第86話 2回連続でのズルはズルズル
私の指揮でアースドラゴンと戦うことになった。
私たち【楽業】と、魔剣持ちタカヒロが引き連れる【The王】、その他3パーティーと合わせて5パーティーのリーダーになったのだった。
しかし、そんなの気にせず突き走る男がいた。
「だーれがアンタをリーダーとして認めますかねえ! そりゃあ」
タカヒロはそう言い放ち、弾丸のようにアースドラゴンに向かい走り出し、左手を大きく空に向けて振り上げた。
途端にアースドラゴンの伏せていた床下が鋭利に起伏し、その巨体を持ち上げた。
普通のモンスターなら今の地面から急に現れる、円錐状の岩に串刺しにされ反撃の余地もなく光に変わるだろう。
しかし、目の前にいるのは防御力だけ見るのならドラゴン界で最硬種。
鋼鉄の外皮を少しヒビ入れることしか出来ずに終わる。
「勝手に行動しないで!!!」
「遅いんすよ! 手柄は貰うんで、指でも何でも咥えて見ててくださーぁいっ!」
タカヒロは自身同等のサイズの大剣を地面目掛け思いっきり叩きつける。
その衝撃は地面を砕き、威力を拡大しながらアースドラゴンに向かい巻き込んだ。
「今っすよ!」
爆煙に包まれたアースドラゴン目掛け、炎や水、岩等の塊が猛スピードで放たれ更に爆煙を広げた。
そう、タカヒロの指示に従い、【楽業】以外の遠距離タイプの冒険者が一斉に攻撃をしたのだ。
「なっ」
やられた。
ダンジョン内ないしその前から根回しし、他のパーティーを取り込んでいたのだろう。
呆気に取られそうになったが、このままでは戦いに支障が出る。
私たちは、私たちなりの戦いをしよう。
【思考共有】で皆と考えが共有され、焦らずに戦うことが決定された。
基本的に今、私が思っていること、皆んなが思っていることは全て同じになり、最適なタイミングで連携できるのだから負けるはずがない。
「いくよ皆んな楽しんでいこう!」
4人の返事が心地いい。
タカヒロ達なんて気にせず、自分にやれる最高のパフォーマンスをしよう。
爆煙が晴れ現れたアースドラゴンは、鋼鉄の外皮が傷ついていたが大きな損傷はなく余裕そうだった。
私とリナが走り出し、先制攻撃を仕掛けるべく剣を振るう。
壁だった。
その金属光沢を持つ鋼色の外皮に剣先が触れた途端、そう思わざるを得なかった。
ピクリともしない、少し表面を傷つけるだけ、今まで体験した事のない圧倒的な防御力。
「退避!!!」
感情が脳内に届くよりも先に喉を震わせ、私たちの跡を追い前衛職達がアースドラゴンに向け走り出しているのを止め全力で後退した。
一瞬で汗が噴き出す。
こんなモンスターに、A級ダンジョンのボスに敵うはずがなかったのだ。
なにせあのモンスターは、扉を開けてから一度も伏せた体を自分の意志で持ち上げ様としていないのだから。
【グラスター】なんて物で、一時的にB級冒険者同等の力を手にしてるからと言って、A級にたどり着いたわけじゃないのだから。
「なーに逃げてんすか、あのスカしたドラゴンにビビってんすか? まあいいや、これが実力差ってのを見せてやりますよ」
タカヒロの右腕を魔力が覆う。
その魔力は岩石となり、右腕を覆う防具状の【グラスター】を更に覆い、ゴツい巨腕となった。
タカヒロのパーティーメンバーが2人、彼の両脇に着きアースドラゴンに向かい走りだした。
煩わしそうに弱者を見つめる鎧の龍は、先ほどほんの少しだけ自分にダメージを与えた大剣を、魔剣を見つめその体を持ち上げた。
「ははっわかってるじゃないですか! 僕があんたを倒す好敵手だって」
翼を持たぬ龍の剛腕と、小さな男の巨腕が振るう茶色の大剣が交わる。
高音を奏でる衝撃は、互いを弾いた。
タカヒロは弾かれた大剣を再度振るうために身体を反っていた。
しかし、アースドラゴンには腕が2本有る。
