心スポ同好会活動中
星が点々と見える夜空の下、高身長の少年と童顔少女は草を掻き分け山奥を歩くのであった。
深夜0時を差しかかる頃、何故高校生2人が怪しげな事をしてるのかというと、これが部活動の一環だからである。
「部長、そろそろ俺帰りたいです」
そう声を漏らしたのは高身長の少年、三森通である。
彼は高山高等学校2年の心スポ同好会に所属している。心霊現象やオカルトが好きな訳でもなく、ただ『ラクそうだった』という理由だけで入った部活。その部活を作ったのは同じく2年の若葉春だ。
「なにを言ってるんですか!この先にかの有名なホテルの廃墟があるんですよ?誰が行っても絶対何か体験するって言われてるんですから今日の今日は引き返しません!」
若葉春は意気揚々に答えた。彼女は小柄で幼い顔立ちながらも頭脳明晰で常に学年トップを誇る。心スポ同好会を作ったのは言うまでもなく心スポが好きだからではあるが、彼女は『みえない』ものが『みえる』体質らしいのだ。
「俺は幽霊なんぞ見た事もないですし、行っても絶対何も無いですよ。それに、誰かに見つかったら不法侵入で通報されるんじゃ…」
「大丈夫!私たちにはこの右腕の印があるんですから」
そう言いながらお化けマークの腕章を見せてきた。この腕章は心スポ同好会に認められた者だけがつけることのできるものである。効力があるのかは知らないが、成績優秀で先生たちに認められている彼女が言うのなら何か意味はあるのだろう。
ちなみに心スポ同好会の部員は部長の若葉春を筆頭に部員の三森通のみだ。惜しくも1年生は誰も入ってはくれなかった。それには理由があって、心スポ同好会よりもはるか昔に作られたオカルト研究会の存在があるからだ。
「そういえば部長、なんでオカルト研究会に入らず心スポ同好会を作ったんですか?」
これは前々から思っていたことである。
それも実は、彼女の『みえない』ものが『みえる』特別な体質は入学した時から噂されていて、オカルト研究会から入部して欲しいと猛烈なアピールをされていたほどだ。
暗い夜道を進みながら若葉は説明し始めた。
「私、オカルト研究会みたいな、ただただパソコンの前に座って情報を集めるだけの退屈な部は絶対嫌です。いないとされてるものが本当にいるのかどうかをこうやって実際に行動してこそ真実がわかるじゃないですか」
確かにそうだ。彼女の言っていることは確信を着いている。しかし、一応進学校とされているこの高校は部活よりも勉強に重きを置いている学生が多く、活動的な部活よりもラクな部活を選ぶ人が圧倒的に多い。だからオカルト研究会の方が好き好んで入る人が多いのは事実ではある。
そうは言っても、部員2名だけの心スポ同好会はこのまま2人が卒業すると廃部になってしまう。
それを阻止したいという気はもちろん現段階で通にはないのだが。
「そう言ってる間にホテル見えてきましたよ!」
「やっとですか。」
目の前にそびえ立つ廃ホテル。窓ガラスは割られ、壁はツタで覆い、落書きまでされている。
春はデジタルカメラを鞄から取り出し外観を撮影し始めた。
薄気味悪くはあるが、何回か心霊スポットに行っている事もあって、怖いと騒ぎ出したりはしない。
通も馴れた手つきでビデオカメラを回し始める。
「このホテルは20年前に廃墟になって、特に105号室のトイレから女性の悲鳴が聴こえるんだとか」
春は淡々と解説し始めた。
2人はホテルの中に入り105号室を目指して歩いた。
ホテルの中は湿気ていてカビ臭い。椅子やベッドなどの家具も放置されたままだった。
「ここって…」
通は部屋の装飾を見てハッとした。
「ラブホですよー」
春は何も気にしてない様子で歩く。
「やっぱりそうですよね、って、ラブホであることに反応無しですか!?」
通は1人だけラブホを意識してしまったことを恥ずかしく声を荒げてしまった。
「営業中のラブホじゃあるまいし」と春は苦笑。
「えー?私とラブホ行きたいんですか?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら通に投げかけた。
「ちがいます!」
慌てて返答する通の前で春は懐中電灯を105号室の奥を照らした。
するとそこには髪の長い女の人の姿があった。真っ暗闇の中ひとり立ち尽くしている。懐中電灯を照らすと透き通った血色の無いような肌が見えた。着ているのはセーラー服。
女の人はゆっくりと振り返り、心スポ同好会の2人を見ようとする。
通は生まれて初めて見た生身でないものに対して恐怖心が込み上げてきた。足はガクガクし、恐ろし過ぎて声も出なかった。助けを求める目で春の方を見た。
しかし、春は動じない。それどころか、
「はじめまして、私達高山高校の心スポ同好会の者です。」
と話し始めた。
その瞬間、通は腰を抜かした。
「大丈夫ですか?」
余裕そうな春は通に声をかけた。
「部長、俺初めて幽霊見ました!」
震える声で春にしがみつき訴えた。
その言葉を聞いた春は笑いだす。
「ちがいますよ!あの人は幽霊じゃありません!普通の女の子です」
通は一瞬安堵したが、女の子が通の方に近づいてくるとまた身を縮めた。
「立てる?」
とセーラー服の女の子は通に言った。
間近で見ると幽霊では無い事は分かるが、白すぎる肌と真っ黒な長い髪は少し恐怖心を煽られる。
彼女の差し出した手を掴み、通は立ち上がった。
掴んだ手は温かく、彼女が生きている人間であることを実感した。
「ありがとうございます」
通は落ち着きを取り戻して言ったが、彼女は真顔のまま表情を変えず、
「ここは危険よ」
と言い放つだけだった。
その瞬間、春が息を飲むところを通は初めて見た。




