙が薄くなるまで、その場で立ち尽くすことしか出来なかった。

「あっ、よかった。いた…」

 土煙が消え始めて、私は石の異能兵の彼を見つけた。私を飛ばすために盛り上がった土は崩れていたが、彼に覆い被ってはいなかった。

 だが、私の任務は失敗したと言っていいだろう。彼は一目見て、死んでしまったと分かるような状態だった。

 私は彼に近づき、一応確認をした。もちろん息はしていなかった。というか、しているはずがなかった。彼は自らの首に石の弾丸を打ち込んでいた。

 彼は『異能兵』という道具に戻ることよりも死を選んだ。自由を手に入れることよりも、道具に戻らないための選択をした。

 私は隊のみんながいて、自分で自分のことを道具扱いされているとは思えないほど、1人の人として接してもらえていた。国にとっては道具でも、近くにいる人には1人の人として映っている。

 私はこの戦いに終わりが来たと理解して、彼の死体をハーナ大尉がいるところに戻って、鬼の姿を解くことにした。


 私は予定通りみんなの元に彼を運び、鬼の姿を解いた。

「大丈夫か、シア」

「おい、カーナーそこの救急箱持ってきてくれ」

「おぉ、分かった」

 私が戻ると隊のみんなが焦ったようにバタバタと動き始めて、サムトだけはその場で狼狽えていた。そういえば、軽傷だけど怪我をしていたんだった。

 私が石の異能兵を地面に寝かせると、外着と軍服から左腕を出して、怪我を負った左肩に包帯が巻かれた。

「これぐらいだったら、すぐに縫えるな」

 アーラが外着と軍服の左肩の裂かれたところを見て、そう言った。

「左手も怪我してるじゃないか」

 包帯を巻いてくれた隊長が、私の石の弾丸を破壊した時に怪我をした左手を見て、そっちにも包帯を巻いてくれた。

「『鬼神』様、ありがとうございました。我が国の異能兵の暴走を止めてくださり…」

 私の怪我の大雑把な手当が終わると、ハーナ大尉がお礼を言って、頭を下げた。

「すみません。死なせてしまって…」

「いえ、止められなければ殺してくださいと行ったのは私ですので、気にしないでください」

 私のその謝罪に大尉がそう言って、暴走した異能兵を止める役目は終わりを告げた。


 役目が終わった私たちは次の命令まで、この場で待機しておくことになったが、一晩経ってすぐに私たちに命令が下された。

「『始まりの鬼』の皆様。伝令兵のナルと申します」

 石の異能兵を倒した次の日の早朝、私はその声で目を覚ました。カーナーも一緒のタイミングで目を覚ましていて、他の隊のみんなはもう起きて着替えまで終えていた。

「皆様に伝令を伝えに来ましたが…今、大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。…あっ、『始まりの鬼』の隊長のジョルナ・バトンです」

 伝令兵のナルさんの言葉に隊長がそう言って対応していた。その間、私は伸びをして、外着を羽織っていた。

「では、本部からの伝令を伝えさせていただきます。皆様は引き続きこちらで待機。ゼリン軍をこれ以上、ベレン国の首都オロに近づけないようにとの指示です」

「承知いたしました」

 本部からの伝令に隊長がそう言って、私たちの対ゼリン軍としての待機が決まった。


 待機が決まってから、2週間で私たちの待機が終わった。

 待機1週間目の時にゼリン軍の半数近くが前線からいなくなった。この時にベレン軍と私たちは罠を疑って、待機を続けた。

 そして、待機が始まって2週間でゼリン軍の全軍が完全退却を完了した。対ゼリンのベレン国の前線はこれによって、開戦初期にまで戻った。この時には私が負った傷もほぼ完治と言っていいほど治っていた。

