06
「早くいきましょうよ、待たせてしまったら駄目ですよ」
「……十時からだろ? まだ九時だぞ小牧」
「誘った側なら三十分前ぐらいには着いておくべきです、いきましょう」
正直十五分ぐらい前にはいられればいいかな程度だけどなるべくこの場所にいたくないからだった。
自分で上がらせてもらっておきながらなんだよと指摘されてしまうかもしれないものの、ここは彼のお部屋だからだ。
「ふぁ……というか俺、まだ着替えられてもいないんだけど」
「だから早く着替えてください」
「え、このままいるつもりか?」
「はい、後ろを向いておきますので安心してください」
二度と入れなくなるは大袈裟でも出たらもう戻れなくなる気がしてこのやり方にした。
それでいつまで経っても着替えている感じがしなかったから振り向いたらこちらを見てきている微妙そうな顔が見えた形になる。
「いや、流石にそれはないわ」
「なら先にいきます、必ず来てくださいね」
「なんでそう極端なんだ、いいから廊下で待っていてくれ」
こんなことで時間をかけているわけにはいかないから大人しく廊下に出て待っていたら「終わったぞ」と二十秒もかけずに出てきた彼がいた。
なんでもいい、今日だって私と彼がメインで遊ぶわけではないのだからこれで準備は整ったことになる。
ご飯なんかも外で食べればいいからすぐに連れ出した。
「今日もあちいな」
「水分補給を忘れないようにしないといけませんね」
夏ぐらいで丁度いい私でもそうだ、いつだってちゃんとしておかなければならない。
だけど得意で余裕がある状態だからこういうときには役に立てる気がした。
「あれ、もう外で待ってくれているみたいですね」
本当は今日も四人で集まるつもりだったけど絵夢ちゃんに予定があって三人になってしまっていた。
外で待ってくれていたことといい、これでは上手くいくのか不安になってしまう。
誘った側だからこちらが待つぐらいで丁度よかったのにこれだ。
「なんか最近はやたらと小牧のことを聞いてくるぐらいだからな、なにも驚かないぞ」
「やめてくださいよ、変なことになったら絵夢ちゃんに顔を見せられなくなります」
「そうなる前に俺が守ってやるから安心しろ、あいつは青戸に集中しておけばいいんだ」
「いやそれも困るんですけどね」
母は確かに彼の言う通り気にしていたけど外での私達を見ることはできない、だからあのとき母に言ったことを律儀に守ろうとしなくていいのだ。
「お、来たね」
「今日はよろしくお願いします」
「うん。さ、いこうか」
お店に向かっている最中、私の横を歩いていたのは先輩だった。
ここで露骨に場所を変えたりするとすぐにバレて警戒されてしまうから上手く対応した、彼も変に距離を作ったりはしなかったから緩くいけたのもいいことだと思う。
「小牧さん、少しここに寄ってもいいかな?」
「はい」
どんなお店でもそうだけど適当に見て回るだけでも十分楽しめる。
「あ、これ可愛い」
今日はまだお金の方にも余裕があるから買ってもいいかもしれない。
ケチケチしすぎても駄目なのだ、お金は使うためにあるのだからと負けかけたところで腕を組んで黙っている彼に意識がいってなんとかなった。
もう何周かしてそれでもまだ欲しかったら買おうと決めて戻しておいた。
「そこまで長くいるつもりはないと思いますからそんな顔をしないでください」
「いや、別につまらないわけじゃないから気にするな」
「それに今日のこれは恭介先輩が藤嶋先輩といられるように集まっているんです、ほら、あそこにいるのでいってきてください」
このことはちゃんと先輩にも話してあるから後から実は……なんて展開になることはない。
絵夢ちゃんにも言ってあるからこの時点で顔を合わせられないなんてこともない。
どれだけ一緒に過ごそうとあの子と彼がいれば無問題、この状態は気が楽でいい。
「酷いなあ増井は、少しもこっちに来てくれないじゃん、そんなに小牧さんがいいの?」
「小牧はほら、俺達と比べれば小さいからな、迷子になっても困るからさ」
平均的なコンビニの二倍ぐらいの大きさしかないのに迷子になるわけがない。
私が先輩といさせたがっているように彼も意地になっているみたいだ、どうにかして先輩といないようにしている。
それでも露骨にやると私にバレるから先程は合わせたわけか。
「そんなに大きなお店じゃないんだから大丈夫だよ、少しは付き合ってよ」
「え、おい――え゛、なんで手を掴む!?」
「まあまあ、たまにはいいだろう?」
なるほど、変に言葉で頼むよりもただ一緒にいるだけで効果が出るときもあるのか。
彼が嫉妬するのではなく先輩に嫉妬させることで自然と二人はいられるようになる。
最初に寄ったお店で一つ学ぶことができた。
解散になるまでにあと二つぐらいは今後に役立つ情報を得られるのが理想だった。
「途中からでも参加できてよかったわ、だけどあれは……なに?」
「いまこのときだけは恭介先輩大好き人間になってしまった、という感じかな」
手こそ繋いでいないものの、何度も引っ張っては自分の気になるところに連れていっている。
