03
七月になった。
毎日天気がよくて捗りまくっている。
絵夢ちゃんは夏が苦手で弱ってしまっているから手放しで喜べはしないものの、私的にはようやく輝ける季節がきたのだ。
「はっ、はっ、はっ」
「小牧ー」
「あれ、どうしてこんなところにいるんですか?」
休日だし学校敷地内で走っていたわけでもないから意外だった。
「俺の家の近くだからだな、まさか休日に遭遇するとは思わなかったぞ」
「私もです。でも、汗をかいているのでこれで失礼します――なんですか?」
「まあ待て、飲み物でも買ってやるから付き合ってくれ」
「それなら飲み物を買わなくていいのである程度は離れておいてください」
「小牧でも気になるんだな」
それはそうだろう。
「あともう少ししたら藤嶋と集まる約束をしているんだけど小牧も来ないか?」
「それって絵夢ちゃんとのお出かけを邪魔しているわけじゃないですよね?」
「そ、そんなに怖い顔をしなくたって大丈夫だ、青戸は今回の件になんにも関係していないぞ」
だからって参加してもなんでいるのかって顔で見られるだけだと思う。
中途半端なところで足を止めたのもあってこのままなしにするのも違うから断ろうとした、だけどこちらの腕をがしっと掴んで逃がさないつもりらしい。
もしかしたら本当にそういうつもりで先輩のことを意識していて二人きりでは恥ずかしいということなのだろうか?
「駄目ですよ、好きなら絵夢ちゃんみたいに頑張らないと上手くいきません」
「は? 誰が誰を好きだって?」
「だから増井先輩が藤嶋先輩のことを好きでいるんですよね?」
まだ私がはっきり言っていくタイプだとわかっていないみたいなので重ねていけばいい。
「はあ!? あっ、そりゃ友達としては好きだけどよ」
この顔はただ呆れられているだけみたいだ、やたらと拘っていたからそう見えたけどこちらの妄想で終わるだけの話みたい。
「なんだ、特になにもないんですね」
「当たり前だろ!」
「落ち着いてください、興奮しすぎですよ」
「小牧が馬鹿なことを言うからだ」
約十分ぐらいが経過した後に腕を掴まれたまま歩くことになった。
私でも多少は汗をかいているのに気にならないのだろうかと考えている間に「こんにちは」と先輩の登場、他には誰もいないみたいだったから帰りたい気持ちは――依然としてある。
それこそ先輩としては大して知らない後輩よりも絵夢ちゃんにいてもらいたいところだろう、いまからでも空気を読んで呼びだすべきかもしれない。
「お、連絡通り小牧さんもいるねー」
「いきなりすみません」
「いいよいいよ、人数が多い方が楽しめるからね」
内はどうなっているのかなんてわからないけどやはり先輩も余裕がある人だ。
だからあの子も好きになったのだ、結果はどうなるのかはわからなくてもお似合いだということはよくわかる。
対する増井先輩は……少し子どもみたいな反応になるところはいいかもしれない、だってずっとこうして冷静に対応をされたら失敗をしがちなこちらとしては困ることになりそうだからだ。
一緒になって慌ててくれる人が私的には合っているはずだ。
「ところで今回はどこへ?」
「暑いからプールにね」
「それなら絵夢ちゃんを呼びます」
「もう現地にいるんだ、午前中は他の友達とプールで遊んでいたみたいでね」
プールにいっていたのか。
なんかそういうことも教えてくれる子だからえ、初耳なんですけど……なんてことも少ない。
多分、本人的には誘われても応えられないから教えているだけだろうけどいちいち細かいことを気にすることもないだろう。
というか、水着がないからこちらにはどうしようもないことに気が付いた。
「水着がないので帰ります」
貧相な体を晒したくないとかそういうところからきているわけではない、取りにいってまでいく価値はないと考えているだけだ。
こういうところも重ねて出していくことでわかってもらえればよかった、やはり私は面倒くさくなると合わせたくなくなるのだ。
そもそもいる必要性が感じられないしお金を払うぐらいならこのまま走っておけばいい、無料でできる運動が最強だろう。
「おう、付いていくぞ」
「帰るって一旦お家に帰るわけじゃないですよ?」
「駄目だ駄目だ、運動がしたいんだろ? だったらプールは丁度いいだろ」
そうか、協力するって言ってしまったからか。
彼が急に来なくなったときに勝手になかったことにしてしまったけど……。
「私がいなくても藤嶋先輩とはいられているじゃないですか、たまたま遭遇しただけで私と会わなかったら三人で集まっていたんですよね?」
「一人だけ仲間外れにしたくないんだよ」
いつの間にか仲間になっていたらしい。
「そもそも仲間にもなれていませんよ」
「そんなに寂しいことを言うなよ、もう出かけた仲だろ?」
「ならちゃんと藤嶋先輩には素直になってくださいね」
「任せておけ、小牧に迷惑はかけねえよ」
なら……今回だけは自分を守るために頑張ろう。
