02
「小牧ー……って、なんで泣いているんだよ……」
これはまた嫌なタイミングで来てくれたものだ。
別に苛められているわけでも、転んだわけでも、本の内容に感動したわけでもない、ただ目が乾いてしまっただけだった。
でも、自分が近づいた際に相手が涙を流していたら私でも似たような対応になるから増井先輩――彼が悪いわけでもないのがなんとも言えなくなるところだと思う。
「大丈夫ですよ、それより今回はなんの用で来たんですか?」
あのときからちゃんと来てくれている謎の存在だ。
一ヵ月も経過していないところだけど本当に興味を持たれているかのように感じてくるからやめてほしいところではある。
いまいち喜べない点は彼といられていることをいい方に考えて絵夢ちゃんが学校ではほとんど来なくなってしまったことだ。
これまではなんだかんだで他のお友達を優先しつつも来てくれていたのに急にゼロになると付いていけない。
だから結局は誰かがいてくれないと駄目なのだ、それはこれまでも経験してわかっていたつもりだったけどあくまでつもりでしかなかったということがわかった短期間となった。
「ああ、俺はやっぱりまだ藤嶋の件で納得できていないからさ、また尾行をしようと思ってな」
「今日は絵夢ちゃんが藤嶋先輩とお出かけしているんです、やるにしても今度にしてあげてください」
だからって困らせてやろうなんて考えをすることはない。
邪魔をするようなら私が止める、あの子以外に嫌われたって問題なくやっていけるから。
「確かに邪魔になったら悪いか、よし、じゃあ代わりに小牧が付き合ってくれ」
「え、嫌です、今日は大人しく帰るつもりだったんですよ」
これも付き合いたくないから勢いで吐いた嘘というわけではなかった。
「なのに既にニ十分が経過したいまでも学校にいるのはおかしくないか? はっ、やっぱり苛められているとか!?」
「目が乾いただけですよ、それにニ十分が経過しているのは……」
忘れ物がないのかを何回もチェックしたからとかでいいだろう。
実際に急いで行動して必要な物だけを机の中に置いてきたなんて経験が何回もあるから自分のためにそうしているのだ。
あとは基本的にゆっくり動くのもある、こういう点でも合わない人というのは出てくるかもしれない。
「いいからいこうぜ、アイスぐらいなら買ってやるから」
「でも、雨ですよ?」
「雨ぐらいなんだ、これから梅雨なんだから雨だって降るだろ。いいからいくぞ」
「あー」
連れていきたいのなら先輩のことは出さずに最初からそれでいいのに。
余計なワンクッションを置いてから本題に入るからこうなるのだ。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
灰色の世界が内側と連動している~なんて考えたくなるテンションではないからアイスの方は普通に美味しかった。
雨にも関わらずお客さんは沢山いる、店員さん以外は物好きな人達が多いようだ。
「青戸には悪いけど青戸が藤嶋に興味を持ってからつまらなくなったんだよな」
「誰が誰に興味を持とうと自由ですから」
またえらく急だな。
これが本当に吐き出したことだったのならわざわざこんなところにまで連れていかなくてもと言いたくなる。
教室だけで終わらせてお互いにじゃあねで学校から離れられるところだったのになにをしているのか。
「だってこれまで当たり前のようにいてくれた友達が他を優先して目の前からいなくなるんだぜ? いきなりは耐えられねえよ」
「それでも時間があったはずです、動いていなかった増井先輩が悪いんですよ」
自分にも刺さっているけどこうとしか言いようがない、私達は相手に甘えすぎてしまっていたのだ。
来てくれるのは当たり前なことではないとか考えつつも常に来てくれる前提で動いてしまっていたからこんなことになっている。
「そりゃ結局は自分に原因があるわけだけど……真っすぐすぎるぞ」
「でも、私達は似た者同士かもしれませんね」
「本当か? その割に小牧は平気そうな顔をしているだろ」
「あくまでそう見えていたとしてもです」
大切な存在が側から消えてしまった者同士で集まったところでなんににもならない。
寧ろなんで過去の自分は頑張っておかなかったのかという気持ちが強くなるだけ、今更、気持ちが強くなったところで本当に意味もないけど。
「本当はどうにかしたかっただけなんですね」
「ん? ああ……まあ、藤嶋に構ってもらいたかっただけだからな」
「いいですよ、絵夢ちゃんとお出かけするとき以外は協力してあげます」
「頼むわ」
あの子からちくっと言葉で刺されるまではやることにした。
尾行でもなんでもそれで時間が経過してくれるなら積極的にやる。
「はい」
「いや金は――わかった」
変な関係だからこういうことはちゃんとしておいた方がいい。
お互いに求めていないからこそやりやすかったり言いやすかったりするからその点も悪くはなかった。
ただお友達として仲良くしたいだけならいいはずだった。
