01
「静代ー早くしないと遅れてしまうわよー?」
「んー……」
そう言われてもどうしようもないときだってあるのだ。
春夏秋冬、どんな季節だろうとお布団から出られないときがある。
また、極端に寒がりなところもあって梅雨の季節になろうとしている現在でもまだ微妙に冷えるぐらいだった。
でも、それはあくまで私からしたらであって全く気にならない母は平気でお布団を取ってきたりもする。
遅れてしまうとか言っているくせにまだまだ時間に余裕があるのもなんとも言えないところだった。
「今日はパンの日か」
「あなたってなにをやるにしてもゆっくりよね」
「急いだところでいいことはなにもないからね」
証拠は過去の私だ。
ある男の子のことが好きでがっついていたら引かれて告白をするまでもなく終わったことがある。
まあ、後半のそれは一人で自滅したようなものだけどそれぐらいの威力があるということだ。
あれからはなるべく男の子とは関わらないようにしているからそういうところでも極端なところも出ていた。
だけどなんでもゼロか百で動く方が楽だったりもするのだ。
一番駄目なのは中途半端にやること、それが一番自分のためにはならないからね。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
私からすれば一人なのに頑張れる母がおかしいと思う。
変に子どもがいたりしなければ再婚でもなんでもしてくれていいから少しでも楽をしてほしい。
いや、元気でいてくれればそれでいいから別に子持ちとだって仲良くしてくれていいからさ、と。
「静ー」
「あ、おはよう」
青戸絵夢ちゃん、彼女とは小学生のときから一緒にいる。
しっかり者で可愛くてキラキラしていて素晴らしい、長い髪に少し大きな眼鏡もいい方に働いていた。
「相変わらず寝ぐせがすごいわね」
「これでも直そうとしているんだけどね」
駄目なのはわかっているけどなにを頑張ろうと中途半端な状態にしかならないときもある。
そういうときは無駄に抵抗をしても疲れるだけで得なことはないから受け入れるようにしていた。
どうしたって妥協をしなければならないときだってくるからね。
「うん、静の方が眼鏡が似合うかも」
「うぅ……相変わらずすごい変な感じ……」
「はは、使わなくて済むあんたが羨ましいわよ」
お勉強も読書も大好きでどんな時間でも続けていたら目が悪くなってしまったらしい。
遺伝的なものも強いのかもしれない、その証拠に彼女のお母さんも眼鏡をかけているからだ。
「そういえば今日ってもう……?」
「ん? あ、うん、会ってきたよ」
「すごいね、幼馴染でもなんでもない年上の男の子に毎日会いにいくなんて」
「それは静がおかしい、普通にみんな年上の人と話すでしょ」
ひぇぇ、そんな普通を語られても困る。
だからってわけではないけど同級生からすら近づかれないのは好都合だった。
私的には彼女がいてくれればそれでいい、求めすぎてもいけないのだ。
「そうそう、それで思い出したんだけど静に興味がある人がいるみたい」
「え゛、人ってことは年上の人……?」
「うん、あの人のお友達なんだって」
な、何故だ……。
彼女が会いにいくときに付いていっているとかでもないのにおかしい。
ストーカーが出てくるほどの魅力なんかもないから意味がわからない。
なんか単独で行動しておくと危険な気がしたため、今日はずっと彼女にくっついていた。
お友達のお友達がいたって気にならなかった、自分を守れればそんなことはどうでもいいのだ。
「あ、藤嶋先輩ね」
うん、見たことはあるからその点に関してはなにもないけど近づかないでほしい気持ちが強かった。
でも、彼女を見つけたら近づいてくるわけで、このときばかりは離れなければならなかったのだ。
そのため、わかりやすく失敗をしたことになる。
「こんにちは」
「はい、だけどなんでこの階に?」
「それは少し面倒くさい友達のためにかな。だけど丁度よかった、今日も一緒にいてくれてよかったよ」
彼女には悪いけどこの人の笑みが苦手なんだよなぁ……。
なんか自然なそれだけではないというか、内でなにを考えているのかいちいち気になってしまうというか。
「小牧さんにお願いがあるんだ、放課後に少し付き合ってほしい。もちろん、その場合は青戸さんにも付き合ってもらうから安心していいよ」
小牧静代的には彼女がいてくれるだけで違うけどもうこのときがきたかと震えていた。
それにどうして積極的に付いていっているわけでもないのに私に興味を持つのか、この人に興味を持っているとはいえ、普通は彼女に興味を持つところではないだろうか。
「えー強制ですか?」
「諦めてもらうしかないね、そうしないとずっと前に進めないからね」
「そもそも自分で頑張ることでしょう?」
「青戸さんみたいに?」
「そうですよ、無理やり連れていったところで静的になにも変わらないと思いますけどね」
うん、なにをどうしたって少なくともこの一回で変わることはないと思う。