彼も彼でいちいち「引っ張るなよ」と言いながらも嫌そうな感じは伝わってきていない。
「え、一番のライバルは増井先輩だったということ?」
「うん、は冗談としても二人とも楽しそうだから嬉しいよ」
それでも今日はもう十分だろうから次は彼女と過ごしてもらう。
こういうときも一人だけ連れてくるとわかりやすすぎるから二人まとめて連れてきた。
意外にも抵抗されたりはしなかった、多分先輩の方が彼女を見て落ち着いたのだと思う。
「今度はこうしよう」
結局それでいつもの形に戻った。
いつもと違ったのは一人だけ輪の外になんてこともなく私も会話に混ざれていたことだ。
何故こうなっているのかは彼のせいであり彼のおかげでもある。
「そういえば二人って浴衣は持っているの?」
「私は持っていますけど静はないですね」
「それなら小牧さんは増井に頼めばいいよ」
どうやら出ていってしまっただけでお姉さんがいたみたいだ。
ちゃんと許可も貰うみたいだけど別の問題が出てくる、私みたいにちんちくりんではないだろうからサイズの方が――あ、それも合わせられるみたいだけどうーん……。
「許可を貰えたら私が着付けをしてあげるわ」
「え、普通に自分の服を着ていくからいいよ」
あ、目が笑っていない、この子はなにを言っているの? という気持ちが伝わってくる。
ま、まあ、許可が出なければ意味はない話だからここで終わりにした。
私のことでごちゃごちゃ続けてもいつまで経っても目標を達成できないからだ。
「最初から安めの浴衣を買えばいいんじゃないか?」
いまの話だって聞こえるところでしていたのに何故まだ続けようとするのか、しかも買ってまで着たい気持ちはないのに。
「増井……自分が見たいからってお金を出させるのはちょっと……」
「ただ貸してくれって言ったって許可してくれないぞ、写真なんかを求められるぐらいなら自分の浴衣の方が楽だと思ったんだ」
「あ~確かに条件なしで貸してくれたりはしないよね」
浴衣なんかよりもどういう人なのかを見てみたくなった。
「安心してください、浴衣を着ていくつもりはありませんから、あ、参加していいならですけど」
「あ、小牧さんは絶対に連れていくからね? あと二人だけで話したいことがあるからちょっとの間借りていくよ」
全くこの人ときたら……。
敢えて絵夢ちゃんが参加してきてから動くなんて意地悪だ。
「なんで最近は絵夢ちゃんに意地悪をするんです?」
「ん? 意地悪なんてしていないよ。それより二人きりに拘ったことだけどさ、それはもうすぐ増井の誕生日があるからなんだ」
「え、なら少し前のあれは……」
「僕の誕生日は本当のことだよ、小牧さんは祝ってくれなかったけどね」
そういえば当たり前のようにスルーしてしまっていたけどそうだった。
だけどどうせ考えていたところで絵夢ちゃんの存在が引っかかって動いてはいなかっただろうからいいか。
「まあ、自分から祝ってほしいとは言えませんよね」
「そう、だから教えてあげようと思ってね。話はそれだけ、小牧さんには悪いけど僕が好きなのは青戸さんだから――あ、別になにも問題はなかったか、だって恭介さん、なんて名前で呼んでいるんだもんね」
やっぱりこの人の笑顔は苦手だ……。
最近は少しマシになってきていたけどいまので駄目になった。
「あれは条件なんですよ、今日だってそれがなければ来てくれていません」
「そうかな? 小牧さんが本当に増井と過ごしたくて誘ってあげれば応えてくれると思うけど」
「それだと恭介先輩の本当の目的が達成できないじゃないですか」
「だってそれは勘違いだからね。そりゃ僕らだって友達だからゼロではないだろうけどいま本当に仲良くなりたいのは小牧さん、きみなんだよ」
いまは来てくれていてもそれは最初に否定してくれたことだ。
とはいえ、そのことはこの人は知らないから仕方がないところもある。
「私が決めつけているように藤嶋先輩も決めつけていますよね」
「ううん、これは合っているから勝手な決めつけじゃないよ、本人から教えてもらったんだ。あとほら、こうして一人で来て――何故か青戸さんもいるけどやっぱり気になるんだよ」
「意地悪な人がいればそうですよ、優しいから守ろうとしてくれているんです」
「ははは、なら意地悪じゃない僕は増井に小牧さんを返すよ」
えぇ、だからって押さないでほしいけど……。
「恭介先輩、あの人は危険なので守ってください」
「おう、任せておけよ」
そして先輩よりも悪い人間がここにいた。
「浴衣、興味が出てきました、このまま買いにいくのもありかもしれないです」
「いや待て、やっぱり小牧には先に姉ちゃんに会ってほしい、小牧ならあっさりいけそうな気がするんだ」
な、なにを根拠に言っているのかはわからないけど……まあいいか。
なんでも聞けばいいわけではないにしても言うことを全く聞かない人間なんて守ってなんかもらえない。
いざというときにいてくれないと困るから先に頑張ろうと思う。
その結果、物凄く疲れることになったとしてもこの人がいてくれるだけで違うから。




