09
「お誕生日おめでとうございます」
「おう、ありがとな」
別にこの前のあれで関係が変わったわけではないから追加のプレゼントは用意していない。
別に勇気が出ないとか自分からしたくないとかではないけど告白をするつもりはない。
自分の気持ちをしっかり知ることができただけで満足できている。
「両親と藤嶋以外から祝われるなんてかなり久しぶりだ、嬉しいな」
「どこかにいきます?」
「いや、このまま俺の家でいい、今日は外にいきたい気分じゃないからな」
それならこんなことを繰り返した結果得た効果を使って休ませてもらおう。
まあ、一番には無理だろうからそれは諦めてなるべく早くを意識した結果がこれだ。
まだ先輩も来ていないみたいだから悪くない。
「俺らが付き合ってもなにも変わらなさそうだな」
「恭介は求めているんですか?」
「あ、それ続行なのね。それに求めるに決まっているだろ、このままずっと友達のままは嫌だぞ俺は」
「なるほど、つまり恭介も男の子ってことですね」
「そうだよ」
だから最近はよく触れてくるのか。
それでも抱きしめるとかまではしてこないからなんでか考えていたけどそういうことだったらしい。
「我慢なんかしなくていいですよ、私も恭介のこと好きなので大丈夫です」
「な、ならさ」
「はい?」
ここで告白でも抱きしめるでもなく膝を貸してほしいと頼んでくる彼は面白かった。
だけどこれはわかりやすく甘えてくれているから私的には悪くない。
「私の場合だと顔が見やすくていいでしょう?」
「……みんなそんなもんだろ」
「いや、昔に絵夢ちゃんが言っていたんですけど巨乳の子にしてもらうと本当にやばいみたいですよ――あ、だからって大きい女の子に膝枕をしてくれって頼むのはやめておいた方がいいかと。別に嫌だからとかじゃなくて警戒されてしまいますからね」
幼馴染の女の子に頼む人はいても大して仲良くない子に頼める人はいないだろうからそう心配もしていないけどね。
というか、そういう商売でもない限り受け入れる子がいたらそっちの方に驚くと思う。
「頼まねえよ、静代がしてくれればいい」
「小さめを好む人なんですね」
「よ、余計なことを言うなっ」
気分がいいから頭も撫でていく。
普段自分の髪に触れ慣れているから流石に差があって新鮮な気持ちになった。
他の子に比べたら大したことはないけどこれでも一応意識はして頑張っているからとほっとしている自分もいる。
「なあ静代、本当に少しも藤嶋に対してはなにもなかったのか? 青戸がいない想像なんてしたくないだろうけど俺と藤嶋の二人だけだったらどうなっていたかわからないよな」
「そうですね、その場合はわかりませんね」
考えても意味がないことだとはわかっているものの、絵夢ちゃんがいない世界なんて嫌だからそうではなくてよかったとしか思えない。
もし先輩という好きな人がいなかったら絵夢ちゃん相手に頑張っても楽しかったかもしれないなんて一人で盛り上がっていた。
「だよな、だから俺の力でなんとかできたわけじゃないよな」
「それは違いますよ。だって絵夢ちゃんがいるのが現実ですし藤嶋先輩はその絵夢ちゃんを好きでいたんですからね、安定して一緒にいてくれた優しい恭介のおかげです」
「……いまのは正直それを期待していた」
「はい、ですので自信を持ってください」
こちらではなく向こうを向いてしまっているから細かくはわからなかった。
不安になってしまったのならちゃんと教えてほしい、そうすればいまみたいに必要としている言葉をあげられるかもしれないから。
これが内に隠されると途端に駄目になるから自分のために頑張るべきだった。
「静代のことが好きだ」
「はい」
今度はこちらを見てやたらと真剣な顔をしている。
「キスしませんか?」
「はっ? いやっ、流石に飛ばしすぎだろ……」
「好きな男の子からいま告白をされて受け入れたんですからいいですよね? 勇気が出ないなら私からしますけど」
「い、いいっ、それなら俺からする」
目を閉じて待っているとすぐに唇に柔らかい感触が伝わってきた。
正直に言うと一度座り直してからしてくると思っていたからそこが面白かった。
ただ目を開けておくべきだったと後悔している自分もいる。
「ど、どうだ?」
「自分のせいで面白い状態の恭介を見ることができなくて残念です」
「み、見なくていいっ、つかどこに意識を向けているんだよ」
「え、恭介にですけど」
「いやまあそうだけどっ……静代の母さんも娘がこんなんだと知ったら驚くだろうな」