片方が弾かれても、もう片方を振るえばいいのだ。
その片方が己に迫るのを冷静に目視し、タカヒロは「レフト」とつぶやいた。
次の瞬間、タカヒロの左脇にいた冒険者がタカヒロを庇い、その剛腕から繰り出される衝撃を全身に受け止め後方へと吹き飛んだ。
それを見た瞬間【思考共有】で怒りが伝播、否、仲間を盾として扱うタカヒロに対し皆が怒り、その感情が増長される。
そんな事を気に止める事なく、タカヒロは大剣を全力で振るった。
大剣はアースドラゴンの肩に直撃し、外皮を砕き本体に切り傷を与えた。
それだけではない、最初に見せたように衝撃が外皮を削り進んだのだ。
しかし地面とは違い、ほんの少しだけ外皮を削るに留まった。
傷を負ったアースドラゴンは眼球を血走らせ、怒りを咆哮しながら身体を回転させた。
その長く太い鋼鉄の尾が高速でタカヒロを狙うも、「ライト」と呟くだけで右脇の冒険者がタカヒロを庇い攻撃の的となり吹き飛んだ。
「補給! あと次の補給までに治療しといてね」
「「わかりました!」」
他のパーティーメンバーがタカヒロの両脇に並び立ち、倒れたメンバーを治療師が魔法で癒している。
きっとこのパーティー【The王】は、タカヒロという【魔剣】を手にした絶対的な王を軸として戦っているのだろう。
込み上げてくる怒りが臨界点に達しそうになる。
その怒りの矛先はタカヒロだけじゃない、実力差に怯んでいる自分にも向いていた。
諦めたろそこで終わりなのだから。
でも私たちはあの【魔剣】の火力に頼るしかない。
だからこそ私たち冒険者は、まずあの両脇に控える盾役の彼らを救わなければいけない。
「そこ避けて、私たちに任せて下がってて」
私は名も知らぬ男の子の肩に触れ、後退するように提案した。
私が手を置いた肩は振るえていた。
そりゃそうだ、いくらステータスを得たからといえ、打ちどころが悪ければHPが0になる可能性が大きいのだから。
「なーに勝手に人のパーティーの作戦を変更しようとしてんですか? 邪魔なんで下がってて……あーもしかして代わりになろうってんですか?」
「ばーぁか、私たちの方が上手く攻撃をいなせんの。てかこの戦いのリーダーは私だからー、覚えてる? 覚えてないなら盾役さんを秘書にジョブチェンジさせたら良いじゃんない」
刀の峰で肩を叩きながら挑発してると、ロングソードを持ったリナが首を傾げながら追撃する。
「それとも取り巻きがいないと怖いのかな? そんな事ないでしょ今、勢いのある【魔剣持ち】なんだからさ」
「ははっせいぜいアレらより良い囮になって下さいよ。死んだら悲しんじゃうんで、僕」
「「「「「うっせ!」」」」」
私たち【楽業】5人の声は重なった。
「他の前衛は待機、後衛は外皮が剥がれた箇所に攻撃する事!」
私の声に最初は戸惑う他パーティー達だったが、先の【The王】の戦術を見たせいか無言で頷き従ってくれた。
悔しいけど私たちがアースドラゴンを引きつけて、【魔剣】の攻撃力を利用し外皮を削り、後衛の魔法でHPを削るしかない。
「さあ! 楽しんでいこう!」
私たちは楽しく仕事する。
だから【楽業】、怒りが消えたわけじゃないけど、勝つために楽しくやるんだ。
ニヤつくタカヒロの隣を走り、気だるそうに待ち構える鋼の硬龍へと私は啖呵をきった。
四つん這いの硬龍が巨腕を振るう。
その速度は私たちが振るう刀の様に早く、正確に私の身体を捉え振り抜いた。
アースドラゴンは手応えの無さに困惑した。
たしかに、たしかに人間を右腕で殴り飛ばしたはずだと、しかし感触がないどころか先ほどから自分にダメージを与えている茶色の剣が、振り切った右腕の鎧を削り小さな矢が2本そこに刺さってきたのだから。
「ははっ口だけじゃないようですね!!!」
一瞬も気を緩められない。
