(一)
闇夜の森を駆ける音が響く。
その音は躊躇なく一定の間隔を刻む事から、人が走る音ではないとわかる。
雲から漏れた月の光が森の中を青白く照らす。
それは山犬の如く四つん這いで走っていた。裸の人間のようだ。
月の光に反射する程の白い肌の人影が木々の間を素早く駆け抜けるその姿は人の形をしながら冷たく禍々しい雰囲気を漂わせている。
五体の人の様なナニかは青白い月光の下で何処かを目指して走っている。
その足音が乱れた。
月夜でも影にしか見えない黒い人影が木から降りて四つん這いで走る人影の前に立ちはだかった。
五つの白い肌のナニかが立ち上がった。
肌の下から骨が透け股間に性器のない痩せ細った体、細長い手足、顔の半分位に光る青い目のそれは人に近いが人と呼ぶには遠い姿をしていた。
一方、月に照らされた黒い人影は濃紺の忍装束(しのびしょうぞく)姿で体形が様々な所謂、忍者だった。
忍者の一人が黙って手を挙げると他の七人が四散して異形の者に戦いを挑んだ。
忍者達が手裏剣を投げ短刀で切りつける攻撃を繰り広げていたが異形の者には手ごたえがなかった。
長い刀を持つ忍者が異形の者に突き刺そうとした時、青白い手が刀の刃を掴んだ。掌から血が流れ落ちても異形の者に痛みを感じる素振りはせず、刃を持ったままの姿勢で前かがみになった。すると腕の付け根の背中寄りの筋肉が盛り上がって細い腕が前に伸びて忍者を掴もうとした。
忍者は刀を手放して後ろに回転して手裏剣を投げた。
異形の者は刀を持ち替えて手裏剣を真っ二つに切った。
「この四手怪(してげ)め!」
その忍者は叫んだ。
森を抜けた所にある忍の里の者達はこの異形の者達を四手怪(してげ)と呼んでいた。
この四手怪、ひと月程前から頻繁に現れては里の住民達を襲った。どこから来たのか全く分からないまま里に住む忍者達が夜回りして応戦していた。
決まった道を通る事がわかり待ち伏せは出来たが、これと言った弱点も見つからず多勢で戦って追い払うのがやっとの状況だった。
今までは四手怪が三体で襲って来たが今夜は五体で現れて忍者達は苦戦した。
「仲間を呼べ!」
忍者の一人が叫ぶともう一人が木に登って腰に下げた火薬玉に火をつけて空に投げた。
玉が爆発すると高い音が辺りに鳴り響いた。その音で森の鳥が一斉に羽音を立てて飛び立った。
四手怪はその音に反応を示さず忍者と戦い続けた。
忍者は人並み外れた身軽さで戦ったものの四手怪の動きの速さが上回っていた。忍者の増援が来て五体の四手怪を相手に十五人が戦った。全ての四手怪の腕が四本になった。
数の多さで辛くも忍者達が勝ち、四手怪は森の奥へ逃げた。
「今日は五匹か。早く手を打たないと増えたら厄介だ」
団長の由衛吉(ゆえきち)が頭巾を外しながら呟いた。
「今夜はもう来ないか。帰るぞ」
低い声の男が言うと皆黙って里へ戻った。
里に帰って来た忍者達を住民達が迎えた。
「ご苦労だった」
里の長老の伝造が労った。忍者達は一礼してそれぞれの家へ家族と共に帰った。
伝造の家で由衛吉が戦いの報告をした。
「そうか。しかしやつらが何者で目的がわからんと対処できんな。かと言って攻めるにしても居所が掴めないと」
「足跡を追っていますが、奥で途絶えている為まだわかりません」
伝造も由衛吉も暗い表情で話した。
翌日の午後、実介(みすけ)達若い衆が森の中を手分けして見回った。
実介が小川に着くと女が裸で水浴びをしていた。女は実介を見て微笑んだ。
「おい、何をしているんだ」
実介が女に近づくと女は微笑んだまま実介の着物を脱がした。
実介は「おい」と言いながらも抵抗しなかった。
女は実介に口づけした。
実介の硬くなった性器を女は握って自ら股間に押し付けた。
実介は口づけされたまま呻いたが女は容赦なく自分の股間に突き刺した。女は反応せず実介はビクンビクンと腰を動かした。
実介の精を搾り取った女は黙って服を着て森の奥へ消えた。
女と交わるのは初めてでしかも強烈な体験をした実介は裸のまま川に座り込んでぼんやりした。
里に帰って畑仕事を終えた実介は自宅で親の重光とまさと食事をして休んだ。
口づけした時の女の顔、女の怪しい香り、股間を握る女の感触が眠りに入ろうとする実介の体によみがえり性器が硬くなった。
男の本能だがそれ以上に体から滲む女の残り香に眠気を奪われて起き上がった。
翌日の晩も美介達が見回りに出た。
月が西に傾いた夜に実介はふらふらと森の小川に着くとまた女が裸で水浴びをしていた。女が実介を見つけると微笑んで手招きした。
青白い月の光に照らされた川に立つ裸の女──川の水面が青白く輝き肌もうっすら輝く女の姿に実介はただ魅入ってゆっくり川へ入った。
「あんた、誰なんだ」
実介の問いに女は静かに首を振って口づけた。実介の体の力が抜けた。実介は自分で着物を脱いで岸辺に投げた。
女は実介の硬い性器を握ると自らの股間に挿し入れた。
実介は「あっ」と声を上げて女の顔を見た。
一瞬、女の瞳が青白く輝いた。それは月光のせいか実介にはわからなかった。
女は実介の物を股間に挿し入れたまま実介の体をまさぐるように撫でた。
実介の目は輝きを失い「うっ、うっ」と呻き声を上げては精を女の中に出し続けた。
実介が何度も絶頂に達しても女の表情は人形の様に微笑んだまま変わらなかった。
女の股間から溢れる精が足を伝って川に流れた。
女が実介の体から離れて裸のまま森の奥へ消えていった。
実介は川にしゃがんで死んだ目で夜空を眺めた。
「俺は何をしているんだ」
実介は戸惑いと半笑いが混ざった表情で立ち上がった。
帰宅すると父の重光が「遅くまで何していたんだ」と訊いた。
実介は「川沿いを見回っていた」と着物を脱いで寝床で横になった。