人が沢山いて泳げなくて歩くことになるのは決まっていることだし軽くでも運動になるならそれでいいのだ。
だからそんなに気分は悪くなかった。
「よっ、ほっ、とっ」
片足だけで歩いてみたり少し中屈み状態にしてぴょんぴょんしたりしていた。
調べればほとんど変わらない事実がわかりそうだけどこんなのは効いていると思い込めればいいのだ。
「おお、ぼさぼさしていない小牧は初めて見たな」
「まあ、お風呂上がりの私を見る機会もないでしょうからね」
「青戸には何回も見せているのか」
「まあ、最近できたお友達というわけじゃないですからね」
それより増井先輩がずっと付いてきて困っている。
勢いで行動をする前にちゃんと言葉で伝えたのに「気にするなよ」と言って聞いてくれない。
そりゃ確かにあの二人の邪魔はしたくない気持ちになるけどこれは流石に露骨すぎではないのだろうか。
距離を作るにしても上手くやるのが大切なのだ、一緒に来ているメンバーに少しだけでも私達のことを考えさせてしまったのなら失敗だ。
「見えた、のんびりしてんなあ」
「いってあげてくださいよ」
「いや、こうしてこそこそ見ておくぐらいが楽しいだろ、普段は浮かべない表情なんかも見られるかもしれないんだぞ?」
「前を向いているじゃないですか、どんな表情をしていようとここにいる限りは見ることができないんです」
すぐにもったいないことをしていたと気づいて動いてくれればいい。
空気を読んで付いてきているだけで許してほしい、流石にこれ以上は求めないでほしい。
一回は曲げられても二回目はない、そこまで私はいい人間ではないのだから。
「小牧――」
「お、小牧じゃん」
「あ、羽原君」
お家から近いそこそこ大きなプールとなったらここぐらいだからこういうこともあるか。
彼は絵夢ちゃんのお友達だ、だけど一緒にいるときに何回も来ていたのもあって喋れるぐらいにはなっていた。
別の高校を志望したからいないだけでもし同じ学校だったら引き続き中学生時代みたいにやれていたかもしれない。
「ということは青戸もいるよな? やり取りはいまでもしているけど実際にこうして見ることになるとやっぱり違うなあ」
「学校はどう?」
「学校は元々入りたくて選んだ場所だからさ、楽しいよ」
「それならよかった」
部活の最後の大会が終わってからはいつも不安そうな顔をしていたから意外と気になっていたことでもあった。
でも、いまも言っていたように絵夢ちゃんとは直接会ったりやり取りを重ねていたことだろうし余計なお世話でしかなかったことになる。
「おう、ありがとな! ……それよりさ、困っているなら言えよ? 力になってやるぞ」
「ああ、この人は学校のお友達だから大丈夫だよ」
「な、ならいいや、またな!」
「うん、またね」
これがちゃんとお友達のあの子の場合なら変わってくる、つまり露骨な差があった。
「ありゃあ小牧の友達じゃねえな、わかるわかる」
「その通りですよ、絵夢ちゃんのお友達なんです」
「でも、やっぱり男が苦手なわけでもないんだよな」
「そうですよ、そうでもなければこうして増井先輩と二人きりじゃいられません」
自然と来てくれる男の子がいなかっただけで最初からずっとそうだ。
「ならよ、藤嶋とは二人きりでいられるか?」
「無理ですね」
「なんでだよっ、俺との差はなんだ!」
「え、だって絵夢ちゃんのことを気にしているからですよ、なにを興奮しているんです?」
「あっ……さ、最初からそう言えばいいだろ」
情緒不安定のときに一緒にいると疲れるから離れよう。
現在は丁度お昼ご飯にいいぐらいの時間だからお金を持ってきてなにか食べることにした。
すぐには解散にならないだろうから動きたくなくなるほどの量は入れないように意識をする。
まあ、なにをどう頑張ろうと元々大量には入らないから一つだけで似たような状態になってしまうのが悩みどころではあった。
「あーむ、あ、美味しい」
「どっこらしょっと」
あのタイミングで動いてよかったかもしれない。
服を着ている状態なら暖かいだけで水着だけなら冷えてしまっていたかもしれないからだ。
外でお腹の痛さと格闘はしたくないからこの人があのタイミングで変になってくれてよかったと言える。
「あいつらもひでえよな、もう少しぐらいはこっちの相手もしてほしいよなあ」
好きな人相手に一生懸命になっているのだから邪魔なんかするべきではない。
優先されても喜べないで微妙な気持ちになるぐらいなら放っておかれるぐらいがいい。
なんなら向こうから誘っていたとしてもなにも言わずに帰ってもいいから仲良くしてほしかった。
「おい小牧」
「残りを食べてくれませんか?」
「駄目だ、ちゃんと最後まで食べろ」
ちゃんと食べて解散になったらまた走ろう。
鍛えることよりもストレスを発散させるために走ることになってしまっているのがアレだけど仕方がない。
それと今度は遭遇しないように彼らのお家がある方向へは走らないことに決めた。