あんな自分が大の字張ったくらい大きい拳に殴られたら、一生のトラウマになるどころか死んでしまうだろう。
私たちが無事なのは、私の【光魔法】でアースドラゴンの瞳に入る光を屈折させ、私たちの位置を誤認させたのだ。
剣士としてロナの【選択】によりステータスを調整した結果、魔力量が少なく【光魔法】の有用な攻撃魔法が使えなくなった私は、小さな小細工に全力を捧げた。
それは繊細で緻密な魔力操作を必要とする。
しかし、あの日【ららぽーと横浜ダンジョン】で自分の無力さを感じた日から、死ぬ気で特訓し身につけた小細工。
なんども光魔法でその攻撃をいなし、魔剣で外皮を削った結果、アースドラゴンの怒りは限界に達した。
近づいていないから、高速で身体を回転させる事は無いだろう。
しかし明らかに何か狙っている。
「全員タンクの後ろへ! なにか来るから注意して」
悪手だった。
でも7人もタンクがいたから大丈夫だと思った。
アースドラゴンは瞳を閉じ身構えた。
その瞼さえ鋼鉄の鎧となっている。
何故目を閉じたのだろうか。
巨大な手足の筋肉が膨張し、大きな爪に力が込められ地面に減り込み、その巨体を高速で射出した。
圧倒的な質量による高速の体当たり。
単純なだけに威力が凄まじい、昔から存在する体術。
「バカっすね自分から来るなんて」
タカヒロが魔剣を地に突き刺し、迎え撃つ様に円錐状の岩を何本も顕現させる。
しかし
最硬の龍はものともせず、岩とタンク達の両腕を砕き割り冒険者達を壁との間に挟み潰した。
一瞬の事すぎて全く理解ができなかった。
周りから聞こえるうめき声が、皆んなの生存を教えてくれる。
しかし【思考共有】で伝わるルナの恐怖が身体を強制的に震わせる。
大きな盾ごと砕かれた腕はひしゃげ、見るだけで痛々しい。
「くっそ、どいつもこいつも役に立ちやしねえ! タンクなら防げよな!!!」
顔を真っ赤にしながら怒りを露わにしたタカヒロが、魔力を爆発させ【魔剣】に岩石を纏わり付かせ巨大な剣へ昇華させる。
「クソトカゲ! これでも食いやがれぇぇぇぇえええええ!!!」
巨大な岩の剣が、アースドラゴンへ到達する前に鋼鉄の巨腕がタカヒロをぶち抜いた。
剣速が遅すぎる。
あれでは威力があったとしても当たらない。
【魔剣】だけを残しタカヒロは高速で吹き飛び、壁をぶち破り消えていった。
唯一自分にダメージを与える存在が帰ってこないことを、横目にアースドラゴンは確認し、私たちを見据える。
このままじゃ全滅する。
きっと【蒼白】のサクさん達が助けに入ってくれるはずだ。
「いいね、クソトカゲはいい名だと思うよ。センス良い」
「ラ、ラナ…にげ、て」
隣で倒れるリナが逃げろと訴えかけてくる。
でも
逃げるわけにはいかない。
今にも振り上げた巨大な拳が振りかざされそうなのだから。
そんな追撃を受けたら間違いなく死人が出る。
タカヒロが落とした【魔剣】を拾い上げ、私のブレザーに組み込まれた黒い魔石へと魔力を通し、今まで一度も起動することが無かった【グラスター】を呼び覚ました。
悔しい。
生き残る為、仲間を守り抜く為とは言え、自分が許すことの出来ないズルを一気に2個も使用するなんて。
【魔剣】から伝わってくる力、【グラスター】で引き上げられるステータスが身体を軽くする。
それと同じくらい一気に込み上げてくる自分の弱さへの怒りが、共有され増長され臨界点を超えた。
その時、私達の頭は真っ白になっていた。
自分の髪が見たことのない程、白く、白く輝き、身体に力が漲っていく。
今ならやれるかもしれない。
「せっかく頑張ってたのに、その力使うのか?」
聞き間違うはずのない嫌いな男が言葉を紡ぐ。
世界で一番愛している人の想い人であり、私のライバル。
佐倉和希が私とアースドラゴンの前に悠然と現れ、私のズルを指摘した。
「真打登場!!!」




