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241  作者: Nora_
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08

「よく来てくれたわね」

「はい、お邪魔します」


 こうなったのは彼のお姉さんが原因だった。

 約束通りお祭りが終わって彼のお家にいった、まではよかったのにすぐに追い出されてしまったのだ。

 私はともかく彼は自分のお家だから再度入ろうと努力をした、だけど鍵を取られたうえに鍵をされてしまったからどうしようもなくて……。

 あと、浴衣の方もしっかり奇麗にしてから返そうとしたのに剥ぎ取られて――は言い方があれだけど似たような感じで無理になった。


「お母さんこれ」

「ありがとう」

「うん、お祭りらしい物は買ってきたから楽しめると思う。それとも誘った方がよかった? 結局、ほとんど最初から最後まで二人だけだったんだ」

「静と二人きりならいいけどお友達がいるなら参加なんてできないわよ」


 うん、最初からわかっていたことだけど毎年言っていることだから今年も守っただけだ。


「それより本当に増井君がいてくれてよかったわ、そうじゃなかったら一人になっていたかもしれないもの。でもね、絵夢ちゃんの気持ちもわかるから難しいのよね」

「俺がいなくて藤嶋か青戸が小牧を誘ったとしたら本人が断っていたと思います、ずっとあの二人のことを考えて行動していましたから」


 断っていたし本当に大事なところでは先輩もふざけないからそのまま終わっていた。

 でも、去年とは変わっていただろうから母を誘ってお祭り自体にはいっていた可能性が高い。


「考えられるのはいいことだけど親としてはあまり遠慮をせずにいてもらいたいわ」

「安心してください、俺相手には問題ないですから」

「あらそうなの? なら少し向こうで――痛い痛い、娘が怖いから今回はやめておくわ」


 母はこちらの頭を撫でてから「今日は先にお風呂に入らせてもらうわね」と言ってここから消えた。


「うんまあ、当然だけど俺と母さんのときじゃ違うよな、いまのは正に甘えていた気がする」

「え、つねっていたのにですか? 恭介先輩基準の甘えるという行為は少々歪……ですね」

「それより小牧の部屋にでもいくか、ここにいたら母さんが戻ってきたときに休めないだろうからな」


 お部屋には本当になにもないから客間の方に連れていった。

 追い出されてしまったうえにここで過ごせば遅い時間になる、だったら泊まる泊まらないの話になるから先にお布団を敷いておくことで問題はないことを出していくのだ。


「あ、藤嶋からだ、いま解散にしたってよ」

「藤嶋先輩って昔からずっと意地悪なんですか?」

「さっきも言ったけどいきなり知らない人間を連れてくるぐらいだからな、あまり否定はできないな。で、小牧もわかっているだろうけど普段は優しいからなんとも言えない気持ちになる――は? なあ小牧、いまから藤嶋も来たいって言っているんだけどいいか?」