「藤嶋先輩っていつもにこにこしていて近づきやすそうですね」
「俺が相手のときもそうだけど疲れねえのかね?」
「自然とそうなってしまう人なら疲れないんじゃないですか?」
本当は疲れてしまっていたとしたら……どうやって発散しているのだろうか。
「あと、意外にも藤嶋先輩に近づく女の人は少ないんですね、これだと絵夢ちゃんが一番一緒にいられているかもしれません」
「普段からこうだぞ」
でも、あの子が先輩に向ける想いの強さと同じぐらいのソレがあるとは思えないのだ。
これはあの子が来てくれなければ一人でいるしかない私だからこそなのかもしれないし間違いなくいい気分にはならないだろうから直接ぶつけたりはしないけど。
「なにも毎時間教室を離れるわけじゃありませんから余裕じゃないですか? 逆にこうして私と過ごしていることで一緒にいられなくなっているだけだと思います」
「で、でもよ、女子でもあるまいし中々構ってくれとは言えねえだろ」
「それを求めているんですよね?」
難しい顔をしたまま黙ってしまった。
「想定外だ、まさか小牧がここまで言える人間だったなんて思っていなかったからな」
「こういう人間ですから変えられません」
誰かといたいくせに合わせる気もあまりないのが私だ。
もちろん、少しは努力をするけどあまりに重なるとなにもかもが嫌になって駄目になる。
つまり、早くも答えが出てなんでこんな無意味なことをしているのかという気持ちが強くなってきてしまったのだ。
こそこそしていたところで得なことはないから手を掴んで連れていくことにした、ついでに何故あんなことをしていたのかも吐いておいた。
勝手だけど解決させるためにはこれが一番手っ取り早い、まずは知ってもらえなければ話にならないのだ。
「はは、今年も同じクラスになったときは『たまには別のクラスでもいいよな』とか言っていたのに結局寂しがり屋なんだから」
「う、うるせえ、友達とは一緒にいてえだろ、だから藤嶋だって青戸とかと一緒にいるんだろうが」
「そうだけどさ、青戸さんと違って素直じゃないなあってね」
「……暇なときだけでもいいから相手をしてくれ」
「わかったよ。まあ、増井とはずっと一緒にいるんだけどね」
解決したし戻ろうか。
それとこの機会に少しダーク寄りだった考え方を直そうと切り替えた。
謎にポジティブ思考ばかりをするわけでもないけど積極的に悪く考える人間でもないからだ。
梅雨のいまあのままでいると本当に外の世界と連動しかねないから仕方がない。
「小牧、ありがとな」
「はい、ちゃんと素直になってくださいね」
「が、頑張るわ」
なにか趣味でも作ろうか。
一年の六月とはいえ、部活をやらなくなったことで積極的に体を動かす時間は体育のときのみになったから走るのもいいかもしれない。
得意ではないけど繰り返していけばマラソン選手並みにとはいかなくてもそこら辺にいる人達よりは速く走れるようになるだろう。
思い立ったが吉日ということで放課後は早速実行して頑張っていた。
たかだか十メートルぐらい走ったところで息が切れてしまうなんてこともなくて延々とマイペースで走っている。
初回に無理をすると反動で駄目になるからある程度のところで引き返して家へ、着いたらしっかりストレッチも忘れない。
運動後には栄養を補給するといい的なことを聞いたことがあるから今日は意識をして取り込んだ。
「ふぅ」
「静代、さっき言い忘れていたけど絵夢ちゃんが家に来たわよ、いないって言ったら帰ってしまったけど」
「そうなんだ」
スマホを確認してみてもメッセージなんかもきていないということはただふらっと寄っただけだろう。
時間的にお風呂なんかに入っているだろうからこちらからなにかアクションを起こすことはしなかった。
寝る直前におおと一人で盛り上がっていたけど寝られなくなるだけだからすぐにやめて任せる。
「いってきます――あ、えっちゃん」
翌朝、登校するために外に出たときにすぐに絵夢ちゃんの存在に気づいた。
当然だけど怒っているようにも悲しそうにも見えない、無表情のまま「おはよう」なんて挨拶をしてきたから返しておく。
「藤嶋先輩から聞いてね」
「ああ、そのことか」
先輩も余計なことを言わなくていいのに。
「興味があるなんて嘘で言うことじゃないわ」
「別にいいよ」
「静ならそう言うと思ったけどね」
だからやっぱり私が男の人といることの方がおかしかっただけだ。
いつも通りの生活に戻るだけ、ただそれだけでしかない。
「お、二人ともおはよう」
「「おはようございます」」
そのままぶつけようかとも思ったけどやめておいた。
折り返すタイミングがあれでも遅かったのか結局のところ筋肉痛になってしまっているから休ませたいのもあった。
それでも悪い時間ではなかったからゆっくりと距離を伸ばしていきたいと思う。
ただお家でごろごろしているよりは遥かにマシだろうから。
「静、これとかどう?」
あれからまた一緒にいてくれるようになった。
