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(三)

 一行は広い空洞に出た。石の青白い光と紫に輝く霧が流れる空間に皆言葉を失った。その中を幾多の四手怪(してげ)が歩いていた。

「ここが奴らの寝床か」

 由衛吉は息を殺して呟いた。

「長くここに住んでいるようだ。なぜ外に出る様になったのか。とにかく実介を見つけるのが先だ。無駄な戦いは避ける事だ」

 黒狩が言うと皆は頷いてゆっくり歩いた。

 下り坂を抜けて石畳を歩く。岩肌を敷き詰めた石の壁、要所に建つ石の柱──その空洞は意外と人の手が加えられて四手怪の知能の高さを感じさせる造りだ。

 一行は黙って見渡しながら奥へ進んだ。

 四手怪はのろのろと歩き回り何を目当てにしているかわからない動作を繰り返した。

 森の中で素早く駆け抜ける連中とは思えない動きに一行は戸惑い足音を立てずに横穴に入った。

「ここは風呂か?」「いや、水飲み場か」

 男達が小声で呟く先には人ひとりが浸かれそうな池があった。

 池の周りには小石が敷き詰めてあった。

 黒狩が「誰か来るぞ」と呟いて男達は更に奥の穴に隠れて様子を見た。

 四手怪が池に顔をつけて水を飲むと体が青白くぼんやりと輝いた。

 光はすぐに消えて四手怪は戻っていった。

 池のある横穴に隠れた男達は更に穴の奥に進んだ。

「うわっ!」

 前を歩いた男が叫んだ。

 一行は短剣を抜いて穴から出ると実介の顔をした四手怪が待ち構えていた。

 三十体を超えた四手怪が一斉に襲い掛かった。

 由衛吉達は応戦したが四手怪に殺された者、手負いの者が相次いだ。


 黒狩が「戻れ」と叫ぶと一行は横穴に戻り池の横を過ぎて空洞に出た。

 四手怪達は追って来なかった。

 空洞は静かで中にいる四手怪達はゆっくり動いていた。

「ここの奴らは襲って来ないのか」

 由衛吉が空洞の中を見渡していると、

「向こうの穴に入ってみるか」

 と黒狩が歩き出した。

 石畳の先にある穴に入ってしばらく進むとまた空洞に出た。

 相変わらず石が地面や天井で輝く薄明るい空間で所々に柱が建って四手怪がのろのろ歩いていた。

「ただ歩き回ってもきりがない。いっそあれに訊いてみたらどうか」

 由衛吉が呟いた。

 横にいた男が「その方が手っ取り早い」とゆっくり四手怪に近づいた。

 一行が「おい」と戸惑った。黒狩は男について行った。

「すまん。ここの主に会いたいのだが」

 男が訊いても四手怪はのろのろと歩くだけだった。

「おい」

 男が四手怪の腕を掴んだ。背中の筋肉が盛り上がった。

「危ない!」

 黒狩は男の腕を掴んで後ずさりした。

 同時に四手怪の背中から手が伸びて掴もうとした。

 四手怪は黒狩を見てニッと小さな口で笑った。

「聞こえているようだな。俺達がここにいるのを知っているのか」

 黒狩が訊くと四手怪は道から外れた穴を指差した。

「あそこへ行けと言うのか」

 黒狩の問いに四手怪は何も答えずに歩き出した。

「罠じゃないのか」

 男が言うと黒狩は、

「罠でもこんな所をずっと歩き回るよりましだな」

 と由衛吉達の場所に戻り穴へ向かった。


 穴の中は青白い光に包まれた広い部屋だった。

 部屋には人の大きさの卵が沢山並んで真ん中では一回り大きい四手怪が裸の実介を抱いて交わっていた。

「実介!」

 由衛吉が叫んだ。実介は力なくのけ反って四手怪の手に腰を動かされ両手が力なく垂れて揺れているだけだった。

 実介の目は死んだ様に焦点を失い口は半開きで正気を失った表情で頭を揺らした。

 四手怪の背中がぱっくり割れると卵がねっとりと粘液を垂らして落ちた。

「こいつが生んでいるのか」

 黒狩が呟くと禍々しき交わりに驚愕していた男達がハッと我に返った。

「助けるんだ!」

 由衛吉が叫んだ。