「じゃあな」
「また月曜日にねー」
先輩達二人が別の方向に歩いていって今日は初めて絵夢ちゃんと二人きりになった。
顔を見てみても「私達も帰りましょうか」とあくまでいつも通りの彼女、まあ当たり前と言えば当たり前で彼女だけは好きな人と楽しそうにしていたのだからなんらおかしな話ではない。
「あれから増井先輩はなにかと静といるわよね、やっぱり興味があるというのは本当のことだったのかしら?」
「ううん、そんなことはないと思う」
口を開けばすぐに先輩のことか彼女のことを話すからこれはいつもの勝手な妄想ではない。
だけど歓迎していないわけでもないから勘違いをしないでもらいたかった。
他の人に興味を持ってくれているのなら楽でやりやすくなる。
「このまま解散は寂しいから静の家にいくわ、それともたまには逆にする?」
「うん、えっちゃんのお家でいいよ」
それで自宅方向に向かって走ればいい。
これでもまだ十五時とかだから時間には余裕があるのだ、無限には走っていられないからある程度は時間がつぶれておけばいい。
「はい」
「ありがと」
べ、別にジュースを出してくれるから彼女のお家を選んだわけではないことをここで言い訳をしておく。
それでもやっぱりこのオレンジジュースが特に好きだ、スーパーで普通に売っている物だけどなんか凄く美味しく感じるのだ。
「ふぅ、今日は長いこと静のことを放置してしまってごめんなさい」
「それより楽しめた?」
「それは……ええ、藤嶋先輩とも長くいられたから」
「それなら私も嬉しいよ、だから謝る必要なんかないよ」
そう考えると楽しめるぐらい増井先輩を遠ざけられたことになるから私の存在は必要だったということになる。
うん、付いていった甲斐があるというものだ、これからも先輩と集まりたいときにあの人が余計なことをしようとしたら頼んでほしい。
彼女のためなら走ることだってやめて参加する。
「途中で羽原君と会ったけど声をかけられなかった?」
「ええ、特には」
空気を読んだのかもしれない、私の場合は心配してくれたからかな?
あのときと変わっていた彼女の水着も影響している可能性もある。
「うっ、ちょ、ちょっとシャワーを浴びてきてもいい? やっぱりこのままでいるのは気になるから」
「うん、なら私もこれで帰るよ」
時間の関係でまた途中でやめることになったらモヤモヤするどころの話ではないから丁度よかったのだ。
「それは駄目よ、それともなにかやらなければいけないことでもあるの?」
「うん、走っている途中で増井先輩に捕まったから」
「きょ、今日はもういいじゃない。いーい? すぐに出るから待っていてね、静の好きなオレンジジュースならいくらでも飲んでいいから」
いってしまった。
勝手に出ていっても鍵が開いたままで危険だからソファで大人しく待っていた。
なんとなく窓の向こうに意識を向けていた間に気が付けば眠ってしまっていたみたいで、
「あ、起きた」
目を開けたときには後頭部に柔らかく慣れた感触があって膝枕をしてくれているのだとすぐにわかった。
「静も疲れてしまったのね」
「増井先輩が何故か付いてくるからね」
ただ、走っていたときに遭遇したのは本当に偶然だろうから疑ったりはしていない。
しかも何故かなんて言ったけどプールに遊びにいって一人で遊びまわりたい人なんていないだろうから自然と言えば自然だった。
「困ったらちゃんと言ってね、私にできることならするから」
「うん、ありがとう」
「さ、ご飯でも作るわ、食べていってちょうだい」
「それなら手伝うよ」
彼女といられるこの時間が私には必要だとよくわかる。
でも、確実に邪魔になるからこちらが線を引いてしっかりしなければならない。
彼女に対してはすぐにはっきり言うところも隠して抑えられるから最後まで問題なくやれる。
十九時頃に解散になって長く走りたい気持ちも抑えて大人しくお家に帰った。
「おかえりなさい」
「ただいま、連絡していた通りご飯は食べてきたから先にお風呂に入らせてもらうね」
「ええ、ゆっくり入りなさい」
長時間お風呂に入るタイプでもないのに今日は三十分も湯舟につかっていた。
人と過ごした後はこういうことも起こるけど元に戻すのは容易だ。
どうせ明日になればなにも予定がなくてまた走って休むだけなのもいい。
平日も相手が来るまで待っておけば楽でいいだろう。
それでもいつか自分の意思でいくようになってしまったら……今回みたいに戻せるのだろうかと考え込んでしまった。
「いや、できるでしょ」
というかその場合は戻さなくていい気がする。
前にも言ったようにそこまでネガティブなタイプでもないからだ。
これもそうだけどやっぱりどうしても一人ではいられなくて絶対にどこかで誰かと過ごす必要が出てくるわけだし必死に抑えようとしたって表と内の差が酷くなって自滅するだけだから。
だから意地を張らないで素直に対応をすることができるように願っておこう。




