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第72話 始まりの終わり

学生と社会人には明確な違いがある。

いや、社会を経験した事が有るか無いかで、その差が生まれるのかもしれない。


わからない事を、わからないままにしない。


聞かなくても教えてくれる環境にいた人間は、社会に出て聞かなきゃ教えてくれない荒波に、何なら一度言ったことは聞けば怒られ、二度と聞けない呪いというトラウマを植え付けられる。


それが社会であり理不尽というものだ。

だからこそ大人は、アルコールによるリラックス効果を求めて酒に逃げる。


しかし逃げてはならない。

理不尽に耐え抜いてでも、わからない事はわからないと聞き、自分のスキルを、知識を磨き上げないと、そのストレスから一生解放されないのだから。

トラウマに負けてわからない事を放置すると、わからないが無知に昇華し己を更に蝕むのだ。

そうならない様、知識という力を身につけ、荒波に抗わなければならない。


だから


僕は同胞と結合し続けた。


この世界にはステータスというシステムが存在し、レベルが上昇すると共にステータス値が上昇するらしい。

しかしその方法がどうしてもわからない。


だからこそ


同胞を吸収し続けているのだ。

同胞と結合すればするほど、ステータスが上昇するから。

その上がりは小さく、同胞一体に対して、ステータスのどこか1項目が1だけ上昇するちっぽけな物だった。


だけど


僕にとってその1は大きく、動かずダンジョン最奥で震えるだけの0とは明確な差がある。

僕は毎日毎日同胞が生成されたと同時に、寄り添いひとつになる。


そうして


武装していない中学生にですら蹂躙されてしまう様な、小さく最弱のモンスターは数多の同胞と結合し続け、抗う力を身につけていったのだった。


それは


あの時、一歩を踏み出しただけの小さなスライムではない。

継続という大きく偉大な行いを成し遂げ、走り出したスライムなのだ。


同胞との結合で得られる恩恵は、ステータス1UPだけではない。


それは突然やってきた。

新たに生成されるスライムは、生成された時に伴う光の粒子を霧散させた後も尚、輝き続けこの小さなダンジョンを明かり照らしていた。

触れて良いのかわからないが、前に走り出した足を止めると絡まり転ぶ可能性が有る。

その為、止まる事を許されないスライムは、意を決して結合した。


その時だった。

自分が発光できる様になったのは。

結合したスライムのスキル【発光】を取得できたのだ。

これは初めて手に入れただけのスキルで、スライムが手に入れた多くのスキルの内のひとつでしか無い。


そして


いつも通り同胞を結合した時の事だ。

新しいスキルを手に入れたと感覚で理解した。


【分裂】


これがこの小さなダンジョンで最後に入手したスキルである。


スキルを手に入れたら試運転するのが日常となった僕は、分裂を試みた。

僕の体はふたつに分裂した。

本当にスキルというのは文字通りの能力が多い。


ふたつに分かれたが同じ大きさの僕?は動かない。

だが、こう動けば良い、こう動いてほしいと念じるだけでその通りの動きをする。

簡単な指示を出せば1人で行動してくれる優秀な、もう1人の僕ができた。


面白いのはそれだけじゃない。

分裂した先の僕に意識を乗り換える事が出来て、離れた位置に瞬間移動している様な感覚だった。


分裂した僕と跳ね周ったり、一緒に踊ったり等、今まで1人じゃ出来なかった事をして長い間楽しんだ。

きっとこの瞬間が僕の人生の中で後にも先にも無い、1番幸せな時間だったと思う。


それから2回分裂し4匹になって隠れんぼを行った。

鬼になった僕は視界を遮断し30秒後に、僕たちを探し始めた。


椅子の下に1匹、視界を開いた瞬間に見つけてしまい、不覚にも笑ってしまった。

次は机の上で平べったくなり上手く隠れていた。

隠れろと指示を飛ばしたが、考えて行動してくるとは思ってもいなかった。


しかし最後の僕は強敵だった。

どこを探しても見つからない。

長時間探していると不安な気持ちが徐々に強まっていく。


これは本来ならば反則となるが、致し方ない。

隠れている最後の僕に意識を乗り換える。

そこは見た事の無い場所だった。

いや見た事はあるけど見たことの無い視点だった。


何度も試したが謎の障壁に阻まれ出ることの出来なかった、ダンジョンの外。

緑の芝生が生い茂る庭と、一軒家がダンジョン出口から見える変わらない、変わるはずのない光景。


しかし


今見ているのは、そんな芝生の上からダンジョン内を見下ろしている。

何故この僕はダンジョンから出ることが出来たのか、色んな事柄を理解できる僕の脳でも、全く理解ができない。


分裂したことでダンジョン内にスライムが4匹いると認定され、規定量を超過したのだ。

すなわち、それはダンジョンの飽和。


理解が追いつく前にそれは起こった。


夜中の小さな庭の上で困惑するスライムの前で、【秘密基地ダンジョン】は【ダンジョンブレイク】

しモンスターを生み出す力と、拘束する力を失った。


こうしてまた新たな【E級ダンジョン】が誕生し消滅したのだった。

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