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第91話 俺の親友が報告無しに結婚していた件

僕の親友にあたる友達が結婚しました。

おめでとう。


でもソイツは俺にいつまで秘密を突き通せるかチャレンジを密かに実行していたらしく、昨日知った僕は腰が抜け散らかし、歓喜しました。


本当に嬉しくて堪らないので、ここに記します。

【天災】と呼ばれるS級冒険者サラ。

彼女は身体から岩石、鋼鉄を生み出し巨人を成し、その硬度と密度による圧倒的な破壊力で周囲を蹂躙する。

モンスター共々、周囲を巻き込み無へ還す為、彼女はパーティーを組まない孤高の戦士だ。

本来ならば白銀を纏った瞬間、その巨躯をモンスター目掛け発射する。


しかし、今回は違う。


周囲からの許可を待っているのだ。

彼女を知る物なら驚き、顎が外れ目をひん剥き、最悪の場合ショックに耐えられず心臓が止まるだろう。


「私は大丈夫です。全員に防御魔法を掛けました。特にサラさんには盛大に」


全世界男児の性癖を歪める事で有名なエンジェルは、世界最硬の防御障壁【聖壁】を冒険者に付与する魔術師。

その強度は、A級モンスターの攻撃でさえ致命傷を与えられず、下手な攻撃なら逆に相手にダメージを与える。

彼女がこんな場所にワンピースでオシャレして来れるのは、そんな最強の盾を常時纏っているからだ。


最強の盾に対するは、今日この日の為だけに創られた最強の矛。

世界中の冒険社企業合同で思考し、アマゾン隣接国で出資し創造された攻撃のみに全てを捧げた魔槍。


【グングニル】


主神が持つ槍の名を授けられたそれは、白くひたすらに白い柄に、碧色の穂。

一点集中の貫通力に特化した武器だ。


「サラこっちもOKだ。好きに暴れてこい!!!」


ルーカスの白い歯の下から発せられる声援。

筋肉が、血管がはち切れんばかりにルーカスは、親指に全てを捧げサムズアップした。


【グングニル】は只々固い何の能力も無い矛だ。

武器として最強の硬度を誇る2双の刀が存在する。

双頭のS級モンスターからドロップされた牙、それを打製石器を作り上げる様に互いにぶつけ合い産まれた黒白の刀。

どれだけその刀に負けないかを突き詰め続け完成したのが【グングニル】。

しかし、それは完成であって未完だ。


ルーカスの合図で未完は完成へと、完璧な武器へと成り上がる。

防御完全無視のスキル【突破】が【グングニル】に付与されて。


S級冒険者ルーカスのスキル【突破】は、防御力を完璧に無視し確実にダメージを与えるイカサマだ。

ルーカスが【突破】を付与し石を投げればモンスターの身体を貫通し、草で叩けば肉を削ぎ落とす破格のスキルだ。


白銀の【天災】は【突破】が付与された最強の矛の握り、【聖壁】という最強の盾を纏った事で枷が外れ落ちる。


「きいぃぃぃぃっ、 たあぁぁぁぁぁー!!!」


この場にいる皆が思った。


何故大きな声を出す……


【アマゾン】の最奥であり中心に臥せる黄金の龍。

その瞳は閉じられ、大きく寝息を立てたままなのだからこそ、不意を打ち倒すべきなのに。

激しく魔力を迸らせながら開戦を喜び、笑みを浮かべる頭の回路が暴走している狂戦士を前にしても、龍の惰眠は解かれない。


「もぉらったあああぁぁぁァァァアあああぁぁぁ!!!!!!」


【グングニル】を破壊する勢いで握り振り下ろす災害。

それは何にも阻まれる事なく黄金の鱗に直撃し、【突破】の効力が発揮され鱗を肉を、最強の細胞を突き進み、その碧色の矛先は龍の左胸の中心から突き抜け大地へ衝突し地を揺らす。