先輩のことを出しても学校のときはいられているから問題もないとしか言わない装置みたいになってしまっている。
「あ、それならこっちの黄色の方かな、えっちゃんには青色がいいと思う」
「え、なんで青?」
「いつも落ち着いて対応ができて優しいから」
「いつも落ち着いているってどこの誰のことよ、ちょっとしたことで取り乱すのが私じゃない。あのときだって私一人で勝手に怒っているだけで静の方が落ち着いていたわ」
落ち着いていたというか呆れていたというか、そんな感じだ。
「近づくなとは言わないけど増井先輩とはいてほしくないわね」
「ああ、それはあの人の方がもう来ないから」
頼むとか言っていたけど事実、こうして六月が終わりそうになるところまで来ていないのだからどうにもならない。
本人が来なければ協力なんてこともできないわけで、これと同じ状態なら彼女でもこう言うと思う。
結局は先輩が言っていたように一緒にいられていたという話なのだろうと片付けている。
「っと、最近の悪い癖が出てしまったわ、自分から暗い方向に傾けるなんて馬鹿のすることよね」
「そこだよ、そこが私とは違うところなんだよ」
「や、やめなさいよ」
やめろと言われたら敢えて重ねたりはしないけど事実そうだから自信を持っていい。
私ぐらいの小さい存在と比べていいとか言われても喜べないかもしれないものの、やはりすぐに上手くやれるのが彼女なのだ。
「静、口開けて」
「あー」
「はい」
甘さも苦さも優しめなチョコだった。
これなら買って帰ってもいいかもしれないと考えていたところで増井先輩を発見してついついじっと見てしまった形になる。
こちらには気が付いていないし誰かといるわけでもない、ただ彼もお店の商品をじっと見ているだけだ。
先程はあんなことを言っていたくせに今日はなんか話しかけたい気分だったから近づくと「お、よう」と向こうが気づいて挨拶をしてきてくれた。
「青戸は知っているだろうけどもう少しで藤嶋の誕生日でな、プレゼントを買いに来たんだ」
ここまで男の子が大好きな男の子は初めて見たかな。
「ふふ、私はもう買っています」
「早いな、ちなみにこの範囲の中からならどれを渡す?」
「ん-……これですかね」
「そうか、あいつも結構可愛い物が好きだからなあ」
普段はにこにこしていて引っ張っていけるタイプなのに裏では可愛い物好きなんて可愛いと思う。
少なくとも私よりも女の子らしいというか、彼にも似たような趣味がないだろうか。
「というか、絵夢ちゃんでいいじゃないですか」
「もう、変なことを言わないの」
「そうだぞ小牧、人を渡されても困るだろ?」
まあ、言ってみただけだからそこまで重く捉えないでほしい。
二人で盛り上がり始めたから違うところで同じように商品を見ていた。
特に近くに彼女のお誕生日も自分のそれもないから買うことはしないけどやはり先程のチョコの方に惹かれた。
どうせ意識も向けられずに終わるだろうから一人でいってきても誰も困らないということでささっと下のスーパーにいってきて買ってきた。
本当は買い取ってもよかったけど彼女が受け入れてくれはしなかっただろうからこれでいい。
「静っ、どこにいっていたの?」
「このチョコを買いにね、増井先輩は帰ったの――ぶぇ」
「一人で行動するなよ、迷子になって終わるだけだろ」
どうやらいい物を買えたみたいだから帰ることにした。
今日だって雨が降っているから元々そこまで長くいるつもりはなかった。
「おい、なんで特に反応もしないで帰るんだよ」
「もう目標も達成できたんだからいいじゃないですか」
六月が終わるところまできているということは私的には暖かくてよくてもチョコが溶けてしまうかもしれないのだ、早く冷蔵庫に入れたい。
だって普段の私だったら買わないような値段のチョコだったから、あとは母にもあげたいのもあった。
「そもそも小牧達はなにをしに来たんだ?」
「ただの息抜きです、そうだよね?」
「それはそうね、だけど……」
「ん? 青戸はどうしたんだ?」
「いえ、なんでもありません」
まあ、直前にあんなことを言っていたから気になるか。
それでも本人は普通にいられているからそのまま続ければいい、無駄に毛嫌いしたところで疲れてしまうだけで得なことはなにもないからだ。
「それ、藤嶋先輩に喜んでもらえるといいですね」
「お、おう、……最初からそれでいいじゃねえか」
「それじゃあこれで、えっちゃんもまたね」
「ええ」
お家に着いてから走りにいくのは違うからお家まで走ることにした。
これはちゃんと続けられているから七月でも同じようにしたい。
それに七月になればすぐに夏休みになるから珍しくハイテンションだった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
遊んだり走ってくれば一人で頑張っている母が自然とお家にいるというのもいい。
好きなことをできた後に好きな母作のご飯を食べられるのも大きかった。