「お久しぶりです。皆様に伝令を伝えに来ました」

 ベレン軍が前線を戻す前に私たちの元に伝令兵のナルさんがやって来た。

「皆様には反対側の対ゼリンのテンレイ前線へ、移動してもらいます」

「何故、遠回りしないといけない反対側へ移動するのですか?」

 伝令を聞いた隊長が少し考えてから、そんなことを聞いていた。

「ゼリン軍の配置が今はこちら側に寄っていて、テンレイ側は薄くなっています。それにテンレイ側は膠着状態なので、それを壊す力が欲しいそうです」

 その伝令を聞いて、移動させる理由が分かり、隊長も納得できたみたいで「承知しました」と返していた。


 移動することが決まって、私たちは約1週間かかる予定の移動を始めることになった。

「では、私は輸送兵の元へ皆様を案内させていただきます」

 移動するために準備を終えた私たちにナルさんがそう言って、私たちは軍用車まで連れて行ってもらった。

 それから少し歩いて、私たちは軍用車に着くとナルさんに挨拶を交わしてから、輸送兵にも挨拶をして軍用車の荷台に乗った。

 そして、移動を始めて5日目までは順調に進んでいた。だが、あと2,3日で予定の前線に着く時だった。

 石の異能兵の暴走を思い出すような、そんな凶報が私たちの元へ伝わってきた。この時も私とカーナー以外の3人が外で話を聞きに行って、行き先が変わってから私とカーナーは隊長からその情報を聞いた。

 新たな行き先はルレン国の北方の新たにできた前線。まだ、参戦していなかった北側のハマウ国とショセイ国が同盟陣営に参戦したのだ。それだけでなく、ショセイに新たの異能兵が誕生して、新たにできた前線に投入されるという話だ。

 そんな最悪な情報の中にも、その二国の隣国であるゾウゴウ国が連合陣営に入ったという、プラスにはなる情報はあった。

 でも、私が気にする情報はやっぱり、新たな異能兵だ。


 新たな移動先が決まり、到着予定が約2週間も追加されることになった。今までに比べて長期の移動になって、荷台の中では急遽の変更の愚痴などの雑談をしたりしていた。

 私たちは今回もただ、異能兵との戦闘が待っているだけだと思っていた。

 ルレンの北方前線に向かい始めて、1週間が経つとまた、急報が私たちの元に届いた。

「…ガオン国にも異能兵が誕生した」

 私たちが雑談している時に軍用車が突然止まったと思ったら、そんな声が聞こえてきた。ガオン国は同盟陣営側で敵国だ。

「何で敵国ばかりに異能兵が誕生するんだー」

 外から聞こえた声にカーナーがそんな愚痴を漏らした。確かに敵国側の異能兵はこれで4人目だ。でも、そのうち2人は私が殺しているし、結果的にではあるが異能兵の中で私が一番長生きしてる。

 私はカーナーの言葉にそう考えながら、外に状況確認に行った隊長が戻ってくるのを待った。


 しばらくして、隊長が疲れた表情で戻ってきた。まぁ、外からほぼ怒鳴っていたような会話に入っていっていたから当然か…。

「はぁ…とりあえず、このまま予定通りにルレンの北方前線に向かうそうだ」

 隊長は戻ってきて座ると、ため息を吐きながら一言で済ませた。その後、少し経ってから軍用車はまた、目的地に向かって走り始めた。

「流石にもう、ないよな…」

 毎回、私と一緒に降りずに待っているカーナーがそんなことを呟いたら、アーラが「次があったら、お前も降りろよ」と言って、肩を軽く叩いていた。カーナーは言わなきゃよかったみたいな表情になっていた。