一瞬にして衝撃波が大地を捲り、木々を小枝のように吹き飛ばし伝播する。


「やった、ァあ?、!?」


ドラゴンの胸を穿った感触に勝利を確信したサラの瞳に映るのは、膨大な魔力を、発砲音の様な狂戦士の雄叫びにも反応しなかった龍の瞼の奥。


朱色の瞳だった。_


それは始まりの終わり。


次の瞬間


サラは莫大な魔力と黄金に飲み込まれた。

黄金は白銀を、聖壁を、突き進む者を、数多の冒険者を、そして完成された【グングニル】が生み出した衝撃波さえも飲み込み広がり続けた。


【アマゾン】から出てすぐの場所、今回のレイド指揮所があった。

そこで生中継を見ていたお偉い様の眼前にあるモニターは、急に金色一色に染まり尽くし、数秒後にブラックアウトした。


「なんだ?」


黒いスーツを身に纏うお偉いさんの疑問は、強制的に忘れさせる。

一瞬で乾燥する口内、噴き出る冷や汗、まるで心臓を鷲掴みにされているかの様な身の危険を感じ背筋が凍る。

胸が苦しくなり深く息を吸い込めない。


「一体何が起こっているんだ!?」「どうなっているんだ!?」「逃げろ逃げろ逃げろ!」「あああああああああ!!!」


仮設テントの外が騒がしいので、お偉いさんは外の様子を見にテントから出た。

瞳に入る強烈な光に、見たことのない圧倒的な超常に言葉が出ない。


そこに広がるのはダンジョンの境目まで広がる黄金。

その強烈な光は、ステータスを得ていない素人でも濃密な魔力を感じる。


「……終わりだ」


ダンジョンという鳥籠により行き場を制限された黄金は、空高く上り遂にはその上限へと達し、行き場を失う。


限界


ダンジョンの許容を超えてしまったのだ。


ダンジョンは黄金により破壊され、終わりを迎えた。

ダンジョンの消滅により黄金はいくらか相殺されたが、余剰分だけで【アマゾン】周囲1kmを消滅させた。


「………な、ん……」


最後に見た朱色の瞳、あれ以降は黄金の奔流に飲み込まサラは記憶が曖昧だった。

どれほどの時間が経過したのか、サラは唯一動かす事の出来る瞳で周囲の状況を確認する。


木々に囲まれ、緑あふれるダンジョン内にいた筈なのに、【ディザスター】を纏い戦っていた筈なのに、剥き出しになった岩肌の上で横たわる自分。

吹き飛ばされたのだろうか。


それよりも何よりもだ。

白銀はおろか、両手の感覚が無い。


「………」


サラの両肘から先は消失していたのだった。

信じがたい事実に直面しているのにも関わらず、サラはあるものを目にしてからソレに対し身も心も釘付けだ。


「くそ…った、れ…」


身を起こした荘厳で強大な龍。

黄金の鎧の様な鱗を大量に纏う最強は、左胸に大きな風穴が開いているのにも関わらず、その心の臓を貫かれたという事実を、圧倒的なHPというステータスで捻じ曲げ存命しているのだ。


龍の朱色の瞳と、サラの碧眼が交差する。


「はっ、私なんか……くっても、腹壊すぞトカゲ野郎」


急速に減少するHPを補填する為、傷を癒す為、最強の龍は目を覚まし魔力を多く保有する目の前の人間を丸呑みにした。


【人間を討伐しました】


世界より祝福を告げられるが、龍は興味など無い。

しかし相手の意志の有無など世界には関係無い。


【アストラル因子の選択を開始します。】


【以下より選択して下さい。】


【・HP ・MP ・STR ・VIT ・AGI ・MEM】


生物が生きる事で蓄積した膨大な情報、アストラル因子。

その数%をステータスとして吸収する事が出来る、モンスターのみに与えられた特権【選定】。


本来ならば低確率で発生する【選定】だが、抜け道がある。

それは、対象を完食する事だ。


【当人に選択の意思が見られない為、ランダムで選択されます。】


【MEMが選択されました。】


【MEMが5%統合されます】


慈悲の欠片も無い世界の音声が、淡々と結果のみを報告する。

選ばれたのは


Memory


それは経験であり、情報であり人格を司る重要なパーツ。

黄金の龍を黄金の光が包み込む。

その光が龍の全体を包み込んだ直後、巨体は光に押し潰されるように収縮した。

小さく、小さく球状へと。


光球は更に変形し人型となる。


長く綺麗な金髪、くっきりとした高い鼻、未だ目を瞑っているが、最強のS級冒険者リサ•ウォーカーと瓜二つとわかる。

しかし170㎝近かった、その背丈は145㎝くらいへと縮んでいる。


一糸纏わぬ綺麗な身体には、心臓があるだろう位置に反対側が見えてしまうほど大きな虚空があり、今も尚鮮やかな赤が溢れ、白い肌を赤く汚し続けている。


黄金の光で翼を模した少女は飛び上がり上空で静止する。

ゆっくりと瞼を開き、目的地を見据える。

その瞳はサラの透き通っていた綺麗な碧眼ではなく、朱く爛々としている。


「……おなかすいた」


傷を、HPを癒す為、今この瞬間で最も魔力が大きく動き、激しく衝突する場へ目指し、黄金の翼を広げた少女は音を置き去りにし、元【アマゾン】から羽ばたいた。

それはモンスターがダンジョンという理を欺き、抜け出すことで終焉を迎える【E級ダンジョン】とは訳が違った。


最広のダンジョンで生まれた黄金の龍は、己の心の臓を貫かれた事により、生まれて初めて重たい瞼を開き、死を間逃れんと終焉の炎を解き放った。

終焉の炎は瞬時に全てを、ダンジョンを焼き散らかし無に焼失させた。


今後二度と無いであろう力技でのEND。


これが黄金の少女の目覚めであり、Eを冠するダンジョンの歪な誕生であった。

しかし人類は事実を知らずに【アマゾン】の踏破を喜んだ。

S級冒険者3人、A級冒険者多数、そして広大な森林を失った代わりに、人類は最大級のS級ダンジョン【アマゾン】を踏破した。

生存者がいないからこそ、事実を知らず美談として解釈されたのだ。


決して明かされない最悪の解放を、人類は知る由もない。

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