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第94話 人伝に広まる噂はねじ曲がり争いを生む

雲ひとつない晴天。


その中で響くのは異彩な雷鳴。


雷鳴は己を召喚した主人、ミラ•フレデストに歯向かい右腕を喰い千切り大気へと駆け、川崎中の人間の鼓膜を震え上がらせた。


「やっぱ【雷】系は扱うことが出来ないハズレスキルねえ」


自分の消失した右腕を眺めながら残念そうにしている。

【雷】を手に入れた時のことを思い出した。

たしかにプラズマスライムも踏み抜いた瞬間に雷を放出し、爆散していった。


「やっぱあなたスライム化を意味わからない使い方してるから、魔力操作オバケねえ。扱いが難しいとは聞いていたけど全く使える気がしないわあ」


『意味わからないって何だよ』


「わからないのお? 人間じゃないのをバレない様に内臓とか血液を模してるうえに、動かし続けてるでしょお。正気の沙汰じゃないわあ」


スライムになった事を隠すのに必死で行った偽装工作は、奇しくも魔力操作向上という最高の副産物を与えた。


「ということで補助よろしく」


『補助?』


「お姉さんじゃ雷のスキルを上手く扱えないから、雷のスキルをあなたが操作してくれればいいのお」


なんで俺がやらなきゃいけないんだか、面倒だな。

お、出来る。


雷がミラの身体の中を駆け巡る。

その雷はカズキが高速移動出来る理由であり、誰も操作できない【雷】系のハズレスキルの強みの一つだった。


「本当にすごい操作技術ねえ。でも、想像力が足りないのがあなたの欠点ねえ」


ミラは消失した右腕を、魔力をスライムに変換し綺麗に修復した。

しかし、スライムの増幅は止まらない。

ソファア程度のスライムが、ミラの右の掌に現れた口から吐き出された。

その吐瀉物は次第に形を変え、黒光するイカついバイクへと変身を遂げた。


すっげ……


自分のスキルを、圧倒的なセンスで使いこなされ素直な賞賛しか生まれなかった。

そんな心の声すらもミラに届いてしまっている。

血の涙が出そうなくらい悔しい。


自分で生み出したバイクに跨り「さあ行くわよ」と、ミラは車輪を雷のスキルで高速回転させ本物のバイクの様に発進した。

しかし本物とは違い、どんな機械でもなし得ない程の静音を誇っていた。

電動車はもちろん、自転車ですら敵わない圧倒的に静かすぎるバイクを乗りこなし、S級ダンジョン【東京】内に取り残された最先端の街【渋谷】へと向かい走り出したのだった。


どうして【東京】までの道のりに迷いがないんだよ


「さっきも言ったけど、あなたの記憶を覗いたのよお」


……なんも考えられない


「風が気持ちいいわあー」なんて能天気なことを言っている化け物に、全てが筒抜けになる状況を打開する策を思いついた。

幼少期に友達とやったゲームだ。

キリンと頭の中で念じ続け、他の言葉を言われてもキリンと念じ続けるあのゲームだ。




キリン




キリンキリン



「私の髪の毛の色は?」


銀……



キリンキリンキリン



「好きな女の子は?」


すみねえ………



キリンキリンキリンキリンキリンキリン


「おっぱいは好き?」


すき……………………



キリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリン


「好きな女性用下着の色は?」


キリンキリンキリンキリンキリン水色キリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリンキリン


「実はハズキちゃんを可愛いと思ってる?」


まあ可愛いとは思う……


あああああー!!!


『うるせえなあ! 話しかけてくんじゃねえよ!!!』


「さあダンジョンに着いたわよお」


カズキが弄くり倒される中、ツーリングは終了し目的のダンジョンにたどり着いた。

骨が軋む音が鳴り響く。

大量のスケルトンがS級ダンジョンの浅瀬で蠢いていた。

それでもスピードを落とすことは愚か、スピードを上げ骨の海に飛び込む。


マジかよそのまま突っ込むのか!?


衝突したスケルトンは想像の3倍は吹き飛び、一瞬で光の粒子へと強制的に変換させる。

バイクによる猛進は止まることなく、通り抜けた後に光の道を生成した。


すげえ


骨を砕け散らせる音に引き寄せられたのか、スケルトン系モンスター「ガラシャ」が遠くから追いかけてくる。

その見た目は大きなトカゲが白骨化した様な見た目をしており、背中には大きくごん太の骨の腕が2本生えている。

決して強いモンスターではないが、強度が高いことから長時間の戦闘が確約されている上、武器を破壊してくる嫌なB級モンスターだ。


「いやねえ、アレは他のモンスターを引き寄せてくるわねえ」


大音量で骨をかき鳴らし追いかけてくるガラシャは、「ここに何かありますよ!」と大声で宣伝する集客役へとなっている。

うんざりとした表情を一転させ、ニヤリと口角を上げて嗤うミラは「これ、やってみたかったのよねえ」とバイクを思いっきり進行方向に対しバイクの車体を90度スライドさせ、急停止する。


魔力を身体に流しカズキの【硬化】スキルを使い、体表を硬化させ右腕を前に突き出し迎え撃つ。

ガラシャはその強度と密度を活かし突進を仕掛けてきた。

それがガラシャの強みのある強力な攻撃だが、ミラは表情ひとつ変えずに細く白い右腕で受け止めた。


爆発の様な衝撃がミラの中に注ぎ込まれる。

衝撃はスライムの中で暴れることもなく、コントロールされて右腕に再度集約しガラシャに返還された。


どがしゃんっ!


ガラスが勢いよく弾け飛ぶ様にガラシャの身体が粉々に砕け散り、周囲に拡散されその一つ一つが光の粒子に変換され、勝利を幻想的な光景で賞賛する。


「さあ行くわよお」


出会ったら死角を利用して逃げるが、吉とされるB級モンスターを一蹴したミラ。

やはり特殊ダンジョンの主なのだと再認識させられる。


そこからは面倒なモンスターにエンカウントすることもなく、S級ダンジョン【東京】の深層である【渋谷】へと到着したのだった。


「ショッピングといこうかしらあ!」


テンションの上がりきったミラはバイクを吸収し、足軽に渋谷の地を歩き出した。

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