 それから、1時間ぐらい経って、私たちが動く軍用車の中で食事をしている時だった。また、急報みたいで軍用車が止まった。

 止まった瞬間に私を含めた、みんなの表情が「えー」といった表情に変わった。

「カーナー…行くぞ」

 止まったことで隊長はカーナーにそう声をかけて、2人で荷台を降りていった。


 2人が荷台を降りて、伝令の話を聞きにいったと思ったら、外からは2人の「えっ!」と大きな声が聞こえて、すぐに2人は戻ってきた。

「まじか…そんな事あるんだな」

 荷台に戻ってきたカーナーはそんなことを唖然とした表情で呟いていて、隊長は頷きながら呆然としていた。

「どうしたんだ?」

 2人の様子にすかさず、アーラが伝令の内容を聞いた。

「死んだらしい…」

「誰が…?」

「ショセイの異能兵…」

「…は?」

 アーラの疑問に隊長が一言一言返した言葉に、荷台に残っていた私たちは驚きを隠せなかった。私とアーラは声に出して、サムトは表情から驚愕していたことは明白だった。

 ショセイの異能兵が死んだ。何故…どうやって…。隊長が珍しく言葉足らずで理解が追いつかなかった。


 疲れが表情に出ている隊長が席に座ると、少し経ってから軍用車が動き始めた。だけど、動いた方向はさっきまで来ていた方向だ。

「…ん?行くところ変わったのか?」

 軍用車が方向転換をしたタイミングでアーラが話を聞きに行った2人に確認をした。

「あー、ベレンの南東の前線に行くことになったんだよ」

 アーラの問いにカーナーが思い出したように言って、私たちは「えっ」といった表情になった。

「えっと…ベレンの南東ってことは、ガオンか…」

「あぁ、ガオンの異能兵を対応しろだって…」

 アーラは頭を抱えながらそんなことを呟くと、隊長の口からその言葉が漏れていた。

「かかる移動の予定としては…2週間と少しぐらいだそうだ」

 隊長がそんな言葉を続けた結果、荷台ではみんなのため息だけが聞こえていた。

 それから16日間をかけて、私たちはベレンの南東前線に到着した。今回は予定の変更がなく、やっと振り回された移動が終わった。


 私たちは到着してから、休む暇もなく前線の司令室へと案内されることになった。ガオンの異能兵に苦戦しているらしい。

「苦戦してるって割に、前線は下がってないみたいだな」

 私たちが司令室に向かう中でカーナーがそんなことを呟いて、私は塹壕の様子を見てみた。味方の兵の顔に疲れは出ていたが、私が今まで入った前線に比べて人数がいた。

「人、いっぱいいるね」

 周りを見た私がそう言ったら、みんなも周りを見て「確かに」とかの言葉が漏れていた。

「そういえば、ここはベレン軍じゃなくて、ゲレン軍が入ってるんじゃなかったっけ?まぁ…そこまで関係ないか」

 塹壕の中を歩きながら、カーナーがそう言っている間に前線の司令室に到着していた。

「テンレイ国特殊隊『始まりの鬼』です」

 隊長が司令室の扉を叩いて、部隊名を名乗ると、中から「今、開ける」と大きめの声が聞こえて、隊長だけが中へと招かれた。


 隊長が司令室に入った後、私たちは日が当たっていても、もう涼しくなっていた外で、立った状態で十数分ほど待った。その間、周りにいた味方の兵は私たちのことというか、私を不思議そうな目で見ていた。

「あっ、出て来た」

 隊長が司令室から出てくるとカーナーがそう言って、私たちは隊長の元に行った。隊長の横にはこの前線の司令部の人と思われる1人の男性がいた。

「みんな、こちらの人は私たちと司令部を繋ぐ、サガト・ラン少尉だ」

「初めまして、『始まりの鬼』の皆様。ベレン南東前線ゲレン軍の少尉、サガト・ランと申します。よろしくお願いいたします」

 隊長の紹介とラン少尉の挨拶に私たちも挨拶を返して軽く握手を交わした。

「まずは皆様を壕舎まで案内させていただきます。この前線での皆様の役割はそちらで話させてもらいます」

 ラン少尉のその言葉で私たちは近くの壕舎に案内された。


 壕舎に案内された私たちは荷物を置いて、ラン少尉からの戦況の状況を聞くことになった。

「では、現状を話させてもらいます。まず、ガオンの異能兵に関しては参戦して来た初日に銃撃戦時に傷を負わせて、数日は出て来ていませんでした。だが、ここ数日でまた出て来て、今度は銃で傷をつけることができなくなっています」

 ん?少尉の言葉に困惑が出て来た。私以外の隊のみんなも困惑した表情をしていた。

「えっと…銃が効かなくなったってことですか?」

 困惑している中で隊長が少尉に対して言葉を漏らしたことで、みんなは少尉に視線を向けた。

「多分ですが、そうだと思います」

「それで今は負けてるの?」

 少尉が俯きながら答えたけど、私は自分が必要なのかを知りたくて、口を挟んだ。


 私の言葉は会話を異能兵の謎を中心とした話題から変えることになった。

「そうですね。今の現状は負けてはいないと言ったところです。ガオンの異能兵はいますが、それによる大きな被害は受けていないという状態です。ですが、兵の士気が下がりつつあり…このまま持つとは思えないというのも現状です」

「士気が低いのかぁ」

 少尉は俯いたまま現状を言うと、カーナーがぽつりと呟くと、部屋にいるみんなは頭を抱え始めた。そんな時にさらに頭を抱える情報が外から聞こえて来た。

「急報!急報!左方に異能兵出現」

 そんな大声と共に離れた場所からではあったが、銃声も聞こえ始めた。それに兵士たちの混乱した声と塹壕を走り回る足音がだんだんとうるさくなっていった。

「すぐに状況確認を…」

「私たちも行きます」

 外の音で頭を上げた少尉が言葉を発して、すぐに壕舎から出ようとすると、隊長がそう声をかけて全員で壕舎を出ることになった。

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