どうせ私なんかよりももっとぐいぐい攻めてきただろうから「それぐらい普通よ」と言われて終わるだけなのが容易に想像できてしまう。
「流石にこればかりは藤嶋に言えないな、だけど今日集まったことはどうせバレるだろうから……どうしたものか」
「集まって楽しんだことを教えてあげればいいんですよ、なにも全て馬鹿正直に言う必要はないんですから」
「細かく聞かれたら……?」
「求めているなら教えてあげてもいいんじゃないですか?」
あ、黙ってしまった。
こちらとしてはなにも恥ずかしいことはしていないから全て言ってくれても構わない。
言う自信がないなら上手く躱してもらうしかなかった。
「やあやあ、今日は僕の番――あ、痛い痛い、お腹が痛いな~」
「静、心の底からあなたが羨ましいわ、私は選択を誤ったかもしれないの」
「ちょ、流石にそれは言いすぎじゃない? ほらほら、あっちで少し二人で話そう」
とまあ二人の茶番もすぐに終わって四人で歩き始めた。
これは恭介が言い出したということになっているけど私にはわかる、先輩が原因だ。
でも、余計なお世話でしかないものの、あのまま絵夢ちゃんにだけ任せていたら本当に駄目になりそうだったから私的にはありがたかったりもする。
「もう……基本的にいい人なのに……」
「どこまで進んだの?」
「手を繋ぐぐらい……かしら、だけどそれにしたっていちいち言わせるのよ? 流石に嬉しさよりも複雑さが勝つわよ」
「偉い」
私達なんてゆっくりやるところでただ一緒に過ごしていただけだから。
「我慢できているえっちゃんは本当に偉いよ」
「ありがと静、でも……もうなんか前とは違って……」
恭介と少し前を歩いている先輩は楽しそうだけど距離を感じる。
そりゃ離れていればそうだろと言われてしまうかもしれない、ただ彼女がこんな顔をするようになったら駄目だろう。
昔なら間違いなくそういう顔をした私を心配して彼女が来てくれていたところだった、逆の立場みたいになっているのも嫌なのだ。
いつだって彼女には誰かを引っ張り、そして彼女自身も楽しそうであってほしいのだ。
「藤嶋先輩、いい加減ふざけるのはやめてください」
声量を大きくしなくたって真剣なら聞いてくれる。
「いやー……僕だって色々と頑張っているんだけどなあ」
「でも、その頑張っている相手の顔がこんな感じじゃ駄目ですよ」
ありがたかったけどやはりいま必要なのは四人でわいわいどこかにいくことではない。
「増井、やっぱり……いいかな?」
「ああ」
「ごめん、絵夢ちゃんにも……ごめん」
「謝罪をしてほしいわけじゃないです、私は……もっと静に対する増井先輩みたいに……だからって真似をされすぎるのもそれはそれで複雑ですけどね」
「うん、上手くやるよ」
去っていく二人の背中を見ていたら急に頭を撫でられつつ「上手いな」と、なにが上手いのかよくわからなかった。
だっていい方法とは言えないからだ。
やっておいてあれだけど私は先輩からちゃんと聞き出したわけではない、絵夢ちゃんの話だけを聞いて頼まれてもいないのに勝手に動いたうえに先輩を責めるようなことをしたのだから。
「ま、青戸が最初と比べて暗い顔をするようになって気になっていたからな」
「私も絵夢ちゃんのあんな顔を見なければぶつかってはいませんでした」
「それこそ俺らより上手くやりそうだった二人がなんでああなるんだ? 完璧にやろうとするからかね?」
「理想が高いのかもしれません、だけど理想通りになんていきませんから。恥ずかしい気持ちを何度も味わうぐらいでいいのかもしれませんね」
その点では私は短期間に何度も失敗をして味わっていたから悪くなかったのかもしれない。
意識したわけではないけど本当に大事なところだけスキップしないでいられたのは幸運だ。
「俺は初動でいきなり失敗したからな」
「私は甘えるべきじゃないとか考えつつ結局恭介に甘えてすぐに調子に乗ってしまいました」
こういうことも言えるようになればいいかな。
なにも言わないで相手が動いてくれる場合だってあるかもしれないけどそんな上手くいくことは稀だから。
「あっ、最近になってやっと二人は失敗をしたんじゃないか?」
「なるほど」
「中々難しいよな、失敗した後に動くのって勇気がいるからな」
「はい、そうですね」
ああいうことを私に話してくれたのだっていまのが初めてだ。
となると、好きな人相手にどんどん言って知ってもらっていくというのは難しいか。
だけどなにかできることがあるかもしれないから教えてもらいたいところだった。