「はい、全く構いませんよ」


 私はわかる、先輩のことだから本当に一人でくる。

 どちらにしても飲み物なんかを出さなければいけないからすぐに持ってきておいた。


「やあ」

「今日の藤嶋先輩はこれまでで一番いい人に見えます」


 先輩の隣には絵夢ちゃんがいてくれた。

 顔が赤いのが気になるところだけど一人ではないというだけでテンションが高くなる。


「あ、えっちゃんは帰ったんだね?」

「ええ、だけど中に入ったところでまた誘われてね、本当に意地悪な人だわ」


 ただ本人としてもそのまま帰られるとは思っていなくて少し慌てた、とかだろうか。

 もしそうなら先輩にも可愛いところはあるのかもしれない。


「意地悪なのは絵夢ちゃんだよ、最初は慌てていたのに途中からは食べ物にしか意識がいっていなかったんだよ? だから僕はお祭りの間、ずっと心で泣いていたんだ」

「青戸、藤嶋がうざ絡みして悪いな」

「いえ、だって私も悪いですから。この人が二人だけで行動しようとしたときに止めておくべきでした、そもそも四人で来たんですから四人で見て回ればよかったんですよ」

「うわあ……小牧さん絵夢ちゃんが苛めてくるよぉ」


 まあ、中途半端にやっているわけではないから私から言うことはなにもない。

 絵夢ちゃんが今日は付いていけなかっただけだ、普段はどんなことをしているのかはわからないものの、もう少しゆっくりとやっていくべきだったのかもしれない。


「風呂に入りたいんだけど着替えもないしな、しかもいまは小牧の母さんが入っているからどうするか」


 ここら辺りに銭湯なんかもないから母が出た後にいってもらうしかなさそうだ。


「お、小牧さんのお母さんと話してみたいな」


 これは別に悪いことではないから特になんにも感じなかった。


「まあ、頼めばいけるだろ」

「よし、そのときは小牧さんもお願いね」

「私もいますが」

「じゃあみんなでいこう」


 お風呂から上がったところで人が増えていたら母も驚くだろうな。

 ただ喜んでももらえるだろうからやはり悪いことではなかった。




「恭介先輩」

「おお、出てきたのか」

「星、今日は奇麗に見えますね」

「ああ」


 母とみんなが盛り上がっているときも一人だけ静かだったうえにこれだから気になった。

 ここにいることが落ち着かないのであれば先輩に頼んでそちらに集まるのもありだと思う、なにも無理をする必要はない。


「そういや浴衣のことだけどさ、奇麗だったぞ」

「ん? 元からわかっていたことですよね?」

「……違うよ、浴衣を着た小牧が奇麗だったって話だ」

「浴衣は、です、私にはやっぱりイメージ的に合っていませんでした」


 お祭り中はなんとか意識しないようにしていただけでしかない。


「いや、本当に似合っていたんだって。ただ、もし買うとなってもあの色は選んでいなかっただろうから姉ちゃんには感謝しているぐらいだ」

「やっぱりおかしいみたいですね、無理をしなくてもいいんですよ。帰りたいなら帰ればいいんです、藤嶋先輩ならお家に泊めてくれるでしょうから」

「か、勝手に帰りたがっているみたいに言うなよ」

「でも、いつもの恭介先輩らしくないですから」


 喋り声が、もしかしたらみんな出てくるのかもしれない――という考えになったときに何故かこちらの腕を掴んで走り出した彼がいる。

 変なことをしているわけではないのだからなにも逃げなくてもという気持ちになった。


「ああやって待っていればもしかしたら来てくれるかもしれないって期待していたところもあるんだよな」

「なのに逃げていいんですか?」

「……小牧がだぞ」

「ああ、それなら作戦成功ですね」


 仮に先輩が同じように黙っていたらこうして出てきてはいない、彼がやるから効果がある。


「二人で過ごしたかった、なんかもう前と違ってみんなでわいわいって感じじゃないんだ」

「それは少人数でいることに慣れてしまったからですね、わかりますわかります」


 どうせ四人とかそれ以上の人数で集まってもおまけぐらいにしかなれないからわかる。

 多ければ多いほどいいわけではないのだ、この点に関しては彼よりも経験値が高い。


「し、しし、静代」

「よく考えたら小牧の方が響きが可愛くないですか? 少し気になるので小牧か静と呼んでください」


 奇麗なお姉さんだったら名前も合っていたけどこれまたただのちんちくりんだからいまいち盛り上がれないのだ。

 名前で呼ばれる度に気にしたくはないから疲れさせないためにも彼にはそうしてもらいたい。


「その呼び方は青戸と被るだろ」

「それならよっちゃんとかどうです? えっちゃんとお揃いみたいで嬉しいです」

「静代でいいだろ、親から貰った名前なんだからな」


 自分が名前で呼ぶことになったときよりも変化がなにもなかった。

 ここで動揺するぐらいが恋愛的にはよかったのに残念だ。

 だけど彼に対する感情がやはりなにもないわけではない、それはもう目を逸らしたって意味もないことだと言える。