「でも、ずっと頼まれることになるよ?」
「うっ」
「流石にこの件に関してはウジウジしすぎていて疲れてきたからもうこうするしかないんだよ。それでどうかな?」
「えっちゃんがあなたに集中できなくなったら困るのでいきますよ」
時間はあるし何度も来られるとそっちの方が困るからね。
あとはこの人のことはどうでもいいけど彼女が困ることになるのは違うからなんとかしてあげたい。
「本当? ありがとうっ」
「だけどえっちゃんにちゃんとしてあげてください、中途半端にやるようなら許しませんから」
「こ、怖いな、だけどその点も安心してくれていいよ」
この後も緩いまま終わってすぐに放課後になった。
問題が起きたのはこのとき、
「ちょ、ちょっと」
「付いてこい」
その私に興味を持っている? 人に手を掴まれて移動することになったのだ。
まあ? あの二人からしたら余計なことに巻き込まれているだけだからこの人が勝手に動いてくれるならそれが一番だろうけど……。
「はぁ……はぁ……もう、急になんなんですか」
男の子が絶望的に無理だったわけではないことを感謝してもらいたいぐらいだった、そうでもなければ白目をむいて廊下に倒れていたところだ。
「な、なんで来た?」
「あの人に頼まれたからです」
「藤嶋か……」
それ以外の理由だったら逆に気になるだろうからこれでいいのだ。
「私に興味を持っているって本当ですか?」
「はっ? あ、ま、まあ……」
「なんでですか? 可能性は限りなく低くてもえっちゃ、あ、絵夢ちゃんに興味を持つところじゃないんですか?」
「いや青戸は藤嶋に対して露骨にやっているだろ、それなのに興味を持てるわけがないだろ」
そういうのが全くわからない人というわけではないようだ。
だけど尚更、そこから私に興味を持つ理由がわからなくなってしまった。
既に言ってあるようにあの人と過ごすときは付いていったりはしていないからだ。
これまではあの子が自分から頑張っていっていたのもあって今日みたいなことはほとんどなかった、だからこの人が私のことを見ていた可能性だって……。
「ぼさぼさですよ?」
「どうせわざとだろ」
「いえ、直らないだけなんですけどね、手強いんです」
わ、わざとって、それはモテるけどモテたくない奇麗や可愛い子がやることだろう。
こちらはどんなに格闘しようがぴょんぴょん跳ねまくる髪に困っているだけだ。
「寝相が悪いとか?」
「お母さんからも絵夢ちゃんからも言われたことはないですけどね」
「なら手強いんだな、朝から大変そうだな」
そう、冬なんかは特に大変だ。
格闘しても結果に表れない繰り返しの結果、もうこれが私なのだ。
そういうのもあってこれから変わることを期待しているのだとしたら無駄だった。
所詮私は私で、絵夢ちゃんみたいにはなれない。
「やめておいた方がいいと思います、私、男の子とあんまり一緒にいたことがないのでわからないんですよ」
「なら興味を持っている俺からしたら得じゃないか?」
「そもそもどこに興味を持ってくれたんです?」
「本当は気にしていることがわかったけどその周りの目を気にしないところだな」
え、なにその特殊な好み……。
結構やばい人に目をつけられてしまったのかもしれない。
私達はまだ一年生でこの人達は二年生で、一年我慢してもまだ学校内に存在していることを考えると色々な意味で震えてきた。
「お、おい、ぷるぷるしてどうした?」
「……今日って冷えますよね」
「そうか? 寧ろ俺的には暑いけどな」
あ、暑いとかどうやら感覚もバグってしまっているようだ。
あ、でも、「だ、大丈夫か?」なんて心配してくれているところを見て落ち着けた自分もいる。
「いたいた、まさか勝手に連れていくとはね」
「藤嶋も余計なことを言わないでくれよ、警戒されたらどうしてくれるんだ」
怪しかったけどもう大丈夫、元々、人と喋ることは苦手ではないのだ。
「ん-そうなったら協力するけどね」
「ま、感謝するぜ、この通り普通に会話をすることができたからな」
「うん、これで僕も面倒くさい君に付き合わなくて済んでよくなったしいいことだね」
「た、たまに容赦ないよな」
黙って側にいた絵夢ちゃんを連れて先輩は去った。
それから自己紹介をしてくれた、増井恭介という名前らしい。
先輩とは違ってとにかく髪が短い、坊主と言ってしまってもいいぐらいかもしれない。
小さい頃に坊主のお友達がいてよく触らせてもらっていたから頼んでみたら「いいぞ」と受け入れられてしまって固まった。
それでもいつまでも固まっているわけにはいかないから優しく触れてみると、
「うーん」
あの子みたいにじょりじょりはしていなくて正直……。
「ありがとうございました」
「お、おう、なんか凄く不満がありそうな顔だな」
「そんなことはないですよ」
自分勝手な人間ではないからちゃんと抑えるところは抑える。
ただこちらばかりがそうしていても仕方がないから当分の間は増井先輩にも抑えてもらいたいところだった。
苦手ではなくてもぐいぐいこられたら拒絶するようになってしまうかもしれないので、これから上手くいくかどうかは増井先輩次第だったからだ。
「はい――あ、えっちゃん」
「上がらせてもらうわ」
両親ももうお部屋に戻っているからリビングでのんびりすることにした。
これぐらいの時間に来たときは毎回お泊まりの流れになるから問題はない。
「私は増井先輩のことも知っていたから大丈夫だったけど静は大丈夫だったの?」
「うん、当分の間は来たときだけ相手をさせてもらうつもりだよ」
「ならよかった。あと人間性とか性格の話だけど藤嶋先輩のお友達だから安心していいと思うわよ」
「うん、無理そうならどうせ私が長く一緒にいられないから大丈夫だよ」
基本は抑えられる反面、出るときは抑えようとしても出てしまうからそのせいで続かないのもあった、だから私の側にいられるのは我慢ができる彼女だけだ。
爆発していないのはしつこく一緒にいようとはしていないからだ、もちろん一緒にいられたら嬉しいけどね。
「私が藤嶋先輩を好きになって変わったように静も変わっていくのかしらね」
「ゼロとは言えないね、少なくとも怖くはない人だから次があってもいいなって思えたし」
「その時点で他の男の子とかなり違うわよね」
男の子と係とかお仕事以外のことで一緒に過ごすことがなかったからその差が大きく見えるだけではないだろうか。
現在は初日を問題なく終えられただけだ、初対面のときのソレが大きく後に影響を与えるから全てが間違っているとは言えないけどまだあまり差はない。
「私もちゃんと言うから静も教えてね」
「うん」
少しの間、静かな時間となった。
もうお風呂なんかも済ませてあるからお部屋にいって休むかどうか聞いたら「まだここでいいわ」と答えてくれたので頷く。
黙っていてもいいから側にいてほしい、お家にいるときは上手く甘えられる気がする。
「重いわよ」
「えっちゃんに対する愛の重さだよ」
「はは、よくそんなことが言えるわね」
結局、我慢できなくなったのか三十分もしない内にお部屋に移動して寝ることになった。
一切気にせずにベッドの寝転んでくれているから抱きしめて朝まで寝た、そのおかげで母が起こしに来る前に起きれた。
「朝だよえっちゃん」
「……おはよう」
「うん、顔を洗いにいこ」
私達にとってやらなければいけないことは母作のご飯を食べて学校にいくことだ。
ほとんど内容が変わらない物でも美味しければやはり力になる。
「今日も美味しかったよ」
「変わらないけどね」
これもまたいつも通りのそれ、ご飯も含めてこのやり取りをしなければ始まらない。
食べさせてもらったときは彼女も似たようなことを言ってから出るから母的にはもう一人の娘ができたような感じかもしれない。
彼女が姉だったら確実に比べられて精神的によくなかっただろうから他所様の娘さんでよかったと思う。
「お、来たな」
「「おはようございます」」
今日はまだ私的にも暖かいけど天気も悪いのにどうしてこんなところで待っていたのだろうか――というのは「早速で悪いけど小牧は付き合ってほしい」とすぐに答えてくれてわかった。
「いいですよ」
「じゃ、私は先にいっているから」
頷いて増井先輩に付いていく、だけど遠くへいくつもりはなかったようですぐのところでこちらの方を向いた、やたらと真剣な顔だ。
「一緒に藤嶋を待つぞ、それで尾行するんだ」
「多分ですけど尾行なんかしなくてもちゃんと教えてくれると思いますよ? 絵夢ちゃんとどうなっているのかを聞きたいんですよね?」
「は? 別に青戸のことなんかどうでもいい――」
「は?」
「い、いや、ただ藤嶋が隠し事をしているからそのことを知りたいだけだよ」
なんだ、そのことなら今日中に解決は無理だろう。
増井先輩だってすぐに教えてもらえないからこうなっているわけで私一人が増えたところでいい方に変わったりはしない。
ううん、それどころか呆れられた顔で見られるだけで損なことしかないからいまここでやめておくべきではないだろうか。
「おーい、遠くからでも二人がいるのわかったよ?」
「藤嶋先輩、一応聞いておきますけど増井先輩に隠していることを教えてくれたりはしませんよね?」
本当に隠していることがあるならここで馬鹿正直に吐いたりはしない。
でも、遠回しに聞いたところではっきり言って時間の無駄だからどちらにしてもこちらは馬鹿正直に出していくしかないのだ。
うん、自分から動いているせいでこちらが呆れられる可能性も出てきてしまっているからいいことではないね。
「増井に隠していること? そんなことはないよ?」
「と、言っていますが?」
「嘘だ、ノートを見てにやにやしていただろ」
「ああっ、それは可愛いキャラを上手く描くことができたからだよ」
はあ、それなのに増井先輩のせいで朝の時間が……。
こそこそとする前にちゃんと聞いてもらいたいところだった。
長くいても冷えるだけだから挨拶を済ませて教室に向かったのだった。