 数人の男達が卵の合間を抜けて四手怪に近づこうとした。

「うわあ!」

 天井から糸が伸びて男達を縛って宙吊りにした。

 由衛吉が「何だ!」と天井を見ると四手怪が十体程張り付いて様子を見ていた。

 四手怪達が一斉に掌から糸を伸ばした。

「よけるんだ!」

 由衛吉の声で皆が四散した。

 黒狩が伸びる糸の間をぬって交わっている四手怪に飛びかかった。

 四手怪は無造作に手を振り上げた。

 黒狩は振り払われて宙で後転しながら地に着いた。四手怪の交尾は続いた。

「火薬玉を放て!」

 由衛吉が叫ぶと男達が一斉に火薬玉を部屋に投げつけた。

 あちこちで爆発が起きて吹っ飛んだ四手怪の体や卵の欠片がそこら中に散らばった。

 部屋の真ん中の四手怪が実介の体を離すと両手を伸ばして大声で「キー!」と叫んだ。

 卵から実介の顔をした四手怪が眠りから覚めたようにゆっくり生まれた。

「実介を助けろ」

 由衛吉の声に男達が生まれたての四手怪を切りつけながら実介の元へ向かった。

 子供を守ろうとする四手怪が勢いよく男達の体を振り払ったり長い腕で体を貫き、更に外から新手の四手怪が入って由衛吉達は苦戦した。

 実介のそばに辿り着いた男が実介を担いだ。

 それを交わっていた四手怪が襲い掛かった。

 黒狩が二人を庇って四手怪の手を受け止めた。

「急いで逃げろ!」「すまん」

 黒狩は四手怪の腕を掴んだまま叫んだ。男は実介を担いで穴へ走った。

 四手怪の肩の筋肉が盛り上がり腕が伸びて黒狩を掴もうとした。

 黒狩はよけて手裏剣を投げた。四手怪の額に刺さったものの四手怪は無造作に手裏剣を抜いて投げ捨てた。

「逃げるぞ!」

 由衛吉の声と共に一行は穴から現れる四手怪達を撃退しながら逃げた。

 今まで空洞にいた大人しい四手怪も追って来た。

 一行は苦戦しながら最初の空洞へ下りた坂道に差し掛かった。

「こいつらは俺が食い止めるから外へ逃げろ」

 黒狩が言うと由衛吉は「頼んだぞ」と先を急いだ。

 追って来る四手怪の数は増えた。

 黒狩は背負った刀を抜いて次々と四手怪に切りつけた。黒い両手が赤黒く変わった。

 黒狩が無言で刀を力強く横に振った。

 その風で四手怪達の体が次々と真っ二つに切れた。その後を四手怪が走って来た。

 黒狩が更に横に一振りした。後続の四手怪達の体が一瞬で真っ二つに切れた。

 その後に数十体の四手怪が追って来た。

「あと一振りが限界か」

 黒狩の肘先が更に赤黒くなった。

 黒狩は刀を背中の鞘に納めて短剣で四手怪の群れに走って次々と胸に突き刺すと火薬玉に火をつけて柱に投げつけた。

 柱が爆発すると支えていた天井の岩盤がバラバラと落ちた。

「こんなに脆いなら最初からこうすれば良かったな」

 黒狩は火薬玉を二個、両脇の柱に投げた。爆発と共に柱が壊れて岩盤が落ちて来た。

 その反動で他の柱が支えていた天井の岩盤も降り注いだ。四手怪達が下敷きになった。

 黒狩は急いで由衛吉達の後を追った。


 由衛吉達は戦いに慣れて前に立ちはだかる四手怪達の胸を次々と刺して倒した。

 落とし穴の天井を火薬玉で爆発させて一行は外へ這い上がった。

 外には更に四手怪が待ち構えていた。

「まだいやがった」

 男が呟いた。取り囲んでいた四手怪達が一斉に襲い掛かった。

 かろうじて倒したが仲間は由衛吉を含めて五人だけになり、その内の一人が実介を背負っていた。

 黒狩が穴から出てきた。

「おお、無事だったか」

 由衛吉が言うと、

「何とかな。まだ追って来るぞ。里に戻ろう」

 黒狩が穴に残りの火薬玉を投げた。爆発と共に奥の横穴が塞がった。

「そうだな。犠牲が多かった」

 由衛吉は倒れた仲間の死体を見ながら沈痛な表情で答えた。

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