「恭介」

「ん……? あ、静代か」


 なっ、呼び捨てで呼んでもあのときみたいに心臓が慌ててくれない。

 よくも悪くも慣れてしまったのだろうか? このままでは本当に大事な場面で大変なことになる気がする。


「な、なにを」

「手、温かいですね、落ち着きます」


 これでも駄目か、追加で三十秒ぐらい待ってみたけど慌ててくれない。

 それならもうわかりやすくがばっと抱き着いてみることにした。


「お、おお」


 彼の心音が聴こえるように胸に耳を当てていたのがいい方に働いたのか同じような感じになってきている。


「はは、安心できました――わ」

「……もっと気を付けろよ」


 自分でも気づかない内に色々なステージを飛ばしてしまっていたのかもしれない。

 逆の立場になっても安心感がすごいだけでそれだけなのだ。


「まあ、いやらしい子達ね」


 あ、これは先輩。


「静、私は止めたからね……?」

「うん、大丈夫だよ、えっちゃんは悪くないからね」


 二人が現れても、やはり時間が経過してもドキドキすることはなかった。


「ドキドキする心が欲しいな」


 流石に時間が時間だから先輩組とは別れてお部屋に戻ってきた。

 私の勉強机用の椅子に絵夢ちゃんは座っている。


「え゛、羨ましいわよ、あんなことをしておいてドキドキしていないの?」

「うん、だけど私は恭介先輩が好きだよ」

「う゛っ、な、なんて強いのかしら……」


 うーん、彼女にはもっと上手くやってほしいと思う。

 なんとかしたくて動くことは大事だけど私みたいに本人で試すのは何度も使える手ではないからだ。


「それにしてもあの静がね、あと増井先輩も本当に素直じゃないわ」

「多分だけど最初のそれは本当のことだったと思うんだ」

「なに~? それじゃあ静の魅力で振り向かせたということよね? ふふ、すごいことね」


 魅力とは……。


「いまから突撃してこようかしら」

「いくなら連絡をしてからにした方がいいよ、寝ていたら不味いよ」

「そうね」


 こちらはもう満足できているから先に寝させてもらうことにした。

 結局、どんなことよりも寝ていられる時間の方が気持ちがいいことがわかった日となった。




「お待たせ」

「別に待ってない」


 小牧さんには悪いけど今日は僕が増井を借りていた。

 別に先か後か、勝ち負けではないけど気が付けば二人の方が進んでいて気になった。


「僕的には小牧さんが表情一つも変えずに手に触れたり抱きしめたりして怖かったよ、あと増井の気持ちを考えて余計にね」

「あれには驚いたぞ、爆発しなかったことだけが救いだ」

「なら慌てたところは減点だね」

「無茶言うなよ、藤嶋だって青戸に急に抱きしめられたら絶対に慌てる」


 全くそんな気配がないから当分の間はわからないままかな。


「実はいまだから言うけど絵夢ちゃんに近づいた理由は小牧さんがいたからなんだ」

「いや、それは最初に教えてくれただろ」

「あ、そっか。それからなんか絵夢ちゃんのことが気になり始めてしまってね」

「途中、戻りかかっていたような気もしたけどな」

「ああ」


 彼があのまま素直ではなかったら可能性はあったかもしれない。

 それでもこのことはあの子に言ってあって謝罪をしてあるから終わった話だ。

 もう途中から入っていける余裕がそもそも全くなかったのもある。


「じゃあ俺も言うけど、俺は最初から静代に興味があったぞ」

「はは、知っているよ」


 話に出してくるくせに本人のところへはいこうとしないから気になっていた。

 だけどこういうタイプはいけよと言ったところで聞いたりなんかはしない、益々いかなくなって面倒くさくなって思わず本人のところに置いて帰りたくなるぐらいのレベルになる。

 あまり怒るまでいかない僕でも流石に限界というのがくるから絵夢ちゃんにそれとなく言ってもらうように頼んだのだ。


「はは、だけどどこかの馬鹿が素直になれないせいでやれ藤嶋といたいだとかやれ青戸といたいだとか勝手に思われるようになったけどな」

「うん、自業自得だ」

「だからかな、初めて名前で呼ぶように頼んだときに躊躇ったのがよかったんだ」

「えー惚気話は聞きたくなーい」

「おま……青戸とは本当になにもないのか?」


 一緒に遊んだり勉強をすることはあってもそれぐらいだった。

 とはいえ、それを絵夢ちゃんのせいにするわけでもない。

 いつも側には怖い女の子がいたのもあるから尚更中途半端にできなくてお祭りのときは珍しく勇気を出した形になる。

 結果はあれだけど。


「はぁ、なんで野郎だけで集まってんだ、せめて青戸だけでも呼ぶか」

「今日はいいよ」


 勇気を出した結果が微妙だと次を頑張るまでに時間がかかるのだ。

 だから複雑な気持ちになりようがない彼が相手をしてくれるのが一番だった